episode.9
「昨日、あれから佐々木氏とどうだった?」
「……それが、その……」
私は亜美ちゃんとるもちゃんと人気のない中庭に来ていた。ベンチに座ると強くなってきた日差しを大きな楠が和らげてくれていた。
「え? それでなんで付き合ってないの??」
「んん“」
「咲夏ちゃんは昨日、佐々木くんに告白されたんだよね?」
「う……はい。」
「え?」
3人の「え?」が重なったとき、お昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。亜美ちゃんが次の授業をサボろうと画策しているのを、るもちゃんがなだめてなんとか教室へと3人で向かう。
教室に戻る途中、廊下の向かいから佐々木くんが友だちと歩いてくるのが見えた。いつからか彼がどこにいてもすぐに見つけられるようになってしまった。
教室の後ろの扉に到着するタイミングがたまたま重なって、自然と佐々木くんと目が合った。いつもと変わらないはずなのに、佐々木くんの瞳がキラキラと輝いて見える病にかかったみたい。
「どうしたー? 佐々木? そんなとこ突っ立って。」
後ろから竹内くんがひょこっと顔を出した。るもちゃんと目が合うと何かを察したように、佐々木くんの肩をたたき、耳元で何か話してから教室に入って行った。
「じゃ、うちらも先入るね。」と言って、亜美ちゃんとるもちゃんも行ってしまった。昨日の今日で何を話していいかわからない……めっちゃ気まずい。
「あのさ、今日部活なくて、もしよかったら一緒に帰らない?」
「私と!?」
「ふふ……渡辺さん以外に誰がいるの?」
「そ、そうだよね? うん、大丈夫です。よ、よろしくお願いします。」
「……いや、うん。また帰りに。」
私の頭にポンと手を置くと、鼻の頭を掻きながら佐々木くんが教室に入っていった。頭に残る優しい重みにドキドキしながら午後の教室に入って行った。
あと30分……あと10分………あと5分……。
これぞ、時計の時間と心の時間。早く感じたり、遅く感じたり……私の心を映し出す時間の進み方。
「渡辺さん、準備終わった?」
一瞬で教室の空気が変わり、周りがざわつくのがわかった。そうでしょうよ、そうでしょうよ。かたや男ったらしと噂される私と、あまり目立ちはしないけど一定数ファンがいる佐々木くんとの接点なんてほぼ皆無だったのだから。この反応は想定内です!
「あ、うん。日誌を職員室に届けたら帰れるよ。」
「じゃ、先に昇降口で待ってるわ。」
気をつかってくれたのか、佐々木くんは小声でそう話すと先に教室を出た。私も荷物を持って教室を出ようと立ち上がると、周りから冷ややかな視線を感じた。
……気にしない、気にしない。
「次は佐々木くんかぁ。ほんとよくやるわ。」「やめなよ。聞こえちゃうって(笑)」一部の女子が私に聞こえるようにわざと大きな声で話し始めた。
ぎゅっと日誌を握りしめて歩き出した。しかし、扉のところで誰かとぶつかった。
「あのさ、ありもしない噂で俺の大切な咲夏をいじめるのやめてくれるかな?」
「た、龍臣!?」
私がとめようと口を開こうとしたとき、抱きしめられる形で龍臣の胸に押さえつけられ私の抵抗は未遂に終わった。
龍臣を引っ張って廊下をズンズンと進む。
「おーい、咲夏。どこまで行くんだよ〜。」
龍臣の質問には答えず、教室からある程度離れたところで手を振り払った。
「龍臣のせいだからね!」
「何が?」
「……違う。ただの八つ当たり……。」
龍臣は何も間違ったことはしていない。私が人と関わるのが煩わしくて何も言わずに流してきた結果が今だ。上靴のつま先が涙で滲んではっきりと見えない。
遠くから生徒の話す声が聞こえてきた。
「嫌なことはちゃんと嫌って言う。って小学校の先生に習わんかったか?」
「わかんない。」
「お前がそんなんだから、放っておけない俺の気持ちわかる?」
「だから、わかんないってば。」
龍臣が私の頬に伝う涙を指で拭う。いつもと違う真剣な表情から目が離せなくなる。
「渡辺さん?」
ぱっと龍臣に背を向け、名前を呼ばれた方に身体を向けると、心配そうに佐々木くんがこちらを伺っていた。
「さ、佐々木くん、ごめ……待たせちゃったよね。すぐ戻るから待ってて。」




