高校生になって初めての夏休み! そして、プールデート
今日は終業式があった。式が終わった後も部活で残ってる人もたくさんいる。私達は生徒会室に集まっていた。
「俊、誕生日おめでとう。皆からのプレゼントだよ」
と言って紙袋を渡した。
「マジで!?開けていい?」
と言って紙袋を開いた。
「この間キャップをダメにしたって言ってたから私と真白兄が選んだんだよ。4人でお金出し合って買ったんだよ」
「マジすか!アザっす!」
と言った。
「被ってみれば?」
と真白兄が言った。
「そうっすね。あと、よかったら写真撮りませんか?記念に」
「そうだね。咲久も悠陽も佐々木さんもいい?」
「うん!」
「はい」
「ああ」
それぞれ頷いて写真を1枚撮った。
「てか、俊、今日は部活無いんだね」
「ああ。まあな。インハイ負けたから先輩達も引退したし水曜日だからな。」
俊はバスケ部に入っていて同じくラスでチームメイトである五十嵐とはとても仲が良い。
「咲久には言ったんだけど、親睦も兼ねてうちの別荘に泊まりにこない?」
と真白兄がきいた。
「別荘?!会長って金持ちだったんですか!?」
と俊がきいた。
「そうかな?」
と真白兄が言った。
「普通、別荘とかないと思いますよ」
と伊織も言った。
「真白兄のお父さんとお母さんは外科医だからね。それにお祖父さんが仁科総合病院の医院長だから」
と私が言うと2人は驚いた顔をしていた。
「副会長は知ってたんですか?」
と伊織が訊くと頷いた。
「一度、真白の家に遊びに行ったことがあったから知っていたけど最初は驚いた」
「そうだったんですか。全く驚かないのでてっきり副会長もそちら側の人なのかと思いました」
「そちら側って。僕の両親は普通に会社員とデザイナーだよ。」
「デザイナー!カッコいいですね!うちのお母さんもインテアデザイナーなんですよ!」
と言うと副会長は眼鏡をかけ直した。
「奇遇だな。」
「ですね。まあ、うちのお母さんは家具のデザイン専門って感じですけど」
「てか、俺ら何話してたっけ?」
と俊がきいた。
「会長の家の別荘に泊まりに来ないかってこと」
と伊織が言った。
「ああ~。そういえば。俺!行きます!部活がない日なら!」
「私も。7月末はお祖母ちゃんの家に行くので空いてないですけど8月なら大丈夫です」
「僕も8月なら空いているから大丈夫だ」
「分かった。それともう一つ。よかったら友達連れてきてもいいよ。あ、でも部屋には限りがあるから5人までね」
「じゃあ私、千花誘ってもいい?」
「俺は亮太誘う」
と俊と言った。
「私は千花と咲久以外に友達いないから誘える人いない」
と伊織が言った。
「じゃあ、侑李とトモも誘うから友達になればいいじゃん」
「友達になれるかな」
「うん!2人とも話しやすいし優しいもん」
と言うと伊織は嬉しいのか照れたの分からないけど笑って頷いた。
「あと一人枠があるけど誰誘う?」
と俊が訊いた。
「私達ばっかり友達誘ってるし真白兄か、副会長の友達を誘ったらどうですか?」
「そうだな。だったら薫を誘っておく」
「薫さんって副会長の彼女っすか?」
と俊が訊いた。
「僕に恋人などいない。それに薫は男だ」
「なんだ~」
と俊が隣で頬を膨らませていた。
「じゃあ来週ぐらいには来れそうなら連絡してくれる?」
と真白兄が言った。
皆、頷いてそれぞれ帰った。
それから、1週間後の水曜日。今日は真白兄とプールに行く。
私はデートのつもりだった…のになぜか蒼空と紫輝がいる。
「紫輝、帰って着てたんだ」
「うん!一昨日帰国したんだけどプールに行くってきいて僕も行きたいって思って。咲久、迷惑だった?」
「ううん。久しぶりに会えて嬉しいよ」
「良かった~!」
