夏休みの最後は皆でプールかと思いきや……
お父さんのお誕生日会が終わり、翔、葵、湊の3人も宿題が終わったので昨日、皆で水着を買いに行って今日は皆でプールに行く。
お父さんとお母さんは仕事があるので渉くんと真白が車で送ってくれる。
莉久は久しぶりに真白に会えて嬉しそうに話している。
その間に蒼空と一緒に荷物を積んだ。
プールまでは別々で行くけど向こうで葵達とも合流する。
それから40分ほどでプールに到着した。私達が荷物を下ろしているときに葵達も到着した。
それぞれ荷物を下ろして水着に着替えに行った。
「莉久、日焼け止め塗ってくれない?」
「いいよ。てか、なんでか分かんないんだけど真白兄にも頼まれた。なんでだと思う?」
「分かんないけど、今年は皆でプールに行くって言ったらめちゃくちゃ喜んでた」
「珍しいね。真白兄って皆でよりも2人の方がいいと思ってたのに」
そう言ってロッカーのドアを閉じて更衣室から葵が出ようとした。
「あのさ、葵ちゃん。な~にか忘れてない?」
「え?あ!日焼け止め!莉久姉!私も塗ってくれない?」
「いいよ~。咲久姉の日焼け止め借りてもいい?」
「うん。どうぞ」
莉久と葵も日焼け止めを塗り終えて更衣室を出た。
男子は皆揃っていたけど颯は葵が日焼け止めを塗り忘れていたことに勘づいていた。
「莉久!似合ってる!」
翔がそう言うと事情の知らない湊と渉くんは固まっていた。莉久と翔はカップル限定イベントに出るためにカップルのふりをしている。でも、翔は普段『莉久姉』と呼んでいるのでバレないように今日1日は呼び捨てで呼んでいる。
プールのある広場に向かうと荷物を置いて皆それぞれ分かれた。
「渉くん、荷物番しようか?」
「大丈夫。2人は楽しんでおいで。人が多くて疲れた蒼空が帰ってくるだろうから」
「確かに。じゃあ真白。私達もウォータースライダー行こ」
「そうだね」
それからウォータースライダーに並んだ。
「真白、また鍛えた?」
「筋トレはそんなだけど道場には週3で通ってるよ」
「そんなに通う必要ある?」
「咲久を守るためにはね」
「私、そんなに弱くないよ」
笑いながらそう言うと真白が腕を掴んだ。
「じゃあ腕を振りほどいてみて」
腕に力を込めてみてもびくともしなかった。
「無理。」
「でしょ?ボディビルダーになれるぐらい鍛えてみようかな?」
「それはやだ。」
「どうして?」
「だって、ボディビルダーだったらご飯とかあんまり食べに行けないし」
私が少し目を逸らしてため息混じりに言うと真白は焦ったのかすぐに否定した。
「冗談だよ。そんな寂しそうな顔しないでよ」
あまりにも焦ってたので私は思わず笑ってしまった。
「そんなに焦らなくても」
「冗談で咲久が寂しい思いしたかもって」
「大丈夫。冗談って分かってたから」
「良かった。」
真白は安堵のため息をついた。私、女優になれるかも。
「そろそろ順番だね」
「そうだね。ちょっと怖そう」
「俺が抱きしめて滑ろうか?」
「これも冗談、だよね?」
「ん?」
「え、無理だよ」
「どうして?」
「あ!次私だ。じゃあお先」
私はスライダーに寝そべって水で下まで流れていった。
私がプールから上がろうとはしごを登っているとき、真白も滑り降りてきた。
「俺の質問を無視しないでよ」
「さすがに水着で抱きしめられるのはちょっと。別に嫌ってわけじゃないけどここ、人が多いから。こういうところだとちょっと嫌」
「つまり、恥ずかしいってこと?」
真白は嬉しそうに笑って訊いてきた。
「っ!ち、がう。……こともない」
「意外に素直!」
「もう、流れるプール行ってくる」
私はプールを上がってスタスタと歩いた。すると真白も後を追うように歩いた。
「あ、待って。俺も行く」
その途中で走っていた子供達にぶつかってバランスを崩した。
「あ、ヤバッ」
「おっと。セーフ。こら、君たち。ここは人が多いんだから走ったらダメだよ。俺がいないとこの美人のお姉さん、プールに落ちてたかもしれなかったんだよ。ちゃんと謝って」
「「お姉さん、ごめんなさい」」
「大丈夫だよ。これからは気を付けてね」
「「は~い」」
そう言うとその子達は歩いてどこかに行った。
「あのさ、もう手離しても大丈夫だから。周りも注目してるし」
「そう?大丈夫なら良かった」
「うん。ありがと。後さ、さっきの子達にお説教するときにわざわざ美人とか言わなくていいよ。真白がそう思ってくれるのは嬉しいけど他の人達はなに言ってるんだろってなるだろうし」
「分かった。可愛いって言ったらいいんだよね?」
「からかってるの?」
「ごめんごめん。半分はウソ。じゃあプール入ろう」
そう言うと、真白は流れるプールに入った。ていうか、半分はってもう半分は何?
