二度目の体育祭
夏休みも終わり新学期が始まって1週間が経った。今日から体育祭の練習が始まりだした。
私はあまり人気のなかったリレー、棒引き、玉入れに参加することにした。
「咲久ちゃん。練習行こ!」
友達の水城希沙がそう言って私の机の前にきた。
「いいよ。希沙はリレーと何に出るんだっけ?」
「私は障害物競走と二人三脚」
「そういえばそうだったね。」
「二人三脚は千花ちゃんとペアなんだよ。」
「そうなんだ。頑張って」
「うん!それより早くグラウンド行こ!」
「そうだね」
それから3週間後。今日は体育祭当日。
「蒼空、同じ組だね。頑張ろうね」
「ああ。」
蒼空は騎馬戦と100m走と障害物競走に出場するらしい。
一度教室にお弁当を置きにいってグラウンドに集まった。
開会式を終えてクラスのテントに戻った。
「希沙、障害物競走だよね?頑張れ」
「うん!」
そう言うと希沙は入場門へ向かった。
それからプログラムが進んでいって午前中最後の種目の千花、真白、歩の出場する借り物競争が始まった。
3人とも同じ走者でピストルの音と同時に走り出してお題の書いている紙を取った。
すると、3人ともすごい速さで走ってきた。
「「「咲久(先輩)!一緒に来て(ください)!」」」
「誰と?」
「咲久、俺と来て」
そう言うと真白がお題の紙を見せた。そこには『大好きな人♡』と書かれていた。
「会長は去年、咲久を連れていってたじゃないですか。咲久、私と来て」
千花の紙には『可愛いもの(者)』と書かれていた。
「葉山先輩も会長も後輩の私に譲ってくださいよ。咲久先輩、私と来てください。ちなみにお題は輝いている人です」
「相川さんは教頭先生に頼んでみたら?私は咲久と行くから」
「葉山先輩こそ物を借りてきたらどうですか?」
「咲久、背中乗って」
そう言って真白がしゃがんだ。
「え、あ、うん」
私が真白の背中に乗ると千花が右手、歩が左手を掴んだ。
「会長ずるいですよ。私も咲久の右手借りるので」
「私は左手借ります。会長、速く走ってください。咲久先輩を借りておいて1位以外なんてありえませんよ」
「分かってる」
そう言うと真白はこの変な状態のまま走っていってゴールした。
『3人同時にゴール!』
そのアナウンスをきいて千花と歩は手を離した。
『まずは葉山さん、お題は可愛いもの(者)ですね。』
すると、係の女子生徒が私の顔を覗いた。
『ミス桜川の小鳥遊さん。合格です。続きまして相川さん。お題は輝いている人ですね』
『はい!咲久先輩は体育祭でも活躍していて成績はトップで生徒会のメンバーでもあって私から見たらとても輝いています』
『そうですね。合格です。続きまして仁科くん。お題は大好きな人です。小鳥遊さんを大好きですか?』
『はい。大好きです』
そう言うと真白は微笑んだ。同時にキャーと悲鳴が聞こえた。
『合格です』
「真白、もう降ろして。恥ずかしすぎる」
そう言うと真白は私を降ろした。それから私達は退場門から退場していった。
「ごめんね。お題を見た瞬間、咲久が思い浮かんで。でもまさか被っちゃうなんて思いもしなかったけどね」
「それは私が一番驚いた。」
「そうだね」
「真白」
「何?」
「降ろしてくれたのはいいんだけど、なんで手を繋いでるの?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど汗かいてるし」
「俺は気にしないけど」
「私が気にするの。それに体育祭中だよ」
「じゃあ今日、一緒に帰ろう」
「蒼空も一緒にいい?」
「いいよ」
「お弁当、一緒に食べよ」
「うん。でも今日は屋上も空き教室も生徒会室も開いてないからどこで食べる?」
「屋上の階段も多いよね。……あ、真白のクラスとか?」
「いいよ。多分半分ぐらいしかクラスメートいないだろうし」
そして、教室にお弁当を取りに行って真白のクラスに向かった。
3年2組と書かれた教室に入ると真白の言っていたとおりクラスの半分ぐらいしかいなかった。
「お邪魔しま~す」
「どうぞ。俺の席はそこだよ」
「真白の隣、大和先輩なんですね」
「小鳥遊?ああ、真白と昼飯か」
「知り合い?」
「うん。歩の彼氏」
「……え!ホントに?」
真白が大声をあげて言ったのでクラスにいた人達が一斉に真白に注目した。
「声デカすぎ。てか、俺に彼女がいるのがそんなに意外か?」
