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大学2年生(秋)


 それから、丸一年、私は短大の2年生になった。


 卒業したら一人暮らしをしようと思っていたけど真白(ましろ)が一緒に住もうと言ってくれたので2人でお金を貯めることにした。


 でも、真白(ましろ)は医学部ということもあり、バイトをするのは大変だろうから私が掛け持ちをしようとしたら真白(ましろ)はある提案をした。


「去年、街に行ったときに芸能プロダクションの人にスカウトされたことがあったでしょ?」


玲音(れおん)くんのとこの?」


「そうそう。それで、SNSやってみる?」


「私はいいけど。真白(ましろ)から言ってきたのになんでそんな表情をしてるの?」


真白(ましろ)は苦渋の決断とでもいうかのような顔をしていた。


「いや、咲久(さく)の可愛さを全世界の人が知っちゃうのは嫌だなって」


「私は逆に真白(ましろ)のことを自慢したいけど。私の彼氏かっこいいでしょって。でも真白(ましろ)が嫌ならもう少しバイトしないと2人じゃ住めないと思うよ」


「そうだね。でも電話する前に海斗(かいと)さんと美久(みく)さんにも話さないとね」


「そうだね。今日は多分帰ってくるのが遅いと思うから明日の朝に話しておくよ」


「じゃあ一応名刺も渡しておく?」


「うん。ありがと」


私は真白(ましろ)からスカウトマンの名刺を受け取った。


 それから5ヶ月、私はなんと家具のデザインコンテストで最優秀賞になって来年からお父さんとお母さんの会社で働くことになった。

 SNSの方は、少しずつ動画や写真を視聴回数が増えていって今のフォロワー数は10万人になった。


「見て!真白(ましろ)のことかっこいいって言ってくれてるよ」


「俺達みたいになりたいって」


「ホントだ。なんか本当に芸能人になったみたい」


「そうだね。それに写真とか動画の撮影を口実に咲久(さく)に会えるから嬉しい」


「私も。でも勉強とか忙しいのに無理してない?」


「してないよ。咲久(さく)こそ会っても勉強ばっかりで飽きたりしてない?」


「全然。真白(ましろ)といるだけで楽しいから。それに勉強してる真白(ましろ)の横顔がかっこ良すぎてずっと見れるもん。」


そう言って笑ってみせると真白(ましろ)は顔を背けた。


「あれ?照れてる?真白(ましろ)って意外と言葉攻めに弱いよね?」


「違うよ。咲久(さく)の笑顔に弱いんだよ」


真白(ましろ)はそう言って私の頬を片手で挟んだ。


「その表情(かお)で何人落としてきたの?」


「どうやって顔で人を突き落とすの?」


そう訊くと真白(ましろ)はため息をついた。そしてキスをした。


「俺もその一人なんだけど。まあ俺は底なし沼に落とされたけど」


 真白(ましろ)、沼にはまったことあるのかな?でもあんまりいい想い出じゃないだろうし掘り下げない方がいいよね。


「そういえばさ、今度ゆずちゃんとお茶するんだ。だから新しい服買ったんだけど見てみて」


私はクローゼットを開けて真白(ましろ)に秋カラーのワンピースを見せた。ちなみにゆずちゃんは真白(ましろ)のお姉さんだ。


