4 戦い
アマンダは尖塔の屋根瓦に身を預け泣いていた。彼女は死ぬことを考えていた。
尖塔の屋根の縁に引っ掛けた細い足は、幾度の痙攣と激痛に見舞われもはや感覚はなかった。闇夜の暗黒に閉ざされた砦は地面すら見えず、アマンダは世界の暗黒にひとり取り残されている感覚になっていた。
彼女は塔の窓からオークの蛮行を見ていた。母は喉を引き裂かれ殺された。そして焼かれて食われた。
父はアマンダをこの塔に押し込んだとき、ドアの向こうでオークの大槌で叩き潰されて死んだ。
兵も女中もみな殺された。そして弟は、荷車に乗せられどこかへ運ばれていった。
今アマンダは暗闇に一人だった。兵舎に潜んでいたあの人は今どこにいるのだろうか。彼は身振りでここに待つように言った。しかし、彼一人で、このオークの群れの中でなにができるのだろうか。
足のしびれはもはや限界に達し、右のふくらはぎがまた痙攣を起こし始めた。彼女は息を殺して激痛を噛み殺したが、もはや意志の力はもう殆ど残っていなかった。彼女は再び地面を覗き込んだが、暗闇の底にはなにも見えなかった。
もはや死んでしまおうと彼女は目を閉じ,徐々に体重をつま先にかけた。胃がせり上がり息ができなくなった。彼女はありったけの意志の力を集め、暗闇の底に身を投げようとしていた。
その時、闇夜に突如閃光が走った。
西の城壁の屋上からいくつもの発火炎が瞬いた。そして耳をつんざく爆発音が闇夜の静寂を裂いた。暗闇のどこかで姿の見えぬ鳥が羽ばたいた。
銃声の轟が深いくさび形の谷間に幾度も幾度も反響した。
そして時をおいて闇夜の底からオークたちの悲鳴とうめき声が上がった。
兵士たちの反撃が始まったのだ。
その時、彼女のふくらはぎが三度目の激しいけいれんを始めた
銃声が響くと、アイルは尖塔に向かって走り出した。そして壁にとりつき、すばやよじ登った。
1っ階ではオーク達が何やら動いていた
アイルは窓にとりつき、中に侵入した
中は灯篭の明かりだけが燃えていた
彼はそのまま階段を上がった
彼が屋上の扉に手をかけたとき、中に人の気配がした
彼はナイフを抜いた。そしてつま先に体重をかけ、扉を開くと同時に部屋の中に素早く突進した
かれは暗い部屋の中に人の気配を感じた。瞬発的にその方へ振り向くと、目を見開いた小人がいた
それは小人だった……侍女の格好をした、栗毛に黄色い瞳を見開いていた
アイルはそばにより、素早く縄をほどいた
王女様は、屋根の上にいます!次女は言った。アイルは窓を開け、屋根の庇にとりついた
彼女の体がもはやずり落ち始めたその体が宙に投げ出された
彼女は手を屋根に掲げた
その手を誰かが塚田
次の瞬間、彼女の襟首が急に何者かに掴まれた。そして彼女は屋根瓦に身を押し付けられた。
アマンダは驚き悲鳴を上げそうになった。しかしその口は誰かの手ではふさがれた。掌ににじむ汗の塩気がアマンダの唇を濡らした。アマンダが目を見開くと、顔の正面で男が唇に人差し指を立て、声を立てるなと合図した。
男の首元から汗の匂いが漂ってきた。彼は細い女性的な首を持っていた。長いまつげのしたの真っ青な目と正面から見つめ合った。
彼はゆっくりと口元から手を離して言った。
「あなたを助けに来ました」
彼は尖塔をぐるりと廻り塔の先端に縄を引っ掛けた。そして彼女の体を縄に結んだ。彼は小さな礫を2つ地面に落として合図した。すると少し縄が緩んだ。
