私に彼氏が出来た!?
2学期が始まって1週間が経った。もう、すでに体育祭の練習を始めている。
昼休み、今日は千花が彼氏(五十嵐)とお弁当を食べるらしく私は生徒会室で食べることにした。夏休みのときに五十嵐に告白され付き合うことになったらしい。
「あれ?先客?」
と言って入って来たのは薫先輩だった。
「どうしたんですか?」
「真白にちょっと用事があってね。あ、そういえば瑠衣と会ったんだってね。」
「はい!瑠衣さん、相変わらず美人でした」
「でしょ?さっすが俺の彼女」
と薫先輩が少し照れくさそうに言った。
「付き合ってたんですか?この前は友達って言ってませんでした?」
「うん。ずっと好きであのお泊まりの後に告白したらOKもらったんだ!」
と嬉しそうに言った。私は嬉しそうな薫先輩を見て少し複雑な気持ちになった。侑李には黙っていた方がいいのかな?と考えているとまたドアが開いた。
「薫?どうしてここにいるの?しかも、咲久と2人で」
と真白兄が言った。
「ちょっと誤解すんなって!俺、彼女いるし。それに真白を探してたんだよ。」
「俺?どうして?」
「応援団のハチマキが足りなかったから準備しといてくれない?」
「ああ、うん。それだけ?」
「ついでに弁当一緒に食べようかなって思って持ってきた」
と言って薫先輩は笑った。
「へ~。咲久ちゃんも応援団なの?」
「はい。今度の集会はよろしくお願いします」
「うん!そういえば女子はチアの衣裳を着るんだよね?」
「はい。チア部が貸してくれるみたいで。男子は何を着るんですか?」
「男子は応援部の学ランだよ。それと長いハチマキ」
「薫先輩、学ラン似合いそうですね」
「でしょ?そういえば、咲久ちゃんは何に出るの?」
「リレーと綱引きと二人三脚の予定です」
「俺も二人三脚出るよ!ペアは誰なの?千花ちゃん?」
「いえ、千花は二人三脚には出ないので。ペアはトモです」
「そうなんだ」
「はい。私、割りと足が速い方でトモ以外の人とはあんまり速さが合わないし、男子と女子が奇数だったので自然と。先輩と真白兄は何に出場するんですか?」
「俺は二人三脚とパン食い競争と綱引きだよ」
「俺は借り物競争とリレーと障害物競走」
と真白兄が言った。
「結構時間ヤバイね。そろそろ教室に戻ろうか」
と薫先輩が言って私は一礼して教室に戻った。
真白兄と家に帰っている途中で誰かが真白兄を呼び止めた。
「会長!」
その声に私と真白兄は同時に振り返った。
「私、まだあきらめてませんから」
と女子生徒が言った。
「山崎さん。だから、俺には好きな人がいるから君を好きになることはないです」
「でも、彼女じゃないなら私を好きになる可能性もありますよね?」
「最近、彼女になったんだよ。だからもう諦めてください」
「それって小鳥遊さんですか?」
「そうだよ」
と真白兄が言うと山崎さんはキッと私を睨んで
「それ、本当?」
と訊いた。
「あ、いや」
と答えに戸惑っていると
「本当だよ」
と真白兄が言った。
「ウソだ。も、もし本当ならキスしてみてくださいよ。」
と山崎さんが言った。
「人前ではあまりしたくないんだけど」
と真白兄が言うと
「やっぱりウソなんでしょ?本当ならキスぐらいできるはずです」
と山崎さんが言った。
「キスしたらもう諦めてくれる?」
「はい」
と山崎さんが言うと真白兄は私の頬にそっと手を置いた。そして、私がギリギリ聞き取れるぐらいの小さい声で
『咲久、迷惑かけてごめん。口は外すからキスしてもいい?』
と訊いた。私が小さく頷くと真白兄は口のすぐ横にチュッと音を立ててわざとらしくキスをした。
「こういうことだからもう俺のことは諦めてください」
「分かりました」
と言って山崎さんはその場を去っていった。
「本当にごめん。噂とか立って迷惑だったら否定してくれてもいいから。でも大丈夫なら少しの間、付き合ってるフリをしてくれない?」
と真白兄が言った。
「迷惑じゃないよ。それに、噂を否定しちゃうとまた山崎さんが真白兄に言い寄って大変でしょ?普段は助けてもらってるから今度は私が真白兄を助ける番だよ」
と言うと真白兄は心配という表情で私を見た。
「大丈夫だよ。嫌がらせとかされたらすぐに言うようにするから安心して」
「約束だよ。もしも破ったらなんでも言うこと聞いてもらうからね」
と言った。
「うん、分かった」
と言ってそのまま家に帰った。
翌日、真白兄と一緒に登校した。昨日の内に千花と伊織と侑李には事情を伝えてある。(千花に頼んで五十嵐にも伝えてもらった)
学校に着くとヒソヒソと噂話が聞こえてきた。きっと、昨日の騒ぎを見ていた人がいたのだろう。
「ごめんね。しばらくこんな感じだと思う」
と言う真白兄の言葉を遮るように
「こういうときは“ありがとう”だよ」
と言うと真白兄は少し驚いた顔をして
「ありがとう」
と言って微笑んだ。
教室に着くと皆に囲まれた。
「会長と付き合ってるって本当!?」
「あ、うん。」
「いつから?」
「えっと3日前から」
「昨日キスしてたって本当!?私の友達が見たって言ってたよ」
「えへへ。」
と照れたように笑うとその質問をした子が
「咲久ちゃん照れてるの?」
と訊いた。
「だって恥ずかしいじゃん。でも、自慢の彼氏だから皆に知られるのちょっと嬉しい」