「可愛い。せっかくだし写真撮らせてくれない?」


「いいよ。あ、でもさすがに恥ずかしいから外出ててくれない?」


「は~い」


真白(ましろ)はそう言って部屋を出てドアを閉めた。


 私はワンピースに着替えてシュシュで軽く結ってみた。ちなみに私は大学デビューと言うわけではないがメイクをするようになった。


「いいよ」


そう言うとドアが開いた。


「どうかな?(あゆ)千花(ちか)が選んでくれたんだけど」


「すごく似合ってる。あ、写真とるからそこ目線こっちね」


そう言って真白(ましろ)は写真を撮った。


「写真アップしてもいい?」


「綺麗に撮れてたらいいよ」


咲久(さく)はどんなに下手なカメラマンが撮っても絶対綺麗に写る」


そう言って真白(ましろ)はハッシュタグを付けた。


#彼女

#秋コーデ

#世界一可愛い


「世界一とか真白(ましろ)にとってはそうでも他の人にとっては違うよ」


「俺にとっては世界一なんだからいいでしょ」


真白(ましろ)がそう言って写真をアップするとすぐにコメントがついた。


「ほら!世界一可愛いって言ってるけど」


「お世辞だよ」


「そうかな?」


「そうそう」


「じゃあ写真も撮ったし甘えてもいい?」


真白(ましろ)はそう言って私を抱きしめた。


「訊く前に甘えてるじゃん」


「こんなの甘えてるに入らないよ」


真白(ましろ)はそう言ってキスをした。


「もう付き合って4年目だよ。そんなに照れないでも」


「だって真白(ましろ)、急にキスしてくるし。てか、今日は家に莉久(りく)もお母さんもいるんだよ」


「そうだった。忘れてた。」


真白(ましろ)はそう言ってキスをした。真白(ましろ)はそのままベッドに押し倒した。


「全然分かってないじゃん」


「無意識だった。ヤバい。我慢できなくなるから今度な」


真白(ましろ)はそう言って体を起こした。てか今度っていつ!?それに急に口調が変わったし。


「そんな可愛い顔で見上げんなよ。我慢出来なくなるだろ」


「だって、真白(ましろ)が口調を変えたりするから」


「いや、友達とかの前だとこの口調だから。この喋り方は嫌か?」


「嫌じゃないけど。いつもよりカッコ良く感じて緊張するっていうか」


「それなら良かった。」


真白(ましろ)はそう言って微笑んだ。


 1週間後、久しぶりにゆずちゃんと近くのカフェに行く。


「ゆずちゃん、久しぶり」


「久しぶりだね、咲久(さく)ちゃん」


「うん!」


「お茶しようって言ってたんだけどいい紅茶もらったからうちでもいい?ケーキ奢るから」


「いいの!?やった~」


 それから近くのケーキ屋さんでケーキを4つ買ってゆずちゃんと亮介(りょうすけ)くんの家に行った。


 玄関にはヒールが置いてあった。


「お客さん来てるの?」


「うん、まあね。手を洗ったら気にせずあがって」


「うん」


 私は洗面所で手を洗ってリビングに行った。


「お邪魔しま~す」


咲久(さく)ちゃん。こんにちは」


ゆずちゃんの夫の亮介(りょうすけ)くんが双子のお姉ちゃんの愛理(あいり)ちゃんを抱っこしながら言った。


 隣で弟の海里(かいり)くんを抱っこしている女性がお客さんなのかな?


