幸せ
咲久と付き合い始めてもう8年が経った。記念日は家でケーキを食べていつも以上に咲久に甘えた。
今日は6時から2時間、liveをする。今日は重大報告がある。
そしてつい最近、莉久ちゃんと湊くんが婚約をした。
「真白、卒業試験中なのにlive大丈夫?私だけでしようか?」
「咲久のサポートのお陰でなんとか。家事とか全部代わってもらっちゃってごめんね」
「いいよ。洗濯は乾燥機だしお皿洗いも食洗機だし掃除機も自動だし私1人でも全然楽なように設備調えてくれたし。それに、分担したら真白が無理して身体を壊しちゃうかもしれないからね」
咲久はそう言って俺の机にコーヒーを置いて部屋を出ていった。
咲久の言った通り今は卒業試験の最中だ。医師の国家試験を受けることができない。
なので、家事は咲久が代わってくれている。
それから7時間後、liveが始まった。
「皆、こんばんは~。こうして真白と一緒にliveなんてもう1年半ぶりだね」
咲久が楽しそうに笑った。
「そうだね。最近は写真の投稿とか俺は声だけとかが多かったからこうしてちゃんと話すのは久しぶり」
俺が笑って言うと咲久が何故かどや顔をした。
「私は毎日会ってるけどね」
そう言って咲久が俺の顔を見上げて笑った。
『可愛いっ!ホント、勉強で疲れてるとさらに癒されるな。』
「ん?いいなぁって?そりゃあもちろん彼女の特権だもん。誰にも譲らないからね」
「咲久と付き合いたいって言ってる人達全員に伝えます。こんなに可愛い彼女と付き合えるのは俺だけだから諦めろ」
咲久の肩に腕をまわして抱きよせると少し恥ずかしそうに咲久が俺を見上げた。
『まあ、咲久と付き合いたいって思うのは当然だな。』
「じゃあ早速質問タイム!まずは真白への質問のコメントから言うね。『咲久ちゃんに治してほしいところはありますか?』だって」
「あんまりないけど強いて言えば、アタックされてるのに気付かないで着いていっちゃったりするのをやめてほしいです。あと、告白してきた奴の告白を告白として受け取らずに褒め言葉として受け取ったり勘違いしないでください。あと、」
「ストップ!私、そんなことしてた?」
「うん。俺が知る限りは10回以上」
「え!そうなの!?じゃあ、これからは気を付ける」
咲久は驚いた顔でそう言った。
「じゃあ次も真白への質問。『咲久ちゃんの一番好きなところはどこですか?』だって」
「やっぱりさりげなく気配りをして相手にできるだけ負担を掛けないようにしてるところかな。じゃあ次は咲久への質問。『真白と別れて俺と付き合わない?』だって」
「え!無理!」
咲久はすぐに答えた。
「即答だね。なんで?」
「え、だって。そもそも真白と別れたくないし。知らない人にそんなこと言われたくないし」
「だって。残念、諦めてね。じゃあ2つ目の質問。『真白くんと玲音くんではどっちが王子さまっぽいですか?』だって。そりゃもちろんね、」
「玲音くん!」
「咲久?」
「だって真白は王子様じゃなくて王様って感じじゃん。」
「なんだ。そう言うことか」
俺はため息を着いてスマホをスクロールした。
「あ、咲久。もう一つ質問。『ファーストキスはどんな感じでしたか?』だって」
「思い出すだけでも恥ずかしい。もう、心臓が破裂しそうなぐらいバクバクで真白の顔をまともに見られなかった」
「俺は逆に咲久以外見えなかった」
「そうなんだ。あ、でもね。ある事実が発覚したの。私のファーストキスって相手は真白なんだけど5歳のときにもうしてたんだって」
「え!そうなの!?」
「うん。というか、真白とおままごとしたときの動画があってその中で何回かしてた。」
「ホントに!?全然覚えてない」
「私も」
そう言って咲久と顔を見合って笑った。
