恋愛相談
新学期に入って1週間。他のクラスと同じようにうちのクラスも体育祭の種目決めをしている。
「咲久、何出る?」
「借りもの競争かな。あんまり人気ないし」
「まあね。物だけだったらいいけど人が出ることもあるから皆ちょっと気が引けるんだよね」
「私は人気が少ない方が決まるのが早くて嬉しいけど」
正直、人気種目は決まるのに時間がかかるので嫌だ。今年は最後の体育祭ということもあり皆気合いが入っている。
「小鳥遊さん、葉山さん。男女混合リレーに出ない?」
委員長が黒板を指さして言った。
「どうする?千花」
「どうしよう。てか、咲久だけならまだしもなんで私も?」
「足の速さがクラスの中で1番と2番だから」
「え!そうなの!?知らなかった」
千花が声をあげて言うと陸上部の男子が私達の机の前に来た。
「3組に元陸上部のやつが3人いるんだけどそいつら全員短距離が専門だったんだよ。だからさ、葉山と小鳥遊以外でそいつらと勝負できるやつはいないんだ」
「そんな大袈裟な」
「マジだ。頼む。最後の体育祭こそは優勝したいんだ」
「まあ、ここまで言われたら?」
「やるしかないよね!言っとくけど優勝以外あり得ないからね。咲久の妹と弟も同じぐらい運動出来るんだから絶対に負けないよ」
千花がそう言うとクラス皆が拍手をした。
「ああ。当たり前だ」
皆、楽しそうだな。私も楽しく頑張る。
残りの種目も決めてホームルームを終えて帰った。
それから数週間後。とうとう体育祭当日だ。真白が昨日、応援に行くねとメッセージを送ってきたけど今日は最後の体育祭ということでお父さんとお母さんも休みを取って応援に来てくれるので行きはバラバラで行く。
私は、お弁当作りを手伝って蒼空が朝食を作ってくれた。
朝食をとってお皿を片付けた後、莉久が真白は応援に来るのか訊いた。すると、ヘアアレンジをしないとねなんて言っていたけど私は動きやすいようにポニーテールにした。
葵達三つ子も今日は土曜日で部活が休みらしく湊の応援に来るらしい。
お父さんに車で学校まで送ってもらった。でも、駐車場はいっぱいだったので私達を送って、家に車を置きにいってまた歩いてくるそうだ。ちなみに帰りも同じようにして車で家まで送ってくれるらしい。
お父さんとお母さんが体育祭に来てくれるのはこれが3度目だ。
小学校の卒業のときと中学の卒業のときと今日。それでも仕事で忙しく来れないからとお弁当を豪華にしてくれたり小さい頃は帰ってたくさんお話をしたりと少し特別な日だったので私は体育祭が好きだ。だから今日は優勝を目指す。
学校に着くと色違いのジャージを着た女子生徒が3人立っていた。
「あの、小鳥遊先輩。今日のご活躍期待してます」
「ありがとう」
「あの、良ければどうぞ。」
「塩分チャージのラムネ?ありがとう。今日持ってくるの忘れてたんだ」
「あの、応援してます」
「うん。期待に添えるように頑張るね。3人ともありがとう」
「「「はい!」」」
そう言うと3人は走って階段を駆け上がった。
「さすが、モテる奴は対応がスマートだわ」
「仁科先輩が卒業してからホントに素直なファンが増えたよね。やっぱりガードがいなくなったからかな?」
「ガードなんてしてなかったと思うけど」
「めちゃくちゃしてただろ。手を出さないでねとか怖い笑顔で言ったり」
「咲久を迎えに行ったり」
「まあ、それは確かに。でも、その分いろんな子達にファンって言ってもらえるのは嬉しいけどけ」
「仁科先輩があそこまでしてガードしてた理由がなんとなく分かった」
「そうだね」
「じゃあ、千花も小鳥遊も頑張れよ。勝つのはうちのクラスだけどな」
そう言うと五十嵐は手を振って走って行った。
