皆でお食事会
クリスマス前になると同僚や先輩達は恋人がほしいと嘆いていた。
「咲久、今日の夜に皆で食事行かない?最近近くにオープンしたお店があるんだ~」
「誰が来るんですか?」
「水瀬ちゃんと優子」
「いいですよ。でも私、今日は車なので飲めませんけど」
「いいよ。私も今日はそんなに飲むつもりないから」
「良かったです。あ、ちょっと電話してきます」
私は廊下に出て真白に電話を掛けた。
「もしもし。もう学校終わってた?」
『うん。どうしたの?』
「今日の夜、先輩達とご飯食べに行くことになったから私の分は準備しなくていいよ」
『そうなんだ。俺も友達とご飯行くことになったから俺の帰る時間が早かったら車取りに帰って迎えにいこうか?』
「ううん。今日は車で来たから大丈夫。」
『そっか。あんまり遅くならないようにね』
「うん。ありがとう」
それから2時間後。
向かいの席には同世代ぐらいの男性が2人座っていた。
『え、なんですかこれ?食事じゃなかったんですか?』
私が声を潜めて先輩に訊くと先輩も声を潜めた。
『ごめん!ど~しても人が集まらなかったから。人数合わせでいいからさ。お願い、咲久以外には頼めない』
『ホントに人数合わせですからね。私、彼氏いますし』
『分かってる。咲久を守りつつ合コンを楽しむから』
先輩はそう言ってグッドポーズをした。
「まだ2人来てないので少し待っててください。その間に好きな飲み物頼んでいてください」
1人の男性がそう言ってスマホを見た。
私はほうじ茶を頼んでくるのを待った。
すると、お店の入り口で話し声が聞こえた。
「来たみたいです」
そう言ってさっきの男性がお店の玄関に行った。そして、一緒にいた男性と一緒に背の高い男性を引っ張って連れてきた。
「だから、合コンとかきいてないって。俺、彼女いるって言っただろ?」
「人数合わせでいいからさ。それに5年も付き合ってるんだろ?彼女よりも可愛い子がいるかもしれねえよ」
「そんなわけ……」
そう言って背の高い男性は私達の方に視線を移した。
「ごめん、ちょっと来て!」
そう言って私は腕を掴まれて外に出た。
「真白、待って」
そう言って立ち止まると真白は振り返った。
「なんでいるの?」
「私も知らなくて。先輩にご飯行こうって誘われて来たら合コンで。どうしても人が集まらなかったから人数合わせとしてでいいからいてって言われて。ちゃんとガードするからって。私にしか頼れないって言われて」
「咲久が断れないのを分かってそう言ったとしたらその先輩、許せないね」
真白が笑顔でそう言った。
「そんなことないよ。ちゃんと信頼されてるし、先輩は仕事でミスしたときにフォローしてくれたり、落ち込んでたらご飯をご馳走してくれたり。とにかくすごく優しいんだよ」
そう言って私は真白の顔を見上げた。
「ごめんね、悪口言うつもりじゃなかったんだけど。心配する必要なかったね。どうする?このまま戻る?」
「このお店のご飯美味しそうだから食べたかった。それにお茶も頼んじゃったし」
「それは確かに。でも、俺達が戻ってもいいのかな?」
「訊きに行く?」
「そうだね」
お店に戻ると皆、頼んだドリンクを飲んでいた。
「咲久、お帰り~。そんなイケメンと手繋いで、彼氏嫉妬するんじゃないの?」
先輩がそう言うと真白が首に手を当てて照れたように笑った。
「その彼氏が俺なんですよね。」
真白がそう言うと先輩はポカンと口を開いた。
「やっぱり迷惑ですよね。私達帰りますね」
「そんなことないよ。私が何も言わずに誘ったんだから。皆普通の食事会ってことでいい?」
先輩が訊くと全員が頷いた。
「ありがとうございます」
「元はと言えば私が悪いんだし。とりあえず自己紹介しよ。初めまして~!山本紗奈です。24歳です。じゃあまずはそちらから自己紹介どうぞ」