「次はリクエストコーナー。咲久にリクエスト。今流行ってる歌を歌ってだって」
「私に!?私、めっちゃ下手だよ?それでもいいの?」
「尚更聴いてみたいって」
そう言うと咲久は歌い始めた。綺麗な声なんだけど音程がズレちゃうんだよね。まあ、可愛いんだけど。
コメントは『音痴だけど可愛い!』とか『音痴なのがいい!』とか『声は綺麗!』等ときていた。
「だから言ったじゃん!下手だってば。音痴音痴言わないでよ」
そう言って咲久が俺の胸に飛び込んだ。
俺はこっそり皆にグッドサインを送った。するとコメントではどういたしましてとたくさんきていた。
でもそろそろ我慢できなくなりそうなんだけどな。
「咲久、離れなくてもいいけど今離れなかったら嫌な思いをするのは咲久の方だよ」
そう小さい声で咲久の耳元で囁いても咲久は離れなかった。
「真白は私を傷付けたりしないじゃん。だから嫌な思いなんてしないよ」
咲久はそう囁くと俺を抱きしめた。
「liveのこと忘れてない?」
「ホントだ。忘れてた。皆ごめんね~。でもね、仕方ないの。真白を抱きしめると落ち着くんだよ。私以外は無理だけど皆も大切な人を抱きしめてると落ち着くでしょ?最初はドキドキしすぎて落ち着かないんだけどね」
「そう言うわりには一瞬で寝落ちしたりしてるけどね」
「寝てないもん。寝てるフリをしてるだけだから」
「え、じゃあもしかして、この前も起きてたの?ドラマを観てたとき」
「ドラマを観てたときは途中から記憶がないから多分普通に寝てた」
『良かった。』
「じゃあ、次のリクエストは俺にだね」
「うん。『咲久ちゃんが上目遣いをして甘えたら真白くんはどれぐらいキスをするのを耐えれますか?』だって。やってみる?」
「え、無理無理。絶対に耐えられない。」
「じゃあ耐えられたら今日1日、好きなだけキスしていいよ。あ、もちろんliveが終わったらね。で、耐えられなかったら今日はもうダメ。じゃあ皆、真白がギリギリ耐えれなさそうな秒数言って。一番多かったのを参考にするから」
咲久がそう言うとたくさんコメントがきた。
「3秒が一番多いんだけど。さすがにそれは耐えられるでしょ。ってことで10秒」
「え、3秒でも無理そうなのに」
「じゃあ無条件で真白の負けでもいいよ」
「いや、やる」
そう言って咲久の顔を見た。ヤバい、1秒で限界。
「よ~い、スタート!」
咲久はそう言って俺の顔を見上げた。
「真白、大好きだよ。 ギュッってしてもいい? キスして。」
俺は無意識に咲久の顔に顔を近づけていた。
『ヤバッ。今日、キスできなくなるところだった。』
それから、たったの10秒が永遠に感じた。そしてやっとタイマーが鳴った。
「10秒たっ」
咲久の言葉を遮るように俺は咲久にキスをした。
「まし、」
もう一度キスをすると咲久が俺の口を手で押さえた。
「live終わってからならいいけどlive中はあんまりやめてね」
「うん。でも冗談抜きで10秒が永遠に感じた」
「そう?でも大丈夫だったし今度は1分とかやってみる?」
「それは無理。」
「皆頑張れって言ってるよ」
「応援されても無理なものは無理だから」
それから30分ほど話してカメラを切ってliveを繋げたまま、外に出ることにした。
車に乗り込んで咲久にひざ掛けを渡した。
「ありがとう。ところでどこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ。」
それから咲久はファンの子達と話していた。
「真白の実家?なんで?」
「内緒。咲久、アイマスク着けて」
「うん」
咲久がアイマスクを着けたのを確認して俺は咲久を抱き上げた。
そして、家の中に入ってリビングに向かって咲久をおろした。
