表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/49

新年初悪夢


 今日から新学期だ。


 早めに家を出て学校の図書館で勉強をしていた。なんだか変な感じがするな。正直、私は勘が鋭い方だと思う。だから少し嫌な感じがすると不安になる。


 結局勉強にあまり集中できずにチャイムが鳴って教室に向かった。


 今日の教室は休み明けだからか一段と騒がしかった。


「おはよう~。先生はまだ来てないの?」


咲久(さく)ちゃん、きいてないの?ついさっき学校の前で事故があってうちの生徒が意識を失って運ばれたんだって。」


「え、」


 心臓辺りからサァーと血の気が引くのが分かった。すると、先生がすごい勢いで教室に入ってきた。


小鳥遊(たかなし)!今すぐ帰る準備をして職員室に来てくれ!」


温厚な先生がすごく焦った様子で言った。


「は、はい」


私は教科書類を鞄に入れて急いで職員室に向かった。


 職員室の前には見覚えのある男子生徒が踞っていた。


蒼空(そら)?どうしたの?」


私が訊ねると蒼空(そら)はゆっくりと顔をあげた。


「あね、き……。莉久(りく)が、事故に遭ったって」


「えっと、今日はエイプリルフールじゃないよ?」


私は蒼空(そら)の肩に手をおいて言った。すると蒼空(そら)の頬に涙がすうっと流れた。


「え、ホントに……?」


小鳥遊(たかなし)!車を用意したから病院に向かうぞ!」


先生にそう言われて私は蒼空(そら)の手を引いて靴をはきかえて車に乗った。


 病院に着いてすぐ蒼空(そら)を連れて莉久(りく)のいる集中治療室に向かった。


 集中治療室の前で(みなと)は謝り続けていた。蒼空(そら)莉久(りく)を見つけた瞬間、魂が抜けたようにその場に座りこんだ。


「ごめん、ごめんな。莉久(りく)、ごめん」


(みなと)莉久(りく)を見て謝り続けた。


(みなと)、何があったの?」


私が恐る恐る訊くと(みなと)は涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭いて私と蒼空(そら)に向き直った。


「トラックの運転手が心臓発作を起こしたらしくて、暴走して俺に向かってきて莉久(りく)が庇って。ごめん。俺がもっと早く気付いてたら事故に遭わなかったのに。ごめん、ごめんなさい」