「ゆっくり体重をかけて」男はいった。男の金髪が櫓の炎に金色にきらめいていた。その顔の半分は影になって見えなかった。
彼女は言われたとおり縄に体重をかけた。そして宙に足を浮かせた。体を支えるものがなにもなくなっとき、彼女は恐怖心でパニックに陥った。彼女の心臓はせり上がり、腕はわななき恐怖で身動きが取れなくなった。彼女は目を閉じひたすら時間がすぎるのを待った。暗黒の中で、銃声と剣戟の音が直ぐ側の闇から響いてきた。彼女は首をせばめひたすら時間がすぎるのを待った。すると足元から何かの声と気配がした。そして再び目を開いたときには彼女は地面に下ろされ、二人の男に介抱されていた。
「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ。」濃いひげの体の大きい男が言った。北方人特有の彫りの深い顔と毛深い腕をしていた。もうひとりの男が彼女の縄を解いていた。彼も背が高く痩せて尖った鼻をしていた。男は縄を解き終わると、その縄を大く揺らして合図した。縄は再び上に引っ張られていった。
「あの、ありがとう」アマンダは言った。太い男は白い歯を見せにやりと笑った。
やがて引っ張られた縄が再び緊張した。男二人は紐に体重をかけると、ゆっくりと上の男をおろし始めた。
彼女は思考がぼんやりと定まらないまま男たちの行為を見守っていた。
その時塔の影から物音がした。
そして明かりを持ったなにかが近づいてきた。
彼らは凍りついた。痩せた男は手振りでアマンダに縄を支えるよう指示した。そして剣を抜き腰を落として物陰からくるなにかを待った。
それは胴鎧を着込んだオークだった。右手に短銃をぷらぷらと下げた、顎の肉が肥えた間抜け面の太いオークだった。ゲイルは呼吸を殺してオークの懐に潜り込むと、一閃刃を下から首元に突き刺した。オークは目玉を剥き驚愕の表情で刃を見下ろした。開いた口の乱杭歯の隙間からゲイルの剣先が銀色にきらめくのが見えた。オークはカンテラを取り落した。蝋燭が倒れ明かりが消えた。ゲイルは素早く剣を引き抜くと喉仏のふくらみの真下を再度突き刺した。それでもなおオークの喉を潰すのに十分ではなかった。
「ぐおおおおおおおお!!!」オークが血の泡に溺れながら濁った雄叫びを上げた。
その雄叫びはこだまとなって谷間の隘路を幾度となく反響した。そして一瞬の静寂があった。
ゲイルは硬直し、わずかに期待した。このまま何も起きないのではないかという期待。
しかし五秒もたたないうちに、中庭で騒ぐオークたちの声が、大きさを増してこちらに近づいてきた。
ゲイルは一瞬ためらった後指笛を鋭く吹いた。
途端北の城門の方で大きな物音がした。そして激しく剣を打ち合う音が聞こえてきた。兵士達が囮として騒ぎを起こし敵をひきつけているのだ。
ゲイルは上を向いて小声で叫んだ。「アイル、急げ!」
次の瞬間、近くで何かが砂利を踏みしめる音がした。ゲイルは身構えた。痩せたオークが建物の影からぬっと顔をだした。その頭には分厚い鋳鉄製の兜がかぶさっていた。
オークは3人を一瞥すると、ゆっくりと剣を抜き放ち、縄を支えて身動きの取れないヤゴーに切りかかった。