「私達もそろそろ教室行こ」
「そうだね。」
それからホームルームを終えてグラウンドに出た。
それから開会式が終わって競技が始まった。最初の競技は100m走だ。
次々と競技が進んでいって私の出場する障害物競走が始まった。
梯子をくぐったとき肩をぶつけて少し痛いけどなんとか1位でゴールできてホッと胸を撫で下ろした。
それにしても今日はすごく気持ちのいい秋晴れで風が涼しい。体育祭にはもってこいの気候だ。
退場門から出ると客席側から大きく手を振る子が1人。
「咲久せんぱ~い!」
「歩!なんで客席に!?って、大和先輩。お久しぶりです」
「久しぶりだな。そういえばさっき仁科と会ったぞ」
「知ってます。応援に来るって言ってましたから」
「会いに行かねえの?」
「いや、まあ。行きたいですけど携帯ないんで場所が分からないし」
「だってよ」
そう言って大和先輩は目線を上げた。
「うわ!真白!」
「その反応はひどくない?」
「いや、だって急に後ろにいたら驚くじゃん」
「そうだね」
「咲久先輩、私と一緒にテント戻りましょうよ」
歩が私の手を握って言った。
「歩、競技までまだ時間あるって言ってなかったか?」
「言ったけど」
「じゃあもう少し喋ってようぜ。」
「咲久先輩も一緒にお話しませんか?」
歩が上目遣いで訊いた。
「少しくらいなら」
「咲久、俺も話したいことがあるんだけど」
「なに?」
「ここじゃちょっと。場所変えてもいい?」
「いいけど」
そう言うと真白は嬉しそうに笑った。
「というわけで咲久は用事が出来たからごめんね」
真白はそう言うと私の手を引いて保健室まで走って行った。
「話ってなに?というか、真白。校舎内に入っていいの?」
「確認とってる。それより咲久、上の服脱いで」
私はTシャツとジャージをめくろうとすると真白が腕を押さえた。
「ジャージ“だけ”脱いで」
「なんだ。びっくりした。急に何言ってるだろって思ったけどそういうことね」
私が納得して頷いていると真白がため息をついた。
「男と2人のときに簡単に下着になろうとしないで」
「だって、真白が脱げって言うから」
「俺の言い方が悪かったよ。でも、もし他の人に言われてもきいたらダメだからね。絶対に」
「分かってるよ。真白だから間違っただけじゃん。というかなんでジャージ脱がせたの?」
さっきから思っていたことを訊いてみた。
「梯子くぐったとき、肩ぶつけた所痛いんでしょ?」
「あれ?バレてた?結構隠せてるつもりだったんだけどな」
「無意識かもしれないんだけどさ、咲久ってどこか痛くて隠すとき痛い所に視線を送ってその箇所を誰にも当たらないように人がいない方向に変える癖があるんだよ」
「じゃあさっきも?」
「うん。だから湿布だけ貼っておくからとりあえず肩出して」
「は~い」
Tシャツの袖をめくると真白が湿布を貼った。
「ひゃっ、冷た~」
「そんなに?」
「うん。ていうか動いて体が熱くなってるから余計に」
「そっか。そうだ。あとは何に出るの?」
「借りもの競争と男女混合リレー」
「借りもの競争か。俺に当てはまるお題だったら 俺のところに来てよ」
「じゃあ困ったら真白の所に行く」
そう言ってグラウンドに戻った。
次は借りもの競争だ。ピストルの音と同時に一斉に走って行った。私は一番についてお題の書いてある紙を取って表を向けた。
「……」
『あなたにとって特別な異性』
紙にはそう書かれていた。一番最初に思い浮かんだのは真白だ。でも、お父さんとお母さんの前だし少し恥ずかしい。考えているうちに他の人たちも走ってきた。
顔をあげるとちょうど2年生のテントが見えた。あ!そうだ!