咲久(さく)ちゃん、その人は亮介(りょうすけ)のお姉さんの(りん)さん。」


ゆずちゃんはそう言って手のひらを向けた。


「……え、天宮(あまみや)先生ですか?」


「そうだよ~。天宮(あまみや)先生で~す」


そう言って海里(かいり)くんをゆずちゃんに預けて私の元まで歩いてきた。


「ゆずちゃんの幼馴染みの小鳥遊(たかなし)咲久(さく)です。あの、毎回新作の映画観に行ってます!」


「ありがとう。私は天宮(あまみや)(りん)。」


「私、先生の映画観たとき、いつも感動して号泣するんです」


「ありがとう」


天宮(あまみや)先生が微笑んで言った。ホントに綺麗な人だな。近くで見るとさらに綺麗。


咲久(さく)ちゃんは弟の彼女なんだよ」


「そうなの?じゃあ将来は親族だね。私のことは(りん)でいいよ。この家に天宮(あまみや)5人もいるし。」


「じゃあ私のことも咲久(さく)って呼んでください」


「分かった。じゃあ早速インタビューさせて。咲久(さく)はいつ真白(ましろ)くんと付き合ったの?」


「私が高1で真白(ましろ)が高2の秋ごろです。ちょうど4年前頃です」


「結構前からなんだね」


「そうですね。」


私がそう言うとゆずちゃんはすごく驚いた顔をした。


「そんなに前からだったの!?じゃあ真白(ましろ)は3年も私に隠してたってこと?」


「多分。ゆずちゃんに言ったら色々訊かれると思ったんだと思う」


そう言うと(りん)さんがインタビューを再開した。


「告白はどっちから?」


「私からです。体育祭の次の日に真白(ましろ)の家に行って」


「じゃあキスは?いつした?」


(りん)さんがそう訊くとゆずちゃんもいつなの?と訊いてきた。


「付き合う前、口の横辺りに真白(ましろ)にキスされたことがあって」


そう言うとゆずちゃんは笑顔のままスマホを開いた。そして誰かに電話を掛けてスピーカーにした。


『何?咲久(さく)とお茶してるんじゃないの?』


電話の相手は真白(ましろ)だった。


真白(ましろ)咲久(さく)ちゃんと付き合う前にキスしたってホント?」


『なんで知ってるの?』


(りん)さんが来てて家で咲久(さく)ちゃんにインタビューしてたの。」


『あ~、それで。で、それがどうかしたの?』


「なんでそんなに面白いこと黙ってたのかなって」


『面白いっていうか、後輩に告白されて断ってもずっとされてたから咲久(さく)と付き合ってるってウソついたらキスしろって言われたからしただけなんだけど。それに咲久(さく)に迷惑掛けたし』


