結婚式
今年で真白と付き合って10年目だ。私は26歳になった。そして、莉久は約半年前、第一子である叶斗くんを産んだ。
「咲久。今日、行きたいところがあるんだけどいいかな?」
「うん。白斗、お出かけだって。楽しみだね」
そう言うと白斗はニカッと笑った。
「可愛い」
「うん。2人とも天使」
真白はそう言って写真を撮った。
「もう、また写真。しかもいつもプリントしてアルバムにしてるけどもう少し枚数減らしたら?」
「無理。仕事柄、忙しくてあんまり遠出とかできてないんだから写真でたくさん思い出を残しておきたい」
「まあ、そうだね。ところでお出かけってどこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ。」
それから少し山奥にあるチャペル着いた。
「今日って誰かの結婚式だっけ?」
「うん。ここのチャペルスタジオを借りてするんだよ。早く中に入ろう」
真白はそう言って白斗を抱っこして手招きをした。
中に入ると私は千花と葵と莉久に連れられてドレスの飾ってある部屋に入った。
「え、何ここ」
「咲久、これ着て」
「マーメイドラインのウエディングドレス。しかも私が着てみたかったスリット入りでレースが着いてるやつじゃん。え、なんで?」
「2年前、言ったでしょ?咲久姉に結婚式をプレゼントするって」
葵が笑って言った。
「あれ、冗談だと思ってた。ありがとう」
涙で視界が歪んだ。
それから、ドレスを着て、七菜波ちゃんにヘアセットをしてもらって入り口に立った。
「お父さん、涙ヤバいよ」
「咲久の結婚を見届けたのにこうして一緒にバージンロードを歩けるなんて思いもしなかったから」
「私も。お父さん、これまで育ててくれてありがとう。私、白斗のお母さんになって分かったの。お父さんは仕事が忙しくてもちゃんと私達を思ってくれてたんだなって。昔は寂しくて泣いたりしてたけど今は心から尊敬してるよ」
そう言ってお父さんの腕に抱きついて笑うとお父さんはさらに泣き出した。
「式の前に泣かすなよ」
「えへへっ。お父さん、私ね、お父さんとお母さんみたいな夫婦を目指してるから。だから、見ててね」
「ああ」
そして、音楽と同時にドアが開いてチャペルの中に入った。
バージンロードを歩いて真白の隣に並んだ。
チャペル内を見渡すとたくさんの飾りがあった。私と真白の思い出の場所の写真も。
「誓いの言葉」
司会の伊織が言うとゆずちゃんが前に来た。
「仁科真白、あなたは仁科咲久とどんな苦難も共に歩み、幸せを分かち合い、生涯愛し続けることを誓いますか?」
「誓います」
「仁科咲久。あなたは仁科真白とどんな苦難も共に歩み、幸せを分かち合い、生涯愛し続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「それでは誓いのキスを」
真白はベールを挙げて優しく唇を重ねた。
「咲久、愛してるよ」
「私も。愛してるよ、真白」
そう言うと真白はもう一度キスをした。
それから皆で写真撮影をしてその後はそれぞれ友達とお喋りをした。
「ママ~」
「うん。おいで、白斗」
私はお母さんから白斗を受け取った。
「可愛い~!」
千花が白斗を覗き込んで言った。
「でしょ。でもね、真白が親バカすぎてすぐに新しいおもちゃを買ってくるからもう前のおもちゃとかは莉久の息子に譲ってるの。写真も撮ってはプリントしてアルバムだらけだよ」
「これだけ可愛いと納得だよ」
侑李もそう言って笑った。
「白斗、大人気ね。」
そう言って白斗は小さい歯を見せて笑った。笑った顔はホントに真白そっくりだな。
「咲久先輩!お久しぶりです!ドレス、すごく似合ってます!美しい」
歩は走ってこっちにやってきた。
「ありがとう」
「とくにスリットから見えるスラッと長い脚はきれいすぎて直視できそうにないです」
大和先輩と結婚して妊娠しても相変わらずだな、歩は。というか走ったりするから大和先輩がすごく心配そうにしてるんだけど。
