驚き ロバート・クリフトン卿Side
私はあっけに取られた。
今日は聖女のフランソワーズ・ボーズ・ラヴォイア嬢と待ち合わせをしていた。私は張り切って気合いを入れて、身支度を完璧に整えていた。最近流行りの芝居小屋にでも帰りにフランソワーズ嬢を誘うおうかと思っていたほどだ。
今日は先月問題になった、ある村に出没した魔物を確認しに行く予定だった。大したものではないと私は思っていて、すぐに魔物ではないと判明して、その後余った時間で食事か芝居小屋、もしくはその両方でフランソワーズ嬢を誘うつもりだった。
誘うには、かなりの勇気を出さなければならない。
それが、待てども待てどもフランソワーズ嬢は待ち合わせ場所にやってこなかった。私たちはロダン川にかかる美しいポンホの橋で待ち合わせをしていた。
恋人同士のロマンティックな橋を待ち合わせ場所に選んだのは、私の気持ちが先走っているからだろうか。
橋に馬車を待たせていると、騎士団の一人が血相を変えて早馬を飛ばしてやってきた。彼の報告を聞くなり、私も慌てて馬車を別邸に急がせる羽目になった。
「スティーブン王子が毒を盛られただと!?」
「さようでございます!」
「今、王子はどちらにいらっしゃる?」
「別邸でございます!聖女様が解毒を試みていらっしゃるようです!」
「分かった」
――そうか。だから、フランソワーズ嬢は今日は来れなかったのか。
焦りながら別邸に到着すると、ちょうどスティーブン王子が宮殿に急ぐために馬に飛び乗って飛び出してきたところに遭遇したのだ。
「王子!ご無事で?」
「あぁ、解毒してもらったから大丈夫だ!これから陛下に報告に行くところだ」
「かしこまりました。ご一緒します!」
私も馬に飛び乗り、王子について宮殿に着いた。
だがだ。
だが、なぜこういうことになっているのか、私は完全に面食らった。
スティーブン王子は陛下にお会いするなり、いきなり驚くべき発言をした。
「結婚しようと思います。私の結婚相手は聖女のフランソワーズを望みます」
「おぉ、そうか?」
陛下は目を見開いて、少しぽかんとした表情をした。あまりに突然のことで驚いたのだろう。私も耳を疑ってしまった。
晴天の霹靂だ。
スティーブン王子はフランソワーズ聖女のことなどこれまで意識したことがなかったと思う。
「分かった。聖女なら問題ないだろう。決断してくれて本当に良かった」
「はい、ありがとうございます!三ヶ月後に挙式をあげたいと考えております」
「なんと、それは急ぐな……」
驚いて目を見開くこと二度目の国王陛下は、ポカンとした表情をしたのちに、膝を打って喜びの声を上げた。
「国をあげて急ごう。よくぞ決断してくれた。おめでとう、スティーブン」
国王陛下は優しい顔に目に涙を浮かべて、息子であらせられるスティーブン王子を抱きしめた。
スティーブン王子はなぜか晴れ晴れとした表情だ。
昨日まではフランソワーズ嬢のことなど、これっぽっちも眼中にないといった様子で、第一聖女だったヴィラ嬢のことを吹っ切れずに気持ちを痛めてらしたスティーブン王子の変わりように、私は心底驚いた。
しかも、お相手はフランソワーズ嬢だ。
私は複雑な思いで、陛下と王子のやりとりをおそばで眺めていたのであった。
――愛のない結婚はされないだろう。きっと今だけ失礼で痛む胸のうちを隠すため、それと言い寄る令嬢をかわすために、何か策を講じられたのであろう。
私はそう考えた。
だが?
物事は思わぬ方向に進み始めていたようだ。この時の私は、それをまだ理解していない。




