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4話 森の奥、空の上

夢と現実の狭間で揺れる日々――結衣の生活は、一見すると変わらないように見える。だが、心の奥底では不安と期待が静かに渦巻いていた。


警察からの執拗な聞き取り。日常の景色の裏に潜む異質な気配が、結衣を次第に非日常へと誘う。


そんな中、再び現れたサヤ。あまりに不自然すぎる再開が意味するものは何なのか。結衣が扉をくぐったその先には、これまでの現実とは全く異なる世界が待ち受けている。


ドア」の向こう側――そこで待つのは、未知の出会いか、それとも更なる混沌か。

風が葉を揺らす音が森全体を包み込み、湿った空気が結衣の肌に冷たく触れる。足元には苔が広がり、空を隠すほどの木々が生い茂っている。


その木々の間から差し込む薄明かりが、地面に揺れる模様を刻んでいた。


鳥の声ひとつ聞こえない静寂が、森全体を不気味に包み込む。


結衣は無意識のうちに足を止め、ふと振り返った。


「えぇ……どこぉ……?」


朽ち果てた小屋の中央に、歪みながらも形を保つ扉が立っている。


「ええと……つまり、あれが……『ドア』……?」


結衣が恐る恐る呟くと、サヤは向き直り答えた。


「安心しろ、もう繋がっていない」


その言葉に結衣は安堵したような、どこか不安を覚えたような気持ちになった。


サヤが一歩を踏み出すたびに草木が微かに揺れ、ざわざわと音を立てながら彼女に道を譲る。その動きは風によるものではなく、まるで森そのものが意思を持ち、彼女を導いているようだった。