「咲久、アイマスク外していいよ」
咲久はアイマスクを外すと辺りを見渡した。
俺はスマホのカメラをオンにして壁に固定した。そのとなりには録画用のカメラも。
「咲久、カーテンを開けて」
そう言うと咲久はザァーッとカーテンを開けた。その瞬間、その場に泣き崩れた。
そこには、アルファベットの風船でこう飾られている。
『Please be my family(俺の家族になって)』
俺は咲久の隣に並んで咲久をソファに座らせた。そして、咲久の前に膝まずいてリングケースを開いた。
「小鳥遊咲久さん。いつも支えてくれてありがとう。今は忙しくてたくさん負担を掛けてると思う。でも、こんな今だからこそ言える。俺は、生涯あなたを愛し続けられる。あなたが忙しいときは力になりたい。感謝の気持ちを込めてこれまではなんてことない普通の1日だった今日をあなたと俺の記念日にさせてください。あなたを世界で一番愛しています。俺と、結婚してください」
そう言うと咲久から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……これ、夢?」
「夢じゃないよ。咲久の気持ち、教えてくれる?」
「っ!はいっ!私でよければ!」
俺は咲久の涙を拭いて唇を重ねた。
「咲久がいいんだよ」
そう言ってもう一度キスをした。
それから、ちょうどliveの終わる時間がきた。
「この度、咲久と結婚することになりました」
そう言うとたくさんのコメントがきた。
『理想のプロポーズ』『次は理想のカップルから理想の夫婦だね』『真白くんのプロポーズ感動した!見てて泣ける』
「ありがとう。いやあ、でも緊張した。」
「私。今、世界一幸せ。」
「俺も。幸せすぎてニヤける。じゃあ皆、またね」
そう言ってliveを切った。
すると、咲久が背伸びをして俺にキスをしたと同時にガチャリとドアが開いた。
「師匠、この展開好きなのか?」
俊はそう言ってリビングに入ってきた。
「今回は咲久からのキスだったし。」
「やるわね、咲久ちゃん」
「友里さん!?」
「咲久ちゃんNice!真白の面白い顔見れたよ」
「ゆずちゃんも!?」
「咲久~!婚約おめでとう!」
葉山さんが走ってきて咲久に抱きついた。
「千花!ありがとう。千花も真白に協力してくれたの?」
葉山さんが頷くと俺は付け足した。
「結構大勢がね。この後、お祝いパーティーもするから。紫輝とソフィアもいるし葵ちゃん、翔、颯もいるし、莉久ちゃんと湊くんもいるし蒼空ももう来るし。それに、海斗さんと美久さんもくるよ」
「え!お父さんとお母さんも!?」
「うん。すでに了承を得たから。」
「早っ!でも確かに、この部屋全部の飾り付けは10人ぐらいいないと大変だね」
咲久は頷きながら言った。
「サク!マシロ!congratulations on your engagement!(婚約おめでとう)」
ソフィアが俺と咲久に抱きついて言った。
「Thanks」
咲久はそう言って嬉しそうに笑った。
「咲久姉!真白兄!おめでとう!」
「ありがとう。翔」
* * *
それからたくさんの人達に祝われてパーティーを終えて今日は真白の実家に泊めさせてもらった。
「おはよう、真白」
「おはよう。今何時?」
「8:32。私はもう着替えたから友里さんの手伝いしてくるね」
「そんなに気を遣わなくてもいいのに」
「友里さんとお喋りするだけだから全然気を遣ったりしないよ」
私はリビングに降りると友里さんと幸一さんとゆずちゃんと亮介くんと海里くんと愛理ちゃんがいた。
「咲久お姉ちゃん!おはよ~!」
「おはよう!愛理ちゃん。朝来たの?」
