1年生ガールズトーク
部屋に戻ってすぐに侑李と伊織が部屋を訪ねてきた。
「ぶっちゃけ咲久ちゃんって会長と付き合ってるの?」
と侑李が訊いた。
「付き合ってないよ。真白兄は私のこと妹みたいに思ってるだろうし私の片思いだよ」
と言うと
「ウソ!あれで付き合ってないの!?私、てっきり付き合ってるのかと思ってた。」
と侑李が言った。
「赤ちゃんの頃からの仲だからね。うちの近所は私達と同世代の子供が少なかったから自然と一緒にいることが多かったから距離感的には家族同然なんだよね」
「そうなんだ。じゃあ千花ちゃんも五十嵐くんとはそんな感じ?」
「さすがに赤ちゃんの頃からじゃないけど5歳のときに引っ越してきたからもう11年一緒にいることになるなかな?でも、家族同然ってほどじゃないよ。中学に上がってから私の部屋に亮太呼んだことないし」
「そうなんだ。」
「そういう侑李は好きな人いないの?」
と訊くと侑李はあっさり
「いるよ」
と言った。
「誰?!」
と千花が食い気味に訊いた。
「えっとね、薫くん」
と侑李が恥ずかしそうに言った。
「薫先輩!?知り合いだったの?」
「まあね。お兄ちゃんが中学で塾が一緒だったから時々家に連れて来てて、よく一緒にゲームとかしてたの」
「じゃあ伊織は?副会長とちょっと仲良くなってたし好きになっちゃったの?」
と千花が訊いた。
「どうだろ。初恋はまだだからわからない。でも、悠陽先輩ボートの漕ぎ方を教えるのすごく上手くて教え方も優しかった。中学のときの男子とは全然違う」
と伊織が言った。すると、侑李が
「中学のときなにかあったの?」
と訊いた。
「少し。私、昔から“見た目は”頭良さそうって言われてたの。別にメガネをかけて本を呼んでた訳じゃないのに。でも、私は本当はすごくバカだったから“見た目は”ってところを強調して言われて。テストのたびに点数自慢をしてこられたの。」
「え!最低じゃん!」
と侑李が怒り口調で言った。
「でも、このときはまだマシだった。中2に上がったときも、続いてたけど私が何も反抗しなかったからだんだんエスカレートしていって最終的にはノートとか教科書とか机に大きくバカって書かれたり直接『バカは、学校に来るな。バカが移る』って言われたりして違うクラスの人が、先生に言ってくれてやっと落ち着いたの」
「稚拙だね、そいつら」
と侑李が言うと伊織は頷いて
「バカでも傷付くってことを分からない方がよっぽどバカだよ。私が泣いたとき『バカの癖に何泣いてんだよ。ウソ泣き下手なんだよ』って言って笑ってきた人を見返すために桜川の進学コースに入ったの」
と言った。
「これは、身内だから言ってる訳じゃないって思ってきいて」
と侑李が言った。
「うん。なに?」
「お兄ちゃんは絶対に佐々木さん、ううん。それ以外の人も。人をバカにすることは絶対にしないよ」
「うん。分かってる。悠陽先輩が優しいのはちゃんと分かってるよ」
「そっか」
「うん。あの、良かったら私も咲久と千花みたいに侑李って呼んでもいい?」
「うん!私も伊織ちゃんって呼んでもいい?」
「うん」
「やった!私、ずっと伊織ちゃんと仲良くなりたかったんだけどなかなか話しかけられなくてお兄ちゃんばっかり話しててずるいな~って思ってたの」
「私も!私も、侑李と話してみたかった」
「そうなの!?嬉しい~。せっかくだし今日は朝まで話そ~!」
と侑李が言った。
「話すって何を話すの?」
と千花が訊くと
「咲久ちゃんと千花ちゃんの恋バナに決まってるでしょ」
と言った。
「侑李は?」
と私が訊くと
「私はさっき話したでしょ。それより、咲久ちゃんが会長を好きになったきっかけ知りたい」
と言った。
「きっかけか。」
***
真白兄は昔からずっと私のヒーローだった。
