林間学校 後編
6時半になって広場に集まった。
キャンプファイヤーを囲んで全生徒が男女の2列に分かれてフォークダンスを踊った。
自由時間になって好きな人のところに行ったり仲が良い同士でキャンプファイヤーをバックに写真をとったりとそれぞれで楽しんでいた。
「千花、私達も写真撮らない?」
「いいよ」
撮った写真を千花に送った。
「おーい!千花!小鳥遊!」
と言って五十嵐が手を振った。隣にいた俊も大きく手を振った。そして、2人とも走って駆け寄ってきた。
「俺らとも写真撮ろうぜ」
と言って五十嵐がスマホを取り出した。
「いいよ。でも、伊織も誘っていい?」
と私が訊くと千花が
「当たり前じゃん!」
と言って2人も頷いた。なので皆で伊織のところに行った。
「伊織も一緒に写真撮らない?」
「うん。いいよ」
「OK!じゃあ俺の携帯で撮るぞ」
と言って五十嵐が写真を撮った。
「とりあえず千花と小鳥遊と俊には送ったけど俺、佐々木さんの連絡先持ってないからどうしたらいい?」
と五十嵐が言った。
「私が送ろうか?」
と言うと伊織は頷いた。
「伊織、私と連絡先交換してくれない?」
と千花が訊くと伊織はすぐに交換した。
「俺も交換してよ。そろそろ教えてくれていいじゃん」
と俊が言った。
「別に生徒会のグループには入ってるんだからいいでしょ?連絡は取れるじゃない」
と伊織が言った。
「そうだけどさ。」
と呟いた。しばらくしてキャンプファイヤーの音楽が止まった。
それから、またコテージに戻ってお風呂の用意をして施設の中の大浴場に行ってコテージで恋バナをした。
「じゃあ次は咲久ちゃんちゃんの番だよ。」
「私、一番気になってた~」
と皆がすごく期待した目で見てきた。
「好きな人だれ?」
と向かいに座っていた子がエアマイクを向けて訊いた。
「真白兄」
「会長と幼馴染みなんでしょ?付き合ってるの?」
「いや、片思い。真白兄は多分私のこと妹同然に思ってるよ」
「そうかな?」
「そうだよ。」
「あ!じゃあ、会長のどこが好き?」
「え!好きなとこ?」
「うん!何個かでいいから」
「一緒にいると落ち着くところと、変化にすぐ気づいてくれるところと、笑い方と少し低めで優しい声とか。…ってなんか恥ずい。」
「咲久ちゃんの照れ顔とかマジでレアじゃん。可愛い~」
「これを会長が見たら一瞬で好きになるのに!」
「なんでここに会長いないの!」
と言って何故か急に枕投げが始まった。
私はこっそり避難してベランダに出た。少し暇だな~と思っていたら真白兄の言葉を思い出した。『咲久もしつこく誘ってくる奴がいたり、暇だったら俺に電話していいからね』
そう言ってたけど念のためメッセージで確認を取った。
『今、ちょっと通話できる?』
と送るとすぐに既読がついた。
『いいよ』
と帰ってきたので電話を掛けた。
「もしもし」
『咲久、どうしたの暇だったの?』
「まあね。真白兄は何してたの?」
『蒼空とネット通信でゲームしててさっきゲームオーバーしたところ』
「そうなんだ。そういえば最近勉強するとき以外も部屋にこもってると思ってたけどゲームだったんだ」
『聞いてなかったの?』
「うん。そのゲーム面白い?」
『面白いよ。でも、咲久はちょっと操作が苦手だと思うよ』
「そっか。あ、そういえばさ、真白兄の好きな作品映画化されたんだって」
『みたいだね』
「よかったら一緒に観に行かない?」
『…うん。いいよ』
「やった。いつなら空いてる?」
『いつでも空いてるよ。』
「じゃあ、今週の土曜日でもいい?」
『うん。楽しみにしてる』
「私も」
『じゃあおやすみ、咲久』
「真白兄もおやすみ」
と言って通話を終えた。そしてその場に座りこんだ。
なんか会話がカップルみたいだったんだけど!嬉しいけど恥ずかしい。でも、デートに誘えた。
それから部屋に戻ると枕投げは終わっていて皆疲れて寝ていた。
私もそのまま布団に入って寝た。
翌朝、髪を整えて着替えた。朝食は施設の中にある食堂で食べるらしく準備をしてすぐ移動した。
「ヤバッ!バイキングとか神じゃん!林間学校っていうよりか旅行じゃん。」
とクラスの子が、言った。
「確かに豪華だね。お昼もここで食べるんでしょ?楽しみだね」
と千花も言った。
朝食を食べ終えて、登山をするまで少し時間があるらしく私達はお喋りをしていた。
登山はそんなに高い山ではないらしく道も整備されているそう。
約1時間ほどで頂上についた。誰かが「ヤッホー」と叫んでいたがその声はすぐに消え去った。
「さっき先生にきいたんだけどジップラインができるんだって」
とトモが走ってきて言った。
「ホントに!?楽しみ!」
「だな。咲久も千花もそういうの好きそう」
「トモくんも好きそうだけどね」
と千花が言った。
それから、ジップラインで山の下まで降りて残った自由時間に私達は大人も子供も遊べる公園に行った。
「滑り台めちゃくちゃ急なんだけど!」
