頑張りすぎないで頑張れ!
体育祭が終わって文化祭も終わって中間考査、修学旅行など色々な行事が終わった。
もう、来週には冬休みも始まる。
莉久と湊ももう部活を引退した。
私もそろそろ進路を考え出している。
私は1学期の職業体験でお母さん達の会社の商品開発部に行った。そこで私も家具のデザインに興味を持ってデザイン系を学べる大学に行こうと思った。
真白は短大の経済学部を目指しているそうだ。
「咲久ちゃん、会長のお迎えだよ」
「気付かなかった。希沙、ありがとう」
そう言って私は鞄を持って廊下に出た。
「咲久、一緒に帰ろう」
「うん」
帰り道、真白が誕生日プレゼントにドーム型のイヤリングをくれた。
「スノードームみたい。きれい」
「そうでしょ。咲久に着けてほしいと思って」
「ありがとう、真白。着けてくれる?」
「いいよ」
そう言って真白はイヤリングを着けてくれた。
「似合う、かな?」
「うん。すごく似合ってる。」
「ありがとう。」
「どういたしまして」
それから数日後、クリスマスイブ。今年はどこかに出掛けたりはしないで1年ぶりに帰ってきた紫輝も一緒に真白の家で海外のクリスマス映画を観た。
映画を観終えてからは紫輝が留学先のオーストラリアでカンガルーに追いかけられた話など面白い話をたくさん聞いた。
それから紫輝は葵達と会う約束をしていると言って外に行った。
「咲久、メリークリスマス」
そう言って真白は包みを私の手の上に置いた。
「あ、分かった!マグカップだ!」
「なんで分かったの?箱に入ってるのに」
「冗談。この前千花と買い物に行ったときに見ちゃっただけ」
「なんだ。びっくりさせないでよ」
「ごめんごめん。後、ありがとう。大切にする」
「どういたしまして」
「私からも。マフラー編んでみたんだけど……ちょっと不恰好になっちゃって代わりに手袋にしてみた。サイズ合うかな?蒼空と同じサイズにしたんだけど」
「うん。ちょうどいいサイズだよ。ありがとう」
「どういたしまして。後、マフラーはプレゼントっていうか私が一方的に受け取ってほしいだけというか。要らなかったら紫輝は気にしないと思うからあげてもいいし」
そう言ってマフラーの入った紙袋を渡した。すると真白はそれを受け取って私を抱きしめた。
「ありがとう、咲久。大切にする。絶対に誰にもあげないし咲久以外には貸さない」
「大げさだよ。ちょっと不恰好だし」
私がそう言うと真白はマフラーを取り出して首に巻いた。
「似合ってる?」
「うん。でもそれは真白が使うからそう見えるだけだよ」
「俺が使うんだから気にすることないよね?」
「そうだけど」
「それにこの素材、カシミヤだよね?カシミヤってちゃんと使ったら長持ちするんだよ。使わないともったいないでしょ?でも、汚れたくないから雨や雪が降ってる日は使わないけどね」
「そんなに長持ちさせなくてももっと上手に編めるようになったらそれあげるのに」
「それは嬉しいな。でも、初めてもらった記念でこのマフラーは使わなくなってもとっておくけどね。」
「もう真白のものだしそれは真白が決めたらいいよ」
「そうだね」
それから、6時半を過ぎて私は家に帰った。明日のクリスマス当日はクリスマスパーティーだけど莉久と主に湊は午前中は手伝いは無しで私と蒼空というスパルタ家庭教師の元で勉強をする。
いつも全く手を付けていない葵と翔は冬休みの宿題は少なかったらしくすでに終わらせているそうだ。
颯いわく、早めに宿題が配られて、普通の宿題はなくて湊が勉強を頑張っている姿を見て自ら宿題に取り組んでいたらしい。
それから1週間後。長谷川家と小鳥遊家で初詣に行った。
帰りに寄ったお店でお守り作りセットが売っていたので3つ買って家に帰った。
真白の受ける短大は新学期に入って1ヵ月もしないで入試がある。
真白の入試はとうとう明後日だ。
私はお守りの袋を作ってメッセージを書いた紙を入れた。
次の日、学校からの帰りに真白の家に寄ってポストに入れた。
そしてメッセージアプリを開いてメッセージを送った。
『ポストにお守り入れてるから藤森さんに頼むか勉強の休憩中にでも取りに行って』
送った数秒後に既読がついた。約1分後、真白が降りてきた。慌てて着たのかコートの襟が立っていた。
「襟、立ってるよ。」
そう言いながら私は真白のコートの襟を整えた。
「ありがとう。それにしてもブレザーは?」