「どうしたの?入らないの?」
「いや、入るけど……」
なんか今日は調子狂うな。
それから色んなプールに入ってビーチバレーもして荷物を置いているところに戻った。
「疲れた~」
「咲久ちゃん、いつも朝走ってるのにもう疲れたのか?」
渉くんが不思議そうに訊いた。
「体力じゃなくて、気持ち的に疲れた。今日の真白は心が休まらないっていうか、いつもと違うっていうか」
「気のせいじゃないか?俺にはいつも通りに見えるけど」
「違うよ。いや、まあ違わなくもないのかも」
「どっちだよ。」
「分かんない。」
「俺的には咲久ちゃんの方がいつもと違う気がするけどな」
「え!そう!?いつも通りにしてるつもりだけど」
「いやいや。それはないよ。だって、いつもは真白くんにべったりだろ?腕にしがみついてたりずっと手を繋いでたり」
「も~、渉くんってば何言ってるの?私、そんなことしたことないよ?どうしたらそんな想像できるの?」
「俺のイメージだと咲久ちゃんが真白くんを大好きって思ってたんだけど。違うのか?」
「違わないけど」
「だろ?」
何故か渉くんは得意気に笑った。真白だけじゃなくて渉くんまで変だよ。暑さにやられたのかな?
「咲久!そろそろイベント行こ」
「あ、うん」
『今回のイベントは鬼ごっこで~す!ルールは1つ。相手に怪我をさせないことで~す。範囲はプール全体です。プレゼントは豪華ですよ。頑張ってください』
あれ?前に来たときはカップル限定イベントって言ってなかった?まあ、毎年言わなくてもいいもんね
とりあえず頑張って最後まで逃げ切ろう!
「咲久、固まってるとバレるから別々で逃げようか」
「え、まあ、いいけど」
カップルイベントなのに別々で行動するなんて。なんかこんなの考えてるなんて私、めんどくさいな。今、絶対に嫌な顔してる。
「咲久?どうしたの?」
「別になんでもない。」
私達は開始の合図と同時にそれぞれ散らばって走った。なんか今日の真白、本当に変だよ……。
走っていると鬼の角のカチューシャをしている女性に腕を捕まれた。
「確保。一緒に広場に戻りますよ」
「はい」
そう言われて一緒に広場に戻っていると真白を見かけた。隣には大人っぽくてスタイルのいいモデルみたいな女の人が座っていた。なんか、嫌だな。彼女いるくせに女の子とそんなに近くに座ってるなんて。
そう思っていると真白がその子の頬に手を置いた。まさか、。そう思っていると真白がその子にキスをした。
私は思わず駆け出した。
「ちょっと!あなたはもう捕まってるんですけど!」
スタッフの女性が私を追いかけてきたけどそんなのは気にならなかった。
「真白!その人、誰?」
「さっき喋ってたら意気投合して。俺、ホントはこういう大人っぽくて色気のある人が好きなんだよね。それに咲久のこと嫌いになっちゃった」
信じたくない。ウソって言って!