私は急いで2年生のテントに向かった。
「蒼空!一緒に来て!」
「いいけど」
私は蒼空の手を引いて1位でゴールした。
『小鳥遊さん、1位でゴール!お題は“自分にとって特別な異性”です。これは合格でしょうか?お隣の方年齢と名前と関係をどうぞ』
『2年5組の小鳥遊蒼空です。弟です』
『合格です!』
「なあ、姉貴。訊きたいことがあるんだけど」
「なんで蒼空を呼んだか?」
「あ、ああ。今日、真白も来てるんだろ?もしかして喧嘩でもしたのかと思って」
「まさか。全然仲良しだよ」
「じゃあなんで?」
「……恥ずかしかったから。」
「は?マジで?」
「マジマジ。」
「いや、だって去年見せびらかしてるのかってぐらいだっただろ?」
「それは真白が人目を気にしないだけだよ。それに、髪の毛とかボサボサだし汗もかいてるから」
「だから?」
「もう、乙女心を分かってないな。好きな人にはできるだけ可愛くてきれいな自分を見せたいの。蒼空を好きだって言ってくれる子達も皆いつも以上に可愛いでしょ?」
「いや、分かんねえ。知らない人だからもともとそういう感じなのかと思ってた。それに俺は身内以外に可愛いとかかっこいいとか思ったことねえし」
「へえ。じゃあ真白にはかっこいいって思ったことあるんだ~」
「一瞬だけならあった気がする」
蒼空は真顔で言った。その瞬間の私の脳内、『あ、これマジなやつだ。なんだかんだ言って真白に憧れてると思ったけど違う』
「ねえ、蒼空って真白のことどう思う?」
「ドS」
「う~ん、そういうことじゃなくて立場とか」
「めんどくさい兄」
「え、なんで?」
「莉久達がいないとウザ絡みしてくるから」
「あ~、それは、まあ」
「でも、紫輝がいるからか意外としっかりしてる所もあるから」
「そうだね」
「じゃあそろそろ戻るからな」
「うん」
照れたのだろう。耳が真っ赤になっていた。
午前の競技が終わって侑李と伊織と希沙と一緒に生徒会室でご飯を食べた。(千花は五十嵐と)
「ねえきいてよ~。俊がさ、また逃げたんだけど」
侑李がため息混じりに言った。
「逃げたってまた?」
私が訊くと侑李は大きく頷いた。
「うん。ホント、いつになったら逃げなくなるのやら」
「あのさ、逃げるって何から?」
「あ、希沙にはまだ言ってなかったんだっけ?俊ってば、キスしようとしたらいつも逃げてどこかに行くんだけどどう思う?」
「どうって。分からないけど照れてるんじゃないの?」
「それは分かってるんだけど……。皆はさ、自分からキスしたりする?」
「え!私は、あんまり。」
伊織が控え気味に言うと希沙も頷いた。ちなみに、希沙は去年のクリスマスから瀬川くんと付き合い始めた。侑李は新学期に入った辺りから。
「咲久は?」
「私はその時の雰囲気によるかも。あっちが反応を面白がってそうだったら私からもする感じ。でもさ、私は照れてるのに真白は嬉しそうにするときもあるからそういうときはなんか負けた気がする」
「勝ち負けなの?」
希沙が不思議そうに訊いた。
「そうじゃないんだけど私が勝手に負けた気がしてるだけ」
「でもいいな~。私、まだキスしたことないもん」
侑李が嫌味っぽく言った。
「本人に訊いてみたら?」
「無理無理。なんか私達はさ親友兼恋人って感じだからどうせ向こうはキスしたいとか思ったことないんだよきっと」
「そんなことないと思う。お節介かもだけど私達が代わりにそれとなく訊いてみようか?」
伊織がそう言うと侑李はありがとうと言って目を輝かせた。
その頃の男子達……
「会長と副会長も久しぶりっス」
「今の会長と副会長は佐々木と咲久だよ」
「そうでした。」
七海、何か言いたいことがあるんだろうな。
「七海も瀬川くんもお昼に誘ってくれてありがとう。何かあれば俺たちで良ければ相談乗るよ」
「えっと、恥ずかしいんですけど……」
七海の言ったことをまとめるとこうだ。
・立花(妹)にキスされそうになると恥ずかしくて逃げてしまう
・ヘタレすぎて嫌われないか不安
・最初は自分からしたいけど逃げてるのに自分からしてもいいか分からない
「なるほどね」
「別にそんなんで嫌われないだろ」
瀬川くんが口を開いた。
「確かに嫌われはしないかもしれないけど親友兼恋人みたいな感じだからキスを拒むと前と何も変わらないから」
「僕がその話に口出しするのは少し気が引けるがあまり拒むと嫌われる前に侑李は自分が嫌われたって思うと思うぞ。」
「確かに。会長、いえ、真白師匠!さんこう参考までに会長のエピソードをきかせてください」
七海はそう言って頭を下げた。というか師匠って何の!?
