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誤解しないで!


私と千花(ちか)の彼氏は驚きのあまり固まっていた。




 遡ること8時間前。


「着いた~!」


「久しぶりに来たけどやっぱりいいね」


「チェックインって何時からだっけ?」


真白(ましろ)が荷物を降ろして訊いてきた。


「13時だから丁度いい時間だね」


 そう言って荷物を受け取ろうとすると華麗にスルーされた。


「重いから俺が持つね。咲久(さく)は俺の手を持って」


「私、千花(ちか)の分もチェックインしてくるね。五十嵐(いがらし)真白(ましろ)にチケット渡してあるからチェックインしておいてね」


そう言って千花(ちか)と一緒に宿に入った。


 チェックインを済ませてそれぞれ部屋に向かった。


「荷物ありがとう。浴衣着替えたら一緒に観光しよう」


「そうだね」


真白(ましろ)はそう言って部屋の鍵を開けた。


 私も客室に入った。


「綺麗だね~。景色とか最高!ね、咲久(さく)


「うん。癒される」


「じゃあ早く荷物置いて浴衣に着替えよ」


「うん」


 それから浴衣に着替えて真白(ましろ)達とロビーで待ち合わせた。


「待った?」


「いや、俺達もさっき来たところ。咲久(さく)、浴衣似合ってる。可愛い」


「ありがとう。真白(ましろ)も似合ってるよ。せっかくだし写真撮る?」


「そうだね。五十嵐(いがらし)葉山(はやま)さんも入って」


そう言うと真白(ましろ)はスマホを取り出した。


 写真を1枚撮って2人の了解を得てSNSにアップするとすぐに反応がきた。


千花(ちか)五十嵐(いがらし)も人気だね」


「いや、咲久(さく)仁科(にしな)先輩の方が一番人気じゃん」


真白(ましろ)はイケメンだからね~。こんな彼氏憧れるとか言われるけど誰にも譲るつもりはないんだけどね」


そう言ってニッと笑って見せると千花(ちか)真白(ましろ)が私に抱きついた。


「私の親友が一番イケメン」


「分かる。俺の彼女が一番かっこいい」


2人はそう言って少ししたら離れた。


真白(ましろ)、さりげなくキスしようとしないで。24時間だからまだダメなんだけど」


私がそう言うと千花(ちか)五十嵐(いがらし)が首を傾げた。


「昨日、会社の同僚と電話してたら……」




 * * *



咲久(さく)~、佐倉(さくら)さんって人から電話かかってきてるけど』


『あ~、会社の同僚だよ』


『男?』


『うん』


『へー。はい、スマホ』


『ありがとう。 あ、もしもし、小鳥遊(たかなし)です。はい、え、明日ですか?明日は用事が。他の休みの日はまだ予定を組んでなくて』


私が話していると後ろでパタパタと足音が聞こえた。


『すみません、ちょっと騒がしくて』


ミュートにして真白(ましろ)の方に振り返った。


『もう少し静かに歩いて』


『分かった』


マイクをオンにしてまた電話を取った。


『すみません。ずっと思ってたんですけどそれって職場じゃダメなんですか?そうなんですか。え、食事ですか?他に人は?別に嫌ってわけじゃ』


すると真白(ましろ)が抱きしめてきた。


咲久(さく)、大好きだよ』


そう言って真白(ましろ)がチュッと音をたてて唇にキスをした。


『本当にすみません。彼氏が一緒にいてて。出来れば気にしないでください。はい。はい』


そしてすぐに通話が切れた。


『ちょっと電話してたのに丸聞こえじゃん!』


『そもそも、休みの日に電話してくるものなの?全然休めないじゃん』


『それはそうかもだけど。』


『それに咲久(さく)の話し方的に仕事の事じゃない気がしたし』


『まあ、それは。仕事の相談にのってほしいから今度食事に行かないかって誘われた』


『やっぱり。咲久(さく)が断りづらいなら相手が誘えないようにしたらいいかなって思って』


『それは助かるけど次、仕事で会ったとき、どんな顔したらいいか分からないんだけど』


『どんな顔でも咲久(さく)は可愛いよ』


『そういうことじゃなくて表じょ』


真白(ましろ)はまた唇を重ねた。


『気にしすぎだよ。そもそも彼氏持ちの女を2人きりで食事に誘う方が悪いんだから。俺、何度か迎えに行ったことあるし忘れ物を届けたこともあるから彼氏がいることは分かるだろうし』