「新しい彼女のカナです。だから元カノさん、もう私の真白に近づかないでね」
そんなの絶対に嫌!言いたいのに声が出ない。真白は鬼に気付いて逃げようと新しい彼女さんを抱き上げて走っていった。
嫌だ!行かないで!
何故かどれだけ叫んでも声が出ない。
私、知らない間に真白を傷付けてたの?
「ごめ、なさ、」
頬に冷たい感覚が伝わった。私、自分で思ってた以上に真白のことが好きだったんだ。
「……く」
「さく?」
「咲久!」
頬に温かい感覚が伝わったと同時に声が聞こえた。目を開けると私の部屋にいた。
「すごいうなされてたけど。泣くほど辛い?」
「ごめん。ごめんね、真白」
私が謝ると真白が私を起こして抱きしめた。
「落ち着いて。深呼吸して。」
私は言うとおりに深呼吸をした。
「何があったの?」
「真白、私のことを嫌いになったから大人っぽくて色気のあるカナさんと付き合うの?」
私が真白の顔を見上げて訊くと真白が目をパチパチとさせた。
「ちょっと待って。俺が咲久を嫌いになった?というかそもそもカナさんって誰?」
「キスしてた人だよ。私なんかより大人っぽくて色気がある人」
「俺、咲久以外とキスしたことないよ?」
「え、じゃあ夢?」
「そうだよ。咲久、風邪引いてて寝てたからね」
それを訊いてハァ~とゆっくり息を吐いた。そのあと、スマホで日付を確認するとプールに行った翌日だった。
「ごめん、寝ぼけてたみたい。でも夢で良かった」
「俺は夢の中だとしても咲久以外の人とキスするのは嫌だな」
「あはは。そうだね。私も見てて嫌だった」
真白は私が正気を取り戻して安心したのか部屋着を私に渡した。
「風邪引いてるときはもう少し暖かい格好で寝た方がいいよ。それに咲久、自分に色気がないとか言ってたけどそんなこと全然ないよ。俺、会うたびに咲久が綺麗になってるなって感じるよ。さすがに今の格好は目のやり場に困るから出来れば早く着替えてほしいけど」
そう言われて私は顔を下ろすとキャミソールの部屋着と下着の紐が肩から垂れていた。
「あ、ホントだ。着替えるね」
私が服を脱ごうとすると真白が慌てて止めた。
「俺が出てからにしてくれない?」
「帰っちゃうの?やだ、もう少しだけここにいて」
「帰らないよ。部屋の前で待ってるから」
「ダメ。ここにいて」
私が真白の腕を掴むと真白は顔を片手で押さえた。
「分かったよ。じゃあ着替え終わるまで後ろ向いてるから着替え終わったら言ってね」
「うん」
そう言って真白の腕を離すと真白はすぐに後ろを向いた。
「着替え終わったよ」
「ホントに?」
「ホントに。」
そう言うと真白は振り返った。
「そういえばさ、どうして真白がいたの?」
「蒼空から連絡が来て。莉久ちゃんも蒼空も部活だし美久さんと海斗さんは今日から3日間、出張だから来てくれって言われて」
「そっか。蒼空たちにも迷惑かけちゃったんだ。てか、なんで熱なんて出てるんだろ?」
そう言いつつもなんとなく気になったのでスマホで昨日のエアコンの履歴を確認した。
「やっぱり。」
「どうしたの?」
真白にスマホの画面を見せた。この部屋のエアコンはスマホからも操作できて履歴を見ることもできる。
「17℃!?そりゃ、そんな低い温度でそんな薄着だと風邪も引くね」
「ごめん。真白に風邪がうつるかもしれないしもう帰ってだいじょうっ」
ベッドから降りて立とうとしたら足に力が入らなくてふらついてしまった。
「全然大丈夫じゃないじゃん。熱、計ってみて」
真白が体温計を渡した。計ると38.4℃だった。
「咲久、食欲ある?」
「まあ、それなりには」
「蒼空がお米洗ってくれてるらしいからお粥作ってこようか?」
「自分で作れるよ」
「そんなフラフラな状態で言われても信じられないな。でも、咲久を1人にするのは不安だからリビングのソファまで運ぶね」
そう言うと真白が私の体を持ち上げた。
「どうせ大丈夫って言っても信じないんでしょ?」
「そうだね。だから大人しく言うこと聞いてね」
そう言うと私をリビングまで運んだ。
「毛布下ろしてくるの忘れてたね。俺の羽織ってるシャツ着て」
「うん。ありがとう」
真白はキッチン借りるねと言って土鍋を火にかけた。
真白に風邪うつしちゃわないかな?でも、真白が風邪引いてたのって小学校の低学年以降ないから大丈夫かな。もしかしたら蒼空はそれで真白に頼んだのかも。
「出来たよ。」
真白が鍋敷をテーブルに置いてその上に土鍋を置いた。
小皿にお粥をよそってレンゲを隣に置いた。今、腕に力が入らないんだよね。私は、ソファから体を起こして小皿を持とうとすると真白が持ち上げた。
「どうせ、腕に力が入らないんでしょ?俺が食べさせるね」
なんでバレてるの?