「いや、そうじゃないんだけど。本当に付き合ってるんだよね?」
「そうだけど」
「じゃあさ、相川さんに咲久と仲良くするのもほどほどにしてって言ってくれない?俺が言っても全くきいてくれないんだけど」
「いいじゃん。おもしれえし。それにあいつはヲタク気質だからそう簡単には離れねえよ。俺を除いてあいつがこの世で一番好きなのは小鳥遊だからな」
「なんでそんなに自信あるの?」
「だってあいつ俺以外の男子と喋るときは緊張したりしないで話せるのに俺と話すときとか目があっただけで顔真っ赤にするんだよ。意外だろ?」
「え、うん」
真白がそう言って頷くと大和先輩はお腹を抱えて笑った。
「そんなマジな顔で頷くんじゃねえよ。じゃあ、俺は歩んとこ行ってくるわ」
そう言うと大和先輩は手を振って歩いて言った。
「真白、隣の席なのに知らなかったの?」
「うん」
「歩と大和先輩、歩が中1の頃に付き合い始めたらしいよ。歩と知り合ってすぐぐらいに惚気話聞かされたもん」
「そうなんだ。俺1人で勘違いしてバカだったよ。」
「勘違い?」
「ううん。なんでもない。早く食べようか」
「うん」
それからお弁当を食べ終えて喋っていると真白のクラスメートに話しかけられた。
「小鳥遊さん、大人気だったね」
1人の男子生徒が言った。
「え、あ、はい」
「真白も彼女がモテて大変だな」
「そうだね。しかも咲久って鈍感だから自分に好意を寄せてる相手の気持ちに気付かないで優しくしちゃうから。そういうところも好きなんだけど俺と付き合ってからも告白されてるんだよね」
「そんなにされてないし。少なくとも真白よりは」
「それもそうだな。真白は2週間に1回ぐらいのペースで告られてるからな。しかも他校生の女子からも」
「そういうのは咲久の前で言わなくていい」
そう言うと真白はその男子生徒の口を塞いだ。
「会長、日和、何話してんの?」
そう言って女子生徒も話しかけてきた。
「小鳥遊さん!可愛い~。ねえねえ、会長の好きなところってどこ?教えて!」
そう言ってその女子生徒は首をかしげた。
「え、ここでですか?」
「俺も知りたいな」
日和と呼ばれた先輩が真白の手を避けて言った。
「俺も」
すると真白まで頷いた。
「真白の好きなところはヘアアレンジとか服装とかを褒めてくれるところとか、体調が悪いのを隠していても気付いて助けてくれるところとか、私が何かされたら私より悲しんだり怒ったり、私が嬉しいことがあったら私より喜んだりしてくれるところ、です」
私は熱くなった頬を手で冷やしながら言った。
「小鳥遊さん超可愛い!私が付き合いたいぐらい。なんなら会長と別れて付き合う?」
「う~ん、どうしよう」
「ちょっと咲久!そこは即答でしょ!?なんで悩むの?」
「冗談だよ。そんなに焦らないで」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ。」
「ごめん。まさか本気にするなんて思わなかったから」
「じゃあ、これで許してあげる」
そう言うと真白は応援で使われたうちわで隠してキスをした。
「ちょっ、はっ?え、」
私は驚いて固まった。
「ちょっと~、会長さん、見せつけないでよね」
女子生徒がニヤニヤと笑いながら言った。
「見せつけてなんかないよ。ちゃんとうちわで隠したし」
「いや、めちゃくちゃ見せつけてただろ」
日和先輩も笑いながら言った。
「そうかな?それにしても咲久、顔真っ赤だよ」
そう言って真白が私の顔を覗き込んだ。
「誰のせいでこうなってると思ってるの」
「ん?俺。これで午後の競技も頑張れそうだよ。ありがとう」
「ありがとうって真白は違う組じゃん。」
「敵に塩を送っちゃったね」
「送る前に取りにきたじゃん」
「確かに。小鳥遊さん、うまいこと言うな」
日和先輩は笑いながら言った。
「全っ然嬉しくないです。それと真白はなんでいきなり、その……キスとかしたの?恥ずかしすぎるんだけど」
「俺をからかうから俺もつい意地悪したくなっちゃって」
「意地悪しちゃうとか方向性は違うけど小学生の頃の男子みたい」
「そうだね。俺、咲久の前では大人ぶってるだけで中身は結構子供なんだよ」
真白がいたずらっぽく笑うと先輩2人は大きく頷いた。
「へえ、なんか意外。いつも莉久達の面倒みてくれてたからかな?お兄ちゃんっぽいイメージがあった」
