新年初悪夢
今日から新学期だ。
早めに家を出て学校の図書館で勉強をしていた。なんだか変な感じがするな。正直、私は勘が鋭い方だと思う。だから少し嫌な感じがすると不安になる。
結局勉強にあまり集中できずにチャイムが鳴って教室に向かった。
今日の教室は休み明けだからか一段と騒がしかった。
「おはよう~。先生はまだ来てないの?」
「咲久ちゃん、きいてないの?ついさっき学校の前で事故があってうちの生徒が意識を失って運ばれたんだって。」
「え、」
心臓辺りからサァーと血の気が引くのが分かった。すると、先生がすごい勢いで教室に入ってきた。
「小鳥遊!今すぐ帰る準備をして職員室に来てくれ!」
温厚な先生がすごく焦った様子で言った。
「は、はい」
私は教科書類を鞄に入れて急いで職員室に向かった。
職員室の前には見覚えのある男子生徒が踞っていた。
「蒼空?どうしたの?」
私が訊ねると蒼空はゆっくりと顔をあげた。
「あね、き……。莉久が、事故に遭ったって」
「えっと、今日はエイプリルフールじゃないよ?」
私は蒼空の肩に手をおいて言った。すると蒼空の頬に涙がすうっと流れた。
「え、ホントに……?」
「小鳥遊!車を用意したから病院に向かうぞ!」
先生にそう言われて私は蒼空の手を引いて靴をはきかえて車に乗った。
病院に着いてすぐ蒼空を連れて莉久のいる集中治療室に向かった。
集中治療室の前で湊は謝り続けていた。蒼空は莉久を見つけた瞬間、魂が抜けたようにその場に座りこんだ。
「ごめん、ごめんな。莉久、ごめん」
湊は莉久を見て謝り続けた。
「湊、何があったの?」
私が恐る恐る訊くと湊は涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭いて私と蒼空に向き直った。
「トラックの運転手が心臓発作を起こしたらしくて、暴走して俺に向かってきて莉久が庇って。ごめん。俺がもっと早く気付いてたら事故に遭わなかったのに。ごめん、ごめんなさい」
蒼空はそれをずっと黙ってきいていた。そもそも聞こえてすらいないのかもしれない。
私は蒼空と湊を抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だよ。莉久なら絶対に大丈夫。莉久のお姉ちゃんの私が保証する」
「咲久姉……。そう、だよな。謝るならちゃんと謝らないと」
「兄の俺が莉久を信じないと誰が信じるんだって話だよな」
蒼空と湊の表情が少し明るくなった気がした。
しばらくして莉久は治療を終えて病室に運ばれた。
湊は無言で莉久の手を握っていた。きっと心の中で謝り続けているのだろう。
1時間が経った頃、お父さんとお母さんが病室に来た。仕事で今日は遠くに行っていたから到着が遅くなったそうだ。
「私、ちょっと外の空気吸ってくる」
そう言って病室を出て病院の中庭に行った。無心で問題を解き続けていたら知らない間にお昼になっていた。
「咲久!」
息を切らせた真白が目の前にいた。
「あ、真白。どうしたの?」
そう訊くと真白は答えずに隣に座って私を抱きしめた。
「美久さんから莉久ちゃんのこと訊いて咲久は人前では強がるから頼むって言われて」
「強がるって何?私は莉久を信じてるから大丈夫だし」
「信じてるならなんでそんなに右の頬だけ赤いの?どれだけ頬をつねったの?」
完全に無意識だった。言われて初めて痛いという感覚が伝わった。
「真白、私。私さ、2人には大丈夫って言ったけどやっぱり不安だよ。お姉ちゃんなのに莉久のことを信じてあげられない」
真白に訴えると同時に涙で周りが見えなくなった。
「不安になるのは当たり前だよ。咲久は莉久ちゃんのお姉ちゃんだから心配になって当然だよ。それだけ莉久ちゃんを大切に思ってるってことだよ」
真白の優しい言葉が心に響く。
「咲久は姉として幼馴染みの年長者として皆を不安にさせないように泣かないのは分かる。でも、皆の前では強がっていいから俺の前でぐらいは泣けよ。強がるなよ。なんのための彼氏だよ」