「俺も、ききたいです」
瀬川くんも目を輝かせた。
「僕も興味があるな」
「悠陽まで。言っておくけど俺の話は多分参考にならないと思うよ。それでもいい?」
そう言うと3人とも頷いた。
「俺は、咲久と付き合ったその日、というかその瞬間?にキスした」
そう言うと3人はすごく驚いた顔をした。
「マジすか。カッケー」
「いや、七海が思ってるのとは全然違うと思うから。その日、付き合う前ね。咲久と家に2人きりになったんだけど話があるって言われてリビングに降りようとしたら俺の部屋がいいとか言ってきて」
「それで?」
七海と瀬川くんは唾をごくりと飲み込んだ。
「普通、付き合ってもない男と2人きりにならないでしょ?しかも、家に他に誰もいないとき」
「そうですね。」
瀬川くんが大きく頷いた。もしかしたら経験あるのかな?
「で、意識されてないんだなって思ったらだんだんイラついてきて押し倒しちゃったんだよね」
「……は!?真白、お前」
「ちょっ、悠陽。勘違いしないで。押し倒すまでしかしてないから。それ以上はさすがに耐えたよ」
俺が慌てて言うと悠陽は安堵のため息をついた。
「で、まあ。咲久を怖がらせんだけどそのあと告白されて嬉しすぎてキスした感じ。さすがに怖がらせたあとだったしあんまりすると理性が危ないからなんとか3回で耐えたけどけど咲久からされたときはホントに危なかった」
「なんか意外っす。今まではもっとスマートなイメージがあったんスよね。病室のときも」
七海が驚いた表情で言った。
「病室のとき?」
「あれ?悠陽先輩には話してませんでしたっけ?洸輝には言ったよな?」
「ああ!言ってたな」
瀬川くんは思い出しながら頷いた。
「七海、話してくれ」
「ちょっ、」
「去年の夏休みに、師匠が熱中症で倒れたって咲久から連絡来て千花と亮太とお見舞いに行ったんスけど、病室のドアを開けたら師匠が咲久とキスしてたんですよ!病人のくせに」
「本当か?真白」
「いや、まあ本当だけど。でもアレだよ。俺は七海達がお見舞いに来てくれるなんて知らなかったんだよ。それに七海達が来たあとはしてないし」
「そういう問題なんですか?」
「でも瀬川くんも分かるでしょ?弱ってるときに彼女に甘えたくなる気持ち」
「分からなくもないですけど」
「しかも、咲久が俺の照れた顔を見つめてくるからなんとなく反撃したくなってね」
そう言うと3人とも笑った。
「反撃って。勝負でもしてるのか?」
「俺が勝手に思ってるだけ。というか2人とも、悠陽の話も気にならない?」
「めちゃくちゃ気になります!」
「右に同じく」
瀬川くんと七海が頷くと悠陽は諦めたらしくため息をついた。
「真白みたいに面白い話は出来ないぞ」
「大丈夫っス」
「僕は普通だ。水族館近くの観覧車に乗ったときにキスしただけだ」
「「……」」
「なんだよその反応は」
「いや、悠陽の普通って普通じゃないと思ってたから」
「俺も。」
瀬川くんが同意すると悠陽は何だよそれと言って笑った。
「じゃあ洸輝は?」
「俺は、普通に可愛いなって思ったときとかにする」
「師匠と同じってことか?」
「いや、ちゃんとムードがあるときだけだ」
瀬川くんは真顔で首を横に振った。
「俺もムードは大事にしてるよ。なんなら自分で雰囲気作るし」
「んなのどうやるんスか?というかそもそもキスの仕方とか分かんないんスけど」
「俺もあんまり意識したことはないけどまあ、頬に手を当てて鼻がぶつからないように顔をちょっと傾けるとかはちょっと意識してるかも。あとはゆっくり」
「ゆっくり?」