「咲久、アップするようの写真も撮ろう」
「いいよ」
ちなみに白斗の写った写真は顔を出さずに後ろ姿やスタンプなどで顔を隠している。
「咲久、ちょっと失礼」
真白は白斗をお母さんに預けてそう言って私を抱き上げた。
「久しぶりかも」
「咲久、痩せた?ご飯食べてる?」
「食べてるよ。スイーツも。それに前、お姫様抱っこをしてたときは妊娠してたから。」
「いやいや、咲久が寝落ちしたときはいつも運んでたから最近もしたよ。」
「このドレスが軽いんじゃない?それと恥ずかしいから早く下ろして」
「待って。」
真白はそう言うと私にキスをした。
「葉山さん、撮れた?」
「はい!バッチリ!」
またやられた!しかも大勢の前で。てか、千花もなに楽しそうに協力してんのよ。
その後、蒼空達のお店に移動した。
皆それぞれで話していた。
「白斗のお洋服カッコいいね」
「白斗が自分で指差して選んだやつなんだよ」
「真白に似てセンスいいね!」
そう言うと白斗は笑った。言葉の意味を理解してるのかと思うくらい自然に。
「ねえ、真白。このドレス、着たままでいいの?」
「うん。莉久ちゃんの友達が作ってくれたんだって。なんでも咲久の大ファンとかで」
「そうなんだ。すごい私好み。どう、似合ってる?」
「うん!咲久以上に着こなせる人はいないよ。世界一きれい。」
「ありがとう。真白もタキシードカッコいいよ。」
「玲音より?」
「同じぐらい」
「え、」
「うそうそ。玲音くんよりも断然カッコいい!」
「ありがとう」
真白は嬉しそうに笑った。
「咲久も真白もホントラブラブだな。」
「直哉だって芹香さんにデレデレなくせに」
「まあな」
直哉がそう言うと隣で立っていた芹香さんは嬉しそうに笑った。
「芹ちゃん、直哉くん。こんにちは」
「こんにちは。伊織と咲久は同じ高校だったんだっけ?」
「そうだけど。直哉って伊織と関わりあったんだ」
「同じ大学で。そもそも芹香を紹介してくれたのが伊織だし、それに芹香の妹だし」
「え!」
そういえば2つ年上の姉がいるって言ってたなぁ。
「咲久ちゃん!真白!久しぶり!」
花村さんがそう言って手を振ってきた。
「登場からうるさい」
真白はそう言って耳を塞いだ。
「ひどっ!なあ、白斗くんのパパひどいね」
「そんなことないよな~、白斗」
そう言って真白が手を広げると白斗は真白に抱きついた。
「ほらな。どうせお前は合コン感覚で来てるんだろうけどここにいるのはほとんど彼氏持ちだぞ」
「え!うそ!通りで。じゃ、またな!」
花村さんはそう言って走っていった。
「瑠衣さん!薫先輩!お久しぶりです!」
私が大きく手を振ると2人も手を振って駆け寄った。
「咲久ちゃんきれい!スリット入りなんて咲久ちゃんにピッタリだね。」
「ありがとう、瑠衣さん」
「ホントホント。咲久ちゃんきれいだよ。」
「薫先輩、ありがとうございます」
「真白もタキシード似合ってんぞ」
「知ってる」
「うわぁ、こいつ俺が言う前に咲久ちゃんに言われて浮かれてるんだな。」
薫さんがそう言うとなぜか真白は白斗と一緒になってどや顔をしていた。(白斗はどや顔と言ってあってるかは分からないけど)
「末永くお幸せに」
そう言うと薫先輩と瑠衣さんは歩いて行ってしまった。
「咲久、真白、久しぶり」
「久しぶり~、蓮」
「咲久、すごくきれいだった。私が男だったらあれやる。結婚式に花嫁を奪いにくるのをしてるところだった。」
「楽しそう。逆に蓮の結婚式に奪いに行こうかな」
私がそう言うと真白と真人は慌てて止めた。
「いやいや、それはダメだろ。」
「白斗と俺が寂しくて死んだらどうするの?」
息ピッタリだな。
「冗談だよ。蓮の彼氏もうちの夫も全く冗談が通じないね」
「そうだね」
蓮はそう言って苦笑した。そして、2人は他の友達の元に行った。
「真白、なんでそんなに満足気なの?」
「うちの夫って響きがいいなって。」
