大学2年生(冬)成人式
『咲久ちゃんを可愛いって言ってるのは皆お世辞だよ。咲久ちゃんは可愛くないよ』
小学生の頃、同じクラスの女の子に言われた。
『ホントだ。私の顔、全然可愛くないね』
手鏡を見て私はそう答えた得た。
『嫌みとか言うなよ。』
その女の子が答えると周りの子達も頷いた。
『心の中では自分は可愛いって思ってるんでしょ?』
小学5年生のときにクラスの半分以上の女の子に嫌われた。
見方になってくれたのはクラスの男の子で女の子達にはさらに嫌われることになる。
ピピピピ
スマホのアラームが鳴って手探りでスマホを見つけ出してアラームを止めた。
「はぁ、朝から嫌な夢見たな」
今日は、1月の第2月曜日。私の成人式だ。
今は6時前だ。私はお祖母ちゃんが振り袖の着付けをしてくれて七菜波ちゃんがヘアセットをしてくれるので他の人達よりは少しゆっくり寝れる。
リビングに降りると昨日の夜から泊まってくれていた(母方の)お祖母ちゃんがお母さんと一緒にご飯を作っていた。夜は皆でご飯を食べるので蒼空も昨日から家に泊まっている。
「お祖母ちゃん、おはよう」
「おはよう、咲久。ご飯もう出来るから莉久と海斗を起こしてきて。多分、蒼空は起きているだろうからね」
「うん。」
私が笑って頷くとお祖母ちゃんが私の元に歩いてきて私の頭を撫でた。
「成人式だっていうのに暗いわね。どうしたの?」
「ちょっと嫌な夢見ちゃって。でも大丈夫。」
「そう。でもあんまり暗い顔をしてると真白くんに心配させちゃうわよ」
お祖母ちゃんがそう言って笑った。
「うん。そうだね……って、なんで知ってるの!?」
「美久がSNSで活動してるよって教えてくれたのよ。真白くん、咲久のこと大好きね」
「いや、まあ、そうだと思うけど。もう、莉久とお父さんを起こしてくる!」
私はそう言って階段を掛け上がった。
皆で朝食を採って、私はメイクをした。七菜波ちゃんが家に来てヘアセットをしてくれた。お祖母ちゃんは振り袖の着付けをしてくれて、時間は9時頃になった。
「咲久、すごく綺麗よ。昔は美久にそっくりだったのが今は海斗にも少し似てるわね」
お祖母ちゃんがそう言って写真を1枚撮った。
「ほら見て。皆、咲久が綺麗になったって言ってるわよ」
お祖母ちゃんがメッセージアプリの画面を開いた。
「なにこれ。」
「ピアノ教室のお友達」
「いや、お世辞でしょ。」
「あら、そんなことないわよ。ね、お父さん」
お祖母ちゃんはお父さんを向いて言った。
「え、お父さん泣いてる?」
「泣いてねえ!」
お父さんは慌てて目をこすった。
「咲久、すごく綺麗だ」
「ありがとう」
その後、成人式に出席して、成人式が終わると中学校の頃の同級生に囲まれた。
「咲久ちゃん、いつも投稿見てるよ」
「ありがとう」
「小鳥遊、仁科先輩とやっと付き合ったんだな」
「まあ、高1のときからね」
「さらに美人になってる」
「そうかな?」
という風に皆に囲まれて中3のときのクラスみんなで写真を撮った。もちろん千花と一時帰国をしていた五十嵐も。
その後はお母さんとお父さんと写真を撮ってから千花と、体操を一緒にしていた友達と写真を撮って千花の元に戻ろうとしたとき小学校の頃の男子か話し掛けてきた。
「咲久、だよな?」
「えっと直哉と真人だよね?」
「そうそう。」
「覚えてくれてたんだ」
「5年生のときに庇ってくれたからね」
モテてる2人に庇われてさらに嫌われたことは黙っておこう。
「咲久ってSNSやってるよね?」
「そうだよ。」
「真白は今日来てる?」
「来てないよ。医学部だから忙しいだろうし。学校が休みの日ぐらいはゆっくりしてると思うよ」
「そっか。」
2人は少しシュンとして言った。そういえばこの2人はサッカーやってたから昔から真白に憧れてたな。
「直哉くん、真人くん。久しぶり!」