「うん!パパがさぷらいずでケーキを持っていったらよろこぶって言ってたから」
「ケーキ!」
「愛理、サプライズって言うのは内緒にする事だよ。だから咲久ちゃんに言ったらサプライズじゃなくなっちゃうよ」
「そうなの?咲久お姉ちゃん、しーだよ。」
愛理ちゃんは人差し指を口に当てた。
「じゃあ真白には内緒にしておくね」
私は愛理ちゃんの真似をして微笑むと愛理ちゃんも笑顔で頷いた。
すると、後ろから足音が聞こえた。
「愛理、何がしーなの?」
「ナイショ!咲久お姉ちゃんとやくそくした!」
愛理ちゃんがそう言うと真白は水を飲みにキッチンに向かった。
「咲久お姉ちゃん、あいり、ナイショできたよ」
愛理ちゃんは小さい声でそう言って顔を上げた。
「愛理ちゃん、偉いね。真白、喜んでくれると思うからもう少しナイショにしようね」
愛理ちゃんの頭を撫でると愛理ちゃんは私の足に抱きついた。
「愛理、パパが抱っこしてあげるよ」
亮介くんが手を広げると亮介くんを通りすぎて幸一さんの方に行った。
「じいじ~!抱っこして!」
「いいぞ。」
嬉しそうな幸一さんと対照的に落ち込んでいる亮介くんはゆずちゃんに励まされていた。
それから朝食をとってゆずちゃんがケーキの準備をしてくれた。
海里くんと愛理ちゃんがせーのと声を合わせてお祝いしてくれた。
「「咲久(お姉ちゃん)、真白(お兄ちゃん)、こんやくおめでとう!」」
「「ありがとう(!)」」
「咲久ちゃんはどれがいい?」
「私はやっぱりイチゴタルト」
「だと思った」
そう言ってゆずちゃんがイチゴタルトの乗ったお皿を渡してくれた。
その後は皆でケーキを食べて私と真白は役場に婚姻届をもらいに行って友里さん達やお母さん達にも記入してもらって翌朝、婚姻届を出しに行った。
それから2週間。最近、体調を崩していて仕事も休むほどだ。
「真白、インフルとかだったら移すと悪いからしばらく実家に帰るね」
「咲久、今、体がダルくて熱っぽくてふらふらしたり眠くなったりするんだよね?」
「うん」
「生理、遅れてる?」
「うん」
「もしかして……」
それから検査薬を試してみると妊娠が分かった。
「真白!私、妊娠した!これからは真白パパだね!」
そう言って真白の顔を見上げると真白は嬉しそうに笑いながら泣いた。
「咲久!ホントに幸せ!俺、いい父親になれるかな?」
「真白なら大丈夫だよ」
「俺、明日からも卒業試験頑張る。合格する!でも、それまでは実家に戻ろう。咲久はまず病院に行かないと。」
「そうだね。」
それから、3日後。私は実家に戻ろうかと思ったけどお母さん達は仕事で忙しいのでお祖母ちゃんの家にしばらく泊まることになった。真白も友里さんと幸一さんはほとんど家にいないのでお祖母ちゃんが空いている部屋に泊めると言ってくれた。
「今日はゆずちゃんと病院に行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
私は仁科総合病院に着いて産婦人科に行った。
担当の先生はゆずちゃんの叔母(真白と紫輝の叔母にも当たる人)でとても親切な人だった。
「妊娠4週間ね。おめでとう、仁科さん」
「咲久でいいですよ。真白の妻なので義理の姪ですし」
「あら、真白の奥さんなの?結婚したのは聴いたけど。柚希、大事なことは言いなさいよ。」
「驚くかなって。ねえ、咲久ちゃん。真也ちゃんね、こうみえて43歳なんだよ。」
「え!ホントですか!?30代ぐらいかと思いました。お母さんと2歳しか変わらないなんて」
そう言うとゆずちゃんが笑った。
「美久さんも若見えだけどね~」
そう言っていいな~と笑っていた。
それから、家に戻って学校から帰ってきた真白にエコー写真を見せると抱きしめられた。
「4週目だって」