と紫輝が言うと真白兄と紫輝が隣に視線を移した。
「蒼空もプール行きたくなったの?」
「そういう訳じゃないけどプール行くって言ってたから息抜きにもいいかと思って」
「プールで咲久がナンパされないように来たんだね。ホントに優しいね蒼空は」
と真白兄が言った。
「そうなの!?」
と訊くと蒼空は顔を背けた。
「別に。ただ変な奴に絡まれて楽しめなかったら可哀想だなって思っただけ」
「そっか。ありがとう、蒼空」
「…どう、いたしまして」
と呟いた。
「じゃあ、そろそろ行かないと電車に間に合わないから行こうか」
と真白兄が言った。
プールは電車で40分程の距離にある。
「おお!着いた!」
と紫輝が看板を見上げて言った。
「俺達はこっちだから着替え終わったら待ってて」
と真白兄が言った。
ちなみに、水着は去年買ったものでライトグリーンのスカートタイプのハイネックホルダーだ。
着替えが終わってプールに出ると真白兄達がいなかった。
「ねえ、君」
と見知らぬ2人組の金髪の男子が話し掛けてきた。
「何ですか?」
「なんて言う名前なの?」
「…それ、言わないといけませんか?」
「言わなくてもいいよ~。でも、そのかわりに一緒に遊んでくれる?」
「私、人待ってるんですけど」
「そうなんだ~。じゃあさ、その子達も一緒に遊ぼうよ」
と言って肩を組に腕をまわそうとした。すると、後からきた蒼空がその人の腕を掴んで、真白兄が私の肩を抱いて引き寄せた。紫輝は笑顔で
「僕達も一緒に遊んでいいんですか?」
と言うとその人は走って去っていった。
「大丈夫か!?」
と蒼空が心配そうに訊いた。私は笑って
「大丈夫だよ」
と言うとホッとした顔をした。紫輝も
「咲久は美人だから話し掛けたくなったんだよ。気にしないで」
と言ってくれた。
「咲久、遅くなってごめんね。更衣室が結構混んでて。」
と真白兄が悲しそうな顔をした。
「なんで真白兄がそんな顔するの?皆が守ってくれたから大丈夫だし去年まで合気道やってたから危なかったら技かければいいからそんなに気にしないで」
「そう、だね。咲久も莉久ちゃんも道場じゃ強かったからね。」
と言って真白兄は顔を背けた。
「気晴らしにウォータースライダー滑ろ~」
と紫輝が言った。
「そうだね。でも、4人乗りか2人乗りだけだよ」
と言うと
「じゃあ、僕と乗ろうよ!」
と紫輝が言った。
「うん。いいよ」
と言うと紫輝は手を引いて列に走った。
「次の方どうぞ~」
と言われて浮き輪に乗った。
そして、ウォータースライダーを滑り降りた。
「楽しかった~」
「ね~」
と言っていると後ろから真白兄と蒼空が歩いてきた。
「そういえば、この間言ってたイベントって何時からなの?」
「2時からだからあと1時間はあるね。」
「じゃあ僕は25mプール行ってきてもいい?」
「いいよ。でも、あんまり本気で泳いだら迷惑になるだろうし気を付けてね」
「うん!蒼空、行こ!」
と言って走っていった。
「そういえば紫輝っていつ帰っちゃうの?」
「4日後だって。練習で忙しいみたいで。」
「でもオーストラリアは今は冬でしょ?」
「室内のプールで練習してるからほぼ毎日あるらしい」
「そうなんだ。すごいな、紫輝は。私はまだ将来の夢とかないや。真白兄は?」
「…俺もまだ考えたことないよ。ってせっかく遊びに来てるんだし次はどこ行く?」
「一番人気のウォータースライダー行こ!」
と言って列に並んだ。
「楽しかった~」
「待ち時間長くてそろそろイベントの時間になっちゃった」
と真白兄が時計を見て言った。
「どうする?紫輝と蒼空も呼びに行く?」
「一応呼びに行こうか」
と言って25mプールに向かった。ちょうど蒼空がプールからあがるところだった。