「うん。なんとなく分かってた。家の電話で仁科ですって出るだけで喜んで初めはずっと家に掛けてきてたもんね」
「まあね」
それからお料理とケーキを食べて真白は用事があるそうなので翔が家まで送ってくれることになったのでチャイルドシートを移動させた。
白斗をチャイルドシートに座らせながら言った。
翔とこうして話していると、3年前のこと思い出すな。
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翔がまだ高校3年生の秋頃、恋バナをしたことがあった。。
「そういえばさ。翔、告白しないの?莉久に」
「え!なんで!?」
「え、もしかして告白したの!?」
「いや、してないしてない!そうじゃなくてなんで俺が莉久姉を好きって知ってるんだ?」
「小学校の高学年ぐらいから好きなんだろうなって思ってた」
「めっちゃ最初からバレてんじゃん」
「まあね。でも、告白しなくて良かったの?」
「うん。莉久姉にとって俺は弟同然だし、今ある幸せを壊したくないんだ」
「優しいね」
「そんなわけじゃ。ただ嫌われるのが怖いだけだよ。でも、いつか莉久姉のことが好きだったよって伝えたい」
「うん。翔らしいね」
「だろ?」
翔は振り向いてとびきりの笑顔を見せた。ホント、どれだけ抱え込んでたんだろう。こんな笑顔を見たのは十数年ぶりだよ。葵達とは笑った顔は似てないなって思ってたけどやっぱり似てるな。
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「そういえばさ、翔ってもう莉久に告白したの?」
「したよ。去年。莉久姉、めっちゃ驚いてた」
翔はニッと笑った。ちなみに、今翔にはラブラブの彼女がいる。
それから、家に着いて白斗を抱き上げた。翔はチャイルドシートを運んでくれた。
「ありがとな、咲久姉。なんかちょっとスッキリした」
「良かった」
そう言うと翔は手を振って帰っていった。
それにしても今日は暑いな。ドレスだし着替えよ。
しばらくして真白が帰ってきた。
「お帰り、真白。ご飯できてるよ。それとも今日は暑かったし先にシャワー浴びる?」
「咲久は選択肢に入ってないんだね」
真白はそう言って顔を近づけた。
「入ってないよ。」
「へ~、そんな紛らわしい格好しときながら?」
「え、」
「それさ、パッと見、裸エプロンに見えるんだけど。」
「え、あ~、言われてみれば。」
キャミソールのトップスにショートパンツなのでエプロンを着けると服が隠れてしまう。
「いや、でも。裸エプロンなんてしてるわけないじゃん」
「じゃあ今から脱がせてあげようか?」
「無理。宅配便とかきたらどうするの?」
「俺が取りに行く。ダメ?」
「今でも裸に見えるなら一緒じゃん。」
「それが違うんだよな。実際に裸だと俺が嬉しい」
「じゃあ嬉しくなくていいから早く手を洗ってリビングにいて」
私は洗面所まで真白の背中を押して連れていった。
それからリビングに行ってお皿を準備した。
「あ、咲久」
そう言って真白が私の服の紐を引っ張った。その途端、紐がほどけた。
「ちょっと、」
「待って待って!紐の所に糸くずが着いてたから。マジだから」
「まあ、それならいいけど。かわりに結んで」
「うん」
真白の声色は少し悲しげだった。
「真白、お帰り」
私は背伸びをして真白にキスをした。
「今日の夕ごはんはね、夏野菜たっぷりのカレーだよ。さすがに蒼空の料理には負けちゃうけど味見してみたら結構美味しかったから早く食べよ」
「咲久!愛してる!」
真白はそう言って私を抱きしめた。
「ありがと。」
そう言って抱き返した。
それからカレーをテーブルに並べた。
「白斗、起こさなくていいの?」
「うん。白斗は赤ちゃん用のカレーを食べてお風呂に入って今はぐっすり」
「お風呂も入ったんだ。俺、もう少し早く帰れば良かったね」
「片付けとかしてたんでしょ?あの飾り手作りっぽかったし」
