本当の夢
久しぶりのデート。今日は県内の少し高い位置にある牧場に行く。
真白が車で迎えにきてくれた。
「おはよう、咲久。こうして会うのは久しぶりだね」
「そうだね。色々忙しかったし。それと、いつも車出してくれてありがとうね」
「いいよ。運転好きだし。それに車に乗らないとこれを咲久にもらったこれ、役目果たせないからね」
そう言って真白の誕生日にプレゼントしたキーケースを見せて言った。ちなみに真白の誕生日は4月3日で蒼空とは2日違いだ。ちなみに蒼空は4月1日生まれの早生まれなので後1日遅かったら莉久と同い年だった。
「別に家の鍵でもいいんじゃない?」
「家の鍵はミサンガ付けてるからダメ」
「このミサンガってまだ切れてなかったんだ」
真白の鍵に付いていたミサンガは私が中学2年生のときに真白の受験応援のために作ったものだ。
「うん。まだ叶ってないからね。そもそもこのお願い事を叶えようとしてないからね」
「どういうこと?」
「なんでもない。じゃあ早く牧場に行こっか」
「そう、だね」
お願い事を叶えようとしてないってどういうことなんだろう。でも真白のことだしそんなに簡単じゃなくて諦めないといけないことなのかな?
約2時間ほどで牧場に着いた。この牧場では色々な体験ができる。例えば、チーズ作り、バター作り、乳絞り体験、エサやり体験等たくさんの動物とふれあうことも出来る。
「ヤギにエサやり出来るって。する?」
「うん」
そう言うと真白がエサを渡してくれた。
「ありがとう」
柵を開けてもらってヤギのいるところに入った。匂いでエサに気付いたのかヤギ達は私の周りに集まった。
「可愛い。ご飯どうぞ」
ヤギ達にエサをあげていると真白が写真を撮っていた。
「不意打ちで写真撮らないでよ。変な顔で残っちゃう」
「写真じゃないよ。これ動画」
「そういう問題じゃなくて」
「エサ、落ちちゃうよ」
そう言うと真白は空いていた方の手でエサの入った紙コップを持っている腕を支えてくれた。
「ホントだ。ありがとう」
「どういたしまして」
ヤギにエサやりを終えてウサギとヒヨコのいるふれあい広場に向かった。
すると、今度はウサギが周りに寄ってきた。エサの匂いが残ってたのかな?そう思っていると係のお姉さんに話し掛けられた。
「抱っこしてみますか?」
「はい」
そう言うと係のお姉さんは私の腕にウサギを乗せた。
「ふわふわで可愛い」
「咲久、ハイチーズ」
と言われて反射的に顔をあげるとパシャッと音が聞こえた。
「写真後で送るね」
「あ、うん」
ふれあい広場から出て腕時計を確認するともう13時だった。
お昼ごはんはこの牧場の名物のドリアを食べた。
お昼ごはんを食べ終えて牧場ないをしばらく散歩していると乗馬をしている場所があった。
「カッコいい子ですね。絵本に出てきそう」
「この子、アンリって言う男の子なんです。よかったら乗馬体験してみますか?」
馬を撫でながら係のお兄さんが訊いてきた。
「やります!」
「彼氏さんはどうですか?」
「真白も体験しなよ」
「俺はいいよ。みてるだけでも楽しいし」
「そっか、残念。真白が乗馬とか絶対にかっこいいし似合うだろうからみたかったんだけどな。いつか来たと」
「やります!」
「お兄さん、彼女さんに弱いですね。では、お兄さんからどうぞ」
そう言われて真白は馬に乗った。
「カッコいい!王子様みたい!」
私はそう言いながら真白の写真を撮った。
一周歩くと真白とアンリくんは帰ってきた。
「次、彼女さんどうぞ」
「はい。わあ、思ってたよりも高い」
私も一周歩いて元の場所に戻ってきた。
「アンリくん、ありがとう。お疲れ様」
そのあとは、ずっと気になっていた牧場のソフトクリームを食べた。
「ん~!美味しい!」
「咲久、付いてるよ」
「え、どこ!?」
「口の右側」
私は急いで手鏡を出してティッシュで拭いた。