150cmぐらいの可愛い女の子が話し掛けてきた。
「石上さん、久しぶり」
直哉と真人が苦笑いを浮かべて言った。
「咲久ちゃんも久しぶり」
「由麻、ちゃん。久し、ぶり」
「相変わらず可愛くないね。メイクでちょっとマシになってるけど。身長も高すぎて女の子として終わってる。堂々と振り袖着られるとか恥ずかしくないの?」
由麻ちゃんがウフフと可愛らしく笑いながら言った。
「そんなこと言うなよ!」
直哉が声を荒げた。
「そうだ。俺らの友達の悪口言うなよ。しかも咲久は尊敬する先輩の彼女なんだぞ!」
真人も怒っていた。
「え~、でもホントじゃん。あ、自分のこと可愛いって思ってた?あれだもんね。SNSで写真とかアップしてるもんね」
「そういうわけじゃ。バイト代わりみたいな感じだし、私1人の自撮りとかを投稿してるわけじゃ」
「でも、咲久ちゃんみたいに可愛くもない子の写真見ても誰も面白くないよ。だからやめておいた方がいいよ。彼氏さんはかっこよかったけど多分無理してるから別れたほうが彼氏さんのためだよ」
由麻ちゃんは可愛い顔を歪ませて言った。
「そう、見えるのかな?」
ダメだ、泣くな。ここで泣いちゃダメだ。早く千花の所に戻ろう。
振り向こうとすると後ろから誰かに抱き寄せられた。
「咲久、成人おめでとう。直哉と真人もおめでとう」
顔をあげると真白が優しく微笑んでいた。
「「アザっす!」」
2人は嬉しそうに頭を下げた。真白は笑顔のまま視線を由麻ちゃんに移した。
「咲久が可愛くないってどういうこと?別れた方が俺のため?どうして?」
真白は笑顔できいていたけど由麻ちゃんはそれが怖かったのか黙りこんだ。
「っ……」
「なあ、答えろよ。咲久が可愛くない?そうだね。可愛いなんて言葉じゃ表せないからね。でも、別れた方が俺のためって言うのは聞き捨てならないな」
「いや、その」
由麻ちゃんは完全に怯えていた。
「直哉と真人が咲久と仲が良いのが気にくわなかったんだろ?でも安心しろよ。この2人はあくまでも俺の後輩で咲久の友達」
「でも、2人は咲久ちゃんが好きだったんじゃ」
由麻ちゃんはそう言って直哉と真人に視線を移した。
「いやいや、ないない。有り得ねえ」
真人がそう言うと直哉が頷いた。
「そんなに否定されるのはなんかムカつくんだけど」
私がキッと睨むと真白も頷いた。
「いやだって。咲久、怒るとマジで怖えし。無理だわ。まあ、石上さんよりはマシだけど」
直哉がそう言うと由麻ちゃんの顔が真っ赤になっていった。
「私の方が可愛いじゃん!」
「そうか?石上さんは可愛いと思うけど咲久の方が可愛いと思うぞ。まあ、彼女が一番可愛いけどな」
真人がそう言うと真白と直哉も頷いた。
「あっそ、話し掛けて損した」
由麻ちゃんが去ろうとすると3人が引き留めた。
「「「帰る前に咲久に謝れよ」」」
「っ!悪かったわよ!」
そう言うと由麻ちゃんは早歩きでこの場を立ち去った。
「真白、直哉、真人ありがとう。それにしても2人に彼女ができてたなんて意外。サッカーばっかで女子に興味ないと思ってた」
「いや、そんなことねえよ。彼女には一目惚れだったし。」
「何歳?」
「2つ年下。城崎高校の3年生の子なんだけど見た目がかっこ良くて女子にモテてるけどすごく可愛いんだ」
真人がそう言って笑った。
「なんて名前?」
「有馬蓮って子なんだけど。1つ年下の後輩の妹で会った日に一目惚れしてアタックしたんだ」
「その後輩って司って名前だったりする?」
「そうだけど。なんで知ってるんだ?」
私は2年前に皆でボーリングに行ったときの写真を見せた。
「え!知り合い!?」
「知り合いっていうか従兄弟。両親共に兄妹だから弟とは結構似てるでしょ?」
私が蓮と蒼空に指を指して言った。
「確かに。じゃあ今度、ダブルデートしようぜ」
「俺も一緒にいい?」
直哉が手を挙げて言った。真白と真人と顔を見合わせた。