蒼空(そら)はそれをずっと黙ってきいていた。そもそも聞こえてすらいないのかもしれない。


私は蒼空(そら)(みなと)を抱きしめた。


「大丈夫。大丈夫だよ。莉久(りく)なら絶対に大丈夫。莉久(りく)のお姉ちゃんの私が保証する」


咲久姉(さくねえ)……。そう、だよな。謝るならちゃんと謝らないと」


「兄の俺が莉久(りく)を信じないと誰が信じるんだって話だよな」


蒼空(そら)(みなと)の表情が少し明るくなった気がした。


 しばらくして莉久(りく)は治療を終えて病室に運ばれた。


 (みなと)は無言で莉久(りく)の手を握っていた。きっと心の中で謝り続けているのだろう。


 1時間が経った頃、お父さんとお母さんが病室に来た。仕事で今日は遠くに行っていたから到着が遅くなったそうだ。


「私、ちょっと外の空気吸ってくる」


そう言って病室を出て病院の中庭に行った。無心で問題を解き続けていたら知らない間にお昼になっていた。


咲久(さく)!」


息を切らせた真白(ましろ)が目の前にいた。


「あ、真白(ましろ)。どうしたの?」


そう訊くと真白(ましろ)は答えずに隣に座って私を抱きしめた。


美久(みく)さんから莉久(りく)ちゃんのこと訊いて咲久(さく)は人前では強がるから頼むって言われて」


「強がるって何?私は莉久(りく)を信じてるから大丈夫だし」


「信じてるならなんでそんなに右の頬だけ赤いの?どれだけ頬をつねったの?」


完全に無意識だった。言われて初めて痛いという感覚が伝わった。


真白(ましろ)、私。私さ、2人には大丈夫って言ったけどやっぱり不安だよ。お姉ちゃんなのに莉久(りく)のことを信じてあげられない」


真白(ましろ)に訴えると同時に涙で周りが見えなくなった。


「不安になるのは当たり前だよ。咲久(さく)莉久(りく)ちゃんのお姉ちゃんだから心配になって当然だよ。それだけ莉久(りく)ちゃんを大切に思ってるってことだよ」


真白(ましろ)の優しい言葉が心に響く。


咲久(さく)は姉として幼馴染みの年長者として皆を不安にさせないように泣かないのは分かる。でも、皆の前では強がっていいから俺の前でぐらいは泣けよ。強がるなよ。なんのための彼氏だよ」


「ごめん。ありがとう。」


 私は今日初めて泣いた。私は自分でも信じられないぐらい子供みたいに声をあげて泣いた。


咲久(さく)、お腹空いてない?一緒に何か温かいもの食べよう」


そう言って真白(ましろ)は私を立ち上がらせた。


「何食べたい?」


「……うどん」


「じゃあ食べに行こうか。」


真白(ましろ)はそう言うと私を車に乗せた。


 それから、近くのうどん屋さんできつねうどんを食べた。

 味は全然分からなかったけどすごく温かくて心も少し温まった。


 それから病院の病室に戻った。莉久(りく)は相変わらず目を閉じていた。でも、意識は戻っていないものの今のところ怪我はリハビリ次第で完治するらしい。


 そして、心臓発作を起こしたトラックの運転手さんは私が中庭で座っている間に息を引き取ったそうだ。


(あおい)(かける)(はやて)も。学校は?」


「今日は始業式だから午前で終わりだって朝に会ったときに言わなかったか?」


(はやて)が訊いた。


「そう、だっけ?ごめん、なんかあんまり覚えてなくて」


私が目を逸らして言うと(あおい)が私の手を握って額に当てた。


咲久姉(さくねえ)、無理しないでね。真白兄(ましろにい)がいるときは真白兄(ましろにい)に甘えられるけどいないときは無理しちゃうんでしょ?もし、そうなら私に甘えて。私も咲久姉(さくねえ)の支えになりたい」


「ありがとう、(あおい)


「ううん。咲久姉(さくねえ)は私にとってもお姉ちゃんだから。それと、莉久姉(りくねえ)は大丈夫だよ。中学の入学式に約束したの。来年の春休みは咲久姉(さくねえ)と私と莉久姉(りくねえ)の3人でどこか出掛けようねって。莉久姉(りくねえ)は絶対に約束を破らないから」