「子供っぽくてごめんね」
「そんなことないよ。咲久のそういう抜けてるところ結構好きだよ」
「そ、そうなんだ。」
「うん。ホントは俺がとってあげようと思ったんだけど高2のときの文化祭みたいに人前ではやめてって怒られちゃうかなって」
「1年半も前のことまだ覚えてたの」
「そうだよ。って咲久も覚えてるじゃん」
「まあ、そうだけど」
ソフトクリームを食べ終わってお土産にチーズとパウンドケーキを買って真白の車に乗った。
「咲久、ちょっと寄りたいところあるんだけどいい?」
「いいよ」
それから30分ほどで真白は車を止めた。
「足湯?」
「そうだよ。ここ、景色きれいで無料で足湯も入れるんだよ」
「確かに景色きれいだね」
私は靴下を脱いでお湯に足を入れた。熱すぎず冷たすぎずちょうどいいお湯加減だ。
「歩と行った温泉思い出すな~」
「ここでは思い出さないでほしいな。未だにムカつくから」
「あ、ごめん。そういえばさ、真白はどうやって大学決めたの?」
「俺はとにかく実家から通いたかったから近いところで考えたよ」
「そっか」
「咲久は何かやりたいこととかないの?」
「私はインテリアデザイナー、というか家具のデザインをしたい」
「決まってるなら他にも条件足して絞ったらいいじゃん。うちの学校もデザイン系の学科あるし」
「真白と大学生活送れたら楽しそうだな~。ちょっと考えてみる。というか、気になってたんだけど真白の将来の夢ってなに?」
「咲久の旦那さん」
「真面目に答えてよ。」
「真面目なんだけどな。伝わらないかな」
「そういうことじゃなくて、私は真白は将来お医者さんになりたいんだと思ってた。」
「なんで?両親共に医者で代々病院を経営してるから?」
「そんなの関係ないよ。だってゆずちゃんは教師だし紫輝は水泳だもん。私はただ、真白は幸一さんと友里さんに憧れてるのかなって思っただけ」
「そんなこと」
「それに、昔言ってたし。私が、お父さんとお母さんが共働きだから寂くて真白に寂しくないの?って訊いたらお父さんとお母さんはすごい仕事をしてるから寂しいなんて思わない。頑張ってほしい。いつか一緒に働きたいって」
「それを言ったのはまだ小6ぐらいのときだよね?」
「そうだけど。今は違うの?私は今でもそうなのかなって思う。真白の本当の気持ち教えてほしい」
「咲久ってこういうのはなんでも見抜いちゃうよね。うん、ちゃんと話すよ。俺は咲久の言った通り本当は医者になりたい」
「うん」
「でも、咲久の旦那さんになりたいっていうのも嘘じゃない。俺は早く稼げるようになりたくて短大に入った。でも、俺の友達は皆やりたいことを見つけてそれに向かって頑張ってる。それをみてるとさ、思うんだよね。俺、なにやってるんだろうって。」
「そっか」
「それで、医学部に入り直すわけじゃないけど前よりもめちゃくちゃ勉強してる。久しぶりに勉強が楽しいって思ったよ」
「だったら幸一さんと友里さんに話して医学部を受けさせてもらったら?」
「いいよ。医学部って6年制だし。それから2年間研修期間だし。その頃には27歳だよ?俺、海斗さんや美久さんみたいに早く結婚して咲久とちゃんと家族になりたい。咲久を待たせたくない」
それを訊いて私は真白の頬を叩いてしまった。真白も驚いて目をパチパチとさせている。
「私のため?夢を諦めるために私を言い訳にしないで!私、真白に負担かけたくて付き合ってるわけじゃない!私は!真白が好きで、支えたいって思うから付き合ってるんだよ?そんなだったら私、別れる。真白の負担になりたくない!」
そう言って私は急いで靴を履いてと靴下と鞄を持ってバス停に向かって走っていった。
「咲久!」
後ろから真白の声が聞こえたけど私はきにせず走った。
バス停のベンチに座っていると車が止まって強面のおじさんと私より少し年上ぐらいのお姉さんが降りてきた。