「男の子でも女の子でも絶対に可愛いね」
「エコー写真で分かるの?」
「うん。もうめちゃくちゃわかる。すでに可愛い」
真白がそう言うとお祖父ちゃんも頷いた。
「お祖父ちゃんまで。2人とも絶対に甘やかす未来しか見えない」
私がそう言うとお祖母ちゃんもそうねと笑った。
「卒業試験、今日で全部終わったから後は結果だけ。合格したらすぐに教える」
「ありがとう」
「後は国家試験か。ちゃんと勉強はするけどさ、1ついい?」
「なに?」
「今年が2人で過ごせる最後のクリスマスじゃん?まあ、もっと大人になったらまた2人で過ごせるかもしれないけど」
「今年は2人でいたいね。」
「うん。あ、もちろんいつものクリスマスパーティーは参加するよ」
真白はそう言ってまた、私を抱きしめた。
それから、12月に入って真白が卒業試験に合格して、お祖母ちゃん達と一緒にお祝いした。
「お祖母ちゃん、泊めてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「咲久、真白、もう少し泊まって行かないのか?」
お祖父ちゃんが少し寂しそうに言った。
「お正月はお母さんとお父さんも仕事がないから実家に泊まるから。でも、真白の国試が近づいてきたらまた泊まらせてもらうかも」
「そうか。大歓迎だ」
そうして、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと別れた。
それから、荷物をそのまま実家に置いて真白とデートに出掛けた。
「そういえば、まだ決めてなかったね。どこ行く?」
「イルミネーション!」
「咲久、寒いの苦手じゃん。」
「大丈夫だよ。マフラーあるし」
「身体冷やしたらダメでしょ」
「じゃあ映画」
「それならいいよ」
そう言って真白は車を進めた。
それから、ショッピングモールに着いて映画を観た。
途中、私は真白の肩にもたれ掛かって寝てしまっていた。
「咲久、映画終わったよ」
「ありがとう。」
私は寝起きのせいか足がふらついた。
「おっと、セーフ。大丈夫?怪我とかしてない?」
「うん。大丈夫。ありがとう」
「うん」
真白ホッとしたように笑った。
シアターから出て、真白に飲み物を買いに行ってもらった。
「お姉さん、クリスマスなのに1人?俺らと遊ばねえ?」
顔をあげると変な髪型をした男性3人が目の前に立っていた。
「すみません、無理です」
「いいじゃん。俺ら、ちょうどお姉さんみたいな美人と遊びたかったんだよね」
そう言ってその男性はジロジロと私を下から上まで見た。
「へ~」
『真白!早くきて!この人達、なんか嫌!』
「おい、何うちの嫁を変な目でみてんだ?」
「え!嫁!?既婚者!?」
「え、あ。はい!」
左手を見せると3人は青ざめて行った。
「すみませんでした~!」
そう言って3人は走っていった。
「咲久の胸ばっかりジロジロみて。せめて顔にしろよ」
「そこ重要?」
「うん。あ、ココア買ってきたよ」
「ありがとう」
ココアを飲んでランチを食べてクリスマスプレゼントでお揃いのウェザーのキーホルダーを作って車に乗った。
私は眠くてまた寝てしまった。
「咲久、そろそろ着くよ。起きて」
「ん?もう家?」
私が目を開けるとキラキラした光が窓から入ってきた。
「イルミネーション?」
「うん。ドライブでも綺麗に見られるところを調べたらすぐ近くだったから。クリスマスツリーの前で写真を撮るだけなら大丈夫かなって」
「真白~!好き!愛してる!」
「ありがとう。俺も愛してるよ。咲久」
真白はそう言って車を停めた。ホントサラッというくせに照れ屋だな。耳が真っ赤だ。
「ましさくですか?」
「はい」
「フォローしてます!」