(あおい)は笑って言っていたけど声はすごく震えていた。


「あお、」


(あおい)、俺、喉乾いたからさ一緒に飲み物買いに行かないか?」


「え、うん」


きっと蒼空(そら)なりに気遣っているのだろう。(あおい)も私と同じように強がりなところもあるから。




 * * *




蒼空(そら)くん、自販機通りすぎたけど」


「そこには売ってないやつだから」


蒼空(そら)くんはそう言って病院の外に出た。


 しばらく歩いて広い公園に着いた。


「ミルクティーでいいか?」


「うん」


そう言うと蒼空(そら)くんはミルクティーの缶を私の手においた。これ、病院の自販機にも売ってたよ。


「ここなら誰もいないから泣きたいなら泣いてもいいぞ。」


「泣かないし」


ミルクティーの缶の蓋を開けて言った。


「じゃあなんで目が濡れてるんだ?」


蒼空(そら)くんがハンカチを渡して言った。


「汗、が入って」


「震えてんぞ」


そう言われて私はさらに泣いた。


蒼空(そら)くんのばかぁ~。なんで気付くの?頑張って隠してるのに。咲久姉(さくねえ)にはあんなにカッコつけて言っちゃったのに目を腫らして帰るなんて絶対やだよ」


「安心しろ。水も買ってるからこれで目を冷やせば」


「なんで泣く前提なの!」


(あおい)は泣くだろうなって。俺は泣きすぎて涙がカラカラになったけど」


蒼空(そら)くんが作り笑顔で言った。


私の好きな人は不器用で優しくて笑うのが下手だなぁ。


「ねえ、蒼空(そら)くん。」


「なんだ?」


「ありがとう!」


私はとびきりの笑顔を見せた。蒼空(そら)くん、これがちゃんとした笑顔だよ。


「病室戻るか?」


「神社行ってから。」


「そうだな」


 神社に着いて蒼空(そら)くんにもらったお賽銭100円を入れた。


『神様。莉久姉(りくねえ)が早く元気になりますように』


莉久(りく)ができるだけ早く目を覚ましますように』


それから蒼空(そら)くんと一緒に莉久姉(りくねえ)のいる病室に戻った。




 * * *




「そろそろ帰らないとね。莉久(りく)は怪我はそこまでひどくないらしいからまた明日来ようか。」


お母さんがそう言って入院の荷物を積めた。


(みなと)。おい、(みなと)!姉貴の言ってたこと忘れたのか?」


「覚えてるよ。」


そう言って(みなと)は荷物を持った。


「じゃあね、莉久(りく)。また明日来るからね」


私達は病室のドアを閉めて病院から出た。


「俺、1回会社に戻るから先に帰っててくれ」


「私もデザイン案の提出まだなんだけどパソコン持って帰って来てくれない?」


「大丈夫だ。俺が会社で受けとる。だから美久(みく)は」


「分かった。(あおい)ちゃん達も七菜波(ななは)(わたる)が帰ってくるまでうちにいてね。心を休ませないと。それと真白(ましろ)くん、来てくれて本当にありがとう。真白(ましろ)くんがいなかったら咲久(さく)はずっと強がってただろうから」


「いえ、俺も莉久(りく)ちゃんが心配でしたし咲久(さく)にも会いたかったので」


「あら、そうなの?これからも咲久(さく)をよろしくね」


お母さんがそう言うと真白(ましろ)は嬉しそうに笑って頷いた。


 それから私達は車に乗った。家に着いて皆でココア(蒼空(そら)はコーヒー)を飲んで少し心を落ち着かせた。


「俺さ、明日学校行きたくない」


(みなと)がポツリと呟いた。


「明日も1日、莉久(りく)に付き添いたい」


私は(みなと)の頭をわしゃわしゃした。


「仕方ないな。本条(ほんじょう)さんと結城(ゆうき)さんにノートとか採ってもらえるように頼んでみるよ」


「ありがとう、咲久姉(さくねえ)


「ただし、条件付き。莉久(りく)が起きたら連絡すること。スタンプ送るでも、着信入れるでもいいから絶対に教えて。もちろん蒼空(そら)とお母さんかお父さんのどっちかにも」


「ああ、分かった」



 しばらくすると七菜波(ななは)ちゃんが迎えに来た。


七菜波(ななは)(みなと)が明日学校を休んで莉久(りく)に付き添いたいって言ってるんだけどいいよね?ノートは咲久(さく)莉久(りく)のお友達から借りてきてくれるらしいから。(みなと)莉久(りく)が起きたらすぐに連絡くれるって言ってるし」