「うん。口からズレたり鼻に当たったりしたら気まずくなっちゃうから。多分、咲久はよく恋愛ドラマとか見てるからなんとなくで出来るんだろうけど。おすすめのドラマとか教えてもらったら?昔のとか最近のとかめっちゃ詳しいよ」
「意外と考えてるんスね」
「考えてるって言っても、こないだそうなりかけたからね。ギリギリセーフだったけど」
「なるほど。洸輝、練習させてくれよ」
「はあ!無理に決まってるだろ!希沙以外となんて。師匠に頼めよ」
「俺も咲久以外はちょっと。溺れたときに人工呼吸はできるけどそれ以外は嫌だな~。将来の義理のお兄さんに頼んだら?」
「僕は七海の相手が侑李じゃなければ特に気にしないけど」
「それもそうっスね。あ、そうだ!侑李に練習させてもらいます」
七海は俺天才と言いながら笑った。
「まあ、七海がそれでいいなら」
「あ!でもその前に咲久におすすめのドラマ教えたもらわないと。ちょっと訊いてきます!」
そう言うと七海は弁当箱の蓋を閉じて走って行った。
「いいのか?ついていかなくて」
「まあ、さっき会ったし」
俺は学食で買ったおにぎりを食べた。
「あの、俺も相談したいことがあるんですけど」
「なに?」
「あの、受験勉強って一緒にしてたら彼女に甘えそうになりませんか?」
「なるね。疲れてると尚更。しかも、去年の夏休みは2週間ぐらい距離とられてたからその反動でやばかったね。だから俺は図書館かビデオ通話で一緒に勉強してたよ。同じ部屋で勉強するときは他に誰かいるときか時間を決めてた」
「僕も図書館かカフェのどっちかで勉強してた」
「やっぱり図書館ですよね。ずっと図書館だと飽きられないですか?」
「それは……」
どうなんだろう?咲久は飽きちゃってたかな?それにビデオ通話だとずっと携帯の充電を気にしないといけなかったかな?
「飽きちゃうかも。たまに出掛けたりしないとだね」
「そうですよね。希沙に行きたいところ訊いてみます。」
「うん」
一方その頃……
「咲久!やっと見つけた」
俊がすごい勢いで生徒会室に入ってきた。
「えっと、なに?」
「侑李もいたのか。」
「いたら悪い?」
「そういう訳じゃないけど」
「じゃあどういう訳よ」
「今は言えない。とりあえず、咲久。ちょっと来て」
「いいよ。ついでに希沙も連行」
そう言って希沙の腕を引いて外に出た。
「師匠、じゃなくて真白先輩と昼飯食べててちょっと相談したら咲久が恋愛ドラマに詳しいってきいて。」
「うん。詳しい方だと思うよ。というか師匠って呼んでるの?」
「まあ」
「あの、咲久ちゃんが恋愛ドラマに詳しいのと相談の内容って何が関係あるの?」
希沙がそう訊くと俊は顔を真っ赤に染めて階段の踊場に手招きをした。
「侑李にキスしたいんだけどさ、師匠に相談したら咲久は恋愛ドラマをよく見てるからなんとなくで出来るんだと思うって言ってたから俺もドラマ見て勉強しようかなって」
「でも、侑李が俊は私にキスされたくないんだって落ち込んでたよ。ね、希沙」
「うん。侑李ちゃん、逃げられたって悲しそうに言ってた」
「俺、何ビビってたんだろ」
俊はそう言って生徒会室に戻って侑李の顔を上に向けた。そう思った瞬間、侑李にキスをした。
「ごめん。俺、恥ずかしくて逃げてて。別に侑李とキスしたくなかった訳じゃなくてただ恥ずかしかっただけなんだ。傷付けて悪かった」
「ばっ、な、んで今!?バカ!」
「そんなにバカバカ言うなよ。それにバカって言う方がバカだ」
「今のは俊がバカだよ。真白達にどんなアドバイスもらったらこうなるの?」
そう言うと俊はあ、そういえばと何かを思い出したように言うともう一度侑李にキスをした。
「確かゆっくりって言ってたわ。忘れてたよ」
そう言って俊は笑った。ダメだ。完全に真白と同じ人目を気にしないタイプだ。