背筋が凍るような感覚。


「ちょちょちょちょ……おかしいおかしい……おかしいから……」


森の薄明かりがサヤの横顔を照らし、彼女の髪が風に揺れた。


「この森は ”位相節点フェーズノード” 。世界と世界を繋ぐ境界――選ばれた者しか足を踏み入れることはできない」


結衣はその言葉に息を飲んだ。


「選ばれた者……え、私が?」


サヤは静かに頷き、結衣に視線を向ける。


「お主も感じているだろう。この森がただの場所ではないということを」


彼女はそれ以上何も言わずに歩みを進めた。森に吸い込まれるように消えていく二人の足音。この森も普通ではない。


それでも結衣は足を進めるしかなかった。





空気は冷たさを増し、木々が密集して薄暗さを増していく。結衣は足元の根っこに気をつけながらも、前を歩くサヤに目を向けた。


「……聞いてもいいかな?」


サヤが肩越しに振り返り、結衣を視線で捉えた。


「何だ?」


結衣は一瞬言葉を飲み込んだが、意を決して問いかける。


「サヤちゃんは……結局、何者なの?」


小さく息をつき、遠くを見つめるサヤ。彼女はどこか遠い記憶を辿るように語り始めた。


「儂は……四十年前、この日本から別世界に召喚された者たちの一人。そして生き残った『最後の勇者』だ」


「最後の……勇者……?」


結衣が戸惑いの声を漏らすと、サヤは淡々と続けた。


「そうだ。ただ、現実はゲームやアニメのように華やかではなかったがな……」


サヤの声には、どこか哀愁が漂っていた。


「世界を救うために呼ばれ、すべてを賭けて戦ったが。本当に大切なものは何も残らなかった……」


「四十年前って……でも、サヤちゃんどう見ても――」


「魔法の影響だ。いつかまた話そう」


その声には、どこか深い哀愁が漂っている。サヤは落ち葉を踏みしめながら森の小道を歩き続ける。





「あのさ……異世界ってどんな場所だったの?」


サヤがわずかに天を仰ぎ、一瞬だけうつむいた後、彼女は静かに答えた。


「――何も変わらんよ」


「え、そなの?」


「剣と魔法による暮らしがあり、人々は人種を越え絆を築きながらも、争いや裏切りを繰り返す。そういう意味では、ここと何も変わらんだろう?」


歩みを進めるサヤ。その声には、どこか苦味が混じっていた。


「そっか……同じだね」


「変わらんさ、人は」


言葉が冷たい森の空気に溶け込み、結衣の胸を締め付けた。サヤは再び足を止め、遠くを見るように呟く。


「多くの仲間と出会い、それ以上に多くを失った。そして最後には、世界の王として君臨することを余儀なくされた」


結衣はさらに困惑する。


「王……」


「つまらんトロフィーさ……」


サヤは小さく頷いた。その背中からは言葉にできないほどの孤独と疲労が感じられた。


結衣はその姿を見て、何か声をかけるべきか迷ったが、結局言葉を飲み込んだ。


「結衣、お主にとっては理解し難い話かもしれぬが、儂がここにいる理由はたった一つだけ」


「理由……?」


「――すべて救う」


サヤの声は静かだったが、その中に隠された決意が結衣には感じ取れた。


二人の足音だけが森に響き渡る中、結衣は自分の胸に芽生えた小さな疑問を振り払うことができなかった。





◇◆◇◆◇◆◇





森が急に険しさを増した。


結衣は足元の崩れやすい石に気をつけながら進むが、心の中ではどこか焦りが募っていた。


「……この先に何かあるの?」


その問いに、サヤは横顔を見せる。


「気になるか?」


「そりゃあ、そうでしょ……こんな森の中、ただ歩いてるなんて……」


サヤは小さく笑いながら言った。


「すぐに分かる」


その曖昧な返答に、結衣は困惑しながらも、すでに帰る道はなかった。



興奮――(誰もいない森の奥……なにも起きないはずもなく……)


欲望――(いやっ! ちょっ! 今日はダメだって! 今日……そういう下着じゃ……ないから……///)


不安――(いや、ほんまにどこ行くん?)



結衣は半ば無意識のうちにサヤの後を追う。


ふと辺りを見回すと、木々の間から微かに漂う霧が視界をぼんやりと覆っていた。


「ねえ、サヤちゃん……おかしくない?」


「これが森本来の姿だ」


重く静かな声が響く。それは、どこか安心感を与えるものだったが、同時に不安を煽るものでもあった。


「なんか……妙に静かすぎるっていうか……まったく音しないとか……そんなことある?」


サヤは一歩近づき、顔を少し傾けて結衣を見上げた。


「ほぅ……この ”()()” が聞こえるのか? かっかっかっ! この森にもう馴染んだとは、さすが『駒川の者』といったところか!」


「えぇ……なにそれ……馴染みたくないよぉ……」


結衣はその言葉の意味を考えながらも、追求する勇気が湧かなかった。胸の中で漠然とした恐れが膨らんだ。





霧が濃くなる中、サヤが足を止める。


「……ここだ」


結衣は先に目を向けるが、霧の奥には何も見えない。


何も言わずに先を指差すサヤに促されるまま、結衣は足を進めた。


霧が少しずつ薄れ、木々の隙間から古びた石が姿を現す。それは苔むした小さなほこらだった。柱や屋根の一部は崩れ落ち、長い年月を経ていることが一目で分かる。


驚きと戸惑いが結衣を包み込む。


「……祠?」


サヤは祠の前に立ち、その奥を見つめながら短く答える。


「見るがよい」


結衣が祠を覗くと、奥に小さな影が横たわっていた。薄汚れた子猫だ。子猫はぐったりと横たわり、微かに上下する胸がその命を繋ぎ止めていることを示していた


「えっ……猫? 死にそう……!?」


結衣が呟くと、サヤは静かに頷いた。


「まだ間に合う。お主が決断するならばな」


「間に合うって……病院に連れてけってこと?」


サヤの視線がゆっくり動き、彼女の心を見透かすように止まった。その視線には、ただの同情ではない何かが宿っているようだった。


「お主の力が必要だ。結衣、この者に新たな使命を与えよ」


「新たな使命……?」


祠の前に立ち尽くす結衣。サヤの言葉が頭の中で何度も反響する。「新たな使命を与えよ」という言葉の意味がまだ理解できていない。



興奮――(でた! 「新たな使命を与えよ」的なやつ……)


葛藤――(結衣ええんか? ……ここから先は……)



目の前の子猫の身体が弱々しく上下する。その姿はあまりにも儚く、彼女の心に何かが突き刺さった。


「……どうすればいいの?」


小さく頷くサヤ。


「その手を額に置け」


結衣はためらいながらも手を伸ばし、子猫の微かな温もりを感じた。


指先に伝わる子猫のかすかな鼓動。それが、自分がここにいる意味を問いかけているように感じられた。



葛藤――(ここから先は……不思議の国やぞ……)