幼稚園の砂場で遊んでいたときスコップを男の子に取られたら真白兄が取り返してくれたり、小学校に上がって夏祭りでお母さん達とはぐれて迷子になったときは探してくれたり。私が困っているときは必ず助けてくれるヒーロー。
でも、小学校の高学年頃から噂をされるようになった。私が中学生の男子にぶりっ子して付き合ってるとか。皆は冗談みたいなノリで言ってた。
同級生の子達に中学生の兄姉がいてその子達の噂は中学校にも少し広まった。
真白兄は中学1年生ながら生徒会に入っていたこともあって校内では有名だったらしい。だから、『ロリコン』と陰で言われていたらしい。
当然、その噂は真白兄の耳にも入った。真白兄はそれをきいてすぐに私の家に来た。
『咲久!もしかして学校で何か言われてる?ごめん』
『え、なんで?どうして真白兄が謝るの?真白兄は悪くないじゃん』
『ううん。俺は悪いよ。咲久が変な噂をされてるのにも気付かないし、それに、咲久にこんな悲しい顔をさせちゃったし』
と言って真白兄は私の涙を拭いた。
『私は何を言われても大丈夫だけど真白兄まで悪く言われるのは嫌だよ。でも、真白兄と一緒に居たい』
『ありがとう。俺は咲久のその言葉だけで陰口も噂も全く気にならない。咲久と友達が噂を気にしないなら俺も気にならない。だから、これからも一緒に居てもいい?』
と私の頭に優しく手を置いて言った。
『うん!』
それからも、噂はなくなった訳じゃない。でも、私と真白兄が気にせず堂々としていると次第に皆も言わなくなっていった。
中学に上がる頃にはそんな噂は皆忘れていたと思う。むしろ、私や真白兄を悪く言ってた子達が真白兄のファンになってたぐらいだし。
あの噂のことで真白兄には迷惑を掛けたけど私は傷付いただけじゃなく真白兄への気持ちを自覚する出来事になった。
これまでは、本当にお兄ちゃんのように慕っていたけど学校から帰ってすぐに家に駆けつけてくれた真白兄をお兄ちゃんではなく1人の男の子として意識するようになった。
***
「これが私が真白兄を好きになったきっかけ…かな?」
「なんか、漫画みたいだね」
と伊織が言った。
「そう?」
「うん!会長、王子様だね」
と侑李も言った。
「てか、“これからも一緒にいてもいい?”って告白じゃん!」
と千花が言った。
「違うよ。真白兄は幼馴染みとしてって意味だろうし」
と言うと千花は
「じゃあ確認してみようよ」
と言って部屋を出ようとした。
「え!待って!幼馴染みとしてって分かってても真白兄から言われたらショックで立ち直れない」
と言うと千花は
「そんなこと言われないと思うけど咲久が気にならないなら私が口出ししたらダメだね」
と言って笑った。
「じゃあ次は千花ちゃんが五十嵐くんを好きになったきっかけを教えて」
「私はね、」
***
私が初めて亮太と会ったのは5歳の秋だった。
お母さんと2つ年下の妹と一緒に近所にあいさつをしてまわっていた。亮太の家は私の家の隣にある。
『初めまして。引っ越してきた葉山です。』
『こちらこそ初めまして。こっちは息子の亮太と悠真です。ほら、2人とも挨拶して』
とおばさんが言うと
『おれ!いがらしりょうた!5さい!みらいのバスケせんしゅだ!』
とあいさつをしてくれた。すると亮太の後ろからぴょこっと顔を出して
『ゆうま、3さい』
と自己紹介をしてくれた。
『あら、亮太くんも悠真くんも千花と千夏と同い年なのね。仲良くしてあげてね』
とお母さんが言うと
『ちかとちなつってだれ?』
と亮太が訊いた。
『ちかはわたしで、この子がいもうとのちなつ』
『へーそうなんだ。じゃあちか!ちなつ!これからよろしくな!』
と言ってニコッと笑った。そのときの亮太は私よりも背が低くて私が守らないとって思ってた。
それから、8年後、中学に上がった頃、亮太はバスケ部に入った。