「うん。咲久、いつも白斗のお迎えとか連絡帳とか書いてくれてるのに俺はあんまりできてないから少しは咲久のしたいことをしようと思って葵ちゃんに相談したら結婚式って言われて。やっぱり出来なかったの嫌だった?」
「ううん。結婚してすぐに白斗の妊娠が分かったしどっちにしろすぐには出来なかっただろうから。それに今日の式で皆頑張ってくれたんだろうなって実感して嬉しかった」
「そっか。」
「うん。ほら、冷めないうちに早く食べよ」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
やっぱり夏野菜のカレーは美味しいなあ。まあ、もう9月なんだけど。
「どう?」
「めっちゃ美味しい!最高!」
「良かった。デザートにアイスもあるからお風呂あがったら白斗にバレないように食べようね」
「そうだね」
それからお風呂に入って、アイスを食べて3人で寝た。
翌朝、お弁当を2つ作って朝ごはんの準備をした。
「おはよう。咲久」
「おはよう、真白、白斗」
「ママ!」
「おはよう~!白斗、パパと顔洗っておいで」
「パパ、かお」
「そうだね。洗いに行こうね」
そう言って2人は洗面所に行った。
その間に白斗の保育園の準備をした。
それから、皆で朝ごはんを食べて真白は私達より少し早めに家を出るので準備をして玄関まで見送った。
「咲久、白斗。行ってきます」
真白はそう言って私と白斗の額にキスをした。さりげなく私には唇にキスするんだ。
「行ってらっしゃ~い」
それから1時間後、私も仕事の準備をして白斗を保育園まで送った。
「仁科さん、おはようございます」
「あ、桃先生。おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「はい」
「白斗、行ってきます」
私は手を振って会社に向かった。
仕事も一段落してお昼休憩になった。
「咲久ちゃん、白斗くんで癒させて」
「優子先輩!どうぞ」
「ありがと~」
いつも優子先輩は癒しのためと白斗の写真を見ている。
「これで後半日頑張れる」
「良かったです」
「あ、咲久ちゃん、電話きてるよ」
「ホントだ。もしもし」
『咲久、お弁当開けてみて』
「え、うん。……お米しかない」
『俺、おかずだけ』
「ごめん、間違えた。おにぎりか何か買って食べて」
『咲久はおかずなくても大丈夫?』
「うん。ふりかけあるし。やっぱり私に2段弁当はダメだね。これからは1段のやつだけにするね」
『そんなに気にしなくていいよ。俺、咲久のこういうとこ可愛くて好きだから』
「あ、ありがと。じゃあお仕事頑張って」
『咲久も頑張れ』
電話を切って前を向くと優子先輩と花ちゃんがニヤニヤと笑っていた。
「いいな~。うちの彼氏、付き合って2年だからもうそんな甘々な言葉言わないよ」
「そうなの?」
「普通そうよ。咲久の所が特別なのよ。うちの彼氏なんて掃除機掛けてたらゲームの音が聞こえないからやめろとか言うのよ」
「紗奈先輩!お疲れ様です」
「お疲れ。」
「私、普通って分かんないんですよね。そもそも真白が初カレでそのまま結婚したので。映画とかはよく見るので私の基準はそこなんですよね」
「え、咲久。元カレいないの?めっちゃモテてそうなのに」
「いませんよ。高校生になるまで彼氏いたことなかったですし」
「以外。あ、でも幼馴染みなんだっけ?」
「はい。私が告白されたのに真白が断ったりしてたこともあったので当時は謎でした」
私が眉間にシワを寄せて言うと皆笑った。
「咲久って美人なのに憎めないのよね。こういうところとか特に」
「ホントにそうよね。」
「ずっと変わらないでいてね。」
「え、まあ」
「……ってことがあったんだけどどういうことだと思う?」
私は白斗に布団を掛けながら真白に訊いてみた。
「どんな顔で言ったの?」
「こう」
私が眉間にシワを寄せると真白も声を抑えて笑った。
「可愛いままの咲久でいてねって意味だと思うよ」
真白はそう言って私の額にキスをして布団を掛けた。
笑いながら言われてもなあ。