生徒会の親睦会 兼 避暑の旅
8月の第2水曜日。この日はバスケ部は休みで他の部も今日と明日は体育館やグラウンドの点検で休みだ。
私達は真白兄の家に集合してそれから仁科家の別荘のある軽井沢に向かった。
「向かってる間に自己紹介する?」
と真白兄が訊いた。
「そうだね。じゃあやっぱり真白兄から」
「俺は2年2組の仁科真白です。生徒会長をやっています。よろしくお願いします。時計回りだから次は咲久」
「私は1年2組の小鳥遊咲久です。よろしくお願いします」
「私は1年5組の佐々木伊織です。よろしくお願いします」
「おれは2年2組の岩崎薫です。名前で呼んでほしいかな。よろしくね。あ、佐々木さんは中学のとき一緒に生徒会やってたから覚えてる?」
「はい。今回は立候補しなかったんですね」
「まあね。高校はバイトしたかったからね」
「同じく2年2組の立花悠陽だ。生徒会の副会長を務めている。よろしく頼む」
「もう!ほんっとうに堅い。私は1年1組の立花侑李です!ちなみに立花悠陽の妹です!よろしくお願いします!」
と侑李が言った。少し間をあけてバスに乗っていた全員が
「「ええ!」」
と叫んだ。
「あれ?言ってなかったっけ?」
と侑李が首をかしげた。
「きいてないよ。でも、そういえば苗字一緒だね」
「2人とも名前に“ゆう”が入ってるでしょ?」
と侑李が言った。
「確かに」
「まあ、取り敢えず次だね」
「気を取り直しまして、俺は1年1組の七海俊です!お願いします!」
「俺は1年1組の五十嵐亮太です。お願いします」
「私は1年2組の葉山千花です。よろしくお願いします」
「俺は1年2組の竹田智明です。智明かトモって呼んでください。よろしくお願いします」
「全員自己紹介終わったね。俺のことは会長が呼びやすければそれでもいいし名前とか苗字で呼んでくれてもいいよ」
「質問タイムにしない?」
と薫先輩が言った。
「そうだね。じゃあ誰か質問がある人」
と真白兄がきくと薫先輩が「ハイ!」と言って手を挙げた。
「どうぞ」
「皆のこと名前で呼んでもいい?」
「「はい」」
「よっしゃ!じゃあもう一つ」
「なに?」
「咲久ちゃんと真白の関係を教えて」
と薫先輩が言った。
「幼馴染みですよ」
と言うと薫先輩は
「なんだそっか。俺はてっきり付き合ってるのかと思った」
と言って笑った。
「まさか。私、彼氏いたことないですし」
と言うと驚いた顔をして
「へ~以外!あ、そうだ!俺の友達に紹介してもいい?なんか咲久ちゃんに助けられたことあってお礼をしたいんだって」
と言った。
「何ていう名前の人ですか?」
「うちの学校じゃないんだけど。白石瑠衣って言う名前」
「あ!瑠衣さんか。それなら」
と私が言うのを遮るように真白兄が
「俺も行く」
と言った。
「え!どうして?」
「心配だから。というか、なんで名前知ってるの?どこで知り合ったの?」
「ショッピングモールで妹さんが迷子になってたから探すのを手伝っただけだよ。あと、心配いらないよ。瑠衣さん、優しかったし」
「名前で呼ぶぐらい仲良くなったんだね」
「別にそのとき喋っただけで連絡交換したりしてないから仲良いって訳じゃないけど友達になれたらいいな」
「へ~。薫、俺も行っていい?」
「いいよ~」
と薫先輩が笑って言った。それにしても、今日の真白兄は変だな。
数時間後、車が止まった。
「真白さん、皆さん、到着しましたので荷物をお運びします。」
と運転手さんが後ろにやってきた。
荷物を運び終えると運転手さんは帰りに迎えに来ますと言って帰って行った。
「それじゃあ、部屋割りを決めようか」
と真白兄が言った。
女子は2人1部屋でくじ引きの末私と千花、侑李と伊織のペアになった。
男子は真白兄と薫先輩、トモと五十嵐、俊と副会長になった。
「とりあえず荷物置いたらもう一回ここに集まって」
「「は~い(ああ)」」
それぞれ、部屋に荷物を置きに行った。
「ホテルみたい!めちゃくちゃ広い!」
と千花が興奮気味に言った。
「私も一回しか来たことないけどやっぱり広いね。」
「あのさ、さっき車で面白い話が聞こえたんだけど…」
と千花がニヤニヤと笑いながら言った。
「面白い話って瑠衣さんのこと?」
「そうそう!瑠衣さんって誰?」
「この前、ショッピングモールに買い物に行ったときに妹さんが迷子になっちゃって一緒に探したんだ。その妹さん、結愛ちゃんって名前だったんだけど可愛かった」
「そうなんだ。瑠衣さんは年上?」
「うん!確か高2って言ってた。ってそんなことより早く戻ろう」
「そうだね」
居間に戻ると、一度別荘内を探検したいと薫先輩が言い出したのでかくれんぼをすることになった。