「男子同士で水掛け合って遊んでたところに遭遇しちゃってブレザーとセーターが濡れちゃって。でもヒートテック着てるし歩いてきたから大丈夫」
「そう?」
「うん。それより休憩中にって送ったんだけど」
「メッセージ来たときから30分休憩。ちゃんとタイマーもセットしてるし」
「それならいいけど。というかポスト見た?」
「まだだった。わざわざお守り買ってきてくれたの?」
「買ってきたっていうかご利益とかはないかもなんだけど手作りのお守り」
「ホントだ。しかも俺の好きな紺色。ありがとう。どんなお守りよりも一番安心できる。」
「こちらこそ気に入ってくれてありがとう」
「うん。咲久、ちょっと散歩しない?」
「いいの?」
「少しだけだから。それにずっと座っているとストレス溜まっちゃうでしょ?」
「そうだね。じゃあ昔何回か行った公園行ってみる?家の前じゃない方の」
「いいね」
その公園は私の家からだと行き止まりがあって行くのには時間がかかるけど真白の家からだと真っ直ぐ行って階段を登るだけだ。私達は家のすぐそこに公園があったのであまり行かなかったが高台にあって見晴らしがいいので中学生か小学生のときに何度か夕日を見に行ったことがある。
その公園に着くと今日は寒いせいか誰もいなかった。
「すごい。階段はきついけどやっぱり景色きれいだね」
「そうだね。でも風邪強いね。やっぱりその格好寒くない?」
「大じょ、っくしゅん」
「俺のコート着なよ」
「真白が寒くなるじゃん。」
「大丈夫だよ。俺、カーディガン着てるし」
「ダメだよ。コートの方が暖かいもん」
「じゃあ、カーディガンの方を貸すよ。俺は寒いの苦手じゃないからコートがあれば十分だよ。それに咲久が風邪引いたら心配で試験に集中出来ないかも」
「分かったよ。着ればいいんでしょ」
そう言って真白から受け取ったカーディガンを羽織った。暖かくて震えはすぐに止まった。
「でもやっぱり真白の服だから大きいね。指先しか出ないよ」
「可愛い。あ、可愛いっていうときは態度で示さないと伝わらないんだっけ?」
そう言って真白が顔を近付けてきた。
「もう大丈夫だよ。真白のおかげでちゃんと素直に受け取れるようになったから」
「え~、ホントかな?」
「ホントだって。お陰さまで自信もついたし」
「良かった。」
そう言うと真白は優しく微笑んだ。
「このカーディガンさ、真白の匂いがして落ち着く。なんか、真白に抱きしめられてるみたい……なんちゃって」
すると真白は私を後ろから抱きしめた。
「こんな感じ?」
「全然違う。真白本人だとドキドキしちゃうから」
「ずるいよ、咲久」
そう言って真白が顔を近付けた瞬間、真白の携帯が鳴った。
「残念、もう帰らないと。行こっか」
「うん」
久しぶりに会ったせいかちょっとしたことでドキドキしてしまう。タイマーが鳴ってくれなかったら心臓がもたなかった。
真白の家に着いてカーディガンを返そうとしたら家まで着て帰ってと言われたのでありがたく借りることにした。
それにしても真白って香水か何かつけてるのかな?それとも柔軟剤とかボディークリーム?何かは知らないけどいつもいい匂いするんだよね。
莉久と湊にも作ろう。あ、やっぱり……。
私は莉久と部屋に向かってノックをすると返事がきた。
「入っていいよ」
「ごめん、勉強中だった?」
「ううん。休憩。」
「ねえ、莉久。お守り作らない?」
「お守り?私、手芸そんなに得意じゃないよ」
「簡単なやつ。セットになってるやつなんだけど私が莉久に作るから莉久は湊に作ってくれない?」
「真白兄に渡せばいいじゃん」
「真白にはもう渡した。湊の分も作ろうと思ったんだけど湊は莉久に作ってもらった方が嬉しいかなって。ほら、同い年だし」
「そうかな?」
「うん。メッセージも入れられるしいつかお守りを開けて2人で見るのもいい思い出になるでしょ?一緒に受験頑張ったなって」
「まあ、そうだね。じゃあ作り方教えて」
「うん」
そして、お守りの袋を縫い終えてメッセージを書いて入れた。
『莉久が自分の気持ちを素直に言えますように』
「はい、莉久。」
「ありがとう。」
「受験が終わるまで絶対に開けたらダメだよ。それと、湊に渡しておいで」
「うん。行ってくる!」
そう言うと莉久はスマホを持って外に出ていった。
「頑張れ、莉久」
私は独り言を呟いて部屋に戻った。
真白の学校の入試まで残り15時間。
私が真白に贈った言葉。
『頑張りすぎないで頑張って』