「ごめん。ありがとう。」
私は今日初めて泣いた。私は自分でも信じられないぐらい子供みたいに声をあげて泣いた。
「咲久、お腹空いてない?一緒に何か温かいもの食べよう」
そう言って真白は私を立ち上がらせた。
「何食べたい?」
「……うどん」
「じゃあ食べに行こうか。」
真白はそう言うと私を車に乗せた。
それから、近くのうどん屋さんできつねうどんを食べた。
味は全然分からなかったけどすごく温かくて心も少し温まった。
それから病院の病室に戻った。莉久は相変わらず目を閉じていた。でも、意識は戻っていないものの今のところ怪我はリハビリ次第で完治するらしい。
そして、心臓発作を起こしたトラックの運転手さんは私が中庭で座っている間に息を引き取ったそうだ。
「葵、翔と颯も。学校は?」
「今日は始業式だから午前で終わりだって朝に会ったときに言わなかったか?」
颯が訊いた。
「そう、だっけ?ごめん、なんかあんまり覚えてなくて」
私が目を逸らして言うと葵が私の手を握って額に当てた。
「咲久姉、無理しないでね。真白兄がいるときは真白兄に甘えられるけどいないときは無理しちゃうんでしょ?もし、そうなら私に甘えて。私も咲久姉の支えになりたい」
「ありがとう、葵」
「ううん。咲久姉は私にとってもお姉ちゃんだから。それと、莉久姉は大丈夫だよ。中学の入学式に約束したの。来年の春休みは咲久姉と私と莉久姉の3人でどこか出掛けようねって。莉久姉は絶対に約束を破らないから」
葵は笑って言っていたけど声はすごく震えていた。
「あお、」
「葵、俺、喉乾いたからさ一緒に飲み物買いに行かないか?」
「え、うん」
きっと蒼空なりに気遣っているのだろう。葵も私と同じように強がりなところもあるから。
* * *
「蒼空くん、自販機通りすぎたけど」
「そこには売ってないやつだから」
蒼空くんはそう言って病院の外に出た。
しばらく歩いて広い公園に着いた。
「ミルクティーでいいか?」
「うん」
そう言うと蒼空くんはミルクティーの缶を私の手においた。これ、病院の自販機にも売ってたよ。
「ここなら誰もいないから泣きたいなら泣いてもいいぞ。」
「泣かないし」
ミルクティーの缶の蓋を開けて言った。
「じゃあなんで目が濡れてるんだ?」
蒼空くんがハンカチを渡して言った。
「汗、が入って」
「震えてんぞ」
そう言われて私はさらに泣いた。
「蒼空くんのばかぁ~。なんで気付くの?頑張って隠してるのに。咲久姉にはあんなにカッコつけて言っちゃったのに目を腫らして帰るなんて絶対やだよ」
「安心しろ。水も買ってるからこれで目を冷やせば」
「なんで泣く前提なの!」
「葵は泣くだろうなって。俺は泣きすぎて涙がカラカラになったけど」
蒼空くんが作り笑顔で言った。
私の好きな人は不器用で優しくて笑うのが下手だなぁ。
「ねえ、蒼空くん。」
「なんだ?」
「ありがとう!」
私はとびきりの笑顔を見せた。蒼空くん、これがちゃんとした笑顔だよ。
「病室戻るか?」
「神社行ってから。」
「そうだな」
神社に着いて蒼空くんにもらったお賽銭100円を入れた。
『神様。莉久姉が早く元気になりますように』
『莉久ができるだけ早く目を覚ましますように』
それから蒼空くんと一緒に莉久姉のいる病室に戻った。
* * *
「そろそろ帰らないとね。莉久は怪我はそこまでひどくないらしいからまた明日来ようか。」
お母さんがそう言って入院の荷物を積めた。
「湊。おい、湊!姉貴の言ってたこと忘れたのか?」
「覚えてるよ。」
そう言って湊は荷物を持った。
「じゃあね、莉久。また明日来るからね」
私達は病室のドアを閉めて病院から出た。
「俺、1回会社に戻るから先に帰っててくれ」
「私もデザイン案の提出まだなんだけどパソコン持って帰って来てくれない?」
「大丈夫だ。俺が会社で受けとる。だから美久は」
「分かった。葵ちゃん達も七菜波と渉が帰ってくるまでうちにいてね。心を休ませないと。それと真白くん、来てくれて本当にありがとう。真白くんがいなかったら咲久はずっと強がってただろうから」