「姉ちゃんよう、この辺はバスあんまり来ねえぞ。俺の車乗ってくかって泣いてんのか?何があったんだ?」
そう言うとその人はサングラスを外した。
「彼氏と喧嘩しちゃって」
「そうか。それは辛いな。あ、ちょっと付いてきな」
そう言うとそのお姉さんが歩いて行った。
お姉さんが案内してくれた場所は滝があった。
「うちもよく旦那と喧嘩したんだけどさ、その度にここに来てたんだよ。うちの旦那、元暴走族の総長なんだけどさ親父に負けてからは丸くなったんだよ」
「親子なんですか?」
「ああ。うちは小竹那雪」
「俺は畑中剛志だ。」
「小鳥遊咲久です」
「咲久ちゃん、こう見えても親父、教師だからさなんでも相談していいんだよ」
「実は~」
「その彼氏うちの旦那よりはマシだぞ。あいつ、高校んときに喧嘩したのにぼろっぼろでしてねえとか信じられるか?」
「よく言う。お前も喧嘩して帰ってきて喧嘩したのかって訊いたら勝ったから気にすんなって。そこは気にしてねえんだよ」
「え!那雪さんも元ヤンなんですか?」
「こいつ、元レディースの総長だぞ」
「意外!」
「初めて言われた。咲久、あんた人たらしだろ、絶対」
「そうですかね?」
「ああ。絶対にそうだ」
「そんな自信ありげに言わなくても」
私は思わず笑ってしまった。
「やっと笑ったな。じゃあその可愛い顔で彼氏のところ戻るぞ」
「でも、叩いちゃったし」
「そんなん気にすんな。彼氏もそんなことより咲久が居なくなったことの方が心配だろうから」
「そうですね。あの、連絡先教えてもらえませんか?また、相談にのってほしいです」
「いいよ」
「あ、スマホの充電なくなってる。じゃあ変わりに電話番号書いてください」
私は鞄からメモ帳とペンを出して渡した。
「ああ。書いたよ」
「ありがとうございます」
そう言ってメモ帳を受け取った。
バス停に戻ると真白がベンチに座っていた。真白は私達に気付くとすごいスピードで駆け寄ってきて私を強く抱きしめた。
「咲久!電話にも出ないでどこに行ってたの!?バス来てないみたいなのにいないから誘拐されたのかと思ってすごく心配したのに!」
「ごめん、スマホの充電切れてて気付かなかった。」
「あんた、咲久の彼氏?」
那雪さんが訊くと真白は私を抱きしめながら『そうです』と言って頷いた。
「もう彼女のこと泣かすんじゃねえよ。」
「じゃあまたな」
そう言って那雪さんと剛志さんは車で去っていった。
「真白、苦しいからそろそろ放して」
そう言うと力は少し緩まった。
「放さない」
「とりあえず足湯のところに戻ろう。逃げたりしないから」
そう言うと真白は私を抱き上げて足湯まで運んだ。
「心配かけてごめん。バスを待ってたらさっきの2人と会って付いてきてって言われて付いて行ったら滝のところに案内されてそこでちょっと喋ってたの」
「知らない人には付いていったらダメだよ」
「分かってるよ。でも、あの2人は私を無視して喧嘩したりしてたから大丈夫だよ。」
「それはたまたまって俺が怒れる立場じゃないね」
「いや、そんなことないよ」
「ううん。咲久に言われたときに反論できなかった。図星だったから。俺は咲久を言い訳に諦めてた。多少頭がいいだけじゃ医学部には入れても医者にはなれないから」
「……」
「でも、やっぱり諦めきれない。咲久、俺さ、父さんと母さんにちゃんと言って医学部に入り直すよ」
「うん」
「本当にごめん。咲久を言い訳に使って」
「ううん。私の方こそ叩いてごめん。赤くなっちゃってる」
私は真白の頬に手を当てた。
「ごめんね、真白」
「大丈夫だよ。もう痛くないから」
「そっか。良かった」
「あのさ、咲久。俺、咲久のせいにしちゃったけど別れたくない。もう、咲久のせいになんてしないし負担なんて思ってないからまた俺と付き合ってくれない?」
それを見て私は思わず笑ってしまった。
