大学2年生(秋)
それから、丸一年、私は短大の2年生になった。
卒業したら一人暮らしをしようと思っていたけど真白が一緒に住もうと言ってくれたので2人でお金を貯めることにした。
でも、真白は医学部ということもあり、バイトをするのは大変だろうから私が掛け持ちをしようとしたら真白はある提案をした。
「去年、街に行ったときに芸能プロダクションの人にスカウトされたことがあったでしょ?」
「玲音くんのとこの?」
「そうそう。それで、SNSやってみる?」
「私はいいけど。真白から言ってきたのになんでそんな表情をしてるの?」
真白は苦渋の決断とでもいうかのような顔をしていた。
「いや、咲久の可愛さを全世界の人が知っちゃうのは嫌だなって」
「私は逆に真白のことを自慢したいけど。私の彼氏かっこいいでしょって。でも真白が嫌ならもう少しバイトしないと2人じゃ住めないと思うよ」
「そうだね。でも電話する前に海斗さんと美久さんにも話さないとね」
「そうだね。今日は多分帰ってくるのが遅いと思うから明日の朝に話しておくよ」
「じゃあ一応名刺も渡しておく?」
「うん。ありがと」
私は真白からスカウトマンの名刺を受け取った。
それから5ヶ月、私はなんと家具のデザインコンテストで最優秀賞になって来年からお父さんとお母さんの会社で働くことになった。
SNSの方は、少しずつ動画や写真を視聴回数が増えていって今のフォロワー数は10万人になった。
「見て!真白のことかっこいいって言ってくれてるよ」
「俺達みたいになりたいって」
「ホントだ。なんか本当に芸能人になったみたい」
「そうだね。それに写真とか動画の撮影を口実に咲久に会えるから嬉しい」
「私も。でも勉強とか忙しいのに無理してない?」
「してないよ。咲久こそ会っても勉強ばっかりで飽きたりしてない?」
「全然。真白といるだけで楽しいから。それに勉強してる真白の横顔がかっこ良すぎてずっと見れるもん。」
そう言って笑ってみせると真白は顔を背けた。
「あれ?照れてる?真白って意外と言葉攻めに弱いよね?」
「違うよ。咲久の笑顔に弱いんだよ」
真白はそう言って私の頬を片手で挟んだ。
「その表情で何人落としてきたの?」
「どうやって顔で人を突き落とすの?」
そう訊くと真白はため息をついた。そしてキスをした。
「俺もその一人なんだけど。まあ俺は底なし沼に落とされたけど」
真白、沼にはまったことあるのかな?でもあんまりいい想い出じゃないだろうし掘り下げない方がいいよね。
「そういえばさ、今度ゆずちゃんとお茶するんだ。だから新しい服買ったんだけど見てみて」
私はクローゼットを開けて真白に秋カラーのワンピースを見せた。ちなみにゆずちゃんは真白のお姉さんだ。
「可愛い。せっかくだし写真撮らせてくれない?」
「いいよ。あ、でもさすがに恥ずかしいから外出ててくれない?」
「は~い」
真白はそう言って部屋を出てドアを閉めた。
私はワンピースに着替えてシュシュで軽く結ってみた。ちなみに私は大学デビューと言うわけではないがメイクをするようになった。
「いいよ」
そう言うとドアが開いた。
「どうかな?歩と千花が選んでくれたんだけど」
「すごく似合ってる。あ、写真とるからそこ目線こっちね」
そう言って真白は写真を撮った。
「写真アップしてもいい?」
「綺麗に撮れてたらいいよ」
「咲久はどんなに下手なカメラマンが撮っても絶対綺麗に写る」
そう言って真白はハッシュタグを付けた。
#彼女
#秋コーデ
#世界一可愛い
「世界一とか真白にとってはそうでも他の人にとっては違うよ」
「俺にとっては世界一なんだからいいでしょ」
真白がそう言って写真をアップするとすぐにコメントがついた。
「ほら!世界一可愛いって言ってるけど」
「お世辞だよ」
「そうかな?」
「そうそう」
「じゃあ写真も撮ったし甘えてもいい?」
真白はそう言って私を抱きしめた。
「訊く前に甘えてるじゃん」
「こんなの甘えてるに入らないよ」
真白はそう言ってキスをした。
「もう付き合って4年目だよ。そんなに照れないでも」
「だって真白、急にキスしてくるし。てか、今日は家に莉久もお母さんもいるんだよ」
「そうだった。忘れてた。」
真白はそう言ってキスをした。真白はそのままベッドに押し倒した。
「全然分かってないじゃん」
「無意識だった。ヤバい。我慢できなくなるから今度な」
真白はそう言って体を起こした。てか今度っていつ!?それに急に口調が変わったし。
「そんな可愛い顔で見上げんなよ。我慢出来なくなるだろ」
「だって、真白が口調を変えたりするから」
「いや、友達とかの前だとこの口調だから。この喋り方は嫌か?」
「嫌じゃないけど。いつもよりカッコ良く感じて緊張するっていうか」
「それなら良かった。」
真白はそう言って微笑んだ。
1週間後、久しぶりにゆずちゃんと近くのカフェに行く。
「ゆずちゃん、久しぶり」
「久しぶりだね、咲久ちゃん」
「うん!」
「お茶しようって言ってたんだけどいい紅茶もらったからうちでもいい?ケーキ奢るから」
「いいの!?やった~」
それから近くのケーキ屋さんでケーキを4つ買ってゆずちゃんと亮介くんの家に行った。
玄関にはヒールが置いてあった。
「お客さん来てるの?」
「うん、まあね。手を洗ったら気にせずあがって」
「うん」
私は洗面所で手を洗ってリビングに行った。
「お邪魔しま~す」
「咲久ちゃん。こんにちは」
ゆずちゃんの夫の亮介くんが双子のお姉ちゃんの愛理ちゃんを抱っこしながら言った。
隣で弟の海里くんを抱っこしている女性がお客さんなのかな?
