高校最後の文化祭
今日は桜川高校の文化祭。咲久達3年生にとっては最後の文化祭2日目だ。
このところ咲久は文化祭の準備で忙しくてなかなか会えてなかったので咲久には内緒で文化祭に行くことにした。
咲久、驚いてくかな?ちなみに、ストライクアウトをしているそうだ。(五十嵐情報)
咲久の当番は午前中に終わるらしいし午後からは一緒にまわりたいな。(葉山さん情報)
五十嵐も葉山さんも情報提供ありがとう!
まあ、とりあえずは咲久のクラス行こうかな。
咲久のクラスに向かう途中で声をかけられた。
「あの、お兄さん。一緒にまわりませんか?」
「あ~、ごめんね。俺、今からサプライズで彼女のクラスに行くところだから」
俺はそう言って3年2組の前まで来た。教室のドアを開けるとすぐに咲久を見つけた。
「次、俺いいですか?」
「あ、はい。って真白!?」
「午前で終わるんでしょ?午後から一緒にまわろ」
「なんで知ってるの?」
「葉山さんにきいた。それにしてもクラスTシャツ似合ってるね」
「あ、ありがとう」
咲久って照れてるな。可愛い。
咲久に顔を近付けると口を手で塞いだ。
「ここ、教室」
「ごめん、忘れてた」
「仁科先輩、こんなところでイチャつかないでくださ~い」
葉山さんがそう言って咲久の肩に手をおいた。
「一応牽制しておこうと思って」
「必要ないと思いますけど」
葉山さんがそう言ったのと同時ぐらいにさっきまでやってた人が終わったようだ。
「次、どうぞ」
咲久はそう言ってボールを渡してくれた。
「じゃあさ、俺が全部当てたらこの後デートして」
「いいよ。でも、1つでも外したら翔達も来るみたいだから合流して“皆で”まわって一緒に帰るからね」
「え、本気出さなきゃじゃん」
俺は1つ目のボールを持った。
「咲久、応援してね」
「どうしようかな。私は皆とまわるのも楽しそうだし」
咲久、俺がそんな挑発に乗るとでも思ったのかな?
咲久の額にキスをした。照れてる咲久、可愛いな。まあ、正直あんまり他のやつに見せたくないけど仕方ないよね。1球目は1のパネルに当たった。
それから、2球目、3球目と投げていってとうとう最後の1球になった。
「最後の1球だね。最初はどの出し物見に行く?」
「まだ全部当たるとは決まってないよ。それで外したら恥ずかしいよ」
「俺が外すわけないでしょ」
最後の1球を投げると残っていた9のパネルに当たってパネルが落ちた。
「ほらね。じゃあ咲久が休憩に入るまで適当にまわってるね」
「待って。景品」
そう言うと咲久は紙を2枚渡した。
「何これ?」
「プレミアムチケット。今年から新しく始まって演劇部で衣装借りられるの。真白が後夜祭まで残るならその時に演劇部に見せに行ったら衣装着せてもらえるから」
「じゃあ1枚だけもらうね。もう1枚は咲久が持ってて」
「分かった」
俺はチケットを1枚受け取って手を振って教室を出ていった。
俺が次に向かったのは蒼空のクラスだ。なんの出し物をしてるかは全く知らない。きいても『絶対来るな』と言って教えてくれなかったから実際に確認しに行くことにした。
2年5組の教室のドアを開けるとまだ早いせいかほとんどお客さんがいなかった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
1人の女子生徒が言った。メイド喫茶?そういえば咲久もメイド喫茶でバイトしてたな。写真に修めたかった。
席に案内されてコーヒーを頼んだ。すると、カーテンの裏から蒼空が出てきた。
「お待ちどう」
「ダメだよ、蒼空。執事っていうのはもっと丁寧な言葉遣いだよ。例えばハルさんとか」
「ハルくんは秘書だろ。てか来るなって言っただろ」
「フリかなって思って」
そう言うと蒼空はため息をついて向かいの席に座った。
「ご主人様って呼んでみてよ」
「姉貴に頼めよ」
「もう呼んでもらったもん」
そう言うと蒼空が固まった。
「おい、真白!どんなお願いしてんだよ!」
「ちょっと落ち着けって。お願いしたんじゃなくて……」
咲久のことだからバイトのこと言ってないんだろうな。
「夢の中で言ってたような」
「驚かせんなよ。」
蒼空はそう言うと安堵のため息をついた。
「そういえばさ、体育祭のとき姉貴と真白が別れたのか?って結構訊かれたんだけど姉貴、その後告られたりしてたから気を付けろよ。ってなんでそんな余裕な顔してんだよ。俺の話をきいてたか?」
「聞いてたよ。でも咲久は俺のこと大好きだから心配する必要ないかな」
「どこから出てくるんだよ。そんな自信」
「咲久の反応と行動から」
俺が笑ってみせると蒼空はわざとらしくため息をついた。
「あの、仁科先輩。俺、仁科先輩&小鳥遊先輩ファンクラブ副会長の前澤っていいます。サイン下さい!」
前澤くんはそう言って色紙とサインペンを俺に渡した。
蒼空も俺も驚いて顔を見合わせた。それにしてもなんで色紙とサインペンを持ってたんだろう?