じゃんけんに負けた俊と薫先輩がおにで他は5分以内にどこかにかくれるて20分以内に全員見つかったらおにの勝ちで最後まで1人でも残りきったら逃げる人の勝ちだ。
私は、2階のバルコニー近くのカーテンに隠れることにした。
しばらくして、足音が聞こえてきた。足音はだんだんと近づいてカーテンが開いた。
「あ、咲久。ごめん、もう隠れてた?」
「よかった~。真白兄で。おにかと思ってヒヤヒヤした。」
するとまた、足音が聞こえてきた。
「薫が来てる。俺、他のとこに隠れるね」
と言って真白兄がその場を離れようとした。私は、真白兄の腕を引っ張って引き留めた。
「今から隠れたら時間ないし薫先輩が行くまでここにいた方がいいと思う」
と言うと真白兄が
「ありがとう」
と言ってカーテンの裏に入った。
とっさに言ったけど近すぎて心臓がもたない。私は一歩さがろうと思って足を後ろに踏み出そうとすると真白兄が私を抱きしめて
「あんまり動いちゃうと薫にバレちゃうよ」
と耳元で囁いた。
「ご、ごめん」
しばらくして、真白兄がカーテンから外を覗くと薫先輩がどこかに行ったようだった。
「狭くて暑かったよね。俺、違うところ隠れるから後でね」
と言って真白兄は別の隠れる場所を探しに行った。
スマホの20分のタイマーが鳴って居間に行くと私以外はすでに来ていた。
「咲久!どこに隠れてたんだ?全然見つけられなかった」
と俊が言った。
「バルコニーの近くのカーテンの裏だよ」
と言うと薫先輩が
「俺、近く通ったのに全然分からなかった」
と笑って言った。
「もしかして、私以外全員捕まってたんですか?」
と訊くと皆頷いた。
「私達は始まって数分だったけど会長は最後の3分ぐらいに捕まってたよ」
と侑李が言った。
「ていうか、おにが強すぎない?私なんて開始1分だったよ。」
と千花が言った。
「俺も~。葉山の近くに隠れてたから五十嵐と同時に俊に見つかった」
とトモが言った。
「まあ楽しめたみたいで良かった。それじゃあそろそろお昼にする?」
と真白兄が訊くと皆が頷いた。
「お昼ご飯はカレーの予定で材料買ってきてあるから皆でカレーを作ろうか」
と真白兄が言った。
カレー作りを無事に終え食事も終えたところで別荘近くの探検に行く。
近に湖があるらしくその辺りに行くことになった。
「ボートの貸出とかあるらしい」
と五十嵐が言った。
「私、ボートに乗ったことないです」
と伊織が控えめに言った。
「そうなのか。僕は、祖父の家の近くの公園にボートがあるから何度か乗ったことがある」
と副会長が言うと伊織は
「やっぱり漕ぐのが難しいですか?」
と訊いた。
「コツさえ掴めばすぐに漕げる。でも、体力は必要だがな。」
「じゃあ、15時まで自由行動にしよっか。」
と真白兄が言うとそれぞれ散歩をしたりランニングに行ったりと分かれて私と真白兄と伊織と副会長が残った。
「私もボート乗ったことないし乗ってみたいな」
「じゃあ、一緒に乗る?」
と真白兄が訊いた。
「うん!」
と答えてお金を払ってボートに乗り込んだ。
「わぁ、揺れるね」
「そうだね。咲久、漕いでみる?」
「うん!でも、やったことないよ」
「俺が教えるから大丈夫だよ」
と言って真白兄は後ろにまわってきて私の手に自分の手を重ねた。
「こうした方が教えやすいからこれでいい?」
「あ、うん。」
結局腕が疲れてしまって真白兄に変わってもらった。
「あ!見て!伊織もボート漕いでる!」
「ホントだ。悠陽に教えてもらったのかな?」
「伊織、楽しそう!今日ずっと緊張してたみたいだし」
と言うと真白兄が目を見開いて
「そうだったの?俺、気付かなかった」
と言った。
「まあ、伊織はあんまり顔に出さないからね。私は休みの日とかも遊んだりしててずっと一緒にいるからなんとなくそうかなって思っただけだよ。」
「そっか。」
「そういえば、今日の真白兄いつもとなにか違うよね?どうして?」
「咲久が言ったからだよ。もっと俺が感情を出してる所をみたいって」
「言ったけど別に心配してるところが見たかった訳じゃないよ」
「心配してるところって?」
「朝、車で私が瑠衣さんに会うって言ったら心配だから俺も行くって言ってたでしょ?」
「それは、変な男だったりしないか心配だっただけで」
「…男って?」
「だから、その瑠衣って奴だよ」
「えっ!瑠衣さんは女の人だよ?」
と言うと真白兄は驚いた顔をしてそれから安心したように笑った。
「なんだ。男じゃなかったのか。」
「そうだよ。今まで男性だと思ってたの?」
「まあね。でも、女の人なら心配いらないから俺は行かないけど楽しんできて」
「うん!」
それから、15時前に皆最初にいた場所に戻ってきた。
「夕ごはんはBBQだから別荘に戻って早めに準備する?」
と真白兄が訊くと薫先輩が