「咲久ちゃん、その人は亮介のお姉さんの凛さん。」
ゆずちゃんはそう言って手のひらを向けた。
「……え、天宮先生ですか?」
「そうだよ~。天宮先生で~す」
そう言って海里くんをゆずちゃんに預けて私の元まで歩いてきた。
「ゆずちゃんの幼馴染みの小鳥遊咲久です。あの、毎回新作の映画観に行ってます!」
「ありがとう。私は天宮凛。」
「私、先生の映画観たとき、いつも感動して号泣するんです」
「ありがとう」
天宮先生が微笑んで言った。ホントに綺麗な人だな。近くで見るとさらに綺麗。
「咲久ちゃんは弟の彼女なんだよ」
「そうなの?じゃあ将来は親族だね。私のことは凛でいいよ。この家に天宮5人もいるし。」
「じゃあ私のことも咲久って呼んでください」
「分かった。じゃあ早速インタビューさせて。咲久はいつ真白くんと付き合ったの?」
「私が高1で真白が高2の秋ごろです。ちょうど4年前頃です」
「結構前からなんだね」
「そうですね。」
私がそう言うとゆずちゃんはすごく驚いた顔をした。
「そんなに前からだったの!?じゃあ真白は3年も私に隠してたってこと?」
「多分。ゆずちゃんに言ったら色々訊かれると思ったんだと思う」
そう言うと凛さんがインタビューを再開した。
「告白はどっちから?」
「私からです。体育祭の次の日に真白の家に行って」
「じゃあキスは?いつした?」
凛さんがそう訊くとゆずちゃんもいつなの?と訊いてきた。
「付き合う前、口の横辺りに真白にキスされたことがあって」
そう言うとゆずちゃんは笑顔のままスマホを開いた。そして誰かに電話を掛けてスピーカーにした。
『何?咲久とお茶してるんじゃないの?』
電話の相手は真白だった。
「真白、咲久ちゃんと付き合う前にキスしたってホント?」
『なんで知ってるの?』
「凛さんが来てて家で咲久ちゃんにインタビューしてたの。」
『あ~、それで。で、それがどうかしたの?』
「なんでそんなに面白いこと黙ってたのかなって」
『面白いっていうか、後輩に告白されて断ってもずっとされてたから咲久と付き合ってるってウソついたらキスしろって言われたからしただけなんだけど。それに咲久に迷惑掛けたし』
電話越しの真白が少し早口で言った。それを聴いたゆずちゃんはニヤッと笑った。
「へえ。じゃあそのときにキスしろって言われて内心ちょっと喜んだりしなかった?」
ゆずちゃんは楽しそうに訊いた。
『……』
「図星?」
『喜んだか喜んでないかで言ったらまあ、喜んだけど』
「だって咲久ちゃん」
『咲久!?聴いてたの!?』
「スピーカーだからね」
ゆずちゃんはそう言ってスピーカーを切って私に携帯を渡した。
今会話するのめっちゃ気まずいんだけど。
「えっと、もしもし」
『ごめん!』
「なにが?」
『だから、付き合う前にキスしたとき正直嬉しかったんだ。それを口実に咲久に意識してもらえるって迷惑掛けたのに最低だよね』
「迷惑じゃないって言ったでしょ。そんなこと言ってたらまた罰ゲームだよ」
『それはやだな』
「そうじゃないと罰ゲームにならないからね。」
『咲久、好きだよ』
携帯を耳に当てていたから耳元で聴こえて驚いた。
「なに急に。ゆずちゃんに代わるから」
私はそう言ってゆずちゃんにスマホを渡した。
「真白、なに言ったの?」
ゆずちゃんは真白に訊いていたけど答えないんだろうな。
少し話してゆずちゃんは電話を切った。
「そういえばさっき言ってた罰ゲームってなに?」
「真白が大丈夫って言ってるのにずっと謝ってくるからそんなことしたら次に合うときは1日、真白からは絶対に恋人っぽいことをしたらダメってやつ」
「なにそれ。面白そう。亮介もお弁当出し忘れたら罰ゲームね」
ゆずちゃんが楽しそうに言った。
「出し忘れたら自分で洗うからそれだけはやめて」