「蒼空!私達、そろそろイベントに行くけど蒼空と紫輝はまだここで泳いでる?」
「いや、俺は疲れたから休憩したい。」
「僕は全然疲れてないけど咲久と兄ちゃんのイベントどんなのか見てみたいからついていく」
「じゃあ俺も」
「そういえばイベントって何するの?」
と私が訊くと蒼空が
「知らないで出るつもりだったのかよ」
と言った。
「まあね。」
「水鉄砲を使ったサバイバルゲームだよ」
と真白兄が教えてくれた。そして、広場に着くとスタッフの人からTシャツと水鉄砲を渡された。
私は少し緊張しながら周りを見渡すとあることに気付いた。
「なんか、カップル多いね」
「あれ?言ってなかったっけ?このイベントってカップル限定のイベントなんだよ。」
「え!私達付き合ってないのにいいの?」
「そうだね。だから、今からは付き合ってるフリをしてくれる?」
「幼馴染みで付き合ってるフリとか恥ずい、」
「じゃあやっぱり参加やめる?」
「…やめない。恥ずかしいけどずっと楽しみにしてたし」
「ごめんね、俺が言い忘れてたせいで」
「ううん。その代わり絶対に優勝しようね」
「うん」
『お集まりの皆さん。これよりウォーターサバイバルを始めます。ルールを3つ説明します。まず、1つ目。皆さんにお配りしたTシャツは濡れると色が変化します。どちらかのTシャツが少しでも濡れてしまったら即失格です。2つ目は他の人に危害を加えるのは禁止です。行って良いのは水鉄砲でTシャツの色を変えることのみです。3つ目は、カップルは恋人繋ぎで手を繋ぎ、離した瞬間失格です。範囲はこの広場のなかならどこに隠れようがOKです。この3つのルールを守って楽しんでください。』
「咲久、手を繋いでもいい?」
「あ、うん。」
どうしよう。指の先までドキドキしてる。真白兄に気付かれないかな。と思って顔を見上げると真白兄はいつもより顔が赤い気がした。
「真白兄、顔赤いけど大丈夫?もしかして熱中症?」
「ううん。熱中症じゃないから大丈夫だよ」
「そう?だったらいいけど」
『準備はいいですね?それではウォーターサバイバル スタート!』
その合図と同時に一斉に水鉄砲を撃った。次々と脱落していき残り3分をきった。
「人が減ってきたから狙われるね」
「そうだね。うわぁ!」
逃げ回っているとつまずきそうになった。
「おっと。危なかったね。」
と言って手を繋いだまま抱きしめるように支えてくれた。
「このまま、全員倒す」
と言って手を繋いでいない方の腕で抱きしめるようにして残っていたカップルに水鉄砲を当てた。
『終了~!1分残して優勝したカップルに拍手を!』
「あの、真白兄。そろそろ手を離してもいいんじゃない?」
ゲームが終わったら真白兄は私を抱え込んでいた腕はおろしたけど手はずっと繋いだままだった。
「すぐに手を離したらフリだって思われるかもしれないよ?」
「そうかな?」
「うん」
「でも、手汗すごいし、それに真白兄暑そうだから離した方が少し涼しくなるよ」
すると真白兄がポツリと呟いた。
『…鈍感だなぁ。そういうところも含めて可愛いけど』
「?どうしたの?」
「なんでもないよ。気を遣ってくれてありがとう」
と言って真白兄は笑った。
イベントも終わったので3時前にはプールを出て電車に乗った。
「蒼空も紫輝もぐっすり眠ってるね」
「あれだけ泳いだら疲れるからね。蒼空は大分ストレス発散になっただろうし紫輝も蒼空と咲久と遊べて嬉しそうだったから連れてきて良かったね」
「うん。私も楽しかった」
「サバイバルゲームのとき転びそうになったからって抱きしめるみたいになってごめんね」
「ううん。真白兄まで巻き込んで転けなくて良かった。それに、そのあと真白兄が他の人達を瞬殺してたのかっこ良かったよ」