と言うと
「咲久ちゃん可愛い~!」
と言ってクラスの友達が抱きついてきた。
「会長のファンの子達に何か言われたりしても気にしないでね。咲久ちゃんが可愛くて嫉妬してるだけなんだから」
「ありがとう」
昼休みも、真白兄と一緒にお弁当を食べた。
「付き合っててもお昼は別で食べる人もいるし」
「いいの!私が一緒に食べたかったから来ただけなんだから。それとも真白兄はお昼まで私と一緒は嫌?」
「そんなことない。ただ咲久に迷惑かかってないかなって心配になっただけ」
私は真白兄と少しでも多くいられるだけでいいのにな。という気持ちは心の奥にしまった。忘れたらダメだ。真白兄には好きな人がいて、山崎さんを諦めさせるために付き合ってるフリをしているんだ。
それから、1週間後。もう、噂は学校全体に浸透して特に騒ぎ立てる人はいなくなった。
真白兄のファンに悪口を言われたりしても真白兄がほとんど一緒にいるから怒ってくれた。
「なんかもう、皆気にしなくなったね」
と千花が言った。
「うん!質問攻めに合わなくて少し楽になった」
と言うと
「咲久は真面目に答えすぎだよ。そんなの『2人だけのヒミツだから言えない』とでも言ってればいいのに」
と千花が言った。
「そんなの思いつかなかった」
「ていうか、本当に付き合っちゃえばいいのに」
「無理だよ。真白兄、好きな人いるって言ってたし」
「じゃあ甘えてみれば。好きでもない人から甘えられても完全スルーかやめてって言うけど脈ありだったら甘やかしてくれると思うよ」
と千花が言った。
「甘える方がわからない。甘えたことなんてないもん」
と言うと
「そっか。咲久は長女だし下に2人もいるからね。例えば『褒めて!』とか」
「うん。やってみる」
* * *いざ!実践!
2年2組の教室を覗いて真白兄を探した。
「誰か呼ぼうか?」
と扉の近くの先輩が訊いた。
「あ、はい。真白兄…じゃなくて仁科先輩呼んでもらえますか?」
「いいよ。って君噂の。真白~!彼女が呼んでんぞ~」
とその生徒が言った。すると教室にいた先輩達が一斉に私の方にやってきた。
「小鳥遊さんだよね。生徒会の」
「近くでみるとさらに美少女」
「やるな、真白」
「ノーメイク?肌きれ~」
と一斉に話しかけられた。
「あ、あの」
真白兄に用事があるんですけどと言いかけたとき、真白兄が私の目を腕で隠すようにして
「俺の彼女の顔をまじまじと見ないでくれない?」
と言った。
「咲久、ちょっと場所を変えようか」
と言って私の手を引いて屋上に向かった。
「どうしたの?咲久から呼びに来るなんて」
「えっとね、私、チアのダンス覚えたから…その、」
褒めてがなかなか言えない。というか普通に恥ずかしい。
「どうしたの?」
と真白兄が優しく訊いた。
「…褒めてほしい…です」
と言って顔を両手で隠した。
「・・・え、!?」
「ご、ごめん。やっぱりいい」
と言って顔をあげると真白兄はコホンッと咳払いをして
「が、頑張ったね。咲久。」
と言って頭を撫でた。
「なんか、褒められるのって恥ずかしいね」
と言うと
「褒める方も結構恥ずかしいよ」
と真白兄が言った。
「急に褒めてほしいなんてどうしたの?」
脈ありかどうか確かめるためだなんて言えない。というか真白兄は私を妹みたいに思ってるんだから普通に褒めてくれる気がする。
「…甘えてみたくなったから。かな?」
「そっか。…そろそろ戻ろうか」
「うん」
と言って教室に戻った。
* * *
「褒めてもらってから思ったんだけど真白兄は普段から褒めてくれるよ。他の甘え方とかない?」
「私もそんなに甘え上手な方じゃないからな~」
と言って千花が頭を抱えた。
ということで私は男子側の意見も聞こうと思って屋上に千花と五十嵐を呼び出した。(さすがに五十嵐だけを呼ぶのはアレだからね)
「聞きたいことってなんだ?」
「どうやって甘えられたい?」
「は?」
「あ、ごめん。主語つけ忘れてた。五十嵐は千花にどうやって甘えられたら可愛いなって思う?どんなのでも可愛いのは分かってるけどそれはナシの方向で」
と言うと五十嵐が
「ああ、分かった」
と頷いた。すると千花が
「えっ!ちょっと待って!私もそれ聞かないとダメなの?」
と訊いた。
「うん。それで今度甘えてみたら?」
「え!…うん」
頷くんだと内心驚いていたもののまずは聞くことにした。
「俺は普通に『甘えてもいい?』ってきかれたら可愛いなと思うよ」
「そうなんだ。他は?」
「後ろから抱きつかれたり手を置いてて重ねられたりとかかな?てか、これを仁科先輩にするの?」
「うん。」
「小鳥遊に甘えられてる仁科先輩の顔、みてみたい」
と五十嵐が言うと「私も」と千花が言った。
「私も、真白兄に甘えてみてちゃんと女の子として意識してほしい」
と言うと五十嵐が
「それはもう意識されてr」
といいかけたところで千花が五十嵐の口をふさいだ。
「どうしたの?」
「なんでもない。もう部活始まるからそろそろ行くね」
「ごめん。呼び出したりして。部活頑張って!」
「うん!ありがとう!」
と言って千花は五十嵐を連れて屋上を出ていった。
結局、五十嵐はなんて言おうとしたんだろう?
まあ、いっか。今度また聞けば。