「ありがとう。もしよかったらカメラマンになってくれる?ツリーの前で写真撮ってほしいんだ。咲久と撮りたいって思ってたから」
「もちろんです!」
それからツリーの前に立ってその子に写真を撮ってもらった。
「ありがとう!すごく綺麗に写ってる」
「どういたしまして。あの、咲久ちゃん。握手してください!」
「うん、いいよ」
そして、その子と別れて少しだけ歩いた。
「咲久、大丈夫?」
「うん。真白とくっついてるし全然寒くないよ」
そう言うと真白はキスをした。
「あんまり可愛いこと言ってるともっと好きになるんだけど」
「もっと好きになってもいいよ。この子のこともね」
「もちろん」
そう言って真白は額にキスをした。
翌日、家で毎年恒例のクリスマスパーティーをした。
「咲久姉!エコー写真見せて!」
「うん。ちょっと待ってて」
私は荷物の中からエコー写真を出して葵に見せた。
「小さい!可愛い!女の子でも男の子でも絶対に可愛いね!」
「真白とお祖父ちゃんも言ってたけどエコー写真でわかるものなの?」
「うん!もうすでに可愛いもん!」
葵の頭を撫でてそうだねと言うと葵はうんうんと頷いた。
そして、久しぶりにカフェ・スリールに行こうとしたら蒼空が車を出してくれた。
「ここ、昨日、葵と初めて来た」
「私はよく来てたよ。まあ、最後に来たのは3カ月前だけど」
そう言って玄関を開けた。
「いらっしゃいませ。咲久ちゃん!久しぶり!」
「うん、久しぶり。忙しくて言えてなかったんだけど私、2ヶ月前に結婚したんだ。それとこの前妊娠も発覚した!」
そう言うとヒナちゃん達は少し間を開けてええ!と叫んだ。
「おめでとう!」
「ありがとう。」
「お祝いに今日は好きなのを食べていって」
「あ、ううん。報告しに来ただけだから。今日は皆とクリスマスパーティーするの」
「そうなんだ。じゃあクッキー持っていって」
「ありがとう」
「ところで、さっきから気になってたんだけど。後ろのイケメンは誰?昨日、来てたきがするんだけど」
「うちの弟。昨日、幼馴染みと来たんだって」
「そうなんだ。咲久ちゃんの友達のヒナです」
「小鳥遊蒼空です」
「蒼空くん。また、来てね。」
私はヒナちゃんに手を振って車に戻った。
「そういえば言ってなかったけど、ヒナちゃんってハルくんの彼女だよ」
「え!マジで!?」
「うん。私をここに送ってくれたことがあってその時にハルくんが一目惚れしたんだって」
「へ~、ハルくん彼女できたんだ。ずっと彼女できないって言ってたけど優しそうな人が見つかって良かったな」
「そうだね」
それから、家に帰って皆で料理やケーキを食べてトランプをした。
「咲久姉と真白兄って結婚式挙げねえの?」
翔が首を傾げて訊いてきた。
「まあね。真白は2月に国家試験があるからそれどころじゃないし。」
「結婚式に憧れとかない方なの?」
葵も身を乗り出して訊いてきた。
「なくはないけど。ウエディングドレスは着たかったしやっぱり式には憧れはあったよ。でも、マタニティフォトは撮るし、今は真白には夢を叶えてほしいし」
「そっか。じゃあ咲久姉の理想の結婚式教えてよ!きいてみたい!」
「え~、そうだな~。ドレスはプリンセスラインとかじゃなくてマーメイドがいいかな。昔、映画でみてずっと憧れてたから。レースが着いててスリットが入っててすごく綺麗だったの。あ、でも飾りはこの前みたいに手作り感があった方が嬉しい。まあ、ドレスと全然合わないけど」
「いつか私がその式をプレゼントするね」
葵はとびきりの笑顔で言った。
「ありがとう、楽しみにしてるね」
私が笑いながら頭を撫でると葵は頷いた。
元旦は、皆で神社にお参りをして家でおせちを食べた。