結衣の手元から、柔らかな光がゆっくりと広がり始める。初めは微かだった光が、次第に鮮やかさを増し、祠全体を包み込む。


「わぁ……すご……」


彼女の声は自然と漏れ出た。その光には、温もりと力強さが混ざり合い、まるで結衣の内なる意志に応えるかのようだった。


光が膨らむごとに、祠の中に漂う空気が変化していくのを感じる。森の湿った空気が徐々に温かさを帯び、まるで新たな命が息づこうとしているかのようだった。


「これ……何が……」


「目覚めているだけだ。お主の力が」


サヤの声が冷静な響きで結衣の耳に届いた。その言葉に込められた確信は、結衣の心を強く揺さぶる。


子猫の体が浮かび上がると、光の粒が踊るように周囲を飛び交い始める。それらはやがて結衣の手元にも降り注ぎ、彼女の肌を優しく撫でていく。


「……温かい」


光がさらに強まる中、結衣の目の前で子猫の体が徐々に変化していく。その小さな輪郭が次第に大きくなり、毛並みは純白の輝きを帯びた。何かが新たに生まれようとしている――その瞬間を結衣は目の当たりにしていた。


輝きの中で子猫は純白の成猫へと変わり、金色の瞳が静かに結衣を見据える。彼は静かに前足を地面につけ、深く頭を垂れた。


その仕草には、ただの動物を超えた何かが宿っている。





「――が名はレディヴィヴス」





わずかに開いた口から発せられた言葉に、結衣は目を見開いた。


「わっ!? やっぱり喋った!」


「当然だ。この役割を果たすために存在しているのだからな」


レディヴィヴス――新たに生まれ変わった彼は、結衣に向かって再び深く頭を下げた。


「契約を果たすため、主に忠誠を誓う。これより、われは結衣様の騎士となりましょう」


その堂々とした言葉に、結衣は思わず息を呑んだ。驚きと信じられないという感情が交錯する中、彼女はただ目の前の猫を見つめるしかなかった。


「騎士って……どういう意味?」


「結衣を守り、導く存在だ。そして同時に、お主が進むべき道を照らす光でもある」


サヤの言葉に、結衣はようやく自分が何をしてしまったのかを実感し始めた。しかし、その中には不思議と恐怖ではなく、何か温かな感覚が芽生えつつあった。



結衣が言葉を探すように視線を彷徨わせると、レディヴィヴィスは体を足元に擦り付け、柔らかな声で語りかけた。


「結衣様、が名を呼び、その存在を認めていただけますか?」


結衣は深く息を吸い込んだ。


「レディゔぃ……るす? ごめん、なんだっけ? えーっと『レデウス』くんでもいいかな?」


キンッ!――


その瞬間、レディヴィヴィスの首元に細い光の輪が現れた。それは静かに輝きながら形を変え、やがて精巧な模様が彫られた銀の首輪へと姿を変えた。


同時に、結衣の右手の小指にも暖かな光が集まり始めた。光の粒が指先にまとわりつき、やがてひとつの形を成す。


「これ……指輪?」


結衣が驚きの声を上げると、小指には細身の銀のリングが収まっていた。その表面には首輪と同じ彫刻が施されており、不思議と肌に馴染む感覚があった。


「相成りました」


レデウスが満足そうに頷く。


「ふむ……二人の契約、しかとこの目で見届けた」


サヤが宣言すると。レデウスは顔を上げ、その小さな瞳で再び結衣を見つめた。その視線は、深い信頼と決意に満ちていた。


「結衣様、共にこの道を歩んで参りましょう」


その言葉に、結衣は不思議な安心感を覚えた。





◇◆◇◆◇◆◇





スマートフォンが振動し、画面に「うんこ」の名前が表示された。


結衣は眉をひそめる。


「うわぁ……神谷ぁ……?」


彼女の呟きを聞き取ったのか、サヤが静かに尋ねる。


「誰だ?」


「公安警察の……さっき話したウザ刑事だよ。てか、なんでこんなタイミングで……」


彼女は迷うようにスマートフォンを手に取り、数秒間指を止めた後、意を決して通話ボタンを押した。


「あぁー、駒川先生、ようやく繋がりましたな。どないでっか?」


電話の向こうから聞こえるコテコテの関西弁の声。その柔らかな語調とは裏腹に、どこか相手の心を試すような鋭さが混ざっている。


「ええと……何かご用ですか?」


結衣はできるだけ平静を装ったが、自分の声がわずかに震えているのを感じた。


「いやぁー、実はちょっと確認したいことがありましてねぇ」


神谷の声には特有の軽妙さがあったが、その裏には明確な意図が隠れている。


「先生、今どちらに?」


その質問に、結衣は言葉を失った。


「どちらって……」


結衣がしどろもどろに答えると、電話の向こうで神谷は軽く笑った。


「先生ぇ~、そら我々だってパソコン使いますし、地図だって読めまっせ?」


彼の柔らかい物言いは、かえって結衣の背筋を冷たくした。


「……何が言いたいんですか?」


「単刀直入に言わせてもらいます。そばにヒノタニサヤ……おるんちゃいますか?」