電話越しの真白(ましろ)が少し早口で言った。それを聴いたゆずちゃんはニヤッと笑った。


「へえ。じゃあそのときにキスしろって言われて内心ちょっと喜んだりしなかった?」


ゆずちゃんは楽しそうに訊いた。


『……』


「図星?」


『喜んだか喜んでないかで言ったらまあ、喜んだけど』


「だって咲久(さく)ちゃん」


『咲久!?聴いてたの!?』


「スピーカーだからね」


ゆずちゃんはそう言ってスピーカーを切って私に携帯を渡した。


 今会話するのめっちゃ気まずいんだけど。


「えっと、もしもし」


『ごめん!』


「なにが?」


『だから、付き合う前にキスしたとき正直嬉しかったんだ。それを口実に咲久(さく)に意識してもらえるって迷惑掛けたのに最低だよね』


「迷惑じゃないって言ったでしょ。そんなこと言ってたらまた罰ゲームだよ」


『それはやだな』


「そうじゃないと罰ゲームにならないからね。」


咲久(さく)、好きだよ』


携帯を耳に当てていたから耳元で聴こえて驚いた。


「なに急に。ゆずちゃんに代わるから」


私はそう言ってゆずちゃんにスマホを渡した。


真白(ましろ)、なに言ったの?」


ゆずちゃんは真白(ましろ)に訊いていたけど答えないんだろうな。


 少し話してゆずちゃんは電話を切った。


「そういえばさっき言ってた罰ゲームってなに?」


真白(ましろ)が大丈夫って言ってるのにずっと謝ってくるからそんなことしたら次に合うときは1日、真白(ましろ)からは絶対に恋人っぽいことをしたらダメってやつ」


「なにそれ。面白そう。亮介(りょうすけ)もお弁当出し忘れたら罰ゲームね」


ゆずちゃんが楽しそうに言った。


「出し忘れたら自分で洗うからそれだけはやめて」


亮介(りょうすけ)くんは愛理(あいり)ちゃんと一緒になって涙目。


「ゆず、お腹すいたって」


「は~い」


そう言ってゆずちゃんは布を被った。


「それなに?」


「授乳ケープだよ。見えないようにするやつ。私は別にいいんだけど一回、宅配便が来て急いでてそのまま出そうになって以来、亮介(りょうすけ)が買ってくれたの」


柚希(ゆずき)あんた、もう少し自分を大切にしなさい」


「さすが姉弟!(りん)さんも亮介(りょうすけ)と同じこと言ってる」


ゆずちゃんがそう言うと亮介(りょうすけ)くんも(りん)さんも同時にため息をついた。


 愛理(あいり)ちゃんと海里(かいり)くんが寝て皆でお茶をした。


「美味しい。」


「ホントにね。あ、そういえば咲久(さく)。付き合ってからキスしたのっていつ?高校生ってどれぐらいでするの?」


(りん)さんが紅茶を飲みながら訊いた。私は食べていたケーキを急に飲み込んだせいかむせてしまった。


「普通じゃないと思うんですけど。付き合った日……というか付き合うってなった直後です。」


 私はそのときのことを思い出して顔が熱くなるのが分かった。


藤森(ふじもり)さんのいるときに!?」


「そんなわけないじゃん!そもそも藤森(ふじもり)さんが帰って真白(ましろ)の部屋で話があるって言ったら怒られたし。男と部屋で2人きりになるなとかなんとか」


「漫画みたいだね~。いいね、初恋同士」


「ゆずちゃんの初恋って確か夏目漱石だったよね?」


「そうそう。だから英語教師になろうと思ったんだし」


ゆずちゃんがそう言うと亮介(りょうすけ)くんと(りん)さんは目をパチパチさせた。


「言ってなかったの?教師を目指すきっかけになった人なのに」


「まあ、付き合ってすぐだったしそれを言ったらドン引きされて元カレはみんな別れようって言ってきたし。まあ今は気にせず言えるけどね」


ゆずちゃんは少し苦笑いを浮かべて言った。


「ゆずって元カレとかいたの?」


「そっちも言ってなかったんだ」


「言わなくても分かるかなって。もう顔も忘れちゃった人達だし。あ、でも1人覚えてる人いた」


「え!誰!?」


上本(かみもと)くんって子」


 そういえば真白(ましろ)の友達にも上本(かみもと)鈴音(りおん)さんって人がいたな。


「同窓会できいたんだけど俳優やってるんだって。芸名なんて言うんだっけな。谷本(たにもと)玲音(れおん)だっけ?本名とあんまり変わんなかった気がするんだけど知ってる?」


ゆずちゃんはそう言って首を傾げた。


「知ってるもなにも私、大ファンだよ。最近めっちゃ人気なのに」


「何歳?」


「ゆずちゃんの2つ上の28歳」


「一緒だ。じゃあ、モテそう?」


「うん!」


「じゃあ同姓同名の別人だよ。上本(かみもと)くんってちょっとぽっちゃりだったもん。マスコットみたいで人気だったけど」


ゆずちゃんはアルバムを出して言った。


「ホントだ。でもほくろの位置が一緒だよ。」


私がスマホのロック画面を見せた。


「ホントだ。しかも2つも。あ、でも元演劇部だったから俳優はそんなに意外じゃないかも」


ゆずちゃんが頷きながら言った。


「ゆず、地元が一緒だったら谷本(たにもと)玲音(れおん)くんと再会したりしない?」


亮介(りょうすけ)くんが訊いた。


「そんな心配しなくてもいいよ。別れた理由がやっぱり友達だねってなったからだもん。友達に相性いいから付き合ってみたらって言われてお試しって感じだったし付き合った期間も1ヶ月ぐらいだし」


ゆずちゃんはそう言ってニッコリと微笑んだ。


「それに私、顔がカッコいいだけじゃ好きにならないよ。弟2人とか幼馴染みが美形だからそれ以上の美形の人に会ったことないし」


「それもそうだね」


そう言って亮介(りょうすけ)くんは微笑んだ。


 それからケーキを食べ終えてお皿の片付けを終えて家に帰った。


「今日はありがとう。(りん)さんにも会えて嬉しかったです」


「あたしも咲久(さく)と知り合えて嬉しい。よかったら連絡先教えてくれない?」


「はい!」


(りん)さんと連絡先を交換して家に帰った。


ハァー幸せ。憧れの天宮(あまみや)先生に会えるなんて夢みたい。私、ちゃんと会話出来てたかな?



