People call it love
今日は真白の通っている短大の学祭だ。莉久や蒼空が気を遣ってくれて今日は真白とデートだ。
久しぶりのデートなので少し気合いを入れてヘアアレンジをしてみた。
「じゃあ私は先に行くね」
「行ってらっしゃい」
莉久が笑顔で手を振った。
家を出て公園近くに真白の車が停まっていた。
車を覗くと運転席に真白が座っていなかった。忘れ物でも取りに帰ったのかな?と思っていると後ろから腕を引っ張られて抱きしめられた。
「咲久、おはよう。驚いた?」
「うん。すごい驚いた」
「そんな真顔で言うこと?」
「驚きすぎて一周回ってなんか真顔になった」
「なにそれ。咲久といるとホントに飽きないや」
そう言って真白が私を離した。
「今日は一段と可愛いね。ナンパされないか不安だよ」
「私はいいよ。真白がカッコよく守ってくれるんでしょ?」
「ダメだよ。そんな怖いこというなら今日1日は離さないよ」
真白が腕を掴んで言った。
「私、方向音痴だから真白から離れるつもりなんてないけど」
「じゃあ、手を離さないと出来ない出し物とか食事以外で先に手を離した方が負けね。罰ゲームは1つ言うことをきく」
「挑むところ」
それから真白の車を大学近くの駐車場に停めた。
「やっぱり規模が全然違うね」
「そうだね」
そう言って真白は手を繋いだ。
手を繋いでるだけなのにすごくドキドキする。やっぱり会う頻度が減ってるせい?それに最後にちゃんと顔を合わせたのが体育祭のときだからな。
「咲久、緊張しすぎじゃない?」
「だって、体育祭のときのこと思い出しちゃうから」
「だったら手を離してもいいんだよ」
「大丈夫だし。」
「そっか。じゃあどこからみて周りたい?」
「美術サークルの展示。友達のお兄ちゃんがここの美術サークルなんだって。何回かしか喋ったことないけどすごい優しい人だから絵も優しいタッチの作品だと思う」
「へえ。じゃあまずはそこからまわろうか」
美術サークルの展示している部屋に行くとすごくたくさんの作品があった。
「あ!これだ。」
「優しいというより荒々しい感じの作品だね」
「だね。なんか意外。家に飾ってあった作品とかは全部穏やかな感じだったのに。すごいな。こんなに迫力のある龍はみたことない」
「そうだね。」
それから映画サークルに行って映画鑑賞会をした。
「咲久、これはどういう状況?」
私は真白の胸に顔をうずめた。
「泣いてるところ見られたくないもん。」
「ハンカチいる?」
「……うん。」
私はハンカチを受け取って涙を拭いた。
「いつもは泣いても気にしないのにね」
「だって両手で隠せるし。今日は片手しか使えないから」
「じゃあ泣き終わるまでこうしてるよ」
「真白ってやっぱりかっこいいね」
「急にどうしたの?」
「なんでもな~い。もう大丈夫だよ。ありがとう」
顔をあげると真白は照れているのかなんとも言えない顔をしていた。
「どういう表情?」
「褒めてくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいって表情」
そう言うと真白は顔を上に向けた。
「真白、顔みせてよ」
「やだな」
私は周りに人が少ないのを確認して真白の頬にキスをした。
すると、真白は私の顔を見た。
「やっとみてくれたね」
そう言うと真白は私を抱き上げて人通りの少ないところに連れてきた。
「まし、」
真白はすかさずキスをした。深い深いキスを。
「ここ、外だよ」
「咲久が悪いんだからね。俺をからかったりするから」
「でも真白の負けだね。先に手を離したから」
「あ、ホントだ」
真白はしまったと言う顔をして言った。
「じゃあ1つきいてね」
「なに?」
「明日、真白の部屋で一緒に勉強するでしょ?」
「そうだね」
「明日1日、真白から私にキスをしないこと」
「……他のお願いじゃダメ?」
「ダメ。破ったら次に会った日もキスしちゃダメだから」
「きっつ!場所を変えるのは?」
「私の部屋ならいいよ。明日は誰もいないし」
「条件変わらないじゃん」
真白はそう言ってハグをした。