ヤゴーは片手で剣を抜きオークの剣を受け流した。オークの分厚い鋳造の剣はゲイルの両手剣の刃先を走り激しい火花が散った。そして重い剣同士がぶつかり合う鈍い金属音が闇夜に響いた。オークはその膂力で軽々と剣を押し込み、鈍い刃先がヤゴーの頬を割いた。「アイル急げ!」ヤゴーが鋭く叫んだ。すると手に持った縄がゆるんだ。おそらくアイルが壁に取り付いたのだろう。ヤゴーは縄を放し両手で剣を握り直すと、オークの剣を押し返した。そして鋭く上段に振りかぶり全力で剣を打ち下した。
オークは籠手で剣を受けた。そして返す刀で大股で踏み込んで下段に剣を突き出した。剣はヤゴーの右足に突き刺さった。彼は片膝をつき崩れた。
その時、闇夜に気配を消していたゲイルがオークの右目にむかって鋭く突きを入れた。
しかしオークは首をそらして頬で剣先をうけた。剣はオークの頬を突き破った。口内に侵入した剣の腹をオークは歯でがっちりと咥え込んだ。硬い臼歯には挟み込まれ剣は抜けなかった。
オークは手首を返しゲイルに向かって剣を払った。ゲイルはとっさに剣を手離して飛び退いた。
オークは再びヤゴーに向き直った。そして剣を高々と掲げ、今この瞬間に打ち下ろさんと振りかぶった。
そのとき、オークは頭頂をなにかにぶん殴られ、フラフラとよろめき片膝をついた。次の瞬間アイルが地面に舞い降り、転って受け身をとった。アイルが壁から飛び降りそのままオークの頭を全力で踏み抜いたのだ。
だがアイルの会心の一撃も分厚い鋳鉄製の兜と野太い首に守られ致命傷足り得なかった。オークは剣を地面に突き立支えにして立ち上がった。
アイルは腰の短剣を抜き放ち喉仏に向かって突きを放った。
しかしオークの大きな左手がアイルの突きを打ち払い手をつかんだ。アイルが腕を振り振りほどこうとしたが、その右手は袖の布をつかんで離さなかった。
オークはうつむいた顔から眼だけを動かしアイルを睨みつけた。
アイルはようやくオークの手から袖を振りほどいた。
「逃げろ!」アイルが叫んだ。ヤゴー達は瞬時に反応して逃げ出した。アイルはしばらく剣先をオークに向けて、ゆらゆらと立ち上がるオークと対峙していたが、やがて踵を返しヤゴーたちの後を追った。
突然の銃撃が鳴り止んだあと、緑青は静かに伏せた体を起こした。彼の太い右腕には穿孔が2つ空き、赤黒い粘度の高い血が吹き出していたが、今は気にしなかった。
広場は仲間の死体とうめき声で覆われていた。彼は立ち上がり、息のあるものを壁際まで引張ったあと、武器庫へ向けて走り出した。
武器庫の前には、すでに何体ものオークが扉の前に集まっていた。しかし、なぜか扉を開けるのに手間取っているようだった。
『どけ!』と言い緑青は下っ端を引剥がし、自ら扉に手をかけた。しかし、一度壊したはずの閂がなぜか再びかけられており、扉は小さくガタガタと揺れるだけで開くことはなかった。
『下がってろ!』緑青はそう言うと、少し後ろに下がり、そして全力で肩から扉に突進した。
中で何かが弾け、観音開きの扉は轟音とともに勢いよく開いた。
その刹那、緑青は見た。
暗い倉庫の真ん中に鎮座する、樽と、短銃と、切っ先をこちらに向けて床に並べられた、二十数本の抜き身の剣を見た。
そして観音開きの右手の扉から伸びる縄が、樽の上に固定された短銃の引き金を引き、打ち下ろされたフリントが火花を擦り上げる様を。
彼は何度もこの火花を見てきた。それは彼の愛銃だったから。
瞬間悟る。
この罠の構造を。
『伏せろ!!!』緑青は腕で顔を覆い、倒れ込みながら叫んだ。