『それは知ってるだろうけど。相手はただ相談したかっただけだったらどうするの?』


『そうだとしたらまた相談してくるよ。それとも咲久(さく)はその人とデートしたかった?』


『え、やだ。ランチのときも食べてるのにずっと話し掛けてくるから食べるのに時間かかるし。お茶ぐらいならまだいいけど。』


咲久(さく)のそういう所好きだよ』


『そんなこと言っても私が佐倉(さくら)さんと会うのが気まずいのは変わらないんだけど。……あ、そうだ。今から24時間私にキスするの禁止ね』


『え、今から?せめて15時からにしてくれない?あと1時間だけでいいから』


『まあ、いいけど。でもきっちり24時間だからね。15時になったらダメだから』


『うん』




 * * *



「みたいな感じで真白(ましろ)は今、キス禁止令が出てるの」


私がそう言うと千花(ちか)がお腹を抱えて笑った。


「キス禁止令って初めて聞いた」


 笑ってる千花(ちか)の隣で五十嵐(いがらし)真白(ましろ)の肩にポンッと手をおいて哀れみの視線を向けた。


仁科(にしな)先輩、可哀想じゃね?助かったなら別にそんなことしなくても」


五十嵐(いがらし)、本気で言ってる?時間ずらしたから1時間に何回キスされたと思ってるの?」


「え、何回?」


真白(ましろ)に聞いて。“私は”数えてないから。少なくとも五十嵐(いがらし)の想像を軽く越すぐらいだと思う」


そう言うと五十嵐(いがらし)は興味津々に真白(ましろ)に訊いた。


「何回ですか?」


「途中までしか数えてないから分からない」


「じゃあ途中までの回数は?」


「100は超えてたのは確かだけど数えても頭に入ってこなかったから。動画にでも録っておけば数えれたけど」


「そんなことしたら許さないけどね」


「ですよね。まあ、とりあえず観光しようか」


「そうですね。俺、温泉まんじゅう食いたいです」


五十嵐(いがらし)がそう言うと千花(ちか)も頷いた。


「すぐそこに売ってたから行こうか」


真白(ましろ)は私の手を握ってそう言った。


 温泉まんじゅうを食べて足湯に行こうと階段を登っていると人だかりができているのを見つけた。


咲久(さく)亮太(りょうた)も先輩も見に行かない?」


「行く」


私がそう言うと千花(ちか)は私の手を引いて人だかりの中に走っていった。

 それを追いかけるように真白(ましろ)五十嵐(いがらし)も走ってきた。


「待って、玲音(れおん)くんいるんだけど!」


「ホントだ!ヤバい、かっこいい!脚長っ!」


私と千花(ちか)がキャーと手を取り合って騒いでいると真白(ましろ)が私を抱き寄せた。


「俺にもかっこいいって言ってるくせに玲音(れおん)にはそんな可愛い反応するんだな」


「だって真白(ましろ)はかっこいいけどなんかこうキャーキャー騒ぐ感じじゃなくて『あ、かっこいいな。好きだな』って自然に思うって言うか。自分で言ってて分からなくなってきた」