「サインか。卒アルに書いた感じでもいい?」
「あ、はい!」
俺は色紙にサインをした。そういえば咲久にも卒アルの最後のページに書いてもらったんだっけ。
「書けたよ。こんな感じでいい?」
「はい!ありがとうございます!」
前澤くんは大事そうに色紙を持ってカーテンの裏に戻った。
「真白、いつの間に芸能人になってたんだ?」
「なってないよ。じゃあ俺、そろそろ咲久のところ戻るわ。」
「おお。」
もう一度、咲久の教室に戻ると休憩に入ったようだった。
「待たせてごめん。蒼空のところはどうだった?」
「全然執事じゃなかった」
「私も思った。あ、そうだ。俊達のクラスと侑李のクラスと伊織達のクラスにまだ行けてないから今から行こ」
「そうだね」
そう言って隣のクラスに行った。
「フォトスタジオだね。」
「咲久!師匠!来てくれたんスね」
七海が大きく手を振った。咲久はそれをきいた瞬間笑った。
「師匠って。思ってたんだけどなんの師匠なの?」
咲久が頑張って笑いを堪えながら訊いていた。
「恋の?」
「なにそれ」
咲久は笑いすぎて目に少し涙がついていた。
「仁科先輩と小鳥遊にぴったりなスペースがあるんですけど」
五十嵐がそう言って黒板に手のひらを向けた。
「確かにいいね。咲久、ここで写真撮る?」
「うん。そうだね」
俺は五十嵐にスマホを渡した。
『最後のは俺が咲久にキスするからそのタイミングで撮って』
そう言うと五十嵐はOKサインをくれた。
「じゃあ1枚目撮りますね。ハイチーズ」
それからもう1枚撮って3枚目。
俺は五十嵐に目線を送った。五十嵐はそれを見て頷いた。
「最後は俺が1番いいタイミングで撮るので好きなポーズとってください」
五十嵐がそう言うと咲久はどんなポーズにしようかと考えていた。
俺は、アートを避けて黒板に手をついた。
「咲久、こっち見て」
そう言うと咲久が顔をあげた。もう片方の手を咲久の頬に当ててキスをした。驚いていたけど咲久はそっと目を閉じた。
シャッター音がきこえて少ししてからキスをやめた。すると我に返ったのか咲久は目を開けて教室を見渡した瞬間顔が赤くなっていった。
スマホを返してもらって確認するとブレもなく写っていた。
「ナイス、五十嵐」
「は、五十嵐もグル?なんで?」
「そりゃあ友達の頼みだからな。」
「そんなに仲良かったっけ?」
「俊と一緒に遊びに行ったりしたからな。嫌だって言うならもう一回撮り直すけど」
五十嵐が咲久に言うと咲久は俺のスマホで写真をもう一度見た。
「まあ、嫌じゃないし撮り直さなくてもいい。」
咲久はそう言って俺の手にスマホを乗せた。せっかくだし待ち受けにしようかなと思って設定を開くと咲久が俺の手を押さえた。
「待ち受けにして、友里さん達に見られてもいいならどうぞ」
と笑顔で言った。確かに、母さんが見たらうるさいだろうな。
「ホーム画面にしておくね」
そう言うと咲久はうんうんと頷いた。
次は3年5組に向かった。
「謎解き脱出ゲームだよ」
「脱出ゲームね~。咲久と2人だと正直謎は解けても脱出はしなくてもいいんだよね」
「じゃ他の人とペア組んでする?」
「それもな~。ご褒美くれるなら最短記録で脱出するよ」
「私からキスとか?」
「うん。」
「じゃあ最短記録じゃなかったときの罰ゲームは今日1日、キス、ハグ、恋人繋ぎをしない」
「え、待って!罰ゲーム酷すぎない?」
俺が慌てて言うと咲久は俺を見上げた。
「なんで罰ゲーム受ける前提なの?真白なら最短記録取れそうだなって思ったから適当に言ったんだけど無理そうなら罰ゲーム変えるよ」
上目遣いでそんなこと言うとか反則だよ。
「分かったよ」
ドアを開けると係の生徒が立っていた。
「どちらが挑戦者ですか?」
「え、」
「先に説明をしますね。片方が挑戦者の勇者でもう片方が捕らわれている姫役なんです。どちらか決めていただけますか?」
「じゃあ真白で」
「それでは姫の方はこちらに」
そう言われて咲久は連れていかれた。
「それでは謎解きスタートです」
そうして謎解きを終える度に鍵を受け取った。最後の謎を解くと咲久のいるスペースに出た。
「真白、助けて」
咲久はこの状況を楽しんでいるようで一生懸命演技をしていた。(でも、楽しくて笑ってしまっていた)
咲久につけられた手錠を手に入れた鍵で外していった。
「あのさ、ルールで捕らわれている姫は怪我をしてるから歩けないんだってだからさ、」