亮介くんは愛理ちゃんと一緒になって涙目。
「ゆず、お腹すいたって」
「は~い」
そう言ってゆずちゃんは布を被った。
「それなに?」
「授乳ケープだよ。見えないようにするやつ。私は別にいいんだけど一回、宅配便が来て急いでてそのまま出そうになって以来、亮介が買ってくれたの」
「柚希あんた、もう少し自分を大切にしなさい」
「さすが姉弟!凛さんも亮介と同じこと言ってる」
ゆずちゃんがそう言うと亮介くんも凛さんも同時にため息をついた。
愛理ちゃんと海里くんが寝て皆でお茶をした。
「美味しい。」
「ホントにね。あ、そういえば咲久。付き合ってからキスしたのっていつ?高校生ってどれぐらいでするの?」
凛さんが紅茶を飲みながら訊いた。私は食べていたケーキを急に飲み込んだせいかむせてしまった。
「普通じゃないと思うんですけど。付き合った日……というか付き合うってなった直後です。」
私はそのときのことを思い出して顔が熱くなるのが分かった。
「藤森さんのいるときに!?」
「そんなわけないじゃん!そもそも藤森さんが帰って真白の部屋で話があるって言ったら怒られたし。男と部屋で2人きりになるなとかなんとか」
「漫画みたいだね~。いいね、初恋同士」
「ゆずちゃんの初恋って確か夏目漱石だったよね?」
「そうそう。だから英語教師になろうと思ったんだし」
ゆずちゃんがそう言うと亮介くんと凛さんは目をパチパチさせた。
「言ってなかったの?教師を目指すきっかけになった人なのに」
「まあ、付き合ってすぐだったしそれを言ったらドン引きされて元カレはみんな別れようって言ってきたし。まあ今は気にせず言えるけどね」
ゆずちゃんは少し苦笑いを浮かべて言った。
「ゆずって元カレとかいたの?」
「そっちも言ってなかったんだ」
「言わなくても分かるかなって。もう顔も忘れちゃった人達だし。あ、でも1人覚えてる人いた」
「え!誰!?」
「上本くんって子」
そういえば真白の友達にも上本鈴音さんって人がいたな。
「同窓会できいたんだけど俳優やってるんだって。芸名なんて言うんだっけな。谷本玲音だっけ?本名とあんまり変わんなかった気がするんだけど知ってる?」
ゆずちゃんはそう言って首を傾げた。
「知ってるもなにも私、大ファンだよ。最近めっちゃ人気なのに」
「何歳?」
「ゆずちゃんの2つ上の28歳」
「一緒だ。じゃあ、モテそう?」
「うん!」
「じゃあ同姓同名の別人だよ。上本くんってちょっとぽっちゃりだったもん。マスコットみたいで人気だったけど」
ゆずちゃんはアルバムを出して言った。
「ホントだ。でもほくろの位置が一緒だよ。」
私がスマホのロック画面を見せた。
「ホントだ。しかも2つも。あ、でも元演劇部だったから俳優はそんなに意外じゃないかも」
ゆずちゃんが頷きながら言った。
「ゆず、地元が一緒だったら谷本玲音くんと再会したりしない?」
亮介くんが訊いた。
「そんな心配しなくてもいいよ。別れた理由がやっぱり友達だねってなったからだもん。友達に相性いいから付き合ってみたらって言われてお試しって感じだったし付き合った期間も1ヶ月ぐらいだし」
ゆずちゃんはそう言ってニッコリと微笑んだ。
「それに私、顔がカッコいいだけじゃ好きにならないよ。弟2人とか幼馴染みが美形だからそれ以上の美形の人に会ったことないし」
「それもそうだね」
そう言って亮介くんは微笑んだ。
それからケーキを食べ終えてお皿の片付けを終えて家に帰った。
「今日はありがとう。凛さんにも会えて嬉しかったです」
「あたしも咲久と知り合えて嬉しい。よかったら連絡先教えてくれない?」
「はい!」
凛さんと連絡先を交換して家に帰った。
ハァー幸せ。憧れの天宮先生に会えるなんて夢みたい。私、ちゃんと会話出来てたかな?