「僕は下田智也です。22歳です」
「僕は村里祐大です。23歳です」
「俺は熊谷大河です。24歳です」
「俺は仁科真白です。22歳です」
真白がニコッと笑っていった。しかも、あからさまに私の方を見て。
「えっと、小鳥遊咲久です。21歳です」
「私は水瀬花です。23歳です」
「中村優子です。23歳です」
全員の自己紹介が終わったところで乾杯をした。
「仁科って女子に対して笑顔で冷たく接してるのに。小鳥遊さんには冷たくないの?あ、これ、小鳥遊さんだよね?」
下田さんが料理を渡して言った。
「ありがとうございます。生まれたときからの付き合いですけど真白に冷たくされたことなんて多分、1回あるかないかぐらいです。真白、反抗期みたいなのがあんまりなかったから」
「へ~、以外。どこが好きなの?」
村里さんがビールを飲みながら訊いた。
「いつも守ってくれるところとか新しい服を着ると褒めてくれるところとか言葉にして伝えてくれるところとか好きなことに一生懸命なところとかですかね」
恥ずかしくなって照れて笑うと村里さんが「俺も好きなことに一生懸命だよ」と言って手を挙げた。
「真白だから好きなだけで他の人がどれだけ一生懸命でもカッコいいけど好きにはなりません」
「じゃあ好きなタイプは?」
「好きなタイプってあんまり分からないんですよね。ずっと真白に片想いしてて他に好きな人とか出来たことなかったので」
「じゃあ、一番自信があることは?」
「運動神経です。小学校から中学までずっと体操してて全国大会で1位になったことがあるので。」
「確かにそれは自信持てるね」
「あ、でも。私よりも真白のことを好きな人はいないと思います。」
そう言うと真白が嬉しそうに笑った。
「咲久、惚気?」
先輩が肘で小突きながら言った。
「えへへ。まあ、惚気ですね」
それからご飯を食べてそれぞれ新しくドリンクを頼んだ。
「せっかくだから合コンっぽいゲームしようよ。愛してるよゲーム。咲久と仁科くんはペア確定ね」
そう言って先輩達はくじ引きをしてペアを決めていた。
「じゃあ、まずは水瀬ちゃんから」
そう言って花から順にまわっていった。
「最後は咲久達。」
先輩がそう言うと真白が私の手を握った。
「咲久、愛してるよ」
「もう一回」
頬に熱くなってくるのが分かった。
「咲久の負けだね。」
真白が笑って言った。
「罰ゲームはどうする?」
先輩が首を傾げてきいた。
「じゃあ、咲久の罰ゲームはキス顔で」
優子先輩が残っていたレモンサワーを飲みほして言った。
「え、キス顔、ですか?どんな顔してるか分からないんですけど」
「まあ、なんとなくでいいよ」
そう言われて真白とキスするときの想像をして目を閉じた。
すると、何かがライトを遮って瞼の裏に影が掛かるのが分かった。
その瞬間、唇に柔らかいものが当たった。目を開けると目の前に真白の顔があった。
「え、なんで?」
「キスしてほしそうな顔をしてたから」
「え、や、罰ゲームなんだけど」
「そうだったね」
真白はそう言って微笑んだ。その瞬間、周りにいた女性客の視線が集まったのが分かった。
「真白、周りの人の注目浴びてるから早く離れて」
そう言うと真白は少しムスッとして離れた。
すると、隣の席に座っていた女性客が私達の方に来て止まった。
「あの、“ましさく”ですよね?」
「そうだよ」
「写真、いいですか?」
「いいよ。真白もいいよね?」
「うん」
そう言って真白が私を抱き寄せた。
「キスしてるところを撮ってもいいですか?」
「まあ、いいけど。真白は軽いキスにしてね」
「分かってる」
そう言って真白はキスをした。
「ありがとうございます!」
「咲久ちゃん、握手してください」