それから、約3ヶ月後。真白は無事、国家試験に合格した。
久しぶりに真白と一緒に定期検診に行った。
「多分男の子だね」
「ホント!?咲久、これで名前考えられるね」
「そうだね~」
真白がこんなにはしゃいだ姿を見るのは実に十数年ぶりだ。
それから、安産祈願をして家に戻った。
「最近お腹が大きくなってきたんだ。なんかお腹触ってるとさ『私、お母さんになるんだ』って実感が湧くんだよね。真白も触ってみる?」
「うん」
そう言って真白が手をおいた。
「早く会いたいな。でも、もう少し咲久と新婚生活味わいたいからいい感じのタイミングでよろしく」
「注文が多いパパだね」
私は真白の手に自分の手を重ねて言った。
私は早く会いたいな。
それから5ヶ月後。予定日はもう2日後に迫っている。私は産休を取って今はもう真夏だ。
「暑いね~。パパはまだ寝てるね。今日と明日はお休み取ったから忙しそうだったもんね~」
そう言って真白の隣に座って体をゆすった。
「おはよう。もう10時になるよ~」
「あ、ホント?じゃあもう起きないとね。咲久、白斗。おはよう」
真白はそう言って私の額とお腹にキスをした。
それから着替えて軽食を食べて2人で手作りのアルバムを見返していた。
「なんか、写真の中でもいちゃついてばっかりだね。キスしたりハグしたり見つめ合ってたり。白斗には恥ずかしくて見せられないね」
「そう?俺はいっぱい自慢するつもりだったけど」
「絶対やめてよ。……っ、」
「咲久?」
「なんか水みたいなのが出てきた。これって破水?」
「病院に連絡するね。咲久は清潔なナプキンを当てて細菌が入らないようにして」
それから入院セットを持って病院に着いた。
検査をしてまだ生まれなさそうということで病室でゆっくりすることになった。わざわざ個室まで用意してもらった。
しばらく話して気を紛らわすために一緒にスマホで映画を観ているとお腹に痛みを感じた。
「真白。なんかお腹痛くなってきた。」
「間隔が10分ぐらいになるまではまだ生まれないよ」
「手、握ってもいい?」
「うん。背中さすらなくても大丈夫?」
「うん。まだ耐えられる」
それから、段々と痛みの持続時間が伸び痛みも強くなっていった。
「真白、背中さすって。痛い」
「うん。咲久、この辺?」
「うん。ちょっとマシ。」
それから陣痛がさらに強くなって分娩室に移動した。
「咲久、ゆっくり呼吸して」
真也さんがそう言って私はゆっくりと息を吸って吐いた。
「うん」
「じゃあいきんで」
「ふんっ、」
真白のマッサージのお陰で少し痛みは楽だった。
そして、その繰り返しで約1時間半後。
「咲久、おめでとう。お疲れ様」
「うん。白斗、初めまして。あなたのママとパパだよ。」
それからしばらくその場で真白と話した。
「真白、お祖母ちゃんに連絡して。1番に伝えたい。もちろんお母さん達にも」
「うん」
そう言って真白はメッセージを送ってくれた。
「咲久他になにかない?」
「写真撮って。3人で家族写真」
「うん」
真白は3人の写真を撮ると私と白斗だけの写真も撮った。
そして、写真を皆に送った。
それから病室まで歩いて戻った。
「疲れた。もう夜だね。寝るね。」
「うん、お休み。咲久、愛してるよ」
真白はそう言って額にキスをした。
翌日、目が覚めると花瓶に綺麗なお花が刺さっていた。
「咲久、おはよう」
「おはよう。わざわざ買ってきてくれたの?」
「咲久が好きそうだなって思って」
「ありがとう。すごく綺麗」
「咲久はその何千倍も綺麗だけどね」
「真白フィルターがかかればね」
そう言って私が笑うと真白は笑った。
「これからは3人家族だね。よろしく」
「うん。これからは咲久だけじゃなく白斗のことも守るからね」