翌週、真白と久々に外デート。遊園地に行く。
「今日は私が運転しようか?真白、いつも運転してくれてるし」
「じゃあ行きは頼もうかな。帰りは俺が運転するよ」
「帰りの方が疲れるのに。真白、勉強で疲れてるんだから今日ぐらいは羽を伸ばしていいのに」
「咲久と喋りながら運転するの好きなんだけどな。」
「まあ、それなら」
私が頷くと真白は微笑んだ。
カチューシャはたくさん溜まってしまったので家から持っていくことにした。
それから遊園地に着いた。
「とうちゃ~く!」
「疲れてない?」
「大丈夫大丈夫。早く中に入ろう」
そう言って真白の手を引いてチケットを買って遊園地の中に入った。
キャロットちゃんの家の前で真白と写真を撮ってアップした。
「ここにキャロットちゃんいないね」
「じゃあ探す?」
「ううん。まわって見つけたら一緒に写真を撮ってもらう」
「そっか」
私は大きく頷いて真白の手を繋いだ。
「今日は息抜きだからたくさん楽しもう」
「そうだね」
真白はそう言うとコツンと私の額に額を当てた。
「チュロス食べたい。買いに行こ」
「うん」
チュロスを買って食べているとどこかの高校の制服を着た女の子が話し掛けてきた。
「“ましさく”ですよね?」
ましさくとはスカウトマンだった池上さん、
が付けた名前だ。まんまだよね。
「そうだよ」
私が頷くと2人はキャアッと声をあげた。
「フォローしてます!一緒に写真とっても撮ってくれますか?」
「いいけどアップしないでね。皆に撮りたいって言われたら咲久とデート出来なくなっちゃうから」
「もちろんです!」
そう言うと2人はキャストさんにスマホを渡した。
写真を撮ると2人はお礼を言って去っていった。
「こんな日がくるなんて思わなかった。」
「俺も」
真白と顔を見合わせて笑った。
それからモンスターを倒していくアトラクションやキャラクター達のお家で写真を撮ったり、最近できたばかりの、宇宙をテーマにした斬新なジェットコースターに乗った。
「そろそろお昼ご飯食べる?」
「そうだね。レストランの方行く?」
「ううん。さっき売ってたバーガー食べたい」
「俺も。買いに行こうか」
真白はそう言って微笑んだ。なんか、この感じ
「今日はお兄ちゃんの日?すごいお兄ちゃんって感じ」
そう言うと真白は笑顔のままだけど目が笑っていなかった。
「咲久、それはどういう意味かな?」
「だってそう見えたんだもん。」
そう言うと真白は私にキスをした。
「お兄ちゃんに見える?」
真白は顔を近付けてニヤッと笑って言った。
「……全然見えないです。だから離れて」
「やだな。離れたら咲久がお兄ちゃんみたいって思っちゃうかもしれないし」
「もう思わないよ。キスされた後にお兄ちゃんみたいなんて思えないよ」
私が見上げて言うと真白はもう一度キスをしてニコッと笑った。
「良かった。次言う度にキスの数増えるからな。唇が腫れるぐらいは覚悟しとけよ」
悪戯っぽく笑う真白とは裏腹に私は顔に熱が上って行くのが分かった。急に口調変えてくるのずるいよ。
「咲久、そんな可愛い顔して見上げないでよ。遊園地じゃなかったらヤバかったんだけど」
真白はそう言って目を手で覆って背けた。
「真白が急に口調変えてくるからだよ。」
私が真白の顔に手を当てると少し熱かった。
「真白、こっち向いて」
真白は私の顔を見た瞬間にキスをした。
「ご飯食べに行こ」
「こんな顔で買いに行きたくない。ベンチで座ってるから買ってきて」
「りょーかい」
真白は笑いながらそう言った。
ホント、真白ってすぐにキスしてくるよね。私からしようと思ってたのに。
ベンチに座って思い出しては照れてを繰り返していた。
「あの」
同い年ぐらいのカップルが話し掛けてきた。スポーティーな彼女さんはカッコいい系だったのでパッと見は男の子に見えてしまった。
「はい」
「ましさくの咲久ですよね?」
「うん」
「大ファンです!よかったら一緒に写真撮ってください」
そう言うと2人は頭を下げた。
「いいけど、真白が戻ってきてからの方が良くない?」
「はい」
「今、ご飯買ってきてもらってる所だからそろそろ来ると思うんだけど」
喋っていると真白が走ってきて私の腕を引いて抱きしめた。