「うん」
そう言って握手をすると2人は嬉しそうに笑ってレジに向かった。
「咲久、あんた芸能人なの?」
「芸能人っていうかSNSで写真とか動画をアップしてるっていうか。そのフォロワーさんだと思います」
「ましさくって言ってたよね?」
そう言って花が動画を検索をしていた。
「え、これ?めっちゃ人気じゃん!登録者数、60万人ってすごっ!」
「真白はイケメンだからね」
「咲久も美人だけどね。絶対モテてたでしょ!佐倉さんにアタックされてたし」
「私、相談にのってほしいって言われたけどアタックはされてないよ。それに高校のときも真白と付き合い始めてから告白されなくなったし、そんなにモテたりしてないよ」
「仁科さんが相手じゃ勝ち目ないって分かったんだろうね。」
花が笑って言った。すると真白は私の言ったことを否定した。
「咲久、高校のときにファンクラブあったし普通にモテてたよ。俺が牽制してたから告白されなかっただけで咲久のこと狙ってる奴とかめちゃくちゃいたからな。女子からの人気もすごかったし」
「まあ、それは確かに。女の子からの人気はあったかも。でも女の子からはあんまり告白されたことはなかったよ。ファンですって言って手紙とかプレゼントはもらったことがあったけど」
私がそう言うと先輩と花は同時にえ!声をあげた。
「あんまり告白されたことないってことは何度かはあるってこと?てか、ファンですって告白みたいなものじゃないの?」
「そんなことないと思いますよ。好きな人に頭撫でてくださいとか握手してくださいとか言いますか?」
私がそう言うと真白は私の肩を掴んだ。
「え、そんなこと言われてたの!?いつの間に」
「真白が卒業してからよく言われるようになったの。でも、歩は膝枕してくださいとか抱きしめてくださいとか言ってたから頭撫でるとか握手の方が結構マシじゃない?」
「相川さん、そんなに好き勝手してたの?彼氏いるんだから彼氏に甘えろよ。というか膝枕とかしたの?」
「寝不足そうだったから少し。でも抱きしめるとか歩は自分で言って自分から来てたから私からはしてないよ」
「へ~、ふ~ん。」
「え、なに?」
「別に。じゃあ俺達は飲まないのでそろそろ帰りますね。お金はここに置いておくので」
真白はそう言って立ち上がった。そして私の腕を引いて歩いて店の外に出た。
「咲久、車の鍵は?」
「あ、はい」
私は鞄から鍵を出して真白に渡した。
真白は鍵を開けて車の中に入った。私もつられて中に入ると真白はエンジンをかけた。
「真白って明日休みじゃなかった?」
「そうだよ。」
「じゃあ飲んでも良かったのに。私も明日休みだから遅くなっても大丈夫なのに。家帰ったら飲む?」
「ううん。すぐに風呂に入る。咲久も一緒に入る?」
「私が入ってる間、真白がずっと目をつむって一切触れないって約束をしてくれるなら」
「それって一緒に入る意味ある?」
「あるよ。短時間で済むから電気代の節約になるし」
「まあ、それはそうだけどさ。それだったら俺は別々で入った方がいいかな」
「私はどっちでもいいよ」
そう言うと真白はため息混じりに笑った。
それから家に着いて、それぞれお風呂に入った。
「咲久、寝る前に一緒に映画観よう」
「いいよ」
それから真白の寝室の壁にプロジェクターで映画を映し出して一緒に観た。
「やっぱり玲音くんカッコいいね。キスがスマートすぎる」
「煽ってんの?」
「そんなわけないじゃん。ただ玲音くんがカッコいいねって話をしただけ」
そう言うと真白は私にキスをした。
「映画観終わるまでは我慢するけど観終わったら覚悟しとけよ」
そう言って真白は不敵に微笑んだ。
「覚悟って……?」
「咲久の想像に任せるよ」
そう言って真白は瞼にキスをした。