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公式企画に混ざってみた +α

室町時代の一軍勢の事情 ~但馬の山、越えていく野!~

作者: 秋穂 外記
掲載日:2024/10/10



 嘉吉(かきつ)元年、八月半ば。秋も深まり、黄色い穂が(こうべ)を垂れている。

 そんな田園地帯を、一筋の川が横切る。昼前の日の光を反射しながら、水は北へと流れていく。


 その川沿いの道を、ものものしい軍勢が()く。ガチャガチャポクポクと音を立てながら、日の()す山のほうへ。


「おねぇちゃん、あれなに?」

「しっ、見ちゃいけません! 頭を下げなさい!」


 畦道(あぜみち)(たたず)む幼い姉弟が、声を(ひそ)めて話していた。

 ここは山陰地方、但馬国(たじまのくに)の端っこだ。山の向こうの国境(くにざかい)に向かって、彼らは進んでいく。



 やがて、軍勢の先頭は山道を登りはじめた。

 そんな先頭集団に、「佐吉(さきち)」という青年がいる。(よわい)十八、初陣(ういじん)である。


(里と(ちご)うて、えらい長閑(のどか)な所じゃった……)


 彼の郷里は但馬北西部、二方郡(ふたかたぐん)の小さな漁村。北は海に面し、残る三方には山が迫る地域だ。

 食うには困らないが、決して豊かとはいえない――そんな村を思いながら、彼は決意する。


(お国のために手柄、立てるぞ! そんで出世するんじゃ)


 しかし、彼は“悪童”として、地元で気味悪がられていた。


「痛ってえ !? 急に(やり)倒すなよ、危ねえだろうが !! 」

「……すんませーん」

「何だその言い方は !? 」

「ケッ、うるせぇな……反省してまーす」


 佐吉が持ち直そうとした槍が、後ろの男の腹に当たった。

 雑兵用の鎧のおかげで、大事はなかったが、案の定、口論が始まった。

 彼が喧嘩っ早いのは、まだいい。

 人の迷惑を(かえり)みず、仲間とつるんで悪さばかりする。そこに、家族愛や愛郷心などが欠けて見えるから、嫌われているのだろうか。


(……あんな何もねえ田舎(いなか)、とっとと出てってやる)


 なお、佐吉の悪友たちも従軍している。が、別々の隊に配置された。


「つるんで悪さされたらたまらないから」


だそうだ――



 ◇


 軍勢の中ほどに、「猪作(いさく)」という少年がいる。齢十四、彼も初陣である。

 山道を登りながら、彼はこう考えた。


(来月には稲刈り、って大事な時に、戦? お(かみ)は何考えてるんじゃ……)


 別に“お上”とて、好きで戦をするわけではない。 ……たぶん。

 しかし、どのみち百姓にすれば迷惑である。働き盛りの若者を、ごっそり取られるのだから。


「田植えと稲刈りの時期を避ければよい」

「村が燃えなければ大丈夫」


などという、甘い話ではない。

 生きて帰れても、無傷の者は少ない。どこかしら怪我をして、帰ってくる者が(ほとん)どだ。

 傷が()えればよいが、それまではまともに働けぬ。治るどころか悪化して、命を落とす者もいる。

 心を病む者も多い。彼らに鎌など持たせたくはない。


(そんなに戦がしたければ、(わし)らの邪魔にならん所――京とかで、やりたい者だけで好きにやればよいのに……)


 そんな世は、なかなか来ない。


「……おわっ !? 」

「おっとぉ……」

「……大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます!」


 気が散っていたためか、猪作は石に足を取られ、()けかけた。それを、後ろの男二人が受け止めた。


「なら良かった。気を付けろよ~?」

「そうそう。あと、飯いっぱい食えよ!」

「はい……」


 猪作と周囲の男たちは、但馬北部、城崎(きのさき)郡の百姓である。先ほどの川の下流に広がる、盆地の住民だ。

 ……ただ1人、彼の隣を歩く「喜助(きすけ)」を除いて。


「あの、大丈夫っすか? さっきから(つら)そうですけど」

「ハッ、お前みたいなザコは自分の心配してろよ!!」

「ええ……何すかその言い方?」


 山道に入ってから、時折顔をしかめる彼を見かねて、猪作は声をかけた。が、喜助は大声であざ笑うだけ。とりつく島もない。


 喜助の地元は、漁村だそうだ――



 ◇


 やがて、軍の先頭は峠の(いただき)に着いた。生野(いくの)峠である。

 進行方向、目の前には長閑な谷筋が広がる。

 ただし、こちらの川は南へ流れる。さっきの川とは逆だ。

 つまりこの生野峠を境に、南北で水の行き先が逆になる。ここは分水嶺なのだ。

 谷の向こうに、また山並みが見える。敵とおぼしき芥子粒(ケシつぶ)たちが、その1つに陣取っていた。国境の「真弓(まゆみ)峠」である。


「右三つ巴の旗印……赤松軍でござる」


 彼方に(かか)げられた、敵方の(のぼり)を見て、物見が言う。隣国:播磨は赤松家の家紋である。

 ……よく分かったね?