「いえ、俺も莉久ちゃんが心配でしたし咲久にも会いたかったので」
「あら、そうなの?これからも咲久をよろしくね」
お母さんがそう言うと真白は嬉しそうに笑って頷いた。
それから私達は車に乗った。家に着いて皆でココア(蒼空はコーヒー)を飲んで少し心を落ち着かせた。
「俺さ、明日学校行きたくない」
湊がポツリと呟いた。
「明日も1日、莉久に付き添いたい」
私は湊の頭をわしゃわしゃした。
「仕方ないな。本条さんと結城さんにノートとか採ってもらえるように頼んでみるよ」
「ありがとう、咲久姉」
「ただし、条件付き。莉久が起きたら連絡すること。スタンプ送るでも、着信入れるでもいいから絶対に教えて。もちろん蒼空とお母さんかお父さんのどっちかにも」
「ああ、分かった」
しばらくすると七菜波ちゃんが迎えに来た。
「七菜波、湊が明日学校を休んで莉久に付き添いたいって言ってるんだけどいいよね?ノートは咲久が莉久のお友達から借りてきてくれるらしいから。湊も莉久が起きたらすぐに連絡くれるって言ってるし」
お母さんが七菜波ちゃんに頭を下げた。
「美久、頭あげて。事故の内容をきいてそうなるだろうなって思ってたから。明日は私も休みだから付き合うよ。起きたらすぐに連絡するから」
七菜波ちゃんはそう言ってお母さんの肩に手をおいた。
「ありがとう」
翌日、学校に行ってすぐに莉久のクラスに向かった。すると結城さん達と莉久と湊のクラスメートが私に駆け寄った。
「あの!咲久先輩!莉久は大丈夫なんですか?!」
「それに湊も」
「湊はちょっと擦りむいただけだよ」
「莉久は?」
「大丈夫。湊が付き添ってくれてるから。それよりクラスの誰でもいいんだけど授業のノートをコピーさせてほしいんだけどいい?」
「はい。私ので良ければ」
「私のも!」
「俺も!」
「僕も!」
皆頷いた。
「莉久も湊も大人気なんだね。嬉しいな。じゃあ放課後取りに来るね」
「はい」
私は莉久達のクラスをあとにした。
自分のクラスに行くと真っ先に飛び付いてきたのは千花だ。
「莉久ちゃん、大丈夫なの!?湊くんも」
「湊は擦りむいただけだから大丈夫。莉久も大丈夫だよ。千花は受験に集中して」
「咲久、無理してない?」
「してないよ。大丈夫だから安心して。私も受験に集中しないと」
センター試験はもう目の前だ。だから私は勉強をしないといけない。受験に落ちたら莉久が悲しむから。
昨日、泣いたお陰で今日は少し心が軽い。今日はお見舞いに行ってから家で真白と一緒に勉強する。
放課後になって蒼空と一緒に莉久のクラスに向かった。
「あの、余計なお世話だったらすみません。2人の分はノートを別でまとめたんですけど」
結城さんや他のクラスメート達が2人分のルーズリーフをファイルに入れて渡した。
すごく丁寧にまとめられていて皆が莉久と湊を心配していることが伝わった。
「ありがとう!2人とも喜んでくれると思うよ。」
私が受け取って言うと蒼空も頭を下げた。
「莉久と湊のためにありがとう。莉久は出来るだろうが、湊にも学年末で絶対に結果を出させてやる」
蒼空がそう言うとみんな笑ってよろしくお願いしますと言った。
グラウンドに出ると真白が車で迎えに来てくれていた。
2人で車の後部座席に乗ると真白はミラー越しに私達を見た。
「咲久も蒼空も何かいいことがあったの?」
そう訊かれて私と蒼空は顔を見合わせた。
「「妹と弟がモテモテだなって思っただけ(だ)」」
2人でそう言うと真白は何それと笑った。
病院に着いて莉久の病室に入った。湊は莉久を見つめながら手を握っていた。
「ノート。みんな莉久と湊にそれぞれまとめてくれたんだよ。グループとかあるんでしょ?ちゃんとお礼しなよ」
私はファイルを渡して言った。
「そうだな。って通知来すぎだし」
湊が自分のスマホの画面を見てフッと笑った。
「湊、やっと笑ったね。莉久が起きたときショボくれた顔だと怒られるよ」
「そうだな。」