お母さんが七菜波(ななは)ちゃんに頭を下げた。


美久(みく)、頭あげて。事故の内容をきいてそうなるだろうなって思ってたから。明日は私も休みだから付き合うよ。起きたらすぐに連絡するから」


七菜波(ななは)ちゃんはそう言ってお母さんの肩に手をおいた。


「ありがとう」




 翌日、学校に行ってすぐに莉久(りく)のクラスに向かった。すると結城(ゆうき)さん達と莉久(りく)(みなと)のクラスメートが私に駆け寄った。


「あの!咲久(さく)先輩!莉久(りく)は大丈夫なんですか?!」


「それに(みなと)も」


(みなと)はちょっと擦りむいただけだよ」


莉久(りく)は?」


「大丈夫。(みなと)が付き添ってくれてるから。それよりクラスの誰でもいいんだけど授業のノートをコピーさせてほしいんだけどいい?」


「はい。私ので良ければ」


「私のも!」


「俺も!」


「僕も!」


皆頷いた。


莉久(りく)(みなと)も大人気なんだね。嬉しいな。じゃあ放課後取りに来るね」


「はい」


私は莉久(りく)達のクラスをあとにした。


 自分のクラスに行くと真っ先に飛び付いてきたのは千花(ちか)だ。


莉久(りく)ちゃん、大丈夫なの!?(みなと)くんも」


(みなと)は擦りむいただけだから大丈夫。莉久(りく)も大丈夫だよ。千花(ちか)は受験に集中して」


咲久(さく)、無理してない?」


「してないよ。大丈夫だから安心して。私も受験に集中しないと」


センター試験はもう目の前だ。だから私は勉強をしないといけない。受験に落ちたら莉久(りく)が悲しむから。

 昨日、泣いたお陰で今日は少し心が軽い。今日はお見舞いに行ってから家で真白(ましろ)と一緒に勉強する。



 放課後になって蒼空(そら)と一緒に莉久(りく)のクラスに向かった。


「あの、余計なお世話だったらすみません。2人の分はノートを別でまとめたんですけど」


結城(ゆうき)さんや他のクラスメート達が2人分のルーズリーフをファイルに入れて渡した。


すごく丁寧にまとめられていて皆が莉久(りく)(みなと)を心配していることが伝わった。


「ありがとう!2人とも喜んでくれると思うよ。」


私が受け取って言うと蒼空(そら)も頭を下げた。


莉久(りく)(みなと)のためにありがとう。莉久(りく)は出来るだろうが、(みなと)にも学年末で絶対に結果を出させてやる」


蒼空(そら)がそう言うとみんな笑ってよろしくお願いしますと言った。



 グラウンドに出ると真白(ましろ)が車で迎えに来てくれていた。


 2人で車の後部座席に乗ると真白(ましろ)はミラー越しに私達を見た。


咲久(さく)蒼空(そら)も何かいいことがあったの?」


そう訊かれて私と蒼空(そら)は顔を見合わせた。


「「妹と弟がモテモテだなって思っただけ(だ)」」


2人でそう言うと真白(ましろ)は何それと笑った。



 病院に着いて莉久(りく)の病室に入った。(みなと)莉久(りく)を見つめながら手を握っていた。


「ノート。みんな莉久(りく)(みなと)にそれぞれまとめてくれたんだよ。グループとかあるんでしょ?ちゃんとお礼しなよ」


私はファイルを渡して言った。


「そうだな。って通知来すぎだし」


(みなと)が自分のスマホの画面を見てフッと笑った。


(みなと)、やっと笑ったね。莉久(りく)が起きたときショボくれた顔だと怒られるよ」


「そうだな。」


(みなと)は頬をパンっと叩いて再び莉久(りく)の手を握った。


「じゃあ私と真白(ましろ)はもう帰るけど蒼空(そら)はもう少しここにいる?」


「ああ」


「分かった。じゃあまた後でね」


私と真白(ましろ)は病室から出て車に乗った。


「帰って勉強しないとね。受験に落ちたら莉久(りく)は自分のせいって思っちゃうから」


咲久(さく)、無理しないでね」


「分かってる。これでも勉強は得意だからそこまで無理はしてないよ」


「そうだね。」



 それから家に帰ってリビングで勉強をしていた。


真白(ましろ)、どうしよう」


「なにが?」


「過去問とか赤本解いてるのに解けちゃうんだけど」


「それ、高校の入試のときも言ってたよね?」


「まあね。でも、これだけ問題が解けると逆に不安になってくる」