 そう言って真白(ましろ)を見上げると満足気に笑っていた。言わされた。


「俺のこと大好きなんだね」


玲音(れおん)くんもだけどね」


「へ~。」


私達が話しているのを見て千花(ちか)五十嵐(いがらし)は楽しそうに笑っていた。


 すると、なんと玲音(れおん)くんに声をかけられた。


「お姉さんとお兄さんはお友達同士ですか?」


「俺とこの子がカップルでその2人もカップルなんです。全員同じ中学と高校なんですけど俺だけ1つ年上なんです」


真白(ましろ)が私の肩を抱いたまま答えた。


「実は今、テレビの企画でご夫婦やカップルの方の馴れ初めを訊いているんですけどよければ教えてくれますか?」


私と千花(ちか)は顔を見合わせて「はい!」と返事をした。


「じゃあまずはそちらのお兄さんとお姉さん。名前はなんて言うんですか?」


小鳥遊(たかなし)咲久(さく)です」


仁科(にしな)真白(ましろ)です」


そう言って私と真白(ましろ)は顔を見合わせた。すると玲音(れおん)くんと一緒にいた女優さんが首を傾げた。


「もしかして“ましさく”ですか?」


「はい。SNSで少し活動をしてます」


真白(ましろ)がそう言うと玲音(れおん)くんが驚いたように目をパチパチとさせた。


「今、フォロワー60万人ですごく人気なんですよ」


そう女優さんが言うと感心したように頷いた。


「実は私、玲音(れおん)くんの大ファンなんです。真白(ましろ)と付き合う前に観に行った映画で玲音(れおん)くんが主演だったのでそれ以来ずっとファンなんです」


「お2人の思い出に残れるなんて光栄です。あの、お2人の出会いを教えてもらえますか?」


私と真白(ましろ)は顔を見合わせて考え込んだ。


「出会いっていうか。俺達、幼馴染みで家も近所なので咲久(さく)が生まれてすぐに出会ったので想い出の中にはいつも咲久(さく)がいるんです」


「素敵ですね。じゃあいつから付き合い始めたんですか?」


「私が高校1年生で、真白(ましろ)が高校2年生の秋頃です。今、21なので付き合って5年です」


「すごく長いですね。喧嘩とかはしないんですか?」


「しますよ。でも一方的に私が怒ってることが多いのでスイーツとかで仲直りするんです。それか真白(ましろ)に非があるときは罰ゲームとか。今もそうなんですけどね」


「罰ゲーム?」


玲音(れおん)くんが首を傾げた。可愛いなと思っていると真白(ましろ)が顔を近づけた。


 慌てて真白(ましろ)の口を手で押さえた。


 すると真白(ましろ)は私の手をよけて玲音(れおん)くんに向き直した。


「これが罰ゲームです。24時間キスをしたらダメっていう。俺は咲久(さく)が怒っていても可愛くて仕方ないからつい構うんですけどさすがに悪いときは反省しないとって思ってたら罰ゲームを提案されて」


咲久(さく)さんが大好きなんですね」


「はい」


真白(ましろ)はそう言って微笑んだ。私は恥ずかしくて手で頬を冷やしていると真白(ましろ)が可笑しそうに笑った。


 それから千花(ちか)五十嵐(いがらし)もインタビューを受けていた。


 その後、玲音(れおん)くんに話し掛けた。


「あの。ゆずちゃん、仁科(にしな)柚希(ゆずき)さんと昔、仲が良かったんですよね?というかそもそも真白(ましろ)に見覚えがありましたよね?」


「どうしてそう思ったの?」


「目と勘です。もしかしてゆずちゃんを本気で好きだったんですか?」


「大好きだけど恋とは違う感情なんだ。親友兼妹みたいな。柚希(ゆずき)ちゃんもそう思ってただろうし。真白(ましろ)くんのお姉さんの柚希(ゆずき)ちゃん、今何してる?」


「高校の先生で、2年前に結婚して、去年男女の双子の赤ちゃんが生まれて大変そうだけど幸せそうです」


「そっか。幸せなんだ。良かった。天使がおめでとうって言ってたって伝えておいて」


ゆずちゃんにそうメッセージを送ると電話がかかってきた。


「もしもし」


『天使って。もしかして上本(かみもと)くんといるの?』


「旅行してたらロケしてて」


『ビデオ通話に変えるね。亮介(りょうすけ)愛理(あいり)抱っこして。親友に見せるから』


そう言ってゆずちゃんはカメラをオンにした。


上本(かみもと)くん、久しぶり』


「久しぶり」


『私の新しい家族、紹介するね。旦那の亮介(りょうすけ)。長女の愛理(あいり)。長男の海里(かいり)。ずっとありがとうって言いたかったの』


「どうして?」


『夏目漱石が初恋って言って笑わないでくれたから。だから私、英語教師を目指して東京に行って亮介(りょうすけ)に会えたから。だから、上本(かみもと)くん、ありがとう』