湊は頬をパンっと叩いて再び莉久の手を握った。
「じゃあ私と真白はもう帰るけど蒼空はもう少しここにいる?」
「ああ」
「分かった。じゃあまた後でね」
私と真白は病室から出て車に乗った。
「帰って勉強しないとね。受験に落ちたら莉久は自分のせいって思っちゃうから」
「咲久、無理しないでね」
「分かってる。これでも勉強は得意だからそこまで無理はしてないよ」
「そうだね。」
それから家に帰ってリビングで勉強をしていた。
「真白、どうしよう」
「なにが?」
「過去問とか赤本解いてるのに解けちゃうんだけど」
「それ、高校の入試のときも言ってたよね?」
「まあね。でも、これだけ問題が解けると逆に不安になってくる」
「分かる。俺も去年同じこと思った。でも、今年は問題は解けるけどしっかり考えないと分からないからちょっとだけ心に余裕がある」
真白はそう言って自分の胸に手を当てた。
「真白、試験に受かったらさ皆でスケート行こう。」
「そうだね。今年は蒼空も連れて」
「そうだね」
それから2日後。莉久が事故に遭ってから4日目だ。莉久はまだ意識を取り戻さない。
結城さん達が直接ノートを届けにいくと言っていたので私は真白と一緒に勉強をしていた。
「昨日のうちには目を覚ますって思ってたのに」
「明日にはきっと意識を取り戻すと思うよ」
そう言って真白が心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。
「そうだね。」
その翌日。真白が迎えに来てくれた。
「咲久、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫。早く病院行こう」
病院に行って莉久の病室に入った。
莉久は点滴はしていてもやっぱり5日もご飯を食べてないせいか少し痩せている気がした。
湊も明らかにやつれていた。そんな2人を見るのが嫌ですぐに家に帰った。
「咲久、俺言ったよね?強がらないでって」
「強がってなんか」
寝不足ののせいでまぶたが重い。
知らない間に寝てしまっていた。目を覚ますと真上に真白の顔があった。
「え、なにこれ?膝枕?」
起き上がりながら訊いた。
「床で寝てたから。ソファに運んだら起きちゃうかなって」
真白がそう言って私は起こしてほしかったのにと視線を送ると何と勘違いしたのか真白は慌てて言い訳をした。
「言っておくけど何もしてないからね!寝顔撮ったりしてないからね!」
「別に疑ってないけど。ただ起こしてくれれば良かったのにって」
「だって、咲久寝不足でしょ?」
「それは。だって莉久が、もう5日も寝てるから不安で寝ようと思っても眠れないんだもん」
「そうだね。」
真白はそう言って私を抱きしめた。
「ましろ。泣いても、いい?」
「いいよ。」
真白はそう言うと抱きしめながら私の頭を撫でた。
「あり、がとう」
真白に抱きしめられると安心する。莉久は絶対に大丈夫だって思える。
「もう少しこのままでいてもいい?」
「いいよ。蒼空か誰かが帰ってくるまで一緒にいるから泣きたくなったらいつでも泣いていいよ」
「ありがとう」
真白の言葉が嬉しくて手が暖かくてまた泣いてしまった。ねえ、真白。真白も少し震えてるよ。強がってるのは真白も同じじゃない。
それから更に2日後。学校での休み時間、スマホに湊から着信がきた。
帰る準備をして蒼空の教室に行くと既に帰る準備をしていた。
「蒼空、病院行こう!」
「ああ!先生、莉久が起きたので早退します」
「急いで行ってこい!」
私と蒼空はたまたま近くに停まっていたタクシーに乗った。
昼間で車も少なかったのですぐに病院に着いた。
急いで莉久の病室に向かった。
「「莉久!」」
「3人ともそんなに泣かないでよ。私は大丈夫だから」
莉久が微笑みながら言った。そんなこと言われても心配し。
「泣くなって言うんなら1週間も寝るなよ」
蒼空が泣きながらそう言った。
「え、私1週間も寝てたの?」
莉久は驚いたように言った。