「分かる。俺も去年同じこと思った。でも、今年は問題は解けるけどしっかり考えないと分からないからちょっとだけ心に余裕がある」


真白(ましろ)はそう言って自分の胸に手を当てた。


真白(ましろ)、試験に受かったらさ皆でスケート行こう。」


「そうだね。今年は蒼空(そら)も連れて」


「そうだね」



 それから2日後。莉久(りく)が事故に遭ってから4日目だ。莉久(りく)はまだ意識を取り戻さない。


 結城(ゆうき)さん達が直接ノートを届けにいくと言っていたので私は真白(ましろ)と一緒に勉強をしていた。


「昨日のうちには目を覚ますって思ってたのに」


「明日にはきっと意識を取り戻すと思うよ」


そう言って真白(ましろ)が心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。


「そうだね。」



 その翌日。真白(ましろ)が迎えに来てくれた。


咲久(さく)、顔色悪いけど大丈夫?」


「大丈夫。早く病院行こう」


 病院に行って莉久(りく)の病室に入った。


 莉久(りく)は点滴はしていてもやっぱり5日もご飯を食べてないせいか少し痩せている気がした。

 (みなと)も明らかにやつれていた。そんな2人を見るのが嫌ですぐに家に帰った。


咲久(さく)、俺言ったよね?強がらないでって」


「強がってなんか」


寝不足ののせいでまぶたが重い。


 知らない間に寝てしまっていた。目を覚ますと真上に真白(ましろ)の顔があった。


「え、なにこれ?膝枕?」


起き上がりながら訊いた。


「床で寝てたから。ソファに運んだら起きちゃうかなって」


真白(ましろ)がそう言って私は起こしてほしかったのにと視線を送ると何と勘違いしたのか真白(ましろ)は慌てて言い訳をした。


「言っておくけど何もしてないからね!寝顔撮ったりしてないからね!」


「別に疑ってないけど。ただ起こしてくれれば良かったのにって」


「だって、咲久(さく)寝不足でしょ?」


「それは。だって莉久(りく)が、もう5日も寝てるから不安で寝ようと思っても眠れないんだもん」


「そうだね。」


真白(ましろ)はそう言って私を抱きしめた。


「ましろ。泣いても、いい?」


「いいよ。」


真白(ましろ)はそう言うと抱きしめながら私の頭を撫でた。


「あり、がとう」


真白(ましろ)に抱きしめられると安心する。莉久(りく)は絶対に大丈夫だって思える。


「もう少しこのままでいてもいい?」


「いいよ。蒼空(そら)か誰かが帰ってくるまで一緒にいるから泣きたくなったらいつでも泣いていいよ」


「ありがとう」


真白(ましろ)の言葉が嬉しくて手が暖かくてまた泣いてしまった。ねえ、真白(ましろ)真白(ましろ)も少し震えてるよ。強がってるのは真白(ましろ)も同じじゃない。



 それから更に2日後。学校での休み時間、スマホに(みなと)から着信がきた。


 帰る準備をして蒼空(そら)の教室に行くと既に帰る準備をしていた。


蒼空(そら)、病院行こう!」


「ああ!先生、莉久(りく)が起きたので早退します」


「急いで行ってこい!」


 私と蒼空(そら)はたまたま近くに停まっていたタクシーに乗った。


 昼間で車も少なかったのですぐに病院に着いた。


 急いで莉久(りく)の病室に向かった。


「「莉久(りく)!」」


「3人ともそんなに泣かないでよ。私は大丈夫だから」


莉久(りく)が微笑みながら言った。そんなこと言われても心配し。


「泣くなって言うんなら1週間も寝るなよ」


蒼空(そら)が泣きながらそう言った。


「え、私1週間も寝てたの?」


莉久(りく)は驚いたように言った。


「そうだよ。私、心配で全然寝れなかったんだから」


(みなと)の隣に座って莉久(りく)の手を握った。


「それに(みなと)もいつ目を覚ましても良いように学校も休んでずっと莉久(りく)に付き添ってたんだよ。」


そう言うと莉久(りく)は目をパチパチとさせた。


「そうなの?ありがとう、、。でも、もう起きたから学校、ちゃんと言ってね」


莉久(りく)にそう言われて(みなと)は少し気まずそうに頷いた。


「…おう、。」


 そのあとは学校を終えた(あおい)達、真白(ましろ)、仕事が終わったお父さん達、(わたる)くん達も駆けつけた。