「顔に書いてるからね」
「私、今声に出てた?」
「顔に出てた」
真白はそう言うとレンゲでお粥をすくって私の口の前まで運んだ。
「いや、気持ちは嬉しいけど」
自分で食べれると言う前に真白があ!と声をあげた。
「冷ますの忘れてたね」
そういう問題じゃないよ!真白ってこういうときは全然伝わらないんだよね。知られなくていいことはすぐにバレるのに。
「咲久、はい」
私は素直にお粥を食べた。
「じゃあ薬飲んで2階戻ろうか」
「うん。あ、ちょっとトイレ行ってくる」
そう言うと真白がソファから立ち上がった。
「言っとくけど、着いてこなくて大丈夫だから」
そう言って廊下に歩いていった。
リビングに戻ると真白はイヤホンを付けて自分で持ってきたのであろう勉強道具で勉強していた。やっぱり夏休みといっても忙しいなか来てくれたんだよね。私も明後日から新学期だしちゃんと治さないと。
「咲久。ごめん、気付かなかった。2階まで一緒に上がろう」
真白は笑顔で言った。
「真白、もう薬も飲んだし帰っても大丈夫だよ。それに、いくら丈夫だとしても風邪がうつっちゃうかも」
「咲久がお見舞いに来てくれるならうつってもすぐに治るよ。それに、蒼空達が帰ってくるまで1人にするのは不安で勉強に集中できないよ」
「まあ、迷惑じゃないならいいけど」
「全然迷惑じゃないよ」
そう言って真白は微笑んだ。真白ってよく笑うな。でも花村さんとか大学の友達の前ではなんか作り笑顔っぽい気がするな。無意識だろうけど。
そのあと、部屋に戻って私はすぐに眠った。
次に起きたのは15時だった。熱を計ると36.5℃まで下がっていた。
「真白はいいお父さんになれるね」
「冗談はおいておいて、今は薬が効いて熱が下がってるだけかもしれないから明日また熱が出たら病院行くからね」
「本気なんだけど」
「ありがとう。咲久は今のままでいてくれるだけでいいお嫁さんになれるよ。俺のだけど」
「谷本玲音くんのお嫁さんは?」
※谷本玲音とは今、最も注目を浴びている実力派イケメン俳優だ。ちなみに、真白と初めて2人で見に行った映画の主演以来、咲久は玲音の大ファンだ。
「玲音より俺の方が身長高いし」
「1cmだけね」
「若いし」
「7歳ね。でも玲音くんは大人だから」
「俺の方が咲久のこと好きだよ」
「まあ、それはそうだね」
「ほら、全部俺が勝ってる」
真白が誇らしげに言った。これだけ自信があるなら試してみよう。
「好き」
「え!急にどうしたの?」
「真白兄が好きです。フリじゃなくて本当に付き合いたいって思ってる。」
「覚えてたの?」
「うん。一言一句ね。私が真白に告白したときの言葉」
「また咲久の口から聞けるなんて嬉しい」
真白は優しく抱きしめた。
「そんなに喜んでくれるとは。」
「喜ぶに決まってるよ。玲音のお嫁さんになりたいとか言ってたけどそんなのもう気にしない」
「じゃあなってもいいの?」
「いいよ。絶対奪い返すから」
「確かに。それに真白以上に好きになるのはまず困難。」
私がそう言うと真白は少し照れたように笑った。
「熱も下がったし勉強でもしようかな」
「そうだね」