「そんなに不安そうに言わなくても大丈夫だよ。私は真白が大好きなんだから」
「ありがとう」
「今日は記念日だね。ケンカと仲直りの」
「そうだね。咲久、ありがとう」
「さっき聞いたよ」
「そうじゃなくて俺の気持ちに気付いて怒ってくれたことにたいして。多分、咲久以外には絶対にバレなかったと思う。咲久が気付いてくれなかったら決意できなかった」
「どういたしまして。でも、ホントにほっぺた大丈夫?ちょっと熱もってるよ」
「大丈夫。ホントに気にしないで」
「でも、怪我させちゃ」
と言いかけたとき真白がキスをした。
「これでチャラってことで」
「な、また、いつも急に」
「大丈夫って言ってるのに咲久がいつまでも気にしてるからだよ」
「だって初めて人を叩いたから自分でもパニックで」
「そっか。でもホントに大丈夫。もし腫れたとしても俺も咲久を傷付けたからお互い様だよ。これ以上気にするなら咲久が俺を嫌いにならない程度でキスし続けるよ」
「分かった。気にしない」
「素直だね。じゃあそろそろ帰ろっか」
「うん」
家まで車で送ってもらって降りようとしたら「咲久」と呼び止められた。振り替えると真白が抱きしめた。
「咲久、本当にありがとう。今日、帰ってきたらすぐに伝えるよ。ちょっと緊張してるかも。」
「大丈夫。真白なら大丈夫だよ。頑張って」
「ありがとう」
「どういたしまして。じゃあまたね」
「またね」
家に入ってお土産を見せると蒼空がさっそくチーズを使ってハンバーグを作ってくれた。
翌日、朝起きてご飯を食べていると家のチャイムが鳴った。
「咲久姉、真白兄だよ」
私はご飯を飲み込んで急いで靴を履いて出た。
「おはよう。」
「おはよう。ちょっとドライブ行かない?」
「うん。スマホ持ってくるから待ってて」
私は急いでスマホを取りに戻って真白の車に乗った。
「お待たせ」
「じゃあ行こっか」
「どこに?」
「着いてからのお楽しみ」
そう言うと真白はアクセルを踏んだ。なんだか今日は一段と楽しそうだな。
その場所は1時間ぐらいで到着した。
「ここって」
「俺の通ってる大学」
「え!私も入っていいの?」
「入ったらダメな区域もあるけど俺が行くようなところじゃないし」
「そうなんだ。」
「それにしても咲久、俺の顔1回も見てないよね」
「そんなことないよ」
「じゃあ俺と目を合わせてくれない」
「気のせいだよ」
「じゃあ顔上げて」
私は顔を上げた。そのとき、真白の頬に視線を移した。良かった。腫れてなかった。
「咲久ちゃん、昨日の約束忘れたのかな?」
そう言いながら真白が顔を寄せた。私は慌てて真白の口を押さえるた。
「そんなに頑なに断られるのもな~」
「ごめん、でももう気にしないから。ホントに」
「ホント?」
「うん」
「そっか。じゃあとりあえず中に入ろうか」
「うん」
大学内は高校と比べものにならないぐらい広い。私が驚いていると1人の男性が手を振ってこっちに歩いてきた。すると、真白が私の前に立った。
「真白!講義取ってたのか?」
「いや、休みだよ」
「じゃあ遊ばね?」
「今日は無理かな。」
真白がそう言うと真白の陰に隠れていた私に視線が集まった。
「彼女か?めちゃくちゃ可愛いな。」
「そうでしょ?」
「なあどこの学校?」
「桜川高校です」
「マジで!?高校生!?大人っぽいな。」
「自分では分からないんですけどなんかよく言われます」
「何年生?」
「高3です」
「名前は?」
「たかな……」
私が言おうとしたら真白が口を押さえた。
「質問しすぎ。だから隠れるように前に立ったのに」
私は真白の手をよけた。
「名前ぐらいいいじゃん。もう会わないかもしれないんだし」
「ダメだよ。こいつ、初対面で呼び捨てにしてくるわ距離は近いようなやつなんだよ」
「ひでぇ!なあ、彼女ちゃん、怒ってやってよ」
そう言ってその男性は私の肩を揺らした。
「なに触ってんだよ」