「最近、会うたびキスしてるでしょ?受験前は勉強に集中できるように今から慣れないと。私からだったらあんまりしないじゃん?」
「そうだけど、咲久と2人きりで耐えろって言われても」
「私は真白の部屋でいいって言ってるんだよ。藤森さんもいるでしょ?」
そう言うと真白は目をパチパチさせた。
「そうだけど。藤森さんは1階にいることが多いからあんまり気にせずしてた。それに、午前中に帰るし」
「え、ウソ。藤森さんいたの!?全然会わなかった」
「気をきかせてくれて咲久が来る日はいつも3階から順に掃除してくれるからね」
そう言うと額にキスをした。
「明日出来ない分、今日たくさんしておくよ」
そう言って真白はもう一度キスをした。
「ねえ、お腹空いたんだけど」
「そうだね。移動しようか」
真白はそう言うと私の手を引いて屋台がたくさん並んでいる広場に出た。
「何食べる?今日は奢るよ」
「別に奢んなくていいよ」
「明日は何も出来ないみたいだし今日くらいは彼氏っぽいことさせてよ」
「ずっと気になってたんだけど。真白って本と私以外何にお金使ってるの?」
「服とか?あ、でも母さんに引っ張られて買いに行くことがあるから自分のお金じゃないな。本も図書カードだし。大半は咲久に使って残りは貯金って感じ」
真白って意外と?尽くし体質なんだな。
「なんかもったいなくない?私にお小遣いを使うとか」
「全然。咲久が喜んでくれるなら口座からもひいて全財産を使うよ」
「真白が言うとシャレにならないんだけど」
「そう?まあ半分は冗談だけどね」
このとき私は真白の前での発言はもう少し考えてしようと心に誓った。
「で、何食べる?」
「じゃあお好み焼き」
「了解。一緒に買いに行こうか」
そう言って真白が手を繋いだ。もうすぐ付き合って2年が経つから少し飽きられてないか不安になるときもあったけど余計な心配だった。
お好み焼きを買って飲食スペースで真白と一緒に食べた。
「ゴミ捨ててくるけどまたその間に話しかけられたりしそうだよね」
「大丈夫だよ。筋トレしてるし2人ぐらいしかいなかったら全然余裕」
「ホントに?」
「うん。てか、ゴミ箱ってすぐ近くでしょ?その間にお手洗い行ってくるね」
「分かった。何かあったら連絡して」
「うん」
そう言って分かれたものの……
お手洗いから帰る途中、20代前半ぐらいの整った顔をした男性に声をかけられた。
「お姉さん、さっき彼氏っぽい人と一緒にいたよね?」
「え、はい。」
「彼氏さん、どこ行ったの?」
「あ、ゴミを捨てに」
「安心して、ナンパとかじゃないから。お姉さん、美人だから変な人に連れていかれないように彼氏さんが戻って来るまで一緒にここで喋ってもいい?」
「はい、まあ。」
「彼氏さんと付き合ってどれぐらい?」
「高1のときから付き合ってもうすぐ2年です」
「いつ知り合ったの?」
「いや、幼馴染みで。生まれたときから一緒というか。私が1つ年下だから相手が1歳のときに知り合ったのが正しいのかな?」
「幼馴染みか。いいね!彼氏さんのどこが好き?」
「体調が悪いときとか言わなくても気付いて気遣ってくれたり。いつも大人っぽいのにヤキモチ妬くときとか笑ったとかとか子供みたいで可愛いところとか、意外と照れ屋なところとか」
「彼氏さんのこと大好きなんだね」
「はい。世界一カッコよくて大好きです!」
「じゃあ逆に直してほしいところとかは?ない?」
「ないこともないです」
「どんなところ?」
「すぐにキスしてくるところとか。心臓に悪いんです。勉強中に思い出しちゃうっていうか。まあ、勉強は得意なので受験の邪魔になるわけじゃないんですけど。私、顔がすぐに赤くなるみたいで授業中とか思い出して友達に顔赤いよって言われたりするんです」
「今も真っ赤だよ。」
「え!ホントだ。付き合い長いのに未だに手が触れたりするだけで恥ずかしいんです。なんか手を繋ぐよりも照れるって言うか」
「それだけ彼氏を大好きってことだよ。羨ましいな、こんな可愛い彼女がいるなんて」
「可愛いですかね。」
喋っていると真白が走ってきて私の手を引いて後ろから抱きしめた。
「咲久、待たせてごめん」
「ううん。この人と話してたから暇じゃなかったよ」