それから蒼空達が帰ってくるまで真白と一緒に勉強をした。
「姉貴、大丈夫か?」
「うん。平気。心配かけてごめんね」
「真白を呼んでたからそこまで心配してない」
「蒼空はもっと他のことを心配しないとね」
真白が笑って言うと蒼空は首をかしげた。
「他のこと?」
蒼空が訊ねると真白は蒼空を連れて部屋の外に出た。
* * *
「俺さ、もうただの幼馴染みじゃなくて咲久の彼氏なの」
「知ってるけど」
「大事な姉を男と2人きりにさせるかな?俺、結構頑張って耐えたんだけど」
「そうなのか。お疲れ」
「ホントに鈍感すぎるよ、蒼空は。つまり……」
* * *
少しするとバンッ、とドアが開いて蒼空がすごい勢いで部屋に入ってきて私の肩を掴んだ。
「姉貴、大丈夫か!?」
「さっき、大丈夫だって言わなかったっけ?」
「そうじゃなくて真白がおそっ」
真白が蒼空の口を慌てて塞いだ。
「蒼空、安心して。“まだ”だから」
「なにが?」
「なんでもない。咲久は気にしないで。じゃあ俺はそろそろ帰るね」
真白はそう言うと蒼空を連れて外に出ていった。勉強に戻ろうと思って机を確認するとスマホが2台あった。真白、スマホ忘れてる。
「待って!」
私は慌てて階段を駆け降りた。すると、ちょうど真白が振り返って私の唇が真白の首に当たった。
「あ、ごめん。首にキスしちゃった」
「謝らなくて大丈夫だよ。それにしてもどうしたの?」
「スマホ、忘れてたから」
「ホントだ。ありがとう」
真白は私を抱き上げた。そのまま玄関まで私を運んだ。すると、蒼空が慌てて声を掛けた。
「おお、おい!何してるんだよ真白!まさか、連れて帰っておそ」
「わないよ。見送りをしてほしかっただけ」
そう言うと真白は私をおろした。
「真白、お前。虫に刺されてるぞ」
「え!どこ?全然痒くないけど」
「首のとこ。鏡で見てみろ。赤くなってる」
蒼空に言われて真白が鏡を見た。
「あ~、これは虫刺されじゃないね。キスマークかな」
「は!?誰が付けたって言うんだよ」
「あ、私かも。さっき、階段から落ちて真白の首に唇が当たったから」
「なんだ。そういうことか。」
「そうそう。じゃあまたね」
真白は手を振って外に出ていった。
「蒼空、ありがとう」
「何のことだ?」
「真白を呼んでくれて。熱のせいで記憶が曖昧なんだけど。多分、真白がうちに来るまで部活に行かないで看病してくれてたでしょ?」
「まあ、どういたしまして」
蒼空が顔を背けて言った。こういうところは私とも似てるな。やっぱり蒼空は私の弟だ。
20分後……
「え!咲久姉、風邪引いてたの!?」
「うん。でももう治ったから大丈夫だよ」
「そうなんだ。良かった」
莉久は胸を撫で下ろした。
「今日は久しぶりに私が料理しようかな」
「ダメだよ。病み上がりなんだから。私と蒼空兄で作るよ。リクエストは?」
「じゃあ焼きうどん」
「分かった。莉久、手荒ったらナスとキュウリのぬか漬けを切ってだし巻き卵焼いてくれ」
「任せて!」
「じゃあ私味見役ね」
私が笑って言うと莉久も蒼空も笑った。
こういうのってなんか、言葉じゃ表せないけどせめて言葉にするなら……“幸せ”