 翌週、真白(ましろ)と久々に外デート。遊園地に行く。


「今日は私が運転しようか?真白(ましろ)、いつも運転してくれてるし」


「じゃあ行きは頼もうかな。帰りは俺が運転するよ」


「帰りの方が疲れるのに。真白(ましろ)、勉強で疲れてるんだから今日ぐらいは羽を伸ばしていいのに」


咲久(さく)と喋りながら運転するの好きなんだけどな。」


「まあ、それなら」


私が頷くと真白(ましろ)は微笑んだ。


 カチューシャはたくさん溜まってしまったので家から持っていくことにした。


 それから遊園地に着いた。


「とうちゃ~く!」


「疲れてない?」


「大丈夫大丈夫。早く中に入ろう」


そう言って真白(ましろ)の手を引いてチケットを買って遊園地の中に入った。


 キャロットちゃんの家の前で真白(ましろ)と写真を撮ってアップした。


「ここにキャロットちゃんいないね」


「じゃあ探す?」


「ううん。まわって見つけたら一緒に写真を撮ってもらう」


「そっか」


私は大きく頷いて真白(ましろ)の手を繋いだ。


「今日は息抜きだからたくさん楽しもう」


「そうだね」


真白(ましろ)はそう言うとコツンと私の額に額を当てた。


「チュロス食べたい。買いに行こ」


「うん」


 チュロスを買って食べているとどこかの高校の制服を着た女の子が話し掛けてきた。


「“ましさく”ですよね?」


ましさくとはスカウトマンだった池上(いけがみ)さん、

が付けた名前だ。まんまだよね。


「そうだよ」


私が頷くと2人はキャアッと声をあげた。


「フォローしてます!一緒に写真とっても撮ってくれますか?」


「いいけどアップしないでね。皆に撮りたいって言われたら咲久(さく)とデート出来なくなっちゃうから」


「もちろんです!」


そう言うと2人はキャストさんにスマホを渡した。


 写真を撮ると2人はお礼を言って去っていった。


「こんな日がくるなんて思わなかった。」


「俺も」


真白(ましろ)と顔を見合わせて笑った。


 それからモンスターを倒していくアトラクションやキャラクター達のお家で写真を撮ったり、最近できたばかりの、宇宙をテーマにした斬新なジェットコースターに乗った。


「そろそろお昼ご飯食べる?」


「そうだね。レストランの方行く?」


「ううん。さっき売ってたバーガー食べたい」


「俺も。買いに行こうか」


真白(ましろ)はそう言って微笑んだ。なんか、この感じ


「今日はお兄ちゃんの日?すごいお兄ちゃんって感じ」


そう言うと真白(ましろ)は笑顔のままだけど目が笑っていなかった。


咲久(さく)、それはどういう意味かな?」


「だってそう見えたんだもん。」


そう言うと真白(ましろ)は私にキスをした。


「お兄ちゃんに見える?」


真白(ましろ)は顔を近付けてニヤッと笑って言った。


「……全然見えないです。だから離れて」


「やだな。離れたら咲久(さく)がお兄ちゃんみたいって思っちゃうかもしれないし」


「もう思わないよ。キスされた後にお兄ちゃんみたいなんて思えないよ」


私が見上げて言うと真白(ましろ)はもう一度キスをしてニコッと笑った。


「良かった。次言う度にキスの数増えるからな。唇が腫れるぐらいは覚悟しとけよ」


悪戯っぽく笑う真白(ましろ)とは裏腹に私は顔に熱が上って行くのが分かった。急に口調変えてくるのずるいよ。


咲久(さく)、そんな可愛い顔して見上げないでよ。遊園地じゃなかったらヤバかったんだけど」


真白(ましろ)はそう言って目を手で覆って背けた。


真白(ましろ)が急に口調変えてくるからだよ。」


私が真白(ましろ)の顔に手を当てると少し熱かった。


真白(ましろ)、こっち向いて」


真白(ましろ)は私の顔を見た瞬間にキスをした。


「ご飯食べに行こ」


「こんな顔で買いに行きたくない。ベンチで座ってるから買ってきて」


「りょーかい」


真白(ましろ)は笑いながらそう言った。


 ホント、真白(ましろ)ってすぐにキスしてくるよね。私からしようと思ってたのに。


 ベンチに座って思い出しては照れてを繰り返していた。


「あの」


同い年ぐらいのカップルが話し掛けてきた。スポーティーな彼女さんはカッコいい系だったのでパッと見は男の子に見えてしまった。


「はい」


「ましさくの咲久(さく)ですよね?」


「うん」


「大ファンです!よかったら一緒に写真撮ってください」


そう言うと2人は頭を下げた。


「いいけど、真白(ましろ)が戻ってきてからの方が良くない?」


「はい」


「今、ご飯買ってきてもらってる所だからそろそろ来ると思うんだけど」


喋っていると真白(ましろ)が走ってきて私の腕を引いて抱きしめた。


咲久(さく)は俺の彼女なので!」


