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契約婚(3)

 朝から何も食べていない。喉が渇いた私はそろそろとベッドから出た。出ようとしたところで、後ろから腰に腕を回されて「ごめん」と王子に言われた。


 私の心臓が止まりそうになった。


 私はゆっくりと振り向いた。


「ごめんなさい」


 王子は私に自分のガウンを着せて平謝りしてきた。


「私が第一聖女ではないことに気づいていたのですか?」


 私は衝撃のあまりに心臓が凍りつきそうになりながら、王子に聞いた。


「君があまりに可愛いから。ごめんなさい。何も纏わぬ時に気づいた。でもあまりの可愛さにやめられなかった。ごめんなさいっ!」


 私は目を見開いて、目の前で美しい顔を赤らめている王子を見つめた。


「君が初めてだったというのは、その……分かった……」


 私はあろうことか、王子に平手をくらわした。


「痛っ!」


 王子は打たれても当然だと思ったらしく、本当に申し訳なさそうに慌てて謝ってきた。


「本当にごめんなさいっ」


 私は王子がかけてくれたガウンで体をしっかり包み、涙が込み上げてくるのを抑えきれなかった。


 バカにされた気分だった。私は王子が好きだったのだ。その気持ちを弄ばれたように思った。


「君はその……僕のことが好きではないでしょう?」


 衝撃的な言葉を王子は私に告げた。好きではない人に自分の初めてを捧げる人がいるというのだろうか。


 私はむすっとした表情で黙り込んだ。


「怒らせてごめんなさい。責任を取る!契約婚をしよう。ほらっ!僕は独身だとあれやこれやと結婚を陛下に勧められて、周りから媚薬を盛られたりして大変だ。君なら僕の契約婚の相手にピッタリだ」

 

 『私』から『僕』に代わり、王子は急に最高の案を思いついたと言わんばかりにイキイキとした表情をし始めた。


「……契約婚って何でしょうか?」


 私は戸惑いのあまりにベッドから落ちそうになり、床にヘタリ込んだ。


「ほら、こっちに来て。君の全てを僕はもう見たから、君なら安心できる」


 私は再びベッドの上に王子にひっぱりあげられた。


 ――この人は何を言っているのだろう?


「何が安心できるのでしょう?」



「君は僕のことが好きではない。僕の気を惹こうと煩わしいことはしないでしょう。僕が君と結婚すれば、皆が満足だ。第二聖女の君と結婚するなら、国民の誰からも文句は出ないだろう?だって、国のためには良いことだから。僕は媚薬を盛られたり、好きでもない令嬢にしつこく言い寄られたりしないで自由になれる」


 私はまじまじと王子の顔を見た。


「本気ですか?」

「あぁ、本気だ。僕らは仕事で一緒に過ごす時間が長くてお互いに気心を知れている。何より、僕が第一聖女だったヴィラに心惹かれてまだ引きずって立ち直れないのを知っている。君なら僕はそばにいても安心なんだ」


 二人でベッドの上に座ったまま、王子は両手で私の両手をしっかりと握った。私の目を真っ直ぐに美しい瞳で見つめている。さっきまで色っぽい目線で私の体を見つめていた人と同一人物だ。


「僕らの間に愛が無くても、僕は君を大事にする。君は僕の心が他の女性にあると知りながらも、僕の症状に付き合ってくれた貴重な人だ。悪いようにはしない」


「一つ、互いに愛がない結婚を続けることを受け入れること」

「二つ、他の人を愛したとしても、静かにそれを受け入れること」


「三つ、決してお互いの気を惹こうとかせず、互いの愛を求めないこと」


 ……


 王子の条項は17まであった。


「すみませんっ!私は朝から何も食べていませんので、食事をいただきたいのですが」


 私は夢中で嬉しそうに話し続ける美しい王子を遮った。




 運ばれてきた食事にはワインがついていた。私は一気にワインのグラスをあおった。


 お腹が空いていたので、クラクラと来た。


「君の夫は僕だ。いいね?陛下に報告してくるよ!おかげで媚薬の解毒は完了したようだ!ありがとう!君はここでしばらく食事をして休んでいてくれる?また戻ってくるから」


 王子は喜びいさんで、別邸から飛び出して行かれた。窓から見下ろすと、美しい花々が咲き誇る庭を王子が駆け抜けて行き、従者が後を追っている姿が見えた。馬に飛び乗った王子が別邸の門が開くのも待ちきれない様子で飛び出していくのが見えた。


 何がどうなってこうなったのか分からない。最悪だという気分になったが、よく分からない。


 契約婚って何!?

 愛のない結婚!?

 

 私の体は初めて男性に触れられて、妙な感じだった。



 この日、私の夫は契約婚の夫と決まったのだ。その晩には国中に第二聖女と王子の結婚が発表された。


 一瞬ゾフィー令嬢の事が頭をよぎったが、3ヶ月後に挙式だと告げられて、慌てふためいた私はすっかり忘れていたのだ。



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