「どういたしまして。亮介(りょうすけ)さんと末永くお幸せに」


玲音(れおん)くんがそう言うとゆずちゃんは亮介(りょうすけ)くんと顔を見合わせて照れくさそうに笑った。


 それから通話が切れて玲音(れおん)くんは嬉しそうに笑った。


咲久(さく)さん、ありがとう。柚希(ゆずき)ちゃんが亮介(りょうすけ)さんみたいに優しそうな人と結婚してて嬉しかった。」


「どういたしまして」


咲久(さく)さん、髪に葉っぱがついてますよ」


そう言って玲音(れおん)くんが手を伸ばすと私は誰かに後ろから抱きしめられた。


「たとえ鈴音(りおん)のお兄さんでも咲久(さく)に手を出すのは許さねえよ」


「勘違いだって。葉っぱがついてるって教えてもらっただけだから。」


「ホントだ。葉っぱついてる。勝手に勘違いしてすみません。咲久(さく)もごめんね。腕引っ張っちゃったけど痛くなかった?」


「全然平気。てか、鈴音(りおん)さんのお兄さんなの?名前と顔は似てると思ったけど」


鈴音(りおん)の友達?あいつが俺と兄弟なんてよく自分から言ったな」


咲久(さく)の話をしたときにお前も人気だから気を付けろって」


「それでか。でも本当に気を付けて。もう美羽(みう)ちゃんみたいな子を出したくないから」


玲音(れおん)くんは目を伏せて言った。そっか。鈴音(りおん)さんの彼女って美羽(みう)さんって名前だったんだ。


「はい!大丈夫です。こう見えて道場で真白(ましろ)の次に強かったので。他にも男子はいるんですけど2人相手で手合わせしたことありますけど余裕で勝ちましたし」


私が笑って言うと真白(ましろ)玲音(れおん)くんも柔らかい笑みを浮かべた。


「今、言うのも変かもしれないんですけど。あの、玲音(れおん)くん。握手と写真いいですか?」


そう訊くと玲音(れおん)くんは吹き出した。


「なんで笑うんですか?私、本気でファンなんですから普通じゃないですか?ドラマも全部見てますし。真白(ましろ)がヤキモチを妬くぐらいテレビも見てるし、待ち受けも玲音(れおん)くんなのに」


「ありがとう」


玲音(れおん)くんはそう言って私の手を強く握った。


真白(ましろ)、今日から手を繋がないで。もう手を洗わない」


 そう言うと真白(ましろ)が両手を握った。


「手を洗わないと病気になるよ」


「でも今はやめてよ!せっかくの握手が台無しじゃん!てか、これ夢?こんな普通に話してるなんて夢だよね?絶対。ねえ、私の頬っぺたつねって」


そう言って目を閉じると真白(ましろ)がキスをした。


玲音(れおん)くんの前でやめてよ。すみません、とりあえず写真いいですか?」


「いいよ」


そう言って玲音(れおん)くんと自撮りをした。


「あの、もう一度握手してくれますか?」


そう言って手を差し出すと真白(ましろ)が私を抱き上げてキスをした。


「しなくて大丈夫です。俺が代わりに何回でも握手してあげるからな」


「別にいらないし。せっかく会えたのにちゃんと握手したかったのに。玲音(れおん)くん、ファンレター書いてみるので時間があれば読んでください!」


それから真白(ましろ)は歩いて元いた場所に向かった。


「ちょっと降ろして。」


玲音(れおん)の所に戻るの?」


「違うって。浴衣の帯が緩くなってきてはだけそうなんだけど」


「ごめん、気付かなかった」


真白(ましろ)はそう言ってその場に降ろした。


「帯結び直してくれたら許す」


そう言って私は茶羽織を脱いで真白(ましろ)に背中を向けた。


咲久(さく)玲音(れおん)に会って話したらやっぱりかっこいいなって思った?」


浴衣の帯を結び終わって茶羽織をかけながら言った。


「そりゃもちろん。めちゃくちゃかっこよかったし、話してみると優しかったし楽しかった」


「……好きにならない?」


「すでに好きだけど」


「そうじゃなくて」


「そういう好きか。絶対にならない!……とまでは言い切れないけど玲音(れおん)くんに会って嬉しくてドキドキしたけど真白(ましろ)にキスされたときは比べられないぐらいドキドキした」


