蒼空、莉久、Happy Birthday!
大学には無事、合格して今日は蒼空と莉久の誕生日プレゼントを買いに少し街に行く。
うちの幼馴染みは人数が多いので誕生日は基本一緒にお祝いをするけどプレゼントは兄妹間が多い。それか手作りの物とかが多い。
「莉久の誕生日プレゼントは決まったけど蒼空のがな~。何がほしいか訊いても気持ちだけもらっておくって言われるし」
「言いそうだね。」
「でしょ?でもやっぱり弓道関係の物がいいかなって」
「そうだね。莉久ちゃんに訊いてもらったら?」
「そうする」
私はスマホのメッセージアプリを開いた。
『莉久、蒼空に何か欲しいものないか遠回しに訊いてみて』
『任せて!』
数分後、莉久から返事が返ってきた。
『道着とかを入れてる風呂敷が古くなってるから今度買いに行かないとだって』
『ありがとう』
「弓道の道着を入れてる風呂敷が欲しいんだって」
「じゃあ蒼空の好きな紺色にする?」
「うん!」
私達は着物屋さんに行って紺色の北欧風のデザインの風呂敷を買った。
「咲久、合格祝いに今日1日付き合うよって言ったけど他に行きたいところとかないの?」
「じゃあせっかくの遠出だし、近くのお店とかみてまわりたい」
「いいよ」
そう言うと真白は手を繋いだ。
色んなお店をみてまわっているとスーツを着た男性に声を掛けられた。
「私、芸能プロダクションの社員なんですけどモデルに興味があったりしませんか?」
「真白、スカウトされてるじゃん」
「いやいや咲久にでしょ」
真白が首を振って言った。
「いや、お二人になんですけど。実はカップルモデルを探していまして」
「へ~」
「へ~って。すみません、お断りします。俺、医学部に入るので勉強との両立が図れるか分かりませんから」
「ネットで写真や動画をアップするだけでもいいので。もし、気が変わったらこちらに連絡してください」
そう言うとその男性は真白に名刺を渡して去って行った。
「どこの事務所?……って、玲音くんのところじゃん!すごっ!」
「そうなの?」
「うん!というか、めちゃくちゃ有名なところだよ。会社は東京にあるはずなのになんでこんなところにいるんだろうね」
「スカウトのためじゃない?」
真白はそう言って名刺をお財布の中にしまった。
スカウトなんて初めてされたから少し勿体ないような。
今日、3月1日は桜川高校の卒業式だ。
私と千花は同じ短大に進むことになった。
五十嵐は今年の9月からアメリカにスポーツ留学をする。
侑李は国立大に、伊織は教育大学に、俊はイベント会社に就職、希沙は看護学校に、トモは東京の法学部に、なんと、瀬川くんはモデルと俳優になる。
皆、バラバラになってしまう。やっぱり寂しい。
卒業式は終わり、教室に戻った。
最後のホームルームを終えて黒板の『卒業おめでとう』の文字の前でクラスメート皆で写真を撮った。
「私と咲久は離れないけどさ、結構離れ離れになるよね」
「そうだね。でも、同じ中学の人は成人式で会えるし。でもやっぱり同小の子達にはあんまり会いたくないな」
「まあ、会ったとしても話さないと思うよ。」
「そうだね。」
そう言って微笑むと千花も微笑んだ。すると、違うクラスの男子が2人教室のドアの前に立っていた。
「あの、小鳥遊さん。ちょっといいかな?」
「葉山さんも」
私と千花は顔を見合わせて小さく頷いた。
その人達に着いて行くと他にも男子と女子がいた。
「千花、知り合い?」
私が小さい声で訊くと千花はブンブンと首を振った。
「えっと、喧嘩ですか?」
私が恐る恐る訊くと皆、即座に否定した。
「俺達、お二人のファンクラブの者なのですが会長達が花束を渡したいらしくて。」
「葉山さんファンクラブ会長も小鳥遊さんファンクラブ会長も花束を取りに行っているので少しまっていただいてもよろしいですか?」
「うん。全然いいよ」
私が手でOKサインをすると皆は安堵のため息をもらした。
「あの、俺。仁科先輩&小鳥遊先輩ファンクラブ副会長、2年5組の前澤っていうんですけどサイン、もらえませんか?」
そう言って前澤くんは色紙とサインペンを取り出した。それを見て、私は思わず声をあげてしまった。