「この人?って鈴音かよ」
真白がため息混じりに言った。
「真白、ちょっとこっち来て」
鈴音さんが真白を手招きした。
* * *
「咲久に、きかれたらまずいこと?」
俺が訊ねると鈴音は頷いた。
「まあ、ね。真白の彼女さん、咲久さんって言うんだ。真白、俺が話しかけてなかったら咲久さん危なかったよ。後ろから咲久さんを連れ去ろうとしてた人たちがいたからね。まあ、ちゃんと警備員さんに、渡したんだけど」
少しホッとした。逃げてたらどうしようかと思った。
「なんて奴ら?」
「名前は忘れたけど咲久さんがトイレに行った後に集まって話してたけどその人達は彼女が真白を好きにってフラれたみたいなことを言ってた」
なんだよそれ。俺、悪くなくない?咲久以外の人にはわりと冷たいって言われるぐらいだし。
「逆恨み?」
「多分ね。それで咲久さんを捕まえて犯すとか言ってた」
「は?聞き間違い、だよな?」
「俺もそう願いたいけどあいつらの顔がわりとマジだったからもし連れ去られてたら、多分……」
血の気がサァッと引くのが分かった。こんなの現実で起こるとは思いもしなかった。
「鈴音、ありがとう。咲久を助けてくれて」
「俺の彼女みたいな目には遭ってほしくないからな」
鈴音の彼女は今回のように連れ去られそうになったそうだ。連れ去られる寸前で鈴音が助けたらしいけどトラウマで精神を病んでしまって自ら命を経ったそうだ。それ以来、鈴音は償いとしてその子以外と付き合っていない。
「鈴音のときはお兄さんへの恨みをぶつけて来たんだろ?」
鈴音の兄は今、芸能界で大人気で咲久が大ファンの谷本玲音だ。
「まあな。だから、一時期兄貴を恨んだけど兄貴は別に悪くないからな。あいつを死んだのは俺が弱かったせいだ。だから真白、お前は守りぬけよ。あいつみたいに怖い思いをさせるな」
そう言って鈴音は俺の胸に拳を当てた。
「言われなくても」
* * *
「ねえ、何の話をしてたの?」
「大事な話だよ」
「へ~。そういえばお兄さんってなんて名前ですか?」
「俺は上本鈴音です。真白の親友!中学校の頃、よく練習試合をしたんだ。こう見えても元サッカー部エース」
「見ての通りなんですけど」
私がそう言って笑うと真白も鈴音さんもホッとしたように笑った。
「真白も鈴音さんもさっきまで作った表情っぽかったのに今は違う。心が落ち着いた?」
そう言うと2人は顔を見合わせた。
「やっぱ咲久には敵わないな」
「真白の彼女ならなんか心配無さそう」
そう言って2人は笑った。
「何がですか?」
「なんでもないよ。咲久さんは強いなってだけ。そのままでいてね」
そう言って鈴音さんが頭を撫でた。
「3秒以内に手を離してね。そうしたら許す。3、2、1」
「怖い怖い。そんなだと咲久さんに嫌われるよ」
鈴音さんがそう言うと真白が振り返って私にキスをした。
「咲久、俺のこと嫌い?」
「え、や、嫌いじゃ、ない、けど」
「ほらね」
真白が鈴音さんに得意気に言うと鈴音さんは私の方を向いて
「これは治らないよ。咲久さんが慣れるしかないね」
と言って笑った。
「そう、ですね。」
鈴音さんは苦笑しながら頷いた。
「じゃあまたな!」
鈴音さんは手を振って走って行った。
それから学祭を満喫して最後に真白の友達の出る後夜祭のバンドの演奏を見た。
「咲久、どうしたの?」
私は無意識に真白の腕にしがみついていた。
「あ、ごめん。なんとなく甘えたくなって」
「……、咲久、そろそろ帰ろうか。」
「でも、真白の友達が出るんでしょ?」
「練習は見せてもらったし疲れたからそろそろ帰りたいな」
「それなら、まあ」
そう言って真白の車に戻った。
「咲久、今日さ。もしかして、俺が鈴音と話してたの……きこえてた?」
真白が恐る恐る聞いた。私が小さく頷くと今にも泣きそうな顔をして私を抱きしめた。
「じゃあ、学祭の途中からその恐怖があったってこと?」
「うん」
「気付けなくて、ごめん」
真白が泣きながら言った。と同時にさっきよりも強く私を抱きしめた。
「真白、違うの。確かに話してたのはきこえてたけどそうじゃないの。女子トイレの近くで集まってた人達の話してることがきこえてきてそれで真白達の話を自分できこうとして、勝手に怖がってたの」