「そっか。あ~!ホントダメだね。咲久(さく)のこととなるといつもこうやって悪い方に考えちゃう」


「いいよ。私もそうだから」


真白(ましろ)の手を握って微笑むと真白(ましろ)は泣きそうな顔で笑った。


「結局、千花(ちか)達とはバラバラで行動してるね」


「そうだね。せっかくだしデートしない?」


「いいよ。さっき入れなかったし足湯行こ」


「うん」


 それから夕方まで温泉街をまわった。


 宿の自室に戻って温泉に行く準備をした。


「夕食後に温泉だよね?」


「うん。なんか修学旅行みたいでワクワクするね」


「確かに。咲久(さく)と同じ部屋だったからさらにね」


「うん。そろそろ夕飯食べに行こう」


「そだね」


 真白(ましろ)達に連絡をして食堂に行った。


 ご飯を食べに行ってから温泉に行った。


「露天からの景色、すごい綺麗だったね」


「うん。真白(ましろ)達の方はどうだった?」


「綺麗だったよ。明日は入れ替わるんでしょ?朝に入りに行ったら?」


「うん。そのつもり」


 それから、卓球をして部屋に戻った。


咲久(さく)、今日もいい?」


「いいけど。シラフじゃちょっと。」


「大丈夫。チューハイ買ってきたよ」


「さすが千花(ちか)!」


 2人でチューハイを開けて飲んだ。


「てかさ、もう五十嵐(いがらし)帰ってきてるのに“練習”する必要ある?」


「あるよ。向こうからは全然こないから」


『練習』とは五十嵐(いがらし)が帰ってくる1ヶ月前に千花(ちか)から頼まれたことだ。




 * * *





 ある日、千花(ちか)の部屋で飲んでいると千花(ちか)が急にビックリする内容を話し始めた。


咲久(さく)、私キス下手なのかな?」


「え、知らないよ。五十嵐(いがらし)に言われたの?」


「ううん。でも、亮太(りょうた)がアメリカに行く前に空港で私からキスしてみたんだけどその後の亮太(りょうた)が変だったからもしかしたら下手なのかなって」


「別に下手でいいんじゃない?」


そう言うと千花(ちか)は一気にビールを飲み干してバンッとテーブルに缶を置いた。


「全然良くない!亮太(りょうた)を驚かせるためにも咲久(さく)、練習させて」


「は!?本気!?」


「お願い。咲久(さく)にしか頼めない。そもそも亮太(りょうた)からキスされたのって1桁代なんだ。私とキスするの嫌なのかな?」


「そんなことないと思うけど」


「お願い!このときのために2年予約待ちの『ル ボン ディユ』のワイン予約したから」


「そこまで言われたら仕方ないな~。ワインの……いや、親友のために一肌脱いであげるよ」


「さすが咲久(さく)!」


「その代わり、私の仕事が早く終わった日だけね。あんまり夜遅くに千花(ちか)の家に行こうとしたら真白(ましろ)が心配しすぎてその辺のチンピラ全員を倒しながら迎えに来るかもだし」


「有り得る。分かった。ありがとう。ワイン届いたら一緒に飲もうね」


「うん」




 * * *




「それにしても帰ってきてから五十嵐(いがらし)からキスされてないの?」


「そうなの。ホントなんなの?私のこと好きなの?好きとか全然言われないし行動にも表してくれないし兄弟みたいな感じ」


「そっか。それにしても今日は結構酔ってるね。9%!?千花(ちか)、飲むのストップ」


私が慌てて止めたけど時すでに遅し、千花(ちか)は結構酔っていた。

 

 千花(ちか)って酔うとキス魔になってスキンシップが激しめになるんだよね。


 五十嵐(いがらし)真白(ましろ)にヘルプを送った。


小鳥遊(たかなし)!」

咲久(さく)!」


 そう言って2人が入ってきたのと同時に千花(ちか)がキスをした。


 それを見た2人は無表情で固まった。


千花(ちか)五十嵐(いがらし)が来たから起きて。」


「起きてるよぉ~。それにしても咲久(さく)のおっぱいフカフカ~。ずっとこうしてたい。先輩もそう思いませんかぁ~?」


「そうだね。でも、とりあえず咲久(さく)の胸に顔を突っ込まないで。俺以外はダメって決まってるから。五十嵐(いがらし)、早く葉山(はやま)さんを離して」


「あ、はい」


そう言って五十嵐(いがらし)千花(ちか)は私から引き剥がした。


咲久(さく)、なんでキスしてたの?」


「え~っと。あの~。そう、さっきのは千花(ちか)が酔っぱらって。千花(ちか)、酔うとキス魔になるから。スキンシップも激しめになるし」


「へえ~。“さっきのは”ね。それまでもしてたみたいな言い方だね」


真白(ましろ)がそう言うと千花(ちか)が頷いた。


「そうですよ~。亮太(りょうた)が自分からキスしてこないのは私が下手だからかなって思って咲久(さく)に練習相手になってもらってたから」


千花(ちか)、それ以上言わな、」


亮太(りょうた)が帰ってくる1ヶ月前から練習してたけど亮太(りょうた)からされるの待ってたのに全然だから練習を延長したの」


千花(ちか)がムッとして言った。


「悪い、千花(ちか)