「え!真白からはもうもらってたの!?」
そう。色紙には少し大きな文字で『仁科』と書かれていた。
「はい!仁科先輩には文化祭のときに書いてもらっていたので」
「そうなんだ。そういえば5組ってことは蒼空と知り合いだよね?」
「あ、はい。というか俺も弓道部なので」
「そうなんだ。これからも蒼空をよろしく」
そう言ってサインを書いて返すと前澤くんはありがとうございますと頭を下げた。
すると、私の気になっていたことを千花が訊いた。
「仁科先輩と咲久のファンクラブの会長って誰なの?」
「あ、俺の彼女です。俺も彼女も少女漫画が好きで。彼女は今日、風邪で休んでてサインもらって来なかったらドロップキックを喰らわされるところでした」
それを訊いて私と千花は笑ってしまった。
「あ!話しているうちにファンクラブ会長が2人とも来ました」
皆は後ろを振り向いた。私と千花も後ろを振り向いた。
「は!」
「なんで!?」
私と千花は同時に叫んだ。
「咲久。卒業おめでとう」
真白が歩いてきて私に花束を渡した。
「千花も卒業おめでとう」
五十嵐も千花に花束を渡した。
「咲久、来年からはもう少し会える日が減っちゃうけどこれからもよろしくね」
「うん!」
「千花、留学して遠距離になるけど俺は千花のことが大好きだ。だから俺を信じて待っていてほしい」
五十嵐がそう言うと千花はポロポロと涙をこぼした。
「当たり前じゃん。」
千花は花束をで顔を隠すように泣いた。
私達とファンクラブの皆さんはこっそりその場を離れた。
「そういえばさ、なんで真白がファンクラブ会長になの?」
「いやだって、俺よりも咲久を好きな人なんていないでしょ?咲久のファンクラブの会長さんに言ってみたら今日1日、代わってもらった」
真白はそう言って笑った。
「わざわざこんな演出する必要あった?」
「これは俺じゃなくて五十嵐が頼んだんだよ。高校の最後に葉山さんとの想い出を残したいって」
「五十嵐っぽいね。あと、花束ありがとう。私の好きなお花ばっかり。昔好きって言ってたお花まで……。覚えてくれてたの?」
「もちろん。俺が忘れるわけないでしょ。それに俺も咲久に想い出を作ってほしかったから頑張って選んだんだよ」
「ありがとう。でも高校で一番の想い出は真白と付き合えたことだよ」
「それは俺も一緒」
真白はそう言って額にキスをした。
「じゃあまた明日」
「うん」
私は頷いて真白に手を振った。
翌日、皆でスケート場に来ていた。靴をレンタルしてストレッチをしてリンクにあがった。
「久しぶりに来たけど滑れるね」
「俺はちょっと転けそうで怖いな」
「じゃあ手繋いで滑る?私、体幹鍛えてるから多分そう簡単には転けないよ」
「ありがとう」
そう言って真白は私の手を握った。
「全然滑れてるじゃん」
「1週間前にきたからね」
「じゃあなんで転けそうなんて言ったの?」
「咲久が手を繋いでくれるかなって」
「そんなの言わなくても繋ぐよ。私も何か口実に繋ぎたいなって思ってたから」
そう言うと真白は顔を上に向けた。
「どうしたの?」
「彼女が今日も可愛いなって」
「ありがと」
それから皆でレストランに行ってご飯を食べてから家に帰った。
それから約3週間後。今日3月24日は莉久の誕生日だ。昨日、莉久の誕生日会兼お花見をした。
「莉久!誕生日おめでとう!」
「ありがとう!開けていい?」
「うん!」
莉久はそおっと包みを開いた。
「ブレスレットだ!私のイニシャルのチャーム付いている!可愛い!ありがとう咲久姉」
「どういたしまして」
莉久も喜んでくれたようで良かった。
その8日後、4月1日。今度は蒼空の誕生日だ。
「蒼空、誕生日おめでとう!蒼空が気持ちだけもらっておくって言うから莉久に訊いてもらったんだよ」
「そうだろうなって思ってたよ。莉久の訊き方が変だったから。」
「え!上手く聞き出せたと思ったのに」
莉久が、声をあげると蒼空笑った。
「まあ、ありがとう。大事にする」
蒼空は顔を真っ赤にして言った。
「どういたしまして」
そう言うと蒼空はプレゼントを大事そうに持ち上げて部屋に戻っていった。