episode.8
どうしよう……会話という会話が頭の中でぐるぐる回っては消え、回っては消えを繰り返している。しかも、隣には佐々木くんが少し眠そうに外の景色を眺めている。
バスが揺れるたびにうとうとする佐々木くんが尊い……! 朝からずっと試合だったし、きっと疲れてるんだよね。
「……ごめ……。朝比奈前で起こし……て。」
そう言うと、佐々木くんは抱えていた大きなリュックに顔をうずめてしまった。朝比奈だと、私の一個前の停留所か……。狭い座席は私と佐々木くんの距離を物理的に近づけていた。肩から力の抜けた佐々木くんの重みと温かさが伝わる。
ガタンっ! バスが今までよりも大きく揺れた瞬間、佐々木くんの頭が私の肩にもたれかかるように項垂れている。
「……すぅ、……すぅ、……ん……。」
寝息がハッキリとわかる距離に佐々木くんがいる。サラサラの髪がほほに当たってくすぐったい。
少しでも私が動いたら、今にも起きてしまうのではないかという緊張感で身体に力が入ってしまう。それでも心臓だけは制御出来ないくらい大きな音を立てて動き続けている。
いくつかのバス停を過ぎるも、鼻腔をくすぐる佐々木くんのいい匂いが私を限界へと追いやる。
身じろぎをする佐々木くんの頭が、私の首元まであと少しで到達する。もうこれ以上は……!
「……んん“。……まじでごめん……」
肩にもたれたまま佐々木くんが目を覚ましたようだ。ゆっくりと起き上がると、もう一度自分のかばんに顔をうずめた。耳まで真っ赤になっている佐々木くんを可愛いと思ってしまった。
「あ、あの、全然気にしてないよ。試合、お疲れ様。そろそろ起こそうと思ってたところ。」
出来るだけ表情に出さず笑顔で対応する。佐々木くんがちらっと外を確認している。あと3分くらいかな……。
「……あのさ、いきなりこんなこと聞くのあれなんだけど、渡辺さんて、この前の先輩と付き合ってる? ……ってか彼氏いる?」
「……え? ええっ!? な、ないない! あの人、私のいとこでとにかくただのお節介で、あと付き合うとかそういうのは……その……」
「なにそれ。渡辺さん、キャラ変わりすぎ。」
わーー。終わったーー。
「いや、悪い意味じゃないから。」
「……うん。」
「その……、反応がいちいち可愛いというか……うん。」
あーー、やばい。どんな顔していいか、全くわかんない……けど、めちゃくちゃ顔が熱い!!
「次は、朝比奈、朝比奈。お降りの方は……」
佐々木くんが降車ボタンを押して、私に向き直る。夕陽が佐々木くんを照らしていて、なんだか照れてるように見えた。
「渡辺さん、もし本当に付き合ってる人がいないなら……俺と付き合ってみない?」
「……え? わたしと?」
「返事はすぐじゃなくて大丈夫だから。」
バスが静かに停車して、佐々木くんが重い荷物を背負って席を立つ。私は予想もしなかった展開に頭が追いつかず、何も考えられなかった。「じゃ、また。」と言って彼はバスを降りていってしまった。