「だったら早めに食べて花火しない?俺、さっき買ってきたんだ」
と言って袋から大容量の花火を出した。
「じゃあそうしよっか」
別荘に戻って、すぐにBBQの準備をした。
「野菜切り終わったよ」
と言って野菜を乗せたお皿を外に持っていくとちょうど火も起こし終わったようだった。
「お皿はテーブルに置いておいて」
「うん」
それから、お肉も切り終わってすべての食材の下ごしらえが終わったので野菜とお肉を焼き始めた。
「これ、もう食べれるよ」
と言って薫先輩がお肉をお皿に入れてくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
と言ってお肉を口に運んだ。
「美味しい」
と私が言うのと同時に俊も
「美味っ!マジで美味いっす!」
と言って幸せそうな顔をした。
それから、野菜とお肉をほとんど食べ尽くしてマシュマロを焼いてスモアを作って皆で食べた。
「美味しい~!」
と千花がスモアを口に入れて言った。五十嵐が
「千花って甘いもの好きだよな」
と言うと
「うん!大好き!」
と千花が五十嵐を見て言った。
「あ、ああ。甘いものがだよな?」
と五十嵐が訊くと千花は笑って
「それ以外何があるの?」
と言うと五十嵐は苦笑いをしていた。私は内心『天然こわっ!』と思いつつ五十嵐を見て『よく千花にバレないな』と感心した。
BBQの片付けを終え、別荘の裏にある広場に向かった。
「ここって使ってもいいんですか?」
と侑李が真白兄に訊いた。
「うん。というか、ここはまだ敷地内だから。柵の外はダメだけどここなら大丈夫」
「ここも敷地内なんですか?広すぎません!?」
「祖父の一家が代々病院を経営しているからね。」
と真白兄が言うと千花が
「じゃあやっぱり会長も医者になって病院を継ぐんですか?」
と訊いた。
「どうかな。年上の従兄弟の兄さんがいるしその兄さんが今、医学部にいるから継ぐかもしれない」
と真白兄が言った。すると薫先輩が花火を持ってきて
「そろそろ花火しない~?」
と言った。
「します!」
と言うとトモが「はい」と言って花火を渡してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「伊織達のところ行かない?」
「いいよ。」
伊織と副会長と侑李が3人で喋っていた。
「やっほ!お昼にさ、伊織ボート漕いでたよね?副会長に教えてもらったの?」
「うん。悠陽副会長が教えるのが上手くて私でもすぐに出来たの。ありがとうございます」
ん?
「どういたしまして。でも伊織の要領が良かったから出来ただけだ」
んんん?
「ちょっと待って!伊織って副会長のこと名前で呼んでたっけ?副会長も」
と訊くと伊織は
「立花さんと同じ苗字だから名前で呼んでいいよって言われたから私のことも名前で呼んでるだけよ」
と言った。すると、間が悪く俊と五十嵐と千花も歩いてきた。
「何話してんだ?」
「えっと、ほら、花火きれいだねって」
と私が言うと侑李が
「お兄ちゃんと佐々木さんが知らない間に仲良くなって名前で呼び合ってたの!私も仲良くしてほしいのに…」
と言った。
「へ、へぇ~。そうなんだ」
と言って俯いた。侑李~。俊は伊織が好きなのに。
「俊、どうしたんだ?」
と五十嵐がきくと俊は顔を上げて
「足に蚊がとまった気がして確認しただけだよ」
と言って笑った。
「花火なくなっちゃったし取りに行く?」
ときくと
「俺も行くよ」
とトモが言ったので2人で取りに行くことにした。
「薫先輩!まだ花火残ってますか?」
「めちゃくちゃあるよ。好きなだけどうぞ」
と言って花火を渡してくれた。
「あれ?真白兄と一緒にいないんですか?」
「真白ならあこで線香花火をしてるよ」
と広場の端を指して言った。
「俺、先に行ってるね。薫先輩も一緒に花火しましょう」
と言ってトモは侑李達の元に行った。
私は真白兄の元に行ってとなりにしゃがみこんだ。
「好きだよね。線香花火」
「うん。でもそれは咲久もでしょ。昔は線香花火しかしてなかったし」
「まあね。でも、最近は線香花火以外もするよ」
「そうだね。」
と言って沈黙が生まれた。沈黙のなか線香花火がパチパチと音を立てて燃えている。
「線香花火きれいだね」
と言うと真白兄は
「…綺麗だね。すごく綺麗」
と言って優しく微笑んだ。
「そうだね」
と言うと真白兄は
「線香花火もいいけど今度の花火大会一緒に行かない?」
と言った。
「うん!莉久と湊達も誘って皆で行きたいね!」
「あ~そうだね。“皆で”行こうね」
と言ったのと同時に線香花火の火が落ちた。
「花火も終わったしそろそろ部屋に戻ろうか」
と言って立ち上がった。
それから、花火を終えてすぐに近くの温泉に行って部屋に戻った。