神谷の言葉に、結衣は瞬間的にサヤを見た。サヤは微動だにせず、その様子を見ていたが、やがて静かに結衣へ近づいた。


「ふむ……誰か知らんが儂に用ということか? どれ、代わってやろう」


サヤはレデウスに目配せし、顎をくいと上げる。そして、結衣の手からスマートフォンを受け取り、耳に当てた。


「儂だ」


電話の向こうの神谷が、わずかに息を呑む気配が伝わる。しかしすぐに、いつもの調子を取り戻したように軽快な声が返ってきた。


「おぉー、サヤさんですか!? 初めまして、警視庁警備局公安課の神谷と申しますー!」


「ふむ」


サヤの返答は短く冷静だったが、その声には相手の反応を探るような鋭さが含まれていた。


「さっそくですが、サヤさん。今日は先生に何かご用で?」


「お主らには関係のないことだ」


「ほうほう、そう来ますか……」


神谷は少し間を置き、言葉を続けた。


「単純に、先生の安全が気になりましてな。そのためにも、今おる場所を教えてもらえませんか? まぁ、別に聞かんでもえんですけど……」


「知ってどうする?」


電話の向こうで神谷が少し間を置き、静かに続けた。


「ええ質問ですな。答えは単純明快――”必要な対応” を取るだけですわ」


サヤの態度は変わらない。


「そうか。しかし、その必要はない。儂の判断で、お主らに迷惑をかけることはない」


「はははは、なんとも言い難い答えですなあ」


神谷の声に笑みが混じるが、その裏には鋭い探りが潜んでいる。


「せやけどね、サヤさん。今この電話、色々とリアルタイムで追跡してますねん。せやさかい、これ以上の隠し事は無意味やと思うんですわ」


サヤはその言葉を聞き流すように、静かに口を開いた。


「お主が追跡しようが関係ない……。それより、儂らを迎え入れる準備はできているか?」


その発言に、電話の向こうの神谷が一瞬沈黙する。


「……どういう意味です?」


「いい質問だ。答えは単純明快――今からそちらに向かう」


その言葉に、神谷は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに声を低くして問い返した。


「どういうことです? ほな、私はここで待っとけ、ちゅーことですか?」


「あぁ、そうだ。だが、急ゆえ手土産は持っていかんぞ」


サヤはそのままスマートフォンを結衣に返した。


「何を話したの?」


結衣が不安そうに尋ねると、サヤは軽く肩をすくめた。


「今日は予定外のことばかりだ……また散歩に行くぞ……」


その言葉には、どこか余裕が感じられた。


「それって……まさか、また扉で逃げるの?」


結衣の問いかけに、サヤは静かに前を向いたまま答えた。


「逃げるというより、進む。儂らの目的は後ろではなく前にある」


「前って……どこに」


結衣の言葉に、サヤは軽く笑みを浮かべた。


「やつの元へ」


その瞬間、空から微かな低音が響き始めた。結衣が顔を上げると、木々の隙間からヘリコプターの影が見えた。


「えっ、ヘリ……?」


さらに遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。結衣の顔に不安の色が広がった。


「えっ、パトカーも!? えっ、えっ、サヤちゃん、どうするの? 本当に追われてる……!」


サヤは空を見上げ目を細めた。


「落ち着け、結衣」


その言葉に、結衣は一瞬安堵しかけたが、すぐにその場の緊張感を感じ取り、再び心臓が高鳴った。


「落ち着けって、どうやってここから――」


結衣が不安げに問いかけると、サヤは軽く肩をすくめた。


「簡単な話だ。すこし急げばよい」


その言葉の意味を理解する間もなく、レデウスが静かに結衣の横に歩み寄った。


「え……レデウス?」


結衣が混乱する中、サヤは振り返り、森の奥を指差す。


「ほれ。皆、行くぞ」


あちこちから聞こえるパトカーのサイレン。ヘリコプターの音が徐々に近づいてくる。





◇◆◇◆◇◆◇





「結衣様」


首を傾げたレデウスが、落ち着きのある声で語りかける。


「少しばかりお力をお借りします」


「えっ、わたしの力?」


彼は静かに頷いた。


「そうです。あなたの意思が吾に力を与えます。この森を抜けるには、あなたの決断が必要です」


「……私の意思……?」


結衣は戸惑いながらも、レデウスの瞳に吸い込まれるように見入った。


「え、じゃあ……行こっか……うん?」


その瞬間、レディヴィヴィスが四肢を広げ、静かに光を放ち始めた。


結衣は目の前で変化していくレディヴィヴィスの姿に目を奪われた。彼の体から放たれる光が強まり、瞬く間にユキヒョウのような巨大な獣へと姿を変えていく。その四肢には雷のような輝きが走り、地面が微かに震えた。