「こうしたらいいってことだよね?」
俺はそう言って咲久をお姫様抱っこをしてカーテンから出た。
「おめでとうございます!本日2番目の脱出者です。タイムは5分52秒です。暫定1位です」
「あの、1番目って誰ですか?」
咲久が訊くと水城さんが咲久にハイタッチをした。
「おめでとう!1番目は蒼空くんと幼馴染みの葵ちゃんって子だったよ。タイムは10秒差の6分2秒だったよ」
「蒼空達もやるね。」
「うん。じゃあ最後は侑李のクラス行こう。侑李のクラスは確か……」
2年3組の教室には大きな文字で『コスプレ体験』と書いてあった。
入ってみるとたくさんの衣装がおいてあった。
「咲久!仁科先輩!いらっしゃい!お兄ちゃんと伊織にもコスプレさせてみたかったんだけど断られたんだ~」
立花さんがそう言うと咲久が断りそうだねと笑って言った。
「咲久は何のコスプレする?仁科先輩は何のコスプレがいいと思います?」
「やっぱり花嫁とか天使とか女神かな?」
「花嫁と女神はなかったと思いますけど天使ならありますよ」
「じゃあそれで」
そう言うと立花さんは衣装と小道具を持って咲久を更衣スペースに連れて行った。
「会長はどうしますか?」
「俺、元会長だけどね。まあ、ここはやっぱり……」
着替えとヘアセットを終えてカーテンから出ると咲久もすでに着替えを終えていた。
「真白も着替え終わったんだね。お~い、真白~。聞こえてる?」
「え、ああ、うん」
可愛い。可愛すぎる。本物の天使かと思った。
「私に見惚れてたの~?なんて」
「うん。可愛すぎて」
そう言うと咲久は顔を真っ赤にして目を逸らした。
「あ、ありがとう。真白もカッコいいよ。性格と合ってるし」
咲久が照れ隠しか付け足すように言った。俺が顔を近付けて「どこが?」と訊くとそういうところ!と言われた。
ちなみに俺は魔王のコスプレをしている。
「はいは~い、咲久も仁科先輩も写真撮りますよ。ハイチーズ」
立花さんの掛け声に合わせて2人でピースをした。
「じゃあ、もう着替えるね」
咲久はそう言ってカーテンの中に入っていった。
その後は着替えてグラウンドの屋台に向かった。
「咲久、なに食べる?」
「ホットドッグあるみたいだよ」
「ホントだ。俺はホットドッグにしよ。咲久はどうする?」
「玉子サンドにしようかな」
俺達はホットドッグの売っている屋台の列に並んだ。
「咲久」
「ん?なに?」
「俺、いが」
俺が話しかけたとき『次の方どうぞ』と言われて注文をした。
ホットドッグとたまごサンドを受け取って近くのベンチに座った。
「ごめん、さっきの話何だった?」
「いや、この間受けた医学部の模試がA判定だったから報告というか」
そう言うと咲久は立ち上がって俺の前に来て少しかがんだ。
「真白すごい!努力のせいかだね!」
そう言うと咲久が頭を撫でた。
「あ、ごめん。莉久を褒めるときのくせで。別に子供扱いしたわけじゃないから」
「うん。分かってるよ。ありがとう」
「それなら良かった」
そう言うと咲久は俺の横にストンと座った。
それからお昼ごはんを食べ終えて咲久はたい焼きを食べていた。咲久ってスイーツは結構たくさん食べるよな。朝走ったり筋トレしてるって言ってたけどどれだけしたら同じカロリーを消費できるんだろう。食事制限は全くしてなさそうだし運動量、すごいんだろうな。
「咲久って朝どれくらい走ってるの?」
「平日は5キロぐらいで、休日が10キロくらい。」
「筋トレは?」
「腹筋は朝と夜で50回ずつ、ストレッチとかもするけど。あと、縄跳び30分ぐらい」
「すごいね。でも毎日腹筋100回もしたら割れそうだけどね」
「私、消費エネルギーも多いけどほら、スイーツとかお菓子もいっぱい食べるから体型維持は出来るけど痩せはしないんだよね。真白はもうちょっと細い方がいい?」
「俺から見れば咲久は充分きれいだよ。体型維持を頑張っててすごいって思うよ」
「ありがとう。でも、走るのは半分趣味みたいになってるけどね。去年の夏休み、真白と一緒に走ってたおかげだね」
咲久はそう言うとたい焼きを口いっぱいに頬張った。可愛い。俺の彼女、ホントに可愛いすぎるんだけど。前世でどれだけいいことをしたらこんな可愛い彼女と付き合えるんだろう。
「あんまり見ないでよ。食べづらいんだけど」
「ごめん」
前世の俺、ありがとう!
