05 首を傾げる二人
メイドが部屋に入って来たとき、レミリアは写真の整理に追われていた。撮るだけ撮って眠っていた義父の写真は大量に遺されており、それらのほとんどは封筒に入って無造作にアントンの部屋で埋もれていたのだ。
目を丸くして何か言いたげなメイドに、レミリアは顔を上げて声を掛けた。
「ごめんなさいね、散らかってて。アントンったら最近になってこんな写真を渡して来て…… アルバムにでもしておいたら良いんだろうけど、今から始めても遅いかしら?」
「お手伝いいたしましょうか?」
若いメイドは慌てたように腰を屈める。
「いいえ、大丈夫。できる範囲でやってみるわ」
笑顔を返して写真を並べていると、ふと白黒の四角い紙の中で微笑む男女の姿が目に入った。
男の方は風貌からして若かりし頃の義父なのだろう。レミリアの知る顔よりも当たり前だがフレッシュで、はにかんだような表情は珍しい。隣に立つ女性もまた恥ずかしそうな顔で男に寄り添っている。
「アントンのお義父様と……亡くなったお義母様かしら?」
「どうでしょう?私もお屋敷に来てから日が浅いもので、存じ上げません……」
二人して首を傾げながら写真を見つめる。
背後に立つ特徴的な建物には見覚えがあり、思わずレミリアは「あっ」と声を上げた。
「これはあそこよね、小高い場所に建つシンプソン公爵家の別荘の」
「あぁ!ネモフィラの丘ですね!」
「あの場所は結構気に入っていたのよ。春になると青い花がたくさん咲いて綺麗なお花畑になるでしょう?アントンったら弟に土地を譲っちゃったからもう全然遊びに行けなくなっちゃった」
「ヘイズ様はあの場所で毎年パーティーを開かれているそうです」
彼らしいわ、と頷きながらレミリアはその写真をもう一度眺める。
ネモフィラが美しい別荘地の所有権は、前当主エイドリアンが亡くなった際に真っ先に次男のヘイズが欲しいと名乗り出た。派手好きな彼のことなので、仲間を呼んで遊ぶ場所にちょうど良いと考えたのだろう。シンプソン公爵家の土地の中でも広い面積を誇るので、彼の取り分の中でも価値が高い。
「ヘイズ様といえば、またお電話がありましたが……」
「放っておいて。時間ができた時に掛け直すから」
「承知いたしました」
メイドはぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。
一人残された部屋の中で、レミリアは自分を取り囲む写真たちに目を向けた。何百枚と並ぶ写真の中でも、とりわけ先ほどの男女の写真は色褪せている。よほど古いものなのだろうか?
年代を感じさせる色合いのわりには四隅も折れておらず、シミも付いていない。不思議に思いながらレミリアは写真を他のものたちの間に戻した。