「いいよ」
そう言うと直哉は嬉しそうに笑った。多分、小学校の同級生で友達と呼べる人はこの2人しかいないだろう。
それから直哉と真人は他の友達のところに行った。
「真白、来てくれてありがとうね。由麻ちゃんにビシッて言ってくれて嬉しかった。真白が来てくれてなかったら泣いちゃうところだったよ」
「どういたしまして。というか咲久にプレゼントがあって来たんだよね」
真白はそう言うと箱からネックレスを取り出した。
真白は首に手をまわしてネックレスを着けた。
「ありがとう。今から千花達のところ行くけど真白も一緒に行こ。それで写真撮ろう」
「うん」
私は真白の手を引いて千花と五十嵐の所に行った。
「五十嵐、久しぶり」
「お久しぶりです」
「千花も五十嵐も一緒に写真撮らない?」
「いいよ。亮太と仁科先輩は後ろに立ってくださいね。私は咲久と前で腕を組むんで」
「千花。今はあんまり真白のこと挑発しないで。さっきいろいろあったから」
「さっきの騒ぎって咲久だったの!?美女がイケメン3人に取り合われてるって」
「取り合われてないよ。小学校の頃の友達と喋ってたの。2人とも彼女いるし真白と同じサッカーチームだったからよく皆でサッカーしたの。まあ、小学校の頃の友達はその2人だけなんだけどね」
私がそう言うと真白が付け足した。
「咲久を可愛くないなんて言ってくる子がいてムカついて皆でキレちゃったらちょっとした誤解を招いたみたいだね」
「はあ!?咲久が可愛くないなら誰が可愛いって言うんですか!?その人、眼科いや、脳外科行った方がいいんじゃないですか?」
「やっぱり葉山さんもそう思うよね?謝り方も雑だったし」
「2人とも!写真!撮らないの?」
「撮る」
「撮るよ!」
そのやり取りを見ていた五十嵐が吹き出した。
「小鳥遊と千花と先輩ってなんか芸人みたいだな」
「私まで入れないでよ。もう写真撮るからね」
私はカメラを内側にして撮った。
「後で送るね」
「うん、ありがとう。それよりさ、気になってたんだけどそのネックレス。さっき着けてなかったよね?」
千花がニヤニヤとして言った。
「真白がくれたの。」
「あ!先輩、スーツからチェーン見えてますよ」
五十嵐が真白の首に視線を移した。
「あ、マジ?実は俺もペアの作ってたんだよ。」
「そうなの?あ、だから結構大人っぽいデザインなんだ。」
「まあね」
それから神社に行ってから家の前で皆で写真を撮って着物を脱いで着替えた。
「じゃあね」
真白が手を振って歩いて行った。
「真白!」
私が真白を追いかけて手を掴んだ。
「あのさ、今日はありがとう。」
「うん」
「あとさ、スーツ似合ってる。カッコいいよ。……じゃあね」
私がそう言って後ろを向くと真白が腕を引いて抱きしめた。
「ありがとう。咲久も振袖すごく似合ってて綺麗だった。じゃあおやすみ」
「いや、おやすみって言うなら離してくれないと」
「もう少しだけ。しばらく会えてなかったから。」
そういえば2週間くらい会ってなかったな。今日、来てくれたのが嬉しすぎて忘れてた。
「じゃあ、また今度」
真白はそう言って微笑んで手をふった。
なんでだろうな。真白に好きって言われたわけじゃないのにハグから好きって気持ちがすごく伝わってきてドキドキしたし嬉しかった。
「咲久姉?」
「わ!颯、どうしたの?」
「いや、なんかボーッとしてたから。こんな道路の真ん中で立ち止まってたら車に轢かれんぞ」
「そうだね。ありがとう」
「どういたしまして。」
「ねえ、颯。カフェ行かない?」
「カフェ?」
「うん。私の友達の働いてるカフェ。息抜きにどうかなって。葵と翔は勉強しないと危ないけど颯はレベル落としてるでしょ?」
「まあ、そうだけど。奢り?」
「いいよ」
「よっしゃ。じゃあ来週の土曜に呼びに来て」
「うん」
「約束だからな」