「では行きましょう」


レデウスがくわっと一声鳴き、身体を低くしてこちらを向いた。


「えっ……行くって……ホントに乗るの!? 背中に!?」


驚きと戸惑いで声を上げる結衣を横目に、レデウスは静かに語った。


「ご安心を。すぐ馴染みます」


結衣はためらいながらも彼の背中にまたがった。その瞬間、全身に電流のような感覚が駆け抜ける。


彼の体が再び金色の光に包まれると、四肢に雷光が宿り、その姿はさらに力強さを増していった。


「そう、しっかり握って」


結衣は驚きながらも、彼の毛をぎゅっと握りしめる。その瞬間、周囲の風景が急速に変わり始めた。


レディヴィヴィスが地面を蹴るたび、轟音が周囲に響き渡り、森の景色が一瞬で後方に流れ去る。風が結衣の頬を強く打ち、髪を激しく揺らした。


「わわっ!! は、速っ……はやー!!」


声は風に乗ってかき消される。


「まずは、山頂を目指します」


レデウスの声が低く響く。結衣は視線を上げ、遠くに見える山の頂上に通信塔のような大型構造物を確認した。


「な、何であそこ!?」


「あれは ”7G回線” が使える通信塔です。いつも眺めるだけだった、あこがれの ”波” ……」


その言葉の意味を完全には理解できなかったが、結衣は彼を信じるしかなかった。


レデウスがさらなる加速を見せると、森の木々が一層速い速度で後方に流れていく。


地面に触れるたび、彼の四肢から閃光がほとばしり、まるで森全体がそのエネルギーに震えているようだった。


険しい岩肌の山道を軽々と駆け上がると、足元から小石が跳ね上がった。峠道のカーブを雷光が駆け抜けると、すべての電子機器は刹那の記憶を失った。


山頂が近づく。


「もう少し加速します。結衣様、しっかり掴まってください」


「もうやってるってばー!!」


通信塔が目の前に迫り、その鋼鉄の柱が淡い光を放ち始めた。塔全体がわずかに振動し、その中心から放射状にエネルギーが広がっていく。


「では、飛びます」





「ちょ、飛ぶって――」





光が弾け、レデウスは通信塔から空へと跳び立った。


視界が一瞬で開け、結衣の体は浮遊感に包まれる。


まるで大気の海を切り裂く、一閃のいかずち。結衣は思わず目を閉じた。


「――っっっっ!」





「心配するな、結衣。目を開けてみろ」





その言葉を耳にし、結衣は少しだけ安堵した。ゆっくりとまぶたを開けると、サヤのツインテールが風に流れているのが見えた。


「うわ……飛んでる……マジか……」


眼下に広がる緑の絨毯、紅い宝石のように輝くパトライト。すぐ向こうを飛ぶヘリのパイロットと目が合った気がした。


結衣は息を呑み、目の前の光景に見入った。


「すご……」


サヤが悠然と浮かびながら、結衣に目を向けた。


「これが魔法だ。慣れておけ」


彼女の言葉は冷静だったが、どこか誇らしげな響きもあった。


結衣は空中に浮かぶ自分の体に不安を覚えながらも、目の前に広がる光景に目を奪われていた。全ての元素が光り輝き、無数の灯火が遠くまで続いている。


「これが……魔法の世界……」


結衣が呟くと、レデウスは静かに答えた。


「この景色を忘れないでください。この先、どんな試練が待っていようとも、これが結衣様のいる世界です」


その言葉には力強さと優しさが混じっていた。


結衣は胸の中に不思議な感覚が湧き上がるのを感じた。恐怖とも安堵ともつかない、何か新しい世界に触れたときの感情だった。


横を飛ぶサヤがレデウスの周りをくるりと旋回し、結衣に視線を合わせる。


「結衣、わかるか? この世界は美しい。自分が知っているよりも遥かにな」


その言葉に、結衣は息を呑みながら小さく頷いた。


彼女の目に自然と涙が溢れる。


「ちょっと……わかったかも」


レデウスが続ける。


「結衣様、あちらにいい ”波” を見つけました。少しだけ寄り道してもよろしいでしょうか?」


その言葉に、結衣は改めてレデウスの背中にしがみつく。


視界の端で、サヤが微笑んでいた。

※魔法メモ

/* - - - - - - - - - - - - - - - - /*


【 イイネ・ブクマ・コメント・ください 】


種別:生活魔法

作用:作者のやる気を引き出す

反作用:なし


/* - - - - - - - - - - - - - - - - /*

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