五十嵐(いがらし)。私、今日そっちの部屋に泊まるからこっちに泊まっていいよ。荷物も持っていくね」


そう言ってバッグを持ち上げると真白(ましろ)が肩でバッグを担いで私を抱き上げた。


 部屋に入ってバッグを置いても真白(ましろ)は私を降ろさなかった。


「あの~、降ろしてくれない?」


咲久(さく)が何か言うことがあるかなと思って。ちゃんと顔見て話すならこの方がいいかなって」


「話すことって?」


「ないの?」


「黙っててごめん。でも浮気とかそういうつもりじゃないしル ボン ディユのワインのためだし」


「ワインで釣られたんだ。」


「うっ、ごめん。なんでもするから」


「……なんでも?」


私が頷くと真白(ましろ)は笑ってキスをした。


「じゃあ明日の朝一緒にお風呂行こう」


「……え、明日?他に人がいたらどうするの?」


「元々誘おうと思って予約したからいないよ」


「下着とか可愛くないし」


「水着着て入るつもりだったけど普通に一緒に入るの?俺はそれでも大歓迎だけど」


「水着なんて持ってきてないもん。」


「レンタルできるって。どうする?ちなみに温泉だからタオルは巻いたらダメだよ。サウナは大丈夫だけど」


「水着借りるに決まってるし。」


「だよね。じゃあ明日早起きするためにも早く寝ようか」


「うん」


 布団を敷いて横になると真白(ましろ)が抱きしめた。


「え、なに?」


「なんでもしてくれるんだよね?」


「まあ、そうだよ」


「じゃあこのまま寝てもいいよね?」


「私もそっち向いていい?」


「うん。いいよ」


「こうしてるとなんか落ち着く。おやすみ」


「おやすみ」


真白(ましろ)はそう言って額にキスをした。



 翌朝、5時半に真白(ましろ)の物音で目が覚めた。目の前には真白(ましろ)の顔があった。


「なに?この状況。床ドン?」


「スマホのアラームを止めようと思って。おはよう、咲久(さく)