「そうだよ。私、心配で全然寝れなかったんだから」
湊の隣に座って莉久の手を握った。
「それに湊もいつ目を覚ましても良いように学校も休んでずっと莉久に付き添ってたんだよ。」
そう言うと莉久は目をパチパチとさせた。
「そうなの?ありがとう、、。でも、もう起きたから学校、ちゃんと言ってね」
莉久にそう言われて湊は少し気まずそうに頷いた。
「…おう、。」
そのあとは学校を終えた葵達、真白、仕事が終わったお父さん達、渉くん達も駆けつけた。
「莉久姉!心配した」
翔はそう言って莉久に抱きついた。
「私も!颯もめちゃくちゃ震えてたし」
葵も莉久に抱きついた。
「仕方ないだろ。怖かったんだから」
颯も珍しく否定せずに莉久に抱きついた。
「3人ともありがとう。心配かけてごめんね。」
「でも、最近のお兄ちゃん、自分のことを責めすぎてちょっと怖かった。」
葵がそう言うと翔は首を振った。
「いや、俺は今が一番怖い」
そう言うと3人で睨んでいる湊の方を見た。
「ホントだ」
莉久がそう言うと湊はムスッとした。
「葵達が莉久りくに抱きつくからだろ」
湊はムスッとした。きっと莉久の体調を心配して湊は抱きしめてないのだろう。
それから約1ヶ月後、今日は莉久が退院する。それにしても、うちの妹は本当に強いな。私はセンター試験を終えて志望校の入試だ。
今日の試験はすごく手応えがあった。
試験を終えて同じ学校の友達と一緒に帰った。
家に着くと莉久はまだ帰ってきていないようだった。
ちなみに真白は1次試験を無事通過し2次試験も全て終えて、今日、合格発表だ。
教えてくれるって言ってたけどまだなのかな?スマホの通知を確認してると真白からメッセージが来た。
『今、大丈夫?』
『うん!全然大丈夫だよ』
『じゃあ、ちょっと出てきてくれない?』
『うん』
家の前に出ると真白の車が停めてあった。
「咲久、ドライブ行こう」
「え、まあ、いいけど」
「じゃあ、車に乗って」
「う、うん」
これはどっち?受かったの?落ちたの?真白の反応って分かりづらいんだよなぁ。
車が停まるまでの会話は今日は天気がいい、莉久が早く退院出来て良かったなど受験に関係のない話ばかりしていた。もしかして……
「ここだよ。」
「桜?この時期に?」
「河津桜っていって2月のうちに満開になるんだよ」
「そうなんだ。きれいだね。」
「うん。咲久は多分受験の結果をききに来たんだよね?」
「まあ、ね。真白に会いたいっていうのもあったけど」
私がそう言って顔をあげると真白は私を抱きしめた。
「咲久!合格した!」
「え!ホントに!?やった。やったぁ!真白すごいよ!」
そう言うと真白は額を私の額にコツンと当てた。
「咲久が応援してくれたからだよ。ありがとう」
「どういたしまして。それにしても受験に全く触れないからもしかしたらって心配したよ」
「びっくりさせたくて。」
「私、自分の高校の合格発表のときよりも怖かっ」
真白は私の言葉を遮ってキスをした。
「咲久も試験終わったからもういいよね」
「いい、けど。」
私からもキスをしようと背伸びをしたけど真白が顔を上に上げた。
「なんでよ。」
「咲久からは合格発表があるまでダメ」
「いいじゃん。」
少し拗ねてみせると真白が私を抱き上げてキスをした。
「俺も我慢したんだから咲久も我慢してね」
真白はそう言って車に私を運んだ。
「そういえば、紫輝が帰ってきてるよ」
「夏休みはもう終わってるよね?」
「帰省じゃなくて帰ってきたんだよ。転入試験も受けたから明後日から桜川高校だよ」
「え!ホントに!?楽しみ!ってもう1ヶ月もないんだけど」
「そうだね。でも多分お昼に誘われると思うから結構学校でも会うんじゃない?」
「確かに。あり得る」
「うん。じゃあ莉久ちゃんが帰る前に帰ろうか」
そう言って真白がエンジンをかけた。
翌日、莉久は久々の登校だった。帰りは一緒に帰ってた。紫輝が帰ってきてることを言うと莉久達のクラスに明日から転校生が来るといった。
皆で絶対に紫輝だねと言って笑った。