新生活
真白も湊も莉久も無事合格し今日は桜川高校の入学式だ。今年の入学式に参加する在校生は生徒会長のみとなった。他の係りも人が少ない。
私は2月中旬の生徒会選挙に出て副会長になった。
今年の生徒会長は伊織になった。
真白も大学の入学式が終わって授業が始まったらしい。
葵、颯、翔も中学の入学式が数日前に終わって今はもう学校に通っている。
私は学校が休みなので司と蒼空と3人で買い物に来ていた。(蒼空の服が小さくなっていたので)
「蒼空、これ似合うんじゃない?」
「じゃあそれも入れといて」
「これは?こういうパンツは結構使い回せるぞ」
「じゃあそれも」
という風に蒼空は自分のセンスに自信がないせいで何でも買おうとしてしまうので私と司が買う前にもう一度確認してから買う。
買い物を終えてカフェに入った。
「映画観て帰んない?」
司がスマホで今話題の映画を表示した。
「この大量の荷物はどうするんだよ?」
「ロッカーに預けときゃいいだろ。これ、好評なんだよ。映研としては観に行かないと。」
「そんな人気な映画、予約無しで行けるの?」
私がそうきくと司はフッフッフッと笑って私と蒼空にQRコードを送った。
「チケットは買っておいた。行こうぜ」
「私はいいよ。蒼空もこの映画観たがってたじゃん。」
「まあ、奢りって言うんなら」
「素直じゃないな~。ね、司」
「だな~。そんなだとモテねえぞ」
「別にモテなくてもいい。というか映画の時間は大丈夫なのか?」
「そろそろ行かねえとヤバいな」
そう言って司は席を立った。
シアターは平日のお昼だったけど他の高校も入学式で学校が休みらしく学生らしい人が何人もいた。
「ポップコーン買う?」
「俺はさっきランチ食べたからいい」
「俺も」
「そうだね。」
私達はQRコードを見せて中に入った。
映画は面白かった。話題になったのも分かる。
* * *
直人と洋介という同姓愛者のカップルが直人の親に反対されてしまう。直人は大企業の御曹司で一人息子である直人には跡取りがいなければならない。
2人はなんとか認めさせるために2人でカップルYouTuberになる。でも、再生回数も延びてきたそんなある日、洋介が交通事故に遭う。洋介は手術を受ける必要があったが手術費用は1000万円かかる。
直人と洋介の両親にはそんな大金をすぐに用意出来なかった。すると、直人の両親がある条件を出した。『俺達が手術費をもとう。だが、条件は直人は洋介くんと別れて結婚すること』そう言われて直人は考えたけど何よりも洋介を大事に思っていたので別れる決断をした。
辛く、悲しんでいた直人だがある日転機が訪れる。それは、直人の結婚相手も同姓愛者であり、体外受精で子供を産むと言ったことだ。
その子は自分の子供が欲しいけれど男性を好きになれない。『跡取りを産んでくれればあなたのパートナーを家に迎え入れてもかまわない。そして、パーティーは夫婦として参加する必要はない』直人の父親からそう言われてその子はすんなり受け入れた。
結局、直人はその女性と結婚して子供が生まれ、その女性は直人の許可も得てパートナーを家に迎え入れた。
直人も自分の子供を愛し、女性も家族として愛していたがやはり洋介のいない寂しさが心に残った。そんなある日、直人のお父さんが紹介したい人がいると言って家に連れてきた。
なんとそれは洋介だった。直人は驚きのあまり何も言えずに固まっていたら直人の父親が口を開いた。
『直人、今まで俺のわがままに付き合ってもらって悪かった。初め、俺は同性での結婚自体に反対していた。でも、直人も洋介くんもお互いに想い合っているということが分かってきた。だが、会社の跡取りがいないとこれまで働いてきた人達の仕事が奪われることになる。だから昔、直人に与えた二択はほとんど一択だったな。本当に悪かった。謝っても許されないと思うがこれからは洋介くんをパートナーとして家に迎え入れようと思う』
『父さん、ありがとう。俺は皆に祝福されたかった。だから認めさせたかった。』
ラストは直人の配偶者の女性とパートナー、直人と洋介の2組のカップルが同時に結婚式を挙げた。その女性とパートナーも直人と洋介とは家族として、親友としてすごく仲良くなった。
結婚式の挨拶は直人のお父さんがした。『この子達は俺達にとって大事な息子と娘です。一事、俺はこの子達にたくさん迷惑を掛けました。でも、この子達は俺を許してくれました。そんな優しい子達のこれからをどうか暖かい目で見てあげてください』
* * *
「咲久、泣きすぎじゃない?」
「だって、親に好きな人を認められなくて好きな人が交通事故に遭うって辛いじゃん」
「まあな。でもハッピーエンドだっただろ?」
「そこまでが辛すぎるの」
「まあそれもそうだな。それにしても咲久ってマジで涙もろいよな」
「まあ、そっちの方が姉貴らしいけど」
「そうだな。んじゃそろそろ帰るか。伊藤さんに迎えに来てもらったから駐車場行こうぜ」
伊藤さんは司達の家のお手伝いさんのことだ。
「迎えに来てもらったの!?」
「咲久と蒼空と出掛けるって言ったら父さんが迎えに行ってもらえって」
「じゃあ後で叔父さんにお礼しないとね」
「だな」
それから伊藤さんに車で家まで送ってもらった。
次の日は2、3年生はもう通常の全日授業が始まる。莉久は湊と一緒に登校するらしい。
私は3年2組になった。千花とは3年連続で同じクラスだ。でも、伊織と希沙と瀬川くんとトモとは違うクラスになった。
「やっぱり特進は2クラスしかないから見覚えのある顔ぶればっかりだね」
「そうだね。でも、お陰で千花と3年連続一緒になれて嬉しい」
「確かに。この辺が田舎で良かった」
「分かる」
そう言って私は千花と顔を見合わせて笑った。私達の住む地域は田舎と言っても田んぼや畑だらけというわけではなく人口もさほど少なくはない。
ただ、人口の半分以上の割合が高齢者と40歳以上で子供が少ないのでこの町には小学校が3校、中学が2校、高校が1校しかなく私達の通っていた小学校の近くには小さな山と丘がいくつかある自然に囲まれた場所だ。
隣の合咲町は人口はそこまで多くないものの、面積が広いので噂ではお金持ちな人が多いそうだ。
それから2週間。桜は葉桜へと変わり新入生の子達も少し慣れてきたようだ。
今は、真白が大学生で私も受験生になって去年や一昨年ほど会う頻度は多くない。電話やメッセージのやり取りはするけど最後に会ったのは莉久の卒業式の後だ。
今頃何してるんだろうな、なんて思うときにちょうど真白からメッセージが着たり通話が掛かってきたりする。
だんだん思考が似てきてる気がする。それか単なる偶然か。
さっきメッセージが着て今度の土曜日に出掛けることになった。
蒼空の服を買ったときに私もついでに買っておいて良かった。
時間の進むスピードがすごく早くなっちゃいました。