「おはよう。お風呂って何時から?」


「もう入れるけど行く?」


「うん」


 それからカウンターに言って浴衣を借りて温泉に向かった。


咲久(さく)、着替えないの?」


「先に着替えて入ってて。着替えてるところ見られるの恥ずかしいから後から行く」


「分かった」


真白(ましろ)はそう言って中に入っていった。


 数分後、水着を着た真白(ましろ)が呼びにきた。


「見ないでね」


「そんなに言われると見たくなっちゃうな~」


「信じれないから私の前に背を向けてたってて。」


「いいよ」


真白(ましろ)はそう言うと背を向けた。


「……着替え終わったよ」


「その水着、似合ってるよ」


「皆同じ水着らしいけど」


「正直、2人のときはもう少し露出がある方が嬉しいけど」


「冬使用だから布が多めなんだって」


「じゃあまた夏にここに来よう」


「混浴?プールでよくない?」


「プールだと貸し切られないでしょ。まあ、とりあえず温泉入って話そう」


真白(ましろ)がそう言って手を引いてドアを開けた。


「まだ結構暗いね」


「うん。咲久(さく)、背中洗ってくれない?」


「スポンジとか見当たらないんだけど。素手で?」


「嫌?」


「嫌じゃないんだけど、ちょっと恥ずかしいっていうか。服を着ててさするとかなら大丈夫だけど」


「なんでもしてくれるんじゃないの?」


なんでも1つって言えば良かったな。


「分かった。後ろ向いて」


それから真白(ましろ)の背中を流した。


咲久(さく)も流そうか?」


「どうやって?水着を脱げってこと?」


「そうだね」


「じゃあいい。シャワー浴びて温泉入る」


「そんなに見られたくないの?なんで?」


「それは。……ここ」


私が水着を伸ばして胸を指して言った。


千花(ちか)が顔を突っ込んで五十嵐(いがらし)が引き剥がしたときに付いたみたいで」


「全然気にしないから安心して」


真白(ましろ)は笑って言った。けど、


「目が笑ってないけど」


そう言うと真白(ましろ)は首にキスをした。


「もしかして真白(ましろ)も付けたの?」


「うん。髪の毛おろしてたら見えない所にだけど」


「じゃあお風呂上がってもおろしとこう」


 そう言って温泉に入った。


咲久(さく)、キスして」


「目つぶってくれたらいいよ」


「うん」


真白(ましろ)は頷いて目を閉じた。私は真白(ましろ)の首に手を回してキスをした。


咲久(さく)もキス上手くなってる。葉山(はやま)さんと何回したの?」


「……40回前後」


「じゃあ今からその成果を見せて。俺に40回キスして」


「え、」


「なんでもしてくれるんだよね?」


「40回もしたら疲れる。今じゃなくて今日1日でもいいなら」


「でも今日は歩きまわる予定だから人前になるよ」


「いいよ、もう。50万人の前でキスしたしそれよりは少ないから」


「そうだね」


真白(ましろ)ってこういうとき、ホント意地悪なんだよね。条件はきいてくれるからいいけど。


「あれ?まだキスしてくれないの?」


「するよ。」


そう言って真白(ましろ)の首にキスをした。


「口にとは言ってなかったからいいよね?」


「うん」


正直、唇にキスをするよりも首にキスをする方が恥ずかしい。


 それから30分ほど温泉に浸かりながら話していたけどその間、真白(ましろ)にずっと抱きしめられていたからまだ心臓がドキドキしている。


 ロッカーで仕切られた所で分かれて着替えていると着替え終わった真白(ましろ)がこっちにやって来た。


「着替えてるんだけど」


「帯結んでもらおうと思って」


「いいけど」


私はなんとなく帯を結んだ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


咲久(さく)、新しい下着?」


「まあ、サイズが小さくなってきたから。」


「へえ」


「あんまりジロジロ見ないで。真白(ましろ)のエッチ」


そう言って浴衣を羽織ると真白(ましろ)がキスをした。


「知らなかったの?俺、咲久(さく)のことに関すると変態になっちゃうんだよ」


「知ってた。だからってその手はなに?」


葉山(はやま)さんは顔を埋めてたからせめて触らしてもらおうかなって」


「触りながら言うことじゃないよ」


「そうだね。」


真白(ましろ)


「ん?なに?」


「私はずっと真白(ましろ)のことが大好きだから心配しないでね」


私は笑顔で真白(ましろ)の手をとってそう言った。すると、真白(ましろ)は嬉しそうに笑って頷いた。


「というか、咲久(さく)。それ、プロポーズ?」


「え、や、そんなつもりじゃ。……でも真白(ましろ)となら結婚はしたいよ」


「俺も」


そう言って真白(ましろ)は私の浴衣の帯を結んでくれた。


「じゃあもう部屋に戻ろうか」


「うん」


 それから部屋に戻ると部屋のドアがノックされた。


 ドアを開けると千花(ちか)が立っていた。


咲久(さく)、なんか隣に亮太(りょうた)が寝てたんだけど!なんで!?」


千花(ちか)が飲みすぎて酔って五十嵐(いがらし)に気持ちを伝えていい感じだったから私はこっちに泊まったの」


「ホント!?ごめん、酔ったってことは私、咲久(さく)にキスしたりしてた?」


千花(ちか)がそう訊くと真白(ましろ)が私を抱きしめて頷いた。


咲久(さく)から今すぐ来てって連絡着て駆けつけたら丁度キスしてたから驚いた。しかも咲久(さく)の胸に顔を埋めてたし」


「それは酔ってなくてもします」


咲久(さく)、ホント?」


千花(ちか)が寂しくて泣いてたときとかは」


「ふ~ん。じゃあ俺が泣いたらしてくれるの?」


「泣かないじゃん。あ、千花(ちか)。私、部屋にメイクポーチ忘れたんだけど五十嵐(いがらし)ってまだ寝てる?」


「うん。でもそろそろ朝食行きたいし一緒に叩き起こそ」


千花(ちか)は笑って言った。笑顔で叩き起こすって怖っ。


 千花(ちか)に腕をひかれて部屋に入った。


「ホントに爆睡じゃん」


「でしょ。添い寝ドッキリしない?左に私が寝て右に咲久(さく)が寝るの」


千花(ちか)はスマホのカメラを動画モードにしながら言った。


「面白そう!いいよ」


私が隣に敷いていた布団に入ろうとめくると真白(ましろ)が入った。


咲久(さく)はダメ。俺が代わりに右側に寝るよ。葉山(はやま)さん、いいよね?」


「はい。咲久(さく)は動画撮ってて」


「いいよ」


 それから五十嵐(いがらし)のスマホのアラームのスヌーズが鳴って五十嵐(いがらし)は腕を伸ばした。


「おはよう、亮太(りょうた)