直後、爆発と閃光が周囲を包んだ。臨界音響を超えた衝撃波が鼓膜と三半規管を激しく追檄する。粉砕された石畳の破片が千もの礫となって下肢を穿った。
緑青は激痛に歯を食いしばり目を強く閉じた。
やがて緑生はゆっくりと目を開けた。眼前には四柱の根本だけを残して吹き飛んだ倉庫と、パラパラと舞い落ちる石壁の破片と、あとは灰色の混凝土のつるんとした城壁だけが見えた。
緑青は立ち上がり振り返った。彼の背後には膝から上が吹き飛んだ同朋の死体と血の海だけが残されていた。
武器庫前に集ったオークは彼以外の全てが死んだ。
緑青は慟哭の叫びを上げた。
ヤゴーが兵舎の扉にたどり着いたとき、爆発の衝撃音が闇夜を裂いた。
彼らは兵舎の中を突っ切り、そのまま二階へそして三階へ一気に駆け上がると、窓から城壁に渡された板を一気に渡り抜いた。一方アマンダは四つん這いになり足を震わせながらそろりそろりと板を渡った。
彼女が渡り終えたとき、アイルが階段を駆け上がる音が聞こえた。そして続いて巨体が床を踏み抜く衝撃音も。
アイルが三階の窓に手をかけたとき、部屋の入口にオークがぬっと顔を出した。
アイルは窓から這い出て板に手をかけた。しかし、そのかかとをオークの太い腕が掴んだ。アイルは板の端を握りオークの胸を蹴ったが、その巨体はビクリともしなかった。ヤゴーが肩に掛けた弓を抜き叫んだ。
「伏せろ!」
「アイルが体を低くすると同時に、ヤゴーは矢を放った。オークの巨大な胸板に垂直に矢が突き刺さった。しかしオークはそのつかむ腕を話さなかった。ヤゴー間髪入れず次の矢を放つった。オークは3本目の矢を体に受けた時点で、耐えきれず腕を離し背中を見せ逃げ出した。
アイルは腰をかがめて板を一気に渡り切り、板を地面に突き飛ばした。渡し板は暗闇に沈む石畳の地面に激突し、乾いた音を二度立てた。
アイル達は胸壁から外にかけられた縄に手を伸ばすと、一気に地面まで滑り降りた。
城壁から降りた地面は短い芝生に覆われていた。アイル達は城壁を南へと走った。夜露に濡れた湿った芝生がアイルのくるぶしを濡らした。
しばらく距離を進んだとき、突如暗闇の静寂を猟犬の甲高い遠吠えが切り裂いた。
その耳をつんざく巨大な咆哮は深い谷に幾度となく反響した。
アイル達は音の来た北側を見た。
するとずっと奥に見える城塔の奥からぬっと何かが現れた。
闇夜の薄暗さと離れた距離からでは、そのなにかは蠢くもやにしか見えなかった、
しかし、アイル達狩人はその動きからすぐに直感した。
それは、かなり大型の黒狼だ。
さらにその背後には、集う雑兵たちの槍の穂先が篝火を反射して白くきらめくのが見えた。
暗闇の深奥から響く殺意の谺は距離を詰めこちらに近づいてきた。
王の間に秘密の通路があります。そこから地下水道を通って外に出れるときいたことがあります
なるほど……じゃあそうするか
地下水道へ行く
ほかにこの地下のありかを知っているのは……
クラウザー
クラウザーがぬっと顔を出す
アイルはびびって固まる
瞬間ヤゴーがアイルを突き飛ばし、クラウザーに突進する
やつの杖が赤く光る
それでもかまわず突進する
一瞬吹かれた炎の渦を突き破り、クラウザーに切りつける
奴は杖を横倒しにして峰で受ける
臥せろ!ゲイルが言う
瞬間矢が飛んでくる
肩に突き刺さる
クラウザーは逃
こっちが出口です!アマンダが言う
地下水道から出る
そこは渓谷のはざまだった