私も泣きながら言った。
「咲久、絶対に守るから。俺の言ってることのどれよりもこの言葉信じて」
「ありがとう。」
『ごめん、鈴音。早速約束破って咲久を怖がらせたよ。』
「咲久、明日さ、猫カフェ行かない?癒されよう」
『ホントにダメだな。俺のせいで咲久を傷付けるとか彼氏失格だな。咲久は俺と別れた方が幸せなのかも』
「うん。私、真白が彼氏で良かったよ」
「え、急にどうしたの?」
「どうせ真白のことだから俺のせいでとか彼氏失格とか思ってるんでしょ?」
「だって」
「真白。私、守られてばっかりだけど私も真白を守りたい。力で守ることは出来なくても心ぐらいは守らせて。真白は全然彼氏失格じゃないよ。完璧ってぐらい。もっと肩の力を抜いてさ、楽に付き合おうよ。完璧を演じる必要なんてないよ。」
そう言うと真白はそっと離れて私の顔を見た。
「気付いてたの?」
「当たり前じゃん。って言っても確信がついたのはつい最近なんだけどね。真白が絶っ対に完璧でいたい!って言うなら止めないけど私は私を好きでいてくれてるありのままの真白を見てみたいなって思ってるよ」
「そうなの?」
「うん。だって私と友達の前じゃ口調まで変えてるし友達の前の真白は結構普通の男子って感じでこれもこれで好きだなって思ったんだけど。」
そう言うと真白はまるで猫が十二支に入ったのかというぐらい驚いた顔をした。
「俺、咲久より年上だから大人っぽい感じを求められてると思ってた」
「そんなことないよ。デートだってお散歩とかスポーツセンターとか正直どこでもいいんだよね。真白と一緒にいるだけで楽しいから」
「それは俺もだけど」
そう言って真白が顔を下に向けたすきにキスをした。
「真白、私って実は結構強いんだよ。さっきまで怖くて震えてたのに今は全然怖くないもん。真白のお陰なんだよ。真白は私のヒーローだからね。だから疲れる彼氏はやめて。そんなこと続けたら私の彼氏でいることにも疲れて私を嫌いになるかもしれないのに」
「咲久を嫌いになんてならない。それに咲久の方がよっぽどヒーローだよ。いつも俺の心を軽くしてくれる。俺が今一番かけてほしい言葉をかけてくれる。咲久は俺のヒーローだよ」
そう言って真白はキスをした。真白の唇から優しい気持ちが伝わってくる。好きって気持ちが伝わってくる。こんなに約20年も一緒にいたのにちゃんと気持ちを言葉に、行動にするのが大変なんて。
「あ、もう7時だね。そろそろ帰らないと」
真白がエンジンをかけた。
家の近くで真白が車を停めた。
「どうしたの?」
「今行ったら雰囲気悪くしちゃうから」
真白が公園に目線を向けた。
そこには、莉久と湊がいた。
「莉久。文化祭で、俺と一緒にまわらない?」
「いいよ。でも湊は初日は劇にでるから忙しいでしょ?」
「ああ。だから2日目なんだけど」
「うん!いいよ。楽しみにしてる」
「良かった。ありがとう。じゃあまた明日な」
湊と莉久が帰ったのを確認して私も車から降りた。
「真白、今日はありがとう」
「どういたしまして。って俺は咲久を怖がらせただけだけど」
あ~あ、また。私は真白にキスをした。
「真白は私にキスされても罰ゲームなんて思わないだろうから似たようなことを言ったらその回数分、真白のキスを全力で拒むから」
「それは、結構しんどいな」
「だったら気にしなければいいだけだよ。私のことで頭いっぱいにして。ってそれだと勉強できないか。勉強のことと私のことで頭いっぱいにしてたら気にならないよ」
「可愛いすぎるんだけど」
真白がキスをしようとしたから私は真白の口を押さえた。
「言っとくけどさっきのもカウントしてるから」
そう言うと真白は私の手を舐めた。そして、私が手を避けた瞬間キスをした。
「事前に言ってなかったから今回のはナシ、ってことでいいよね?」
「まあ、特別にナシってことでいいよ」
そう言うと真白は嬉しそうに笑った。というか普通はキスする前に言うでしょ。
でも、真白がやっと笑ってくれたからよしとする。笑顔を見るだけでドキドキするなんて変だな、私。