「おはよう、五十嵐(いがらし)


千花(ちか)真白(ましろ)が同時に言うと五十嵐(いがらし)は飛び起きた。


 私達3人はお腹を抱えて笑った。


「ちょっ、反応良すぎ。やばっ、おなか、痛い」


亮太(りょうた)、マジで面白すぎるんだけど」


「ドッキリなんだけどホントいい反応だった。咲久(さく)、撮れた?」


「うん。私、カメラマンになれるかも」


そう言って動画を再生すると千花(ちか)真白(ましろ)はさらに笑った。


「笑いすぎだ。これ考えたの千花(ちか)だろ?」


「うん。あ、咲久(さく)。後で動画送ってね」


小鳥遊(たかなし)、動画消して」


千花(ちか)に送ったから言われなくてももう消すよ」


千花(ちか)、欲しがってたピアス買うから消して」


「買わなくていいから消さない」


千花(ちか)は動画を見て笑いながら答えた。


「消さなかったらキスしない」


五十嵐(いがらし)がそう言うと千花(ちか)はフッと笑った。


「じゃあ咲久(さく)とする。ね、咲久(さく)


千花(ちか)が私の腕に抱きついてそう言って。


「あ~、うん」


そう言って千花(ちか)と顔を近づけると真白(ましろ)が私を、五十嵐(いがらし)千花(ちか)を自分の方に引き寄せた。


咲久(さく)、なに考えてるの?」


「冗談じゃん」


「いや、千花(ちか)小鳥遊(たかなし)は前科があるから信用できない」


五十嵐(いがらし)がそう言うと真白(ましろ)も大きく頷いた。


「2人ともひどっ。てか、真白(ましろ)には心配しないでって言ったじゃん」


「○○だから心配しないでって言ってた気がするんだけど○○ってなんて言ってたんだっけ?」


「~!メイクポーチあったし部屋に戻ってメイクしてくる!」


そう言って部屋に戻ると後からきた真白(ましろ)は壁ドンをした。


「答えてほしいな~」


「さっき言ったばっかりなのにもう忘れたの?」


「ううん。合ってるか確認しておこうと思って」


「だから、その。真白(ましろ)の、ことが、ずっと大好きだよって。あ、……愛してるよ」


そう言って真白(ましろ)から目を逸らして顔を隠すと沈黙が訪れた。バカだ私。言いすぎた~!引かれたよね。真白(ましろ)、固まってるし。もうどうしよう~!気まずい!


「きゅ、急に変なこと言ってごめんね。引くよね。喉渇いたし自販機で水買ってくる」


私がドアを開けようとすると真白(ましろ)が腕を掴んだ。


「俺もごめん。引いてた訳じゃなくて。嬉しすぎて聞き間違いかと思って反応出来なかった。」


「そ、か。あ、やっぱり忘れて!」


「忘れない。でも、もう1回言ってくれたら嬉しいな~」


「当分無理」


咲久(さく)、愛してる」


「し、知ってるし。水、買ってくるから!」


 私はそのまま走って宿の外の自販機に行った。やっぱり朝は人少ないな。てか、急に真顔で言ってくるとかずるい。


「こんなにドキドキしたの告白したとき以来かも。どんな顔したらいいの?部屋に戻りたくないな。」


自販機の前で独り言を呟いていると声を掛けられた。


「お姉さん、連れと喧嘩でもしたの?」


「なんで?」


「さっき、部屋に戻りたくないって言ってたから」


「喧嘩じゃないっていうか逆っていうか」


「ふ~ん。まあ、いいや。お姉さん美人だしちょっと遊ばない?」


「無理」


そう言って宿に入ろうとすると腕を掴まれた。振り払うと目の前にはたくさん男の人に囲まれた。

 どうしよう。2、3人なら勝てるけど10人以上はさすがに。


「ねえ、お姉さんの彼氏ってこの人」


そう言って男は玲音(れおん)くんの写真を見せた。


「いや、違いま」


「俺、昨日見たんだよ。全然人気のない場所でお姉さんとこいつが楽しそうに喋ってるところ」

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