「咲久は俺の彼女なので!」
「ちょっと真白、この人達はナンパじゃなくてファンだって。それに」
私が言う前に彼女さんが
「私は女です。男装が好きで服装がメンズなだけで」
真白はそれをきいて慌てて謝った。
「すみません!俺、咲久がナンパされてるのかと思って」
「いえ、本当に大好きなんだなって伝わってきました」
彼氏さんがそう言うと真白はホッとしたように笑った。
「写真、一緒に撮ろうって話してたんだけど真白もいい?」
「うん、いいよ。でもアップはしないでね。咲久とデート中なのに皆に場所がバレたら咲久のファンが押し寄せるかも」
「大袈裟な」
私がそう言うと2人は笑った。
それから彼氏さんが自撮り棒を取り出してスマホを付けて写真を撮った。
「ありがとうございます」
そう言って2人は去っていった。
「真白、ナンパじゃないって分かったんだからそろそろ離してくれない?」
「咲久って抱き心地いいからつい抱きしめちゃうんだよね。じゃあ座って食べようか」
真白がビニール袋を上にあげて言った。
ご飯を食べ終えてパレードに行くと何人かに声を掛けられた。
「写真撮ってもいいですか?」
「一緒に撮らなくてもいいの?」
「はい!お2人だけの写真がほしいので」
「私はいいよ。真白は?」
「俺も。」
そう言うとパシャパシャと写真を撮る音が聞こえた。
「記者会見?」
「確かに似てるね。咲久と付き合ってます。みたいな?」
真白は笑いながら言った。
写真を撮り終えてファンの子達は手を振ってどこかに行った。
「咲久、キャロットちゃん来たよ」
「ホントだ!お~い!」
大きく手を振っていると真白が隣で笑っていた。
「なに笑ってるの?」
「いや、可愛いなって」
「子供っぽいとか思ってるんでしょ?」
「そんなことないよ。普段となギャップでキャロットちゃん大好きではしゃぐとか可愛いって思っちゃうでしょ。」
真白が頬っぺたをツンツンしながら言った。
「分かんないよ。真白がはしゃいでる所なんて小学生以来見たことないし。それに真白はずっとカッコいいから可愛いなんて思える暇がない」
そう言って真白を見上げた。
真白は目を逸らしてキャロットちゃんの写真を撮っていた。昔の私なら嫌われたのか不安だったと思うけど今の私は違う。真白の耳が真っ赤になっているのに気が付いた。
でも、目を逸らされたのはちょっとムカつくなぁ。あ、そうだ!ちょっとイタズラしちゃおう……。
パレードが終わって夕方まで遊んでお土産を買って車に乗った。
荷物を置いて助手席に座ると真白がキスをしてきた。
「咲久ちゃん?なんで午後から手を繋ごうとしても繋がせてくれなかったの?目も合わせてもすぐに逸らすし」
うわ、笑顔でちゃん付けとかマジギレだ。でも仕方ないよね?
「真白が目を逸らしたからだよ。だからちょっとイタズラしちゃおうと思って」
「イタズラにはお仕置きがついてくるんだよ。そうだ。咲久、首にかかってる髪の毛よけて。」
「え、なんで?」
「いいから」
私が首から髪の毛をよけると真白が首にキスをした。てか、なんか吸ってる?
「もういいよ」
真白がそう言って前を向いてシートベルトをしめた。
もしかして……。慌てて手鏡を出して見ると首にキスマークが付いていた。
「真白、これ家に帰ってお父さん達に見られたらなんて言ったらいいの?それに今度の日曜日、蒼空と伊吹と買い物に行くのに」
「それまでには消えてるよ。海斗さんに見られたら俺にやられたって言えばいいよ」
「無理に決まってんじゃん。てか、真白以外ありえないし」
「そうだね。ごめん、咲久がやっぱり人気だなって実感しちゃって」
真白は私の首に手を当てて言った。
「別に謝らなくても。嫌だったわけじゃないし。蒼空達には見られないようにタートルネックの服着てけばいいし、髪の毛下ろしてたらバレないだろうし」
慌てて言うと真白はホッとしたように笑った。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
そう言って真白はエンジンをかけた。
私は車が走り出してすぐに寝てしまった。
ねえ、真白。いつも守ってくれてありがとね。私も真白のことを守れるように強くなるね。
「大好きだよ、真白」