私達3人が頭を抱えていると副会長(元)が生徒会室に来た。副会長は見て状況を把握したようだ。
「悪いな、侑李。俺らが変なこと吹き込んだからから回ったみたいで。七海、弁当片付けに帰るぞ」
そう言って俊の服を引っ張って行った。
「まあ、悩みは解決した良かったのかな?」
希沙が苦笑した。
「侑李、安心して。去年、真白も教室でうちわで隠して十数人ぐらいの前でキスしてきたり病室でキスされたところを千花達に見られたりしたから侑李の気持ち分かるよ」
「え、それは咲久の方が恥ずかしい思いしてない?」
侑李はキョトンとして言った。
「やっぱり?自分でも言ってる途中で思った」
「まあでも、希沙の言った通り俊の気持ち知れて悩みは解決した。というかずっと気になってたんだけどなんで私よりも照れてるの?伊織」
侑李がそう言うと私と希沙も伊織に視線を集めた。
「目の前でキスしてるところを見たら照れるのは当たり前よ」
「私はキスシーンのあるドラマなんてしょっちゅう見てるよ。」
「私は姉と兄がいつ来るか分からないから見たことなくて」
「私、普段は自分の部屋で見るけど妹も一緒に見るよ。リビングで見るときは弟も一緒だし。でも弟はキスシーンがあると妹の目を隠すんだけどね」
「仲良しだね。私はお兄ちゃんがいたら気まずいから事前に言うよ。リビング来たら一万円♡って」
「私は一人っ子だからお父さんがいないときにお母さんと玲音くんのドラマ見てるよ。お母さん、玲音くんの大ファンだから」
希沙がそう言ったと同時に10分前のチャイムが鳴った。
「ヤバッ!もう時間じゃん!早く行こう!」
私達は急いでお弁当を袋に入れて教室に置きにいってグラウンドに戻った。
テントで千花と応援合戦を見ながら喋っていた。
「え!そんな面白いことあったの!?私も遭遇したかったな」
「千花ならそう言うと思った。応援合戦終わったしそろそろリレーだからならびに行こう」
「そうだね」
入場門に向かうとすでに他のクラスも並んでいた。
「いや~、緊張するね~」
私がそう言って笑うと千花も笑った。
「そう思うならもうちょっと顔を引き締めなよ」
そう言って私のほっぺを両手でぎゅうっと挟んだ。
「いひゃい、はなひて」
「今、仁科先輩いなくて残念だよ」
「何が?」
「仁科先輩なら可愛い!って抱きついてそうだなって」
そう言って千花が抱きついた。
「千花みたいに?」
「ううん。こんなかわいいもんじゃないよ。それに抱きつくだけで終わらないだろうし」
「どういうこと?まあとりあえず並ぶよ」
「そうだね。」
それから何分か経って入場した。
予選は1位だったので決勝に進出できた。ちなみに第1走者、境くん。第2走者、松田。第3走者、千花。第4走者、私の順だ。
決勝が始まった。隣のクラスが1位、2年生のクラスが2位、1年3組が3位、私達のクラスが4位だ。第1走者から第2走者に、そしてその順位のまま千花にバトンが繋がれた。
「湊もアンカーなんだね」
「ああ。相手が咲久姉だろうと容赦しねえぞ。咲久姉も本気でこいよ」
「当たり前だよ」
私と湊はほとんど同時にバトンを受け取った。
アンカーはトラックを1周、つまり200mだ。
私と湊では50mは私だが100mは湊の方が少し足が速い。湊は途中で加速するのが上手い。
私は夢中で走っていると知らない間に2位になっていた。
客席側を通ったときたくさんの人が応援してるなか大好きな声がスッと耳に入った。
「咲久!頑張れ!」
その次にお父さんとお母さんの声が聞こえた。
「頑張れ~!咲久」
「負けるな!咲久!」
結局、最後の最後に湊のスピードがあがって3mほど差をつけられて私は2位でゴールした。でも3位の人より半周近く速くゴール出来たのは嬉しかった。