「お兄ちゃんって。咲久にはあんまりそう思われたくないんだけどな」
「お二人さん、イチャイチャするのはそれまででそろそろグラウンドに戻らねえと」
日和先輩が真白の肩を叩いて言った。
それからグラウンドに戻って自分のクラスのテントに行った。
午後の最初の種目は応援合戦だ。今年は侑李が応援団だ。
応援合戦が終わると次は100m走だ。
蒼空の番になった。
ピストルの音と同時に皆が一斉に走り始めた。
「蒼空!頑張れ~!」
蒼空は周りの人達を引き離して見事1位になっていた。
「蒼空くんすごいね。1位じゃん」
隣で一緒に応援していた千花が言った。
「うん」
すると隣に座っていた瀬川くんに声をかけられた。
「さっきの1位、小鳥遊の知り合い?」
「知り合いっていうか弟」
「弟いたんだな。あんまり意外じゃないけど」
「なにそれw。あともう一人妹もいるんだよ。今は受験生でうちの学校を受けたいんだって」
「俺の弟もうちの学校を受けたいって言ってた」
「瀬川くんも弟いたんだ。千花の妹も私の妹と同い年なんだよ」
「へえ。葉山も妹いるんだ。意外。お姉さんとかいそうなのに」
「こう見えても長女です~」
千花は胸をポンッと叩いて言った。
「妹しっかりしてそう」
「ちょっと~どういう意味?」
「別に。そういえばさ、水城さんは?」
「希沙?希沙なら伊織とどこか喋ってるんじゃない?」
「そっか。」
「どうしたの?希沙に用事?」
千花が瀬川くんにきいた。
「ああ。借り物競争で水城さんに青いヘアピン借りて、その後に水城さん、すぐにお昼に行ったから返しそびれてて」
「もうすぐリレーだから希沙も入場門の近くにいるんじゃない?私もそろそろ行くから一緒に行こう」
「咲久、応援してる」
「ありがとう、千花」
そう言って私と瀬川くんは入場門に向かった。案の定、千花はすでに入場門の近くにいて伊織と喋っていた。
「水城さん、ヘアピン返しそびれてすみません。ありがとうございました」
瀬川くんが希沙にヘアピンを渡そうとすると希沙は首を振った。
「リレーが終わるまで預かっててくれませんか?走ってる途中で落としたくないので」
「は、はい。頑張ってください。小鳥遊もリレー頑張れ」
「ありがとう。」
瀬川くんは嬉しそうに走って行った。
「瀬川くんって分かりやすいね。じゃあ私もそろそろテントに戻るね。2人ともリレー頑張って」
「うん!」
「ありがとう、伊織」
伊織も歩いて戻って行った。
リレーが始まり1年生から順番に走って今度は2年生のターンになった。
私の前は希沙で希沙は2位でバトンを繋いでくれた。
「咲久ちゃん、お願い!」
「任せて!希沙」
そう言って私はバトンを受け取って1位に走っていた人を抜かして離していった。
私達の組は見事1位になった。
退場門をくぐってテントの後ろの方に行った。
「やったね!咲久ちゃん!カッコ良かったよ。お疲れ」
「希沙もお疲れ。それとありがと」
そう言って私はニッと笑ってみせた。
「咲久先輩マジで可愛い~!」
「歩!歩もお疲れ様」
「はい!お疲れ様です!それにしても咲久先輩の走るフォームがきれいすぎて見惚れてました」
「ありがとう。歩も凄かったね。最下位から2位になるなんて」
そう言って頭を撫でると歩が嬉しそうに笑った。すると歩の後ろから大和先輩がきた。
「歩~、頑張ったな!」
大和先輩は歩の髪をくしゃくしゃしながら言った。
「大和、くん。ありがとう」
「お祝いに家でなんか食ってくか?」
「響もいる!?」
「あいつな~、高校生になってから部活始めて帰ってくんのおせえんだよな」
「そうなんだ。」
「今日はお祝いなんだし一応呼んでみるからさ。常連さん達と皆でパーっとさ」
「常連って大和先輩の家ってお店かなにかやってるんですか?」
「あれ?小鳥遊に言ってなかったか?うちは食堂をやってるんだよ。結構繁盛してて常連も結構いるんだよ」
「そうなんですね。」
「ああ。てかさ、歩、そろそろ俺の方向いてくんね?てか付き合って3年も経つんだからそろそろ慣れてくれよ」
「大和くんに慣れるのはなんか無理。」
「仁科から頼まれてんだよ小鳥遊から剥がしてくれって。今日は小鳥遊じゃなくて俺に甘えろよ」
「別に咲久先輩には甘えてるんじゃなくてかっこいいし可愛いから好きなだけだし」
「小鳥遊の腕に抱きついてそれを言うのはな~。俺もちょっと仁科の気持ち分かってきたかも」