そう言って真白は私の肩からその男性の手をよけた。
「ちょっと、別に肩くらい大丈夫だって。なんで怒ってるの?」
「咲久は俺が女子に腕に抱きつかれたりしてもいいの?」
「それは嫌だけど」
「ちょっ、俺が悪かったから咲久ちゃんも真白もケンカすんなよ」
「名前、あ!真白が言ってたからか」
「あ、俺!ゼミ行くからまたな」
そう言うとその男性はどこかへ走っていった。
「そういえばあの人、なんて名前なの?」
「花村真人。入学式で隣に座ってて式が終わってすぐに話し掛けられた」
「そうなんだ」
「じゃあ校内見学しよっか」
そう言って真白が私の手を引いて歩きだした。
「私、ここ受けようかな。カフェとかおしゃれだし雰囲気が好き」
「だと思った。じゃあドライブデートの続きしよう」
「ここが行き先なんだと思ってた。」
「ここにも寄る予定だったけどちゃんと行きたい場所があるから」
それから並木道を通って1時間ほどで町内に戻ってきた。そして、小学校の近くにある丘の前に車をとめた。
「懐かしい」
「そうだね。久しぶりに木まで競走しない?」
「いいよ」
「じゃあ、よーい、ドン!」
真白の合図で丘の上までダッシュをした。
「真白、速すぎ、私、真白に勝ったことないかも」
「そうだっけ?でも木登りはいつも咲久が早かったよね」
「まあね」
「咲久、俺さ、昨日父さんと母さんに自分の気持ちちゃんと言った」
「どうだった?」
* * *
「父さん、母さん、おかえり」
「真白!?リビングで待ってるなんて珍しいわね」
「話があって」
「話?」
「せっかく短大に入れてもらったのにすみません。俺、ホントは医学部に入って父さんと母さんみたいに医者になりたいです」
「そうだったのか」
「はい。それで、頑張ってみたいと思いました。お願いします。医学部に入り直させてください。学費は奨学金を借ります」
そう言って俺が土下座をしようとすると父さんが肩に手を置いた。
「そこまでしなくてもお前の気持ちは分かった。学費は奨学金を借りずともお前の口座から使えばいい。だが、短大は半年以上は通って経営学を学ぶことが条件だ」
「え、でも、病院は颯真兄さんが継ぐんじゃ」
「いや、あいつは継ぐ気がねえみたいだ。近々、北海道に引っ越して家を建てるんだと。それとも大学の勉強と医学部の受験勉強は両立出来ないから諦めるか?」
「諦めません」
「そうか。」
「それにしてもどうして急に気持ちが変わったの?」
「昨日、咲久に見破られて、受けないことを咲久を理由に言い訳をしたら怒られて。自分の気持ちに嘘をついてまで咲久を傷付けて。そこまでして諦めなくてもいいのかなって思ったから」
「咲久ちゃんを傷付けるまで気付かなかったの?言い訳に使ってたこと」
「まあ、そうです」
「よくフラれなかったわね」
「いや、一度はフラれた。けど、言い訳に使ってたことを謝ってまた付き合ってくれた」
「咲久ちゃんが優しくて良かったわね。私が幸一にそんなこと言われたらドリップキック喰らわすけど」
* * *
「そうなんだ。じゃあこれからは2人とも受験生だね。息抜きもしつつ、一緒に勉強する?」
「勉強したい気持ちはすごくあるんだけど咲久と2人だと甘えちゃうから図書館かビデオ通話で勉強しない?」
「いいよ。真白が寝落ちしたら次の日は一緒に勉強しないけど」
「え!」
「冗談。普通に通話切って私も寝るよ」
「俺は咲久が寝落ちしても通話続けたまま勉強続けるけどね」
「寝顔見られるからやだ。すぐに切ってよ」
「寝顔見た方が頑張れるんだけどな」
そう言うと真白はひざまづいた。そして、私の手をとった。
「小鳥遊咲久さん。僕はあなたを愛しています。今すぐは無理だと分かっています。でも、自立して、ちゃんと自分達で生活できるようになったら僕と結婚してください」
「はい」
私がそう言って微笑むと真白ま嬉しそうに微笑んだ。