“皆で”?花火を見に行こう!
もうあっという間に8月末。近くの神社でお祭りがあるので皆で行くことになった。
今日は、家で幼馴染みの葵のお母さんと七菜波ちゃんに着付けをしてもらっている。
(ちなみに男子達(蒼空以外)はすでに着付けを終えて葵達の家で待機している)
「咲久ちゃん、大人っぽくなったね」
と七菜波ちゃんが言った。
「お母さん、それ毎年言ってる」
と葵が言った。
「そう?でも本当のことよ。日に日に美久に似てきてるし、少し海斗にも似てきてるね。」
「そうかな?自分じゃあんまりわかんない」
「まあ、美久の方が似てるけどね。莉久ちゃんは海斗の方がにてると思うけど。はい、帯結び終わったよ。」
「ありがとう。」
「莉久も完成だよ」
とお母さんが言うと
「ありがとう!七菜波ちゃん、ヘアアレンジして」
と言って振り向いた。
それから、30分後。3人ともヘアアレンジを終えて家を出た。
「葵も莉久も似合ってるね」
「ありがとう。咲久姉も似合ってる!」
と莉久が言った。
「ありがとう」
「蒼空兄、来てくれないのかな~?浴衣姿みてほしかったのに」
と葵が呟いた。
「まあ、蒼空は受験生だからね。お土産買って一緒に渡しに行こうか」
と言うと
「うん!」
と元気良く返事をした。
家を出て、裏口から葵達の家に出た。
「お!咲久姉達も着付け終わったのか?だったら早く行こうぜ!」
と葵の三つ子の弟の翔が言った。
「3人とも浴衣似合ってるよ」
と真白兄が言った。
「「ありがとう!」」
周辺を見渡しても少し人数が少ないことに気付いた。
「真白兄と翔だけ?湊と颯は?」
と訊くと
「兄ちゃんと颯ならゲームしてたぞ」
「は?ゲーム?お祭り行くって言ってるのに何やってるの?」
と少し起こり口調で葵が玄関にまわって家に入っていった。
数分後、実の兄と弟を連れて葵は外に出てきた。
「これで全員揃ったね!早くお祭り行こ!」
と笑顔で言った。現在、小学5年生の葵は長谷川家の長女であり怒らすと一番恐い。
「おう!」
と言って翔が走り出した。
「ちょっと待ってよ!てか、なんで着物なのにそんなに走れるわけ?!」
と言って葵が翔を追いかけて走っていった。
「俺達も行こうぜ!」
と言って湊と莉久と颯も走って行った。
「置いていかれちゃったね。莉久達だけで大丈夫かな?」
と言うと真白兄は
「大丈夫だよ。莉久ちゃんと湊くんは、もう中学2年生だし葵ちゃんと颯くんもしっかりしてるから」
と言った。
「確かに。翔は子供っぽいけど他の4人がみてくれてるから大丈夫だね」
と言って2人で笑った。
「皆には追いつけそうもないし2人でまわらない?」
と真白兄が言った。
「うん。そうだね」
と言って神社に向かった。
神社にはすでにたくさんの人がいた。
「私、イカ焼き食べたい」
「咲久、毎年イカ焼き食べてるよね。」
「だって好きだもん」
と言ってイカ焼きの屋台に行った。
「おじさん、イカ焼き1つください」
と言うと
「おう!咲久ちゃんに真白じゃねえか。今年も来てくれたのか?」
とおじさんが元気良く言った。
「ここのイカ焼き大好きだから毎年来ますよ」
「そりゃあ嬉しいな。今度、店にも顔を出してやってよ。母さんが会いたがってたから」
とおじさんが言った。おじさんは普段は食堂を営んでいて、おじさんの言う母さんとはその奥さんのことだ。幼馴染みで遊んでご飯を食べに行くときは決まっておじさんとおばさんの食堂に行っていた。
「はい、もちろんです!」
「ありがとな。」
と言っておじさんはイカ焼きを袋につめた。
「はいよ。出来立てで暑いから気を付けるんだぞ」
「はい」
と言ってイカ焼きを受け取った。
真白兄のたこ焼きを買ってから人の少ない場所に出てイカ焼きを食べた。
「美味しい!真白兄も1口いる?」
「いいの?」
「もちろん!」
と言うと真白兄は私が手に持ったままの状態でイカ焼きを食べた。
「ありがとう。咲久もよかったらたこ焼き食べる?」
「うん」
と言うと真白兄が
「あーん」
と言ってたこ焼きを私の口の前まで運んだ。
「あれ?食べないの?」
と真白兄は首を傾げた。
真白兄は私のことただの幼馴染みだと思ってるんだから意識しちゃダメだ。
「食べるよ」
と言ってたこ焼きを口に入れた。
「美味しい?」
「う、うん。」
食べ終わって真白兄がゴミを捨てに行ってくれた。
「ねえ、お姉さん。1人?俺らと一緒に花火見ない?」
と2人組の男が話しかけてきた。辺りには誰もいない。最悪だ。
「1人じゃないです。その、彼氏と来てるので」
と言うと話しかけてきたのと違う方の男が
「彼氏なんていないじゃん。置いていかれたの?」
と言って腕を引っ張った。
「離してください」
と言って腕を捻りあげると
「強っ!まあ、俺よりは弱いけど」
と言ってもう片方の男が私の腕を押さえた。
「離して!」
「大声出さないでよ。注目されるでしょ」
と言って口も押さえられた。
真白兄まだかな。恐い。助けて!