私は父も祖父もスポーツトレーナーだったこともあり知識は結構あったのでバスケ部のマネージャーにスカウトされた。
でも、そのときはまだ、スポーツトレーナーを目指していた訳じゃなかった。だから、私は陸上部に入って高跳びをしてた。
『千花、最近、調子いいね。自己新じゃん!』
『うん!この調子で今日はまた自己新出すよ』
と言って走って跳んだときだった。
着地の瞬間足を捻って強烈な痛みが襲ってきた。
その後、救急車で病院に運ばれた。
『足首の靭帯の部分断裂です。最低1ヶ月は安静にしていてください』
『はい。ありがとうございます』
それから、1ヶ月間のリハビリを終え練習を復帰した。
復帰してから、私は自己最低記録を出した。怪我をした前のようには結果を出せなくなっていった。
ある日、近所の公園でベンチに座って独り言を呟いていた。
『どうしよう。初めて部活サボっちゃった。最近全然高跳びが楽しく感じない。せっかく怪我も治ったのに』
『じゃあやめたら?』
と隣から声が聞こえた。
『亮太!』
『隣いい?』
と訊かれ頷くと亮太は隣に座った。
『部活は?まさか、サボったの?』
と私が訊くと亮太は笑って
『千花に言われたくねえよ。最近変だったし小鳥遊が千花が帰ってるのを見たって言ってたから追いかけて来ただけだ』
と言った。
『どうして大好きな部活サボってまで追いかけてきたの?』
『そりゃあ大事な幼馴染みが辛そうにしてんのほっとけねえだろ?なあ、千花。なんで楽しくないんだ?前はすごく楽しそうにしてただろ?』
『怪我をしてからね、成績がのびないの。跳ぶときもまた怪我をしたらどうしようって怖くて全然楽しくないんだ。』
『そっか。じゃあどうしてそこまで続けるんだ?楽しくないのに続ける理由ってある?』
『…亮太には関係ないじゃん!口出さないでよ!』
『関係ないかもしれないけどさ、千花のそんな顔見んの俺も小鳥遊も辛いんだよ。千花が笑ってないと俺も全部楽しく感じない』
と訊いて私は嬉しくて、照れくさくて笑ってしまった。
『なにそれ』
『おまっ笑うなよ!俺は本当に心配して』
『うん!ありがとう!私、部活やめる。リハビリのとき、お祖父ちゃんがたくさん手伝ってくれたの。さすが元スポーツトレーナーだよね。私、高校に入ったら亮太のサポートが出来るようにもっとお祖父ちゃんに教えてもらうね』
『おう!楽しみにしてる』
と言って亮太はニカッと笑った。
***
「そのときの亮太の顔はね今もすごく覚えてるの。それまでは本当にただの幼馴染みだったのにその瞬間から好きな人になったの」
と千花が恥ずかしそうに笑って言った。
「2人ともなんかドラマチックだね。」
と伊織が言った。
「そうかな?」
「うん!私、仲良くなってしばらく経つのに中学生のときに怪我したことなんて知らなかった。」
「そりゃあ、おおっぴらにして言うことでもないし」
「他にも3人の知らないこといっぱいあるし今から1つずつ質問してもいい?」
「うん」
「じゃあまず、皆に質問。兄弟はいる?」
と侑李が訊いた。
「私は1つ年下の弟と2つ年下の妹がいるよ」
と言うと
「私は咲久の妹と同級生の妹がいるよ」
と千花が言って
「私は6歳年上の兄と2歳上の姉が1人ずつ」
と伊織が言った。
「そうなんだ。じゃあ誕生日は?」
「私は12月20日だよ」
と言うと千花が
「私は6月18日」
と言って伊織が
「12月3日」
と言った。
「侑李は?」
と私が訊くと
「私は8月12日だよ」
と言った。
「最近だったんだね」
「うん。じゃあ次は好きなことは?」
「体を動かすこと」
と言うと千花が手をあげて
「私も!」
と言った。
「私は絵を描くこと」
「そういえば美術部だっけ?」
「うん」
「ちなみに私はプールで浮くこと」
「侑李っぽい」
それからもしばらく質問をされて1時過ぎに、部屋に帰っていってそれからぐっすりと眠った。