1年記念日
今日は学校が終わってから放課後に映画デート。
今は昼休みで侑李、千花、伊織、希沙と一緒にお弁当を食べていた。
「咲久、その髪型で行くの?」
千花が訊いた。
「え、そのつもりだけど。どうして?」
「せっかくの放課後デートなんだしヘアアレンジしようよ。それで会長をドキッとさせちゃおうよ」
千花がニヤッと笑って言った。
「でも私ヘアゴム1個しか持ってないんだけど」
「大丈夫。任せて!」
千花が自信ありげに言った。
放課後になって侑李も一緒に教室に集まった。
「ヘアアレンジは簡単なみつあみにするね。咲久はくせ毛だからアイロンしなくても大丈夫そうだね」
そう言うと千花は私の髪をとかしてヘアアレンジを始めた。
「咲久ちゃん、メイク道具なにか持ってる?」
希沙が訊いた。
「まあ、色つきリップくらいは」
「え!じゃあ他はすっぴん?」
「まあ、そうだね。」
「え!ホントに!?肌きれいすぎ。確かにこれだったらメイクする必要ないかも」
「分かる。咲久は下手にメイクしちゃうとよりそのままの方がいいよね」
侑李が頷いて言った。
「私も興味がないわけじゃないんだけど途中で飽きて使わなくなりそうだなって思って結局買わないんだよね。リップは可愛いかったら買うけどね」
「だから色つきのリップは持ってたんだ」
伊織が納得したという表情で言った。
「咲久、出来たよ」
そう言って千花は私の肩をポンッと叩いた。
「すごい!私、こんなに凝ったヘアアレンジ出来ない」
「これね、結構簡単だよ。みつあみして緩めるだけだから。でも結構可愛いでしょ?」
「うん!ありがとう、千花。真白と昇降口前の花壇のところで待ち合わせしてるからそろそろ行くね」
「「行ってらっしゃい」」
そう言って4人は手を振った。
昇降口を出てすぐの花壇の隣で真白がしゃがんで花を眺めていた。
「真白!遅くなってごめん」
私の声に気付いた真白は立ち上がった。
「まだ3分前だよ」
「あ、ホントだ。良かった~」
「……」
「急に黙ったりしてどうしたの?」
「いや、なんか。いつも可愛いんだけど今日はいつもより可愛く見える。髪型が違うからかな?」
「千花がやってくれたんだよ」
『葉山さん、ありがとう』
真白はなにかをボソッと呟いた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。じゃあ行こっか」
そう言うと真白は私の手を握った。そして、真白は手をズラして指を絡めた。
「付き合って1年も経つのに恋人繋ぎするのは初めてだね」
「うん。なんか普通に繋ぐよりも恥ずかしい。指までドキドキしてる」
「ホントだ。俺まで恥ずかしくなってくるよ」
そう言うと真白ははにかんだように笑った。
それから学校前のバス停からバスに乗ってショッピングモールに向かった。
シアターについて辺りを見回すと思っていたより人がいた。
「映画、何時からだっけ?」
「4時半だからちょうどいいね。咲久、ポップコーンとか買う?」
「ドリンクだけでいいや。アイスティーにする」
「俺はブラックにしよ」
ドリンクを買ってシアター内に入った。
今日、観る映画のあらすじは幼馴染みで恋人である高校生2人の恋模様を描いた内容で少し私達に共通点があった。彼氏は壮は難関校を目指す受験生、彼女、悠が1つ年下ということだけだけど。
しばらくして映画が始まった。
『ねえ壮くん。私達さ、距離置こう。』
『なんで?俺のこと嫌いになった?俺、知らない間に悠を傷付けた?』
『違うの。私、壮くんの負担になりたくない!だから壮くんの受験が終わるまでは連絡も取らないし会わないようにするから』
『待って!悠!』
彼氏、壮は悠に受験に合格したことを伝えに行く途中に事故に遭ってしまう。
静かな病室の中、悠はたくさんのチューブに繋がれた彼氏の手を握って泣きながら叫んだ。
『壮くん!起きて!お願いだから!お願い、だからさ……』
『は、る……。おれ、ごうかく……した、よ。はるに、あうために……がんばった、けっか……かな?……ごうかくいわい、なにか……ほしいな』
『壮くん。合格祝いなんてなんでもあげるから生きて!たくさんお祝いさせてよ!』
『ごめん、もう……ダメだ。はるに、あえて、よかった。世界で一番愛してるよ、悠』
『ねえ、壮くん!そんな最期みたいな台詞言わないでよ。ねえってば!目を覚ましてよ!』
悠の声はだんだんと絶叫に変わっていった。
最後、大人になった悠が壮の写真の前にリングを置いた。