「咲久!」
と言って真白兄が走って来てくれた。
「俺の彼女に触るな!」
と言って真白兄は私の腕と口を押さえていた男の手を避けて私の肩を抱いた。
「チッ」と舌打ちをして2人は走って逃げていった。
「恐かった」
と言って私は思わず泣いてしまった。手も足もまだ震えていた。私は自分が思っているよりも強くないのかもしれない。
すると、真白兄はすごく優しく抱きしめた。
「ごめん。ごめんね、咲久。プールのときは大丈夫だったしもし、ナンパされても大丈夫だと思ったけど力の強い奴もいるよね。俺が1人にしたせいで恐い思いさせてごめんね。」
「真白兄のせいじゃないよ。真白兄は追い払ってくれたし。」
と言って涙を拭いた。
「さすが私のヒーロー。もう、全然震えてないし恐くない。かっこ良かったよ、真白兄。」
と言うと少し間が空いて
「ヒーロー?」
と真白兄が聞き返した。
「うん。小さい頃から守ってくれてお兄ちゃんみたいに頼りになって。そんなのもうヒーローじゃん!」
と言うと真白兄はボソッと何かを呟いた。
『お兄ちゃんみたいに、か』
「どうしたの?」
「なんでもないよ。そろそろ花火始まるし河川敷行こうか」
と言った。花火は河川敷が一番大きく見える。その代わり人は多いんだけどね。
河川敷に着くと思っていたよりも多くの人がいた。
「花火までまだ時間があるし今のうちに莉久達と合流する?」
と訊くと
「花火終わってからの方がいいんじゃない?まだ河川敷に来てるか分からないしそもそも神社で見るかもしれないから。」
と言った。
「そうだね」
と言って沈黙が生まれた。気まずい沈黙の中空を見上げると花火が始まった。
「わぁ、綺麗」
夜空に大輪の花が咲いた。見ている人達全員に笑顔にが咲いているだろうか。私の大好きな人も花火のように明るい笑顔が咲いているだろうか。
そっと隣に目線を向けると私よりも20cmも高い位置で見ていた彼は花火に見惚れていた。
花火が終わって莉久達に連絡を取ると案外近くにいたようですぐに合流することが出来た。
「そういえば蒼空へのお土産は何にしたの?」
と訊くと葵は
「焼きそばとポテト!ポテトは蒼空兄の大好物でしょ?いつも食べてるし」
と言って笑った。
ちなみに、蒼空は特にポテトが好きなじゃない。まあ、嫌いでもないと思うけど。葵といるときに食べているのは葵がポテトを好きだからだ。
「そうだね。でも、1人じゃ多すぎるだろうからポテトは一緒に食べたら?」
と言うと葵はニッと笑って
「皆で食べるつもりで3人前にしておいた」
と言った。
家に帰ってすぐ私たちは蒼空を呼びに言った。
「お土産買ってきたよ」
と言うとガチャッとドアが開いた。
「ありがとう。焼きそばとポテト?量が多いし葵も一緒に食べるか?」
と蒼空が葵に訊いた。
「うん!皆で食べよう!」
「だな」
と言ってリビングに降りていった。
「あれ?真白兄は?」
と訊くと莉久が庭を指した。
私は庭に出て真白兄の隣に立った。
「夏休み、もうすぐ終わっちゃうね」
と言うと真白兄は
「俺は、2学期は行事が多くて大変だけど楽しみ」
と言った。
「そうだね。まずは10月の始めに体育祭があるからね」
「咲久と一緒に学校行事に出られるのは2年ぶりだから絶対に成功させたい」
「私も!」
「早く体育祭が来てほしいね」
と言って真白兄が笑った。