「…ありがとう」
「私も2人を見てたら眠たくなってきた」
「寝ててもいいよ。駅着く前に起こすから」
「ありがとう、真白兄。じゃあお言葉に甘えて」
と言ってぐっすりと眠ってしまった。
目が覚めると真白兄の肩に頭を寄りかけていた。
「ご、ごめん。重かったよね」
「大丈夫だからもう少し寄りかかっててくれない?」
と真白兄が言った。
「?…うん」
私は、目を開けると真白兄と目が合いそうだったのでゆっくり目を閉じた。
次に目を開けたのは駅の名前が聞こえたときだった。蒼空と紫輝はまだぐっすり眠っていたので私と真白兄で起こした。
駅から家まで歩いて帰った。
「またね~」
と言って紫輝と真白兄が手を振った。私と蒼空も手を振り返してそれぞれ家に帰った。
帰ってリビングでテレビを見ていた。莉久がお風呂に行くと、蒼空がテレビを見ながら話しだした。
「今日の帰りさ、俺、途中で起きたんだ。」
「そうなんだ~。…そこからずっと起きてたの?」
「いや、途中から寝たけど」
「へ~。それで?」
「姉貴、途中で寝ただろ?」
「うん」
「…姉貴を見てた奴が何人かいたんだ。」
「え!いびきかいてたりしてた?」
「そういう訳じゃないけど。それで、そいつらが近くに来たから牽制するために真白が姉貴の頭を肩に寄りかけてそいつらを祓ってくれてたってだけ」
「じゃあ、もしかして『寄りかかってて』って言ってたのはその人達がまだいたってこと?」
「いや、それは多分違う奴らがいたからだと思う」
「全然気付かなかった。どうして教えてくれたの?」
「自分のこと見てる奴がいたって言われるのは嫌だと思ったけど真白が変なこと言って戸惑ってそうだったから。そいつらのせいで気まずくなったりしないかなって思って…」
「ありがとう、蒼空。話しづらいこと話させて。」
「別に。」
と言って蒼空は部屋に行ってしまった。
私は部屋に戻って真白兄に電話をかけた。
「もしもし、真白兄ちょっといい?」
『いいよ。どうしたの?』
「あの、蒼空からきいたんだけど…」
とさっききいた話を真白兄に言った。
『蒼空、起きてたんだ。』
「そうらしい。それで、お礼言いたくて」
『お礼なんていいよ。俺がしたくてしたことだし』
「でも、私、守ってもらってばっかだし」
『…そいつらさ、咲久のこと見てなんて言ったと思う?』
「分かんない。なんて言ったの?」
『“男ばっかり連れてるから俺も遊んでくれるかな”ってあいつら言ってたんだよ。だから、俺が咲久の彼氏のフリっていうか咲久は俺だけみたいに見せつけて黙らせた。半分は』
「じゃあ、もう半分は?」
『ムカついた。咲久のことを何もしらないくせに顔が可愛いからって遊び相手になってほしいって言ってたのをきいて本気でキレそうになった。』
「真白兄がキレてるところとか想像できない」
『今も思い出してキレそうになった』
「普段怒らない真白兄が私が悪く言われただけで怒ってくれて嬉しい」
『“だけ”じゃないよ。咲久を悪く言われるのは許せない』
「あ、ありがとう」
『それに、普段怒らないんじゃなくて怒ってるところを咲久に見られて怖いって思われたくないだけだよ』
「そんなの思わないよ。私はもっと真白兄が感情を出してるところ見てみたい」
『…感情を出してるところか。うん。これからは咲久の前でも感情を出すようにする。そうじゃないと俺は“優しいだけのお兄ちゃん”のままだろうし』
「?うん…?」
『そういえば、再来週のことだけどお祖父ちゃんが車と運転手を手配してくれたから集合場所を家にして欲しいんだけど生徒会メンバーと薫以外の人には咲久から連絡してくれる?』
「うん!任せて!」
『じゃあおやすみ、咲久』
「うん。真白兄もおやすみ」
と言って私はベッドに飛び込んだ。