渓流の中に入り、からだを洗った
はやいそごう
四人は侵入に際して降りてきた高台の崖下までたどり着いた。
ゲイルが最初に崖に取り付いた。ゲイルはアマンダを背負い、細身の体と長い手足を生かして縄をするりするりと登っていった。
黒狼の遠吠えが再び暗闇のどこか近くから響き、それに続く敵兵の雑踏が闇夜の中を近づいてきた。
アイルは腰の短剣を抜き身構えた。
突如、彼らの後方、ヤゴーの真後ろから何かが飛び出した。アイルは振り向きざまの目の端に白い犬歯の列を捕らえた。
あのあからさまな遠吠えは囮なのだ。さかしらな犬の小賢しい手口だ。
暗闇から突如現れた猟犬はアイルの首を狙い飛びかかった。
次の瞬間、ヤゴーは一瞬のうちに長剣を抜き放ち、犬の首元を狙い素早く突きを放った。
剣は浅く犬の首筋を捕らえた。はじけた鮮血が芝生に点々と跡を残した。犬は体をよじって剣を躱すと、急激に方向転換し今度はヤゴーの喉元に飛びかかった。
ヤゴーは左腕で喉をかばった。
犬はその左腕に噛み付いた
犬は骨をも砕く勢いで顎を噛み締め、足を踏ん張り肉を引きちぎろうとした。
次の瞬間、ヤゴーはむしろ腕を自分に大きく引きつけた。そして自らを軸に回転し遠心力で犬を宙に浮かせた。
身動きの取れなくなった犬はより顎に力を込めてヤゴーに食い付いた。
刹那、アイルは素早く動き犬の真横に飛びかかると。短剣を犬の左目に鋭く剣を突き入れた。剣は頭蓋を貫通し内側から右の眼球を突き飛ばした。
脳を破壊された犬は一瞬で死んだ。
「早く登れ!!!」崖の上からゲイルが叫んだ。アイルは縄をつかんだ。そして小柄な体躯を跳ねて一気に崖上までかけあがった。
続いてヤゴーが綱に手をかけた瞬間、暗闇から雑兵がその姿を現した。それは二体のゴブリンであった。
ヤゴーは迷わず左手のゴブリンに向かった。
そしてむき出しの細い首に向かって長剣を突き出した。
ゴブリンは幅広の短剣で剣を払い受け流した。
ヤゴーはゴブリンにより近接すると、右足で力いっぱい地面を蹴り上げた。
この暗闇の中で飛び散る土は不可視の攻撃であった。
ゴブリンの大きな目に土がかぶった。思わず手で顔を覆った。
ヤゴーはその指と指の隙間に長剣を刺した。
ゴブリンは目を潰して叫び声を上げた。
右手のゴブリンが上段に剣を振るってきた。ヤゴーは身を翻し飛び退いた。
ゴブリンは長剣を握り円盾を持っていた。だがその装備は細身のゴブリンには重すぎた。
鋭く右足を踏み込むとゴブリンは円盾を構えた。ヤゴーはその盾に右足を蹴り込んだ。
ゴブリンはのけぞり尻餅をついた。むき出しの下腹部にヤゴーは素早く剣を差し込んだ。
ヤゴーが顔を上げると、後方にさらなる敵兵の集団が見えた。
ヤゴーは長剣を振りかぶり勢いをつけて投擲した。そしてその結果を見ずに踵を返した。そうして縄を掴むと3歩で人の背の高さまで駆け上がった。
ようやく追いついたゴブリン共が、追いすがり長剣を足元に打ち込んできた。
ヤゴーは足を宙に浮かせて避けた。靴の底を長剣の刃がかすめコツンと音を立てた
ヤゴーは次の二歩で剣の間合いから抜け出た。そして突き出た大岩の庇に手をかけた。
次の瞬間、ヤゴーの左足に激痛が走った。見ると内ももに長剣の刃が突き刺さっていた。ゴブリンが投擲した剣だ。
足から抜け、ずり落ちた長剣は回転しながら地面に落下していった。