「真白の気持ちって何ですか?」
「小鳥遊って仁科が言うとおりマジで鈍感なんだな。じゃあ歩借りてくな」
そう言うと大和先輩は歩を抱き抱えた。
「ちょっと、顔見ないで」
「はいはい」
「てか、降ろして。大和くんだと腕が折れて私も落ちそうで怖い」
「俺はそんなにか弱くねえよ。俺の部屋がジムみたいに筋トレグッズばっかりなのは知ってるだろ?」
「大和くん、私のこと殺すき!?恥ずかしすぎて死ぬ~!」
「それは大変だな。でも俺が死なせねえよ。それにあんまり騒ぐとキスすんぞ」
大和先輩はそう言うと歩の顔を覗き込んだ。
歩は慌てて大和先輩の口を押さえた。
「咲久先輩!また来週!」
「うん!またね」
そう言って私は歩に手を振った。
「私達もそろそろ帰ろうか」
希沙が言った。
「希沙、瀬川くんにヘアピン返してもらいに行くの忘れてない?」
「あ!ホントだ!忘れてた~。咲久ちゃん、先に帰ってて」
「分かった」
それから帰る準備をして蒼空と真白が教室まで呼びにきてくれた。
「疲れた~」
「そうだね。でも咲久、リレーで2位と差をつけて凄かったね」
「ありがとう」
「相川が教室に戻ってきたとき顔赤かったけど姉貴がなんかしたのか?」
「まさか。歩の彼氏の大和先輩の仕業だよ。」
そう言いながら昇降口を出るとたくさんの女子生徒に囲まれた。
真白のファン?それとも蒼空?
「あの、今日、すごくカッコよかったです!」
「えっと、誰が?」
私がきくと女子生徒達は口々に答えた。
「会長!」
「小鳥遊くん!」
「小鳥遊先輩!」
「小鳥遊先輩、棒引きのときすごくカッコよくてファンになりました!」
「あ、ありがとう」
「会長!騎馬戦でどんどんハチマキを取っていっててすごくカッコ良かったです!」
女子生徒の言葉に私も頷いた。
「分かる。カッコ良かった」
「ありがとう」
「小鳥遊くんも会長と騎馬戦で戦ってる姿すごくカッコ良かったです」
蒼空も頑張ってたよねと思いながら私も頷いた。
「アザす」
「あの、小鳥遊先輩。名前で呼んでもいいですか?」
「うん。いいよ」
「え、ずるい!私もいいですか?」
「もちろん!」
「あの、握手もいいですか?」
「うん、いいよ」
私がそう言って手を差し出すと「私も」と言って10数名が並んだ。
「咲久、いつからアイドルになったの?」
「なってないよ。私はただの一般人だよ」
「その状況でいわれても説得力がな~。な、蒼空」
「そうだな。」
皆に手を振って学校を出た。
「いや~なんかさ、芸能人になった気分だよね。」
「姉貴、思ってた以上に人気あって驚いた」
「咲久は可愛いだけじゃなくてカッコいいみたいだね。身長も高めだし」
「そうなのか。」
「分かんないけどでも嬉しいな。もちろん私のファンって言われるのもだけど真白と蒼空のカッコ良さが知れわたるのが嬉しい」
そう言うと真白が抱きついた。
「可愛いすぎ」
「え~、なにが?」
「全部。でも、また咲久のファンが増えるんだなって思うとちょっと複雑な気持ち」
「真白のファンも増えてるじゃん。どっちもどっちだよ」
「俺、邪魔っぽいから先に帰ってるな」
そう言うと蒼空は走って帰っていった。
「気をきかせてくれたのかな?やっぱり蒼空は優しいね」
「気をきかせてくれたっていうか私と真白の3人で帰るのが気まずくなっただけじゃない?」
「そうかも」
そう言うと真白は私の手を握った。
「もうすぐ付き合って1年だね」
「うん。」
「どこか行きたいところある?」
「いつも私の行きたいところばっかりだしたまには真白の行きたいところに行こうよ」
「俺の行きたいところか。行きたいところっていうか場所はどこでもいいから放課後に制服でデートしてみたい」
「私も!付き合って1年も経つのに制服デートしたことなかったもんね。じゃあショッピングモールで映画観ない?付き合ってなかったけど初デートだったし」
「覚えて、たの?」
「当たり前じゃん。好きな人を初めてデートに誘ったんだし」
「デートって思ってくれてたんだ」
「そうだよ。そのときはすでに真白のこと好きだったし」
「俺はてっきり咲久が映画を観に行きたかったのと七海のプレゼントを選ぶのを手伝ってほしかっただけだと思ってた」
「じゃあ明後日の記念日は私と映画デートをしてください」
「もちろんです」
そう言って真白は私の手を握った。