「やっぱり咲久姉ヤバいわ」
「何言ってるの。湊、結構圧勝だったじゃん」
「いや、すげえ危なかった。最後、莉久の声が聞こえた気がしてなんか体が軽くなったっていうか」
「そう?全然気がつかなかった」
「絶対聞こえた」
「まあ湊が言うならそうなんだろうね。あんな歓声のなか聞き分けるなんて好きな人とか家族以外無理だもん。私は夢中で分からなかったけど」
「でも、マジで咲久姉怖かった。すごい嬉しそうな顔で距離詰めてきて」
「ごめんごめん。でも楽しかったね」
「おう!」
その後、表彰式を終えて私達のクラスは3位な選ばれた。
教室に戻ると千花や友達が抱きついてきた。
「咲久!凄かったよ!長谷川くんと対等に戦うなんて」
「全然対等じゃなかったよ。ボロ負け。だからまた今度、勝負挑んでみるよ」
「果たし状書くなら手伝うよ」
「果たし状って。スポーツセンターに引っ張っていって片っ端から勝負するよ」
「長谷川くんと仲良いの?」
「まあ、親同士が幼馴染みだから家が裏側にあるの」
「知らなかった。」
「それにしても咲久ちゃん、何かいいことあった?」
「ううん。最後の体育祭、楽しかったなって」
本当は真白だけじゃなくてお父さんとお母さんに応援されて嬉しかった。でも、こんなの子供っぽくて恥ずかしいから心の中に留めておく。
ホームルームを終え家に帰ると真白からメッセージが届いた。
「お母さん、ちょっと真白ん家行ってくるから夜ご飯遅れるかも」
「行ってらっしゃい。海斗くんには上手くごまかしておくわね」
お母さんに手を振って真白の家に向かった。門を開けて玄関の前まで行った。
「咲久!今日は惜しかったね」
「うん。でもリレーは2位だったし、真白の声、聴こえたから頑張れた」
「それにしても咲久ちゃん、1つ俺に言うことない?」
「困ったらって言ったじゃん」
「でも、一瞬、困ったでしょ?俺、楽しみにしてたのに」
「だって恥ずかしかったんだもん。」
「2、3年生は皆知ってると思うけど」
「それはそうだけど……。でも真白とだったら走らなさそうっていうかお姫様抱っことかされそうだから」
「そのつもりだったけど。蒼空って分かるまでちょっと不安だったよ」
真白が少し拗ねたように言った。
「真白、こっち来て」
「え、うん」
私は段差に登って真白の顔を少し見上げた。
「目、閉じて」
「え、なんで?」
「なんでも。早く閉じてくれないと帰るよ」
そう言うと真白は目を閉じた。
私は背伸びをして真白の唇にキスをした。
「な、咲久から?何があったの?」
「今日みんなで話してたら真白にキスしたくなっちゃった。今日は私の勝ちだね」
ニッと歯を見せて笑うと真白が私の腕を引いて玄関に入った。そして私の両腕を壁に押さえつけた。
「誰の勝ちだって?」
「私」
そう言うと真白はそのままキスをした。
「ハァ、で、誰の勝ち?」
「……」
「あれ?まだ足りなかった?」
「私の負けだよ。ホント負けず嫌いだね」
「それは俺の台詞」
「それはそうと腕、離してくれない?」
見上げて言うと真白はニッと笑って「嫌だ」と言った。
「今日ぶつかった肩が」
「ウソ!ごめん!大丈夫!?」
真白はあわてて腕を離した。
「もう全然痛くない」
「Tシャツの袖めくって」
「さっきのは冗談だって。ほら。もう湿布もはずしたし」
「ちょっと触るよ。痛い?」
「大丈夫」
「良かった。呼び出してごめんね。じゃあ今度の学祭でね」
「うん。またね」
私は手を振って家に帰った。帰るとすでに料理が並んでいた。
「用事は済んだのか?」
「うん。お腹すいた~。急いで手洗ってくるね」