「それな!落ちるかと思って怖かった」
「うちなんか一瞬心臓止まったと思ったんだけど」
と皆で大はしゃぎしていた。
「そういえば咲久、昨日枕投げしてたときに抜けてたよね?何してたの?」
と千花がブランコを漕ぎながら訊いた。私も隣のブランコに乗って漕ぎ始めた。
「真白兄と電話してた」
「そうなの?なんで?」
「枕投げから出てきて暇だなって思ってたし…なんかちょっと寂しかったから」
「へ~、そうなんだ。そのとき何かいいことあったの?」
「え!なんで分かるの!?」
「何かいいこと会ったって顔に書いてあるからね。で、何があったの?」
「真白兄が中学の頃から好きな小説が映画化されたから『よかったら一緒に観に行かない?』ってきいてみたら『いいよ』って言ってくれて今度の土曜日に映画観に行くことになったの」
「それってデートじゃん!頑張って」
「うん!でも、何着ていったらいいかな。もしかしてメイクもしていった方がいいの?」
「咲久はメイクしなくても十分可愛いよ。私もメイクしたことないから教えられないし。素人急にしたらそれこそへんになると思うよ」
「だよね。服はどうしよう。夏だしワンピースとかは?」
「ワンピースはよく着るから見慣れてると思うし」
「じゃあ無難に短パンとTシャツとかは?咲久ってあんまり短パン履かないしギャップ感じるんじゃない?」
「そうだね。せっかくだしいつもと違う感じで攻めないとね」
「頑張ってね」
「うん!」
それから、昼食を食べてコテージに置いていた荷物を取ってバスに乗った。
バスの中では疲れて寝ている人の寝息が響いていてつられて私も眠ってしまった。
学校についたのは5時前になっていた。バスから降りると運動部の練習している声が聞こえた。
グッと伸びをして荷物を受け取った。
今日はお父さんの秘書のハルくんが迎えに来てくれる予定だ。
ハルくんは優秀だけどまだ新人なので二十歳の頃からもう一人の秘書の三村さんという人と一緒に仕事をしている。
「咲久、私迎え来たからもう帰るね。」
と千花が言った。
「うん。またね」
と言って千花に手を振った。
「あの、小鳥遊さん。少し良いですか?」
と少し見覚えがある男子が言った。
「はい」
と言うとその男子は深呼吸をして顔を上げた。黒渕のメガネを掛けていて髪はサラサラのストレートだった。
「あの、僕、1組の鈴木貴斗って言います。」
「…鈴木貴斗って!見覚えあるなって思ってたら図書委員の人か!」
「僕のこと知ってたんですか?」
「うん!いつも本の整理とか丁寧だし本を探しててもすぐに見つけてくれてすごいなって思ってた。」
「ありがとうございます。僕、本が大好きでここの図書館みて受験したんですけど何故か人気がなくて。でも、小鳥遊さんはほとんど毎日来て読書中はすごく幸せって顔をしてて僕以外にも本が好きな人がいて嬉しかったんです」
「え!そんな顔してた?恥ずかしい。」
「そんなことないです。可愛いなって思いました。あんまり話したことない奴にこんなこと言われるのは気持ち悪いかもしれないですけど」
「なんで?あんまり話したことないって言っても本仲間じゃん!それに可愛いって言って貰えるのはすごく嬉しいよ」
「そうなんですか?良かった。あの、僕、小鳥遊さんが好きです。」
と鈴木くんは真っ赤になって言った。
「ごめんなさい。私、好きな人がいるんです。好きって言ってくれたのはすごく嬉しい。ありがとう、鈴木くん」
「好きな人がいるのは知ってました。小鳥遊さんはいつも図書館に来るときは2人で来てたので。だから、失恋するならちゃんと言葉にして失恋したかったんです。そうじゃないと前を向けないから。自分勝手ですみません」
と鈴木くんは申し訳なさそうに言った。
「そんなことないよ。自分を好きって言ってくれるのはすごく嬉しいから。勇気を出して伝えてくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございます。」
と言って鈴木くんはぺこりと頭を下げて帰っていった。
数分後、ハルくんから連絡が来た。
『遅くなってすみません。会議が長引きました。荷物をお持ちしますので少しお待ちください』
とメッセージが送られてきた。
ハルくんは相変わらず堅苦しいな。と思っているとハルくんが走ってくるのが見えた。
「咲久さん、お待たせしました。」
「ナイスタイミングだよ、ハルくん!さっきまで友達と大事な話をしてたから」
「そうでしたか。それではお荷物お持ちします。」
「じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、ハルくん」
「どういたしまして。というかこれも仕事のうちなので」
「ハルくんらしい反応」
そのまま、家まで送ってもらいハルくんは仕事に戻った。
土曜日の映画が楽しみで帰ってすぐに着ていく服を準備してしまった。