『壮くん。受験合格おめでとう』
そう言った悠の左手の薬指にはお揃いのリングが輝いていた。
映画が終わって私はいつも以上に泣いた。私は真白に連れられてショッピングモールの目の前にある観覧車に乗った。
「ごめん、映画のチョイス悪かったね。」
「真白が謝ることなんてないよ。でもさ、考えちゃったんだ。夏休みにもし偶然に真白とあわなかったら今頃どうなってたんだろうって」
「大丈夫だよ。不幸と幸せの分岐点があるとして咲久は夏休みに会えたんだし幸せの方を進んでるんだと思うよ」
「そうだね。私はいつも真白の言葉に励まされてるな」
「それは俺の方だよ。」
「私、正直に言うと自分に自信がないの。私なんか可愛くないのにっていつも考えちゃう。」
「咲久は可愛いよ」
「そうやって真白や友達に褒められても嬉しいけど心のどこかではお世辞なんだろうなって思ってる気がするの」
「お世辞なんかじゃないよ」
「分かってる。つもりなんだけど……。ねえ、真白。どうしたら自分に自信が持てるの?どうしたら自分を可愛いって思えるかな?私、どうしたら素直に気持ちを受け入れられるのかな?」
「咲久……。言いたいこと全部言って」
「うん」
昔から色んな人に可愛いって言われてた。小さい頃は嬉しかったし私って可愛いんだって思ってた。でもさ、小学校あがっても自分は可愛いって思い続けたせいで色んな子達に嫌な思いをさせちゃってたんだって。
ある日、言われたんだよね。『咲久ちゃんを可愛いって言ってるのは皆お世辞だよ。咲久ちゃんは可愛くないよ』
そう言われてさ、鏡をみたんだ。じゃあ別に特別要素もなんにもない小学5年生の女の子が映ってた。『ホントだ。私の顔、全然可愛くないね』って言って笑ったらその子達はまた嫌な気持ちになったのか『嫌みとか言うなよ』って言ってから私を無視するようになったの。
なんでだろうね。私はその子達に言われたことに賛同したのに何故か怒らせちゃって。終いには私の写真に落書きしたりして靴箱に入れたりさ。
それで、あ~、私ってこんなに嫌われるぐらい可愛くないんだ。って思うようになった。それ以来可愛いっていう言葉を浴びせられる度にこれはお世辞だから信じたらダメだって心の中で言い聞かせてた。だから言わないでってずっと思ってた。
中学で千花と会って千花は私を可愛いって褒めてくれて久しぶりに可愛いって言われるのを嬉しいって思った。でも、女子同士で友達に可愛いなんてたくさん言うからお世辞なのかなって思うと悲しくなった。似合ってるだったら普通に喜べたんだけどね。
真白と付き合ってからも真白は本心で言ってくれてるって言い聞かせてたけどこれまで可愛いは気持ちを込めて言うものじゃないって心に教えてたせいで嬉しいかったけど心の底では少しだけどお世辞なのかなって思うこともあった。
「だからさ、真白の言葉を私は信じれてなかったの。最低だよね」
そう言って顔をあげると真白に抱きしめられた。
「ごめん。小学生のときに咲久がイジメられてたことに気付けなくて。俺、咲久に何回可愛いって言ったか分からないね。無意識に咲久を傷付けてた」
そう言って真白は観覧車に置いているもう一周乗れるボタンを押した。
「私も信じられなくてごめん。真白や千花、ファンだって言ってくれる子達の前だとカッコつけたりしてるのに心の中ではいつも信じてなかった」
「ううん。俺、咲久に信じてもらえるようにこれからは言葉と行動を一緒にする。咲久、大好きだよ」
そう言って真白はキスをした。
「通じた?」
「好きって言葉はもともと通じてるよ」
「うん。知ってた。そういう照れた顔が可愛い」
そう言って真白はもう一度キスをした。
「……長いよ」
「可愛いって言葉少しは伝わった?」
「結構、伝わった」
「良かった」
それから観覧車を降りて帰り道の途中で真白が立ち止まった。
「咲久、付き合って1年記念日で小さめのテディベアなんだけど受け取ってくれる?」
「うん!ありがとう。私からもプレゼントって程じゃないんだけど」
「アルバム?」
「そう。付き合う前のも付き合った後のも撮り貯めてた写真をプリントして貼ってみただけなんだけどね」
「ありがとう。一生大切にする」
「そこまで喜んでくれるなら作った甲斐があったよ」
「咲久、これからもよろしく」
「うん。よろしくね」
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