「ちょっと真白(ましろ)、この人達はナンパじゃなくてファンだって。それに」


私が言う前に彼女さんが


「私は女です。男装が好きで服装がメンズなだけで」


真白(ましろ)はそれをきいて慌てて謝った。


「すみません!俺、咲久(さく)がナンパされてるのかと思って」


「いえ、本当に大好きなんだなって伝わってきました」


彼氏さんがそう言うと真白(ましろ)はホッとしたように笑った。


「写真、一緒に撮ろうって話してたんだけど真白(ましろ)もいい?」


「うん、いいよ。でもアップはしないでね。咲久(さく)とデート中なのに皆に場所がバレたら咲久(さく)のファンが押し寄せるかも」


「大袈裟な」


私がそう言うと2人は笑った。


 それから彼氏さんが自撮り棒を取り出してスマホを付けて写真を撮った。


「ありがとうございます」


そう言って2人は去っていった。


真白(ましろ)、ナンパじゃないって分かったんだからそろそろ離してくれない?」


咲久(さく)って抱き心地いいからつい抱きしめちゃうんだよね。じゃあ座って食べようか」


真白(ましろ)がビニール袋を上にあげて言った。


 ご飯を食べ終えてパレードに行くと何人かに声を掛けられた。


「写真撮ってもいいですか?」


「一緒に撮らなくてもいいの?」


「はい!お2人だけの写真がほしいので」


「私はいいよ。真白(ましろ)は?」


「俺も。」


そう言うとパシャパシャと写真を撮る音が聞こえた。


「記者会見?」


「確かに似てるね。咲久(さく)と付き合ってます。みたいな?」


真白(ましろ)は笑いながら言った。


 写真を撮り終えてファンの子達は手を振ってどこかに行った。


咲久(さく)、キャロットちゃん来たよ」


「ホントだ!お~い!」


大きく手を振っていると真白(ましろ)が隣で笑っていた。


「なに笑ってるの?」


「いや、可愛いなって」


「子供っぽいとか思ってるんでしょ?」


「そんなことないよ。普段となギャップでキャロットちゃん大好きではしゃぐとか可愛いって思っちゃうでしょ。」


真白(ましろ)が頬っぺたをツンツンしながら言った。


「分かんないよ。真白(ましろ)がはしゃいでる所なんて小学生以来見たことないし。それに真白(ましろ)はずっとカッコいいから可愛いなんて思える暇がない」


そう言って真白(ましろ)を見上げた。


 真白(ましろ)は目を逸らしてキャロットちゃんの写真を撮っていた。昔の私なら嫌われたのか不安だったと思うけど今の私は違う。真白(ましろ)の耳が真っ赤になっているのに気が付いた。


 でも、目を逸らされたのはちょっとムカつくなぁ。あ、そうだ!ちょっとイタズラしちゃおう……。


 パレードが終わって夕方まで遊んでお土産を買って車に乗った。


 荷物を置いて助手席に座ると真白(ましろ)がキスをしてきた。


咲久(さく)ちゃん?なんで午後から手を繋ごうとしても繋がせてくれなかったの?目も合わせてもすぐに逸らすし」


うわ、笑顔でちゃん付けとかマジギレだ。でも仕方ないよね?


真白(ましろ)が目を逸らしたからだよ。だからちょっとイタズラしちゃおうと思って」


「イタズラにはお仕置きがついてくるんだよ。そうだ。咲久(さく)、首にかかってる髪の毛よけて。」


「え、なんで?」


「いいから」


私が首から髪の毛をよけると真白(ましろ)が首にキスをした。てか、なんか吸ってる?


「もういいよ」


真白(ましろ)がそう言って前を向いてシートベルトをしめた。


 もしかして……。慌てて手鏡を出して見ると首にキスマークが付いていた。


真白(ましろ)、これ家に帰ってお父さん達に見られたらなんて言ったらいいの?それに今度の日曜日、蒼空(そら)伊吹(いぶき)と買い物に行くのに」


「それまでには消えてるよ。海斗(かいと)さんに見られたら俺にやられたって言えばいいよ」


「無理に決まってんじゃん。てか、真白(ましろ)以外ありえないし」


「そうだね。ごめん、咲久(さく)がやっぱり人気だなって実感しちゃって」


真白(ましろ)は私の首に手を当てて言った。


「別に謝らなくても。嫌だったわけじゃないし。蒼空(そら)達には見られないようにタートルネックの服着てけばいいし、髪の毛下ろしてたらバレないだろうし」


慌てて言うと真白(ましろ)はホッとしたように笑った。


「じゃあそろそろ帰ろうか」


そう言って真白(ましろ)はエンジンをかけた。


 私は車が走り出してすぐに寝てしまった。


 ねえ、真白(ましろ)。いつも守ってくれてありがとね。私も真白(ましろ)のことを守れるように強くなるね。


「大好きだよ、真白(ましろ)

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