 そんな軍の先頭に、後方から、男の一団が来る。

 顔を真っ赤にした男が、中央にいる。息切れにしては赤すぎる。酒も見当たらないから、肌が弱いのだろうか。


(晴れたら、まだ暑いな……)


 男は山名金吾(やまな きんご)。この但馬国の守護大名、すなわち最強の実力者である。

 といっても、彼を知る者は、ここでは少数だ。「金吾」は都を守るもの。仕事柄、日頃は京の都にいなければならぬ。

 生まれ故郷だろうと、なかなか帰してもらえないのだ。



 ◆


 では、なぜ金吾は但馬に帰ってきたか?

 一言でいえば、「将軍が殺されたから」である。

 今は亡きその将軍は、「万人恐怖」といわれるほど、(おそ)れられていた。

 乱暴者ではない。むしろ潔癖が過ぎた。坊主上がりの悪いところが出たか。


「時代は変わった !! 全ての命は、尊重されねばならぬ。そんな我が世に、能無しも()叛人(ほんにん)も要らぬ! ……“無駄は(はぶ)かれ、害ある老臣(おとな)は討たれる”、そう心得(こころえ)よ。よいな?」


 そう言って多くを(あや)め、恨みを買いまくった。挙げ句、幕府最長老の赤松入道に討たれた。


「儂らにとっては“怖い上様”じゃが、畏れ多くも天皇(みかど)から見れば“害ある老臣”じゃったろ? だから討ち取った。 ……文句あるか ?? 」


 時の天皇は、この謀叛人を許さなかった。


「一理ある、だがそれだけじゃ。彼の者を許せば、世は大いに乱れる。 ……何をもたもたしておる、(はよ)う赤松を討て !! 」


 諸将が様子見している間に、赤松入道は領国:播磨へ帰った。但馬の南隣である。

 かの入道を討ち取る“討伐軍”の一員として、金吾はここにいる――



 ◇


「儂にはよう分からんが……天皇ってそんなに偉いんか?」

「殿。偉いのと、強いのとは別物ですぞ」


 そばに控える家臣:太田垣(なにがし)が、金吾を(いさ)める。

 金吾は政治がわからぬ――というのは言いすぎか。しかし、彼はいわゆる軍人気質で、力に頼りすぎる節がある。

 加えて、親元を離れ、京に来るのが遅かった……というのも大きい。


 三男坊の彼は、亡き長兄のように、跡継ぎとして育てられてはいない。また次兄のように、早くから将軍の(そば)(つか)えていたわけでもない。

 これで政治をものにせよ、というほうが無茶ではある。

 とはいえ、何事にも限度がある。



(みな)、喜べ。悪党赤松を討つ! ということで……京の町衆(まちしゅう)から、銀やら銅銭(ゼニ)やらをたんまりと」

「「「『おぉ……?』」」」

「赤松討伐の前祝いじゃ! 皆にくれてやろうぞ!!」

「「「『お゛ぉ゛ー゛っ゛ !! 』」」」


 顔をほころばせ、(つわもの)どもの歓声を浴びる金吾。しかしこの(カネ)盗品である(・・・・・)


 彼みずから指示したのか? それは分からない。

 だが、彼の手の者たちが押し入り強盗を働いたのは間違いない。

 この件で金吾は、幕府のお偉方(えらがた)たちからお叱りを受けている。


 反省の色は見えない。



「殿、よろしいので?」

「なに、勝てば播磨が手に入る。かの地は日ノ本いちの米どころ。その恵みを、百姓から分けてもらえば(・・・・・・・)よい」

「……左様でございましたな」



 まるで“もう勝った”かのような物言いであった――



 お読みいただき、ありがとうございます!

 “分水嶺”って言葉を使ってみたくて書きました。他意はありません。


 「嘉吉(かきつ)の乱」という史実を題材にしましたが、9割以上創作です。

 真に受けないでくださいね……



【追記】一部修正しました

(2025/11/14)



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