それから、咲久は後夜祭が始まるまで片付けをしに戻った。
校門付近のベンチに座って赤シートで勉強をしていると見覚えのある車が前に停まった。窓が開くと渉さんが顔を出した。
「真白くんも来てたんだな。乗って帰るか?」
「俺は後夜祭に出るので」
「咲久ちゃんとか。じゃあまたな」
「はい」
「「真白兄!またね~!(またな)」」
通るときに後ろの窓も開いて、葵ちゃん、翔くん、颯くんが手を振った。
「うん。またね」
それから、6時頃になって屋台はただのテントの集まりになった。
「真白、待たせてごめんね」
「咲久!あっという間だったよ。後夜祭に出るの初めてだから楽しみ」
「私も。演劇部に衣装借りに行こ」
「そうだね」
それから演劇部でそれぞれ衣装に着替えた。
「これは何の衣装?」
「美女と野獣の野獣が王子に戻った後に着ていた衣装です」
「教えてくれてありがとう」
美女と野獣か。美女は咲久にぴったりだな。美しくて優しい姫。
チケットには2パターンあるらしくて俺達と逆のチケットは演技指導があるらしい。
着替えてヘアセットを終えて教室を出た。少し時間が経つと咲久も教室から出てきた。
教室から出てきた咲久はまるで本物のお姫様みたいだ。見惚れていると咲久が恥ずかしそうに目線を逸らして口を開いた。
「美女と野獣の衣装だって。私、ベルの衣装だから美女と同じ衣装ってなんか恥ずかしい」
俺はひざまづいて咲久の手にキスをした。
「咲久、すごくきれい。似合ってるよ」
「ありがとう。真白もすごくカッコいいよ。王子様みたい」
「ありがとう。」
俺はそう言って咲久を抱き上げた。
「真白、生徒会室連れていって」
「いいよ」
生徒会室について窓の近くで咲久を降ろした。
「ここからだとキャンプファイアーもイルミネーションも遠くてそんなに見えないけどいいの?」
「うん。だってここが真白と一番の想い出の場所だから」
「確かにそうだね。図書館か生徒会室が多かったからね」
「図書館にも後で行く?」
「そうだね」
図書館の前に行くとドアが少し開いているのに気付いた。
「咲久、図書館は先客がいるみたい」
「そうなんだ。じゃあ邪魔しちゃダメだね」
「うん。でもこの辺りはイルミネーションがきれいだね」
「うん。真白」
「どうし、」
どうしたの?と訊こうとした瞬間、咲久が背伸びをしてキスをした。そのまま咲久を抱き上げた。
「もう付き合って2年以上経ったけど真白と一緒にいればいるほど好きになってる」
「俺も。会うたび咲久を好きになる。だんだん大人っぽくなっていくからいつもドキドキさせられてる」
「ホントに?」
咲久はそう言って俺の胸に手を当てた。
「ホントだ。真白って照れるときもあるけどこんなにドキドキしてくれてるなんて思わなかった。もっと余裕な感じかと」
「全然余裕なんてないよ。でも、咲久に嫌われたくないからキスで我慢してるけど大人になったら覚悟してね」
「じゃあ早く大人になりたい」
「それは俺の台詞」
そう言ってもう一度、咲久にキスをした。少なくとも咲久が高校を卒業するまでは耐えないとな。