失って(2) フランソワーズSide
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「つまり、最初に毒を盛った人に認めさせる必要があるということですね。それはエリーゼ嬢だと」
ダニエルはテキパキとメモ帳のようなものに書いていた。
「そうだ。敵はジットウィンド枢機卿とブルク家当主なんだ」
「わかりました、できる限りの事をしましょう。事実確認の後、証言をしてもらえるかの確認をして、ジットウィンドをねじ伏せられる判例を探しておきましょう」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
スティーブン王子はお礼をいうのと、私がお礼を言うのはほぼ同時だったが、そこにロバート・クリフトン卿とテリー・ウィルソン卿がやってきた。
「おぉ、お二人ともお久しぶりです」
「ダニエル!」
「僕の最愛の人のために、ロバートとテリーも協力してくれている」
皆が旧知の仲らしく、懐かしそうに会話をしていた。またも王子の口から「僕の最愛の人」と言うフレーズが出て、私はこそばゆいような、胸が震えるような思いだった。たとえ、皆の前での建前としての嘘の表現なのだとしても、私はあり得なかったスティーブン王子の言葉に恋心が揺れた。
その時だ。
突然、探していたゾフィー令嬢の生の力を私はキャッチした。
「あぁっ、ゾフィー令嬢がこの近くにいます」
私はそう叫ぶと、ハンレーン法曹院を飛び出してしまった。ゾフィー令嬢が生きているならば、ブルク家に戻ってもらう必要がある。
私はとにかくゾフィー令嬢を探し出したい一心で外の群衆の中に飛び出してしまった。すぐ近くにゾフィー令嬢を感じる。
私は雑踏の中で立ち止まって、耳をすまして集中した。私のそれほど強くないスキルでも、微かにゾフィー令嬢がこの近くにいる事を感じるのだ。
――あぁ、私に第一聖女のヴィラのようにスキルと美貌があれば……。
私が自分の事を情けなく思ったその時だ。
「黙れ、さっさと歩け。さもなければ命はないぞ」
と言う声を聞いてゆっくりと目を開けた。
目の前にゾフィー令嬢がいて、一目で悪どい荒くれ男だと分かる太った男に短刀を突きつけられていた。太った男は誰かの悪の手下だろうか。
「ごめんな「あーら、今日も暑いわぁ」」
ゾフィー令嬢が微かな声で荒くれ男に謝ろうとしたその時、私はすぐそばでスキルを発動した。
この雑踏の中で誰にも被害を与えずに荒技を使いこなすのは、勇気がいる。だから、自分にだけ効くスキルを発動した。
「おいっ!そこのお前!金髪の女!」
――引っかかった!
「何んですか?無礼な態度を取るなら、お父様に頼むわよ」
ゾフィー令嬢らしい言い回しで、私は叫ぶように大きな声を出したのだ。
私は擬態のスキルを発動して、ゾフィー令嬢にそっくりな姿になっていた。
荒くれ男は一瞬ビクッとした。私はゾフィー令嬢に微かにうなずいて見せた。
――逃げるのよっ!
ただ、その瞬間、一瞬の隙ができた。私は荒くれ男に一気に飛びかかられ、刺された。同時に後ろから長弓で射られたと、と思う。
きゃあっ!
うわっ!
なんだよっ!
人が刺された!
周囲で群衆が騒ぐのが聞こえたが、そのまま意識が遠のいた。ゆっくりと崩れるように倒れた私を誰かが抱き止めた。耳元で声がする。
「フランソワーズ!死なないでっ!愛し……」
その後、私は真っ暗な闇に堕ちた。意識を失ったのだ。
全てを失った。