莉久姉(りくねえ)!心配した」


(かける)はそう言って莉久(りく)に抱きついた。


「私も!(はやて)もめちゃくちゃ震えてたし」


(あおい)莉久(りく)に抱きついた。


「仕方ないだろ。怖かったんだから」


(はやて)も珍しく否定せずに莉久(りく)に抱きついた。


「3人ともありがとう。心配かけてごめんね。」


「でも、最近のお兄ちゃん、自分のことを責めすぎてちょっと怖かった。」


(あおい)がそう言うと(かける)は首を振った。


「いや、俺は今が一番怖い」


そう言うと3人で睨んでいる(みなと)の方を見た。


「ホントだ」


莉久(りく)がそう言うと(みなと)はムスッとした。


「葵達が莉久りくに抱きつくからだろ」


(みなと)はムスッとした。きっと莉久(りく)の体調を心配して湊は抱きしめてないのだろう。



 それから約1ヶ月後、今日は莉久(りく)が退院する。それにしても、うちの妹は本当に強いな。私はセンター試験を終えて志望校の入試だ。


 今日の試験はすごく手応えがあった。


 試験を終えて同じ学校の友達と一緒に帰った。


 家に着くと莉久はまだ帰ってきていないようだった。


 ちなみに真白(ましろ)は1次試験を無事通過し2次試験も全て終えて、今日、合格発表だ。


 教えてくれるって言ってたけどまだなのかな?スマホの通知を確認してると真白(ましろ)からメッセージが来た。


『今、大丈夫?』


『うん!全然大丈夫だよ』


『じゃあ、ちょっと出てきてくれない?』


『うん』


家の前に出ると真白(ましろ)の車が停めてあった。


咲久(さく)、ドライブ行こう」


「え、まあ、いいけど」


「じゃあ、車に乗って」


「う、うん」


これはどっち?受かったの?落ちたの?真白(ましろ)の反応って分かりづらいんだよなぁ。


車が停まるまでの会話は今日は天気がいい、莉久(りく)が早く退院出来て良かったなど受験に関係のない話ばかりしていた。もしかして……


「ここだよ。」


「桜?この時期に?」


「河津桜っていって2月のうちに満開になるんだよ」


「そうなんだ。きれいだね。」


「うん。咲久(さく)は多分受験の結果をききに来たんだよね?」


「まあ、ね。真白(ましろ)に会いたいっていうのもあったけど」


私がそう言って顔をあげると真白(ましろ)は私を抱きしめた。


咲久(さく)!合格した!」


「え!ホントに!?やった。やったぁ!真白(ましろ)すごいよ!」


そう言うと真白(ましろ)は額を私の額にコツンと当てた。


咲久(さく)が応援してくれたからだよ。ありがとう」


「どういたしまして。それにしても受験に全く触れないからもしかしたらって心配したよ」


「びっくりさせたくて。」


「私、自分の高校の合格発表のときよりも怖かっ」


真白(ましろ)は私の言葉を遮ってキスをした。


咲久(さく)も試験終わったからもういいよね」


「いい、けど。」


私からもキスをしようと背伸びをしたけど真白(ましろ)が顔を上に上げた。


「なんでよ。」


咲久(さく)からは合格発表があるまでダメ」


「いいじゃん。」


少し拗ねてみせると真白(ましろ)が私を抱き上げてキスをした。


「俺も我慢したんだから咲久(さく)も我慢してね」


真白(ましろ)はそう言って車に私を運んだ。


「そういえば、紫輝(しき)が帰ってきてるよ」


「夏休みはもう終わってるよね?」


「帰省じゃなくて帰ってきたんだよ。転入試験も受けたから明後日から桜川高校だよ」


「え!ホントに!?楽しみ!ってもう1ヶ月もないんだけど」


「そうだね。でも多分お昼に誘われると思うから結構学校でも会うんじゃない?」


「確かに。あり得る」


「うん。じゃあ莉久(りく)ちゃんが帰る前に帰ろうか」


そう言って真白(ましろ)がエンジンをかけた。



 翌日、莉久(りく)は久々の登校だった。帰りは一緒に帰ってた。紫輝(しき)が帰ってきてることを言うと莉久(りく)達のクラスに明日から転校生が来るといった。


 皆で絶対に紫輝(しき)だねと言って笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