アイルは更に勢いをつけて大股で岩をよじ登った。するとまた尻がなにかに突き上げられた。剣をもう一度投擲したのだろう。しかし今度は運良く柄の部分が当たったのだ。
ヤゴーはようやく岩の庇を越えた。ゴブリンの射線から逃れ、ヤゴーは一息ついた。そして縄を掴むと上に向かって言った。
「引き上げてくれ!」
ヤゴーはずりあげられる縄の勢いを利用してまた素早く崖を登り始めた。
しかし突如縄の動きがとまった。そして急激に下に引きずり降ろされた。ヤゴーは足を踏み外し、崖の途中で宙ぶらりんになった。
下を見ると、ゴブリンどもが束になって縄を掴み、崖から引き離すように引っ張っていた。縄は緊張して空中と地面とで一直線になった。ヤゴーは崖に取り付くことができなくなった。縄が結ばれた楡の木は大きくたわみ今に崖から引きちぎれんとしていた。
「縄を切れ!」ゲイルが上から叫んだ。
ヤゴーは胸元の荷袋を弄った。触り慣れた硬い柄に指が触れると短剣を引き出した。鞘は穂口にひっかかり闇に落ちていった。
ヤゴーが緊張する縄に刃をかけた瞬間、何かがヤゴーの左足に喰らい付いた。激痛と驚愕に顔を歪め足下を見ると、縄を渡ってきたゴブリンが大口を開け汚れた乱杭歯を太ももに打ち込んでいた。そして爪を立ててさらにヤゴーの体をさらによじ登ってきた。ヤゴーの左手が縄からずり落ち、摩擦で剥けた手のひらの血で縄が赤く染まった。片腕で体重を支えきれなくなったヤゴーは短剣を口に挟み込んで両手で縄を掴み直した。ヤゴーは脂汗を流し背中で息をしていた。その背中にゴブリンは上顎の犬歯を突き立てた。ヤゴーは激痛に喘ぎ口から短剣を取り落した。短剣は櫓の赤い光を浴びて煌めきながら闇の中へ落ちていった。
その時、楡の木が臨界点を超えてたわんだ。
次の瞬間、木は根本の土ごと崖からこそげ落ちていった。
一瞬の静寂のあと、闇の中でドスン、という小麦袋を床に叩き落としたような音がした。
「ヤゴー!!」ゲイルは叫んだ。「ヤゴオオオオオオ!!!」
続いて楡の木が地面に激突し滅茶苦茶に張り裂ける音がした。
しばらく闇の底を静寂が包んだ。
ゲイルはヤゴーの名を叫んだ。アイルとアマンダもそれに続いた。
しかし、ヤゴーからの返事は帰ってこなかった。
アイル達は耳をそばだてた。するとゴブリンども嬌声をあげながら闇の底で"何か"を打ち付けはじめた。
金属が"何か"をえぐる、グロテスクな衝撃音。ヤゴーのくぐもった苦悶の声が崖の上まで響いてきた。しかしやがて、彼は声をあげなくなった。
ヤゴーはゴブリンに滅多打ちにされ肉塊となり死んでいった。
ゲイル崖の淵を震える手でつかみ闇の底を睨みつけていた。やがて大きく首を振り、立ち上がり言った。
「ここから逃げるぞ」
そして闇夜の空に鋭く二回撤退の指笛を吹いた。
「すまねえ」ゲイルは小声でつぶやくように言った。そして踵を返した。
三人は森の中へ逃げ込んだ。
四人は橋までたどり着いた。
なんとかここから逃げようとしていた
橋を渡る途中で、 トロルの襲撃を受ける
トロルが真ん中にいる
作戦名「突風」だ
うなずきあう
突然橋を揺らす
いまだうて
ゲイルは矢を立て続けにトロルの脚に打ち込む
奴はバランスを崩し、落下する
なんとか持ちこたえろ、
橋を切り落とす
ヤゴー!!!
先へ進むのだ
生白い肌を舌貴兄の怪物
はしるしかねえ
走る
そして中ほどにたどり着いたとき、ヤゴーが囮となり、なんとかする
なんとかなる




