受験生の夏休み①
夏休みに入って真白は受験勉強に本腰をいれた。
夏休みは2~3日に1回寝落ち通話をするようになった。おかげで私も早寝早起きを続けることができていて規則正しい生活を送れている。
真白の勉強の邪魔をしないように夏休みに入ってからほとんど会っていない。
この前、図書館に宿題をしに行ったときに久しぶりに見た真白は少し、元気がなさそうだった。
心配ではあったものの勉強の邪魔をしてはいけないと思うと声は掛けられなかった。
今日は受験勉強と部活の両立を頑張っている莉久のためにコンビニの少し高いアイスを買いに行った。(莉久達はスタメンで全国に行って推薦をもらっているので11月の大会まで残るらしい。でも莉久はうちの高校を受けるつもりだから勉強も頑張っている)
アイスを買ってコンビニから出るとフラフラと歩いてくる真白の姿があった。
「あ!真白!久しぶり!」
私は手を上げて叫んだ。真白は私の声に気付いて顔をあげたその瞬間、その場で倒れた。
「真白!」
私は急いで真白に駆け寄って救急車を呼んだ。
「暑っ!熱中症?アイスと一緒に水と氷買っておいて良かった」
私はなんとか真白を影に移動させた。
そして、真白の着ていたブラウスのボタンを外して風通しをよくして私が腰に巻いていたシャツで氷を袋ごと包んで真白の首に当てて冷やした。
しばらくして救急車が到着した。私も同乗した。
* * *
ベッドで点滴を打たれながら真白は寝ている。
幸い、倒れたときに手をついたので頭は打たなかった。
私は真白のベッドの隣に置いてあった椅子に座って真白が目を覚ますのを待った。
すると、病室に医者で真白のお母さんの友里さんが入ってきた。
「咲久ちゃん、お昼ご飯まだでしょ?一緒にどう?」
「でも……」
「大丈夫よ。熱も下がってきてるしこの子は昔から丈夫だからね。それよりも咲久ちゃんが元気ない方がこの子にとっては大事件だからね」
「そうですね。じゃあ売店で何か買ってきます」
「そんなことしなくても大丈夫よ。もうサンドイッチ買ってきてあるから。真白が咲久ちゃんはサンドイッチが好きって教えてもらったから」
「ありがとうございます。」
私は友里さんと屋上に行ってお昼ご飯を食べた。(ちなみに、一緒に持ってきたアイスは少ししか溶けていなかったので友里さんが冷やしてくれたらしい)
「咲久ちゃん。最近、真白のことを避けてるの?」
「え!避けてないですよ!」
「そうなの?真白が『咲久に避けられてる。俺、嫌われるようなことしたかな』っておじいちゃんにまで言ってたのよ」
「最近、遊びに誘われても断ったりして会ってないですけど避けてるつもりは全然なくて。勉強の邪魔したくないしデートしたらその分睡眠時間とか削りそうなので」
「まあ、咲久ちゃんの気持ちも分かるわ。確かにあり得そうだものね。でも、もう少し真白を信じてあげて。真白は徹夜なんてしたら咲久ちゃんを心配させるって分かったから多分もうしないと思う」
「そう、ですかね」
「ええ。真白は咲久ちゃんのこと大好きだもの。母親の私が保証する」
「まあ、好きでいてくれてるって実感はあります」
「それはそうよね。」
「はい。でも、どうして私をこんなに好きでいてくれてるのか分からないんです」
「咲久ちゃんは真白を重いと思う?」
「重いって何がですか?」
「あ~、その様子なら心配なさそうね。それでどうして咲久ちゃんをそんなに好きかよね」
「はい」
「これはあくまで私の想像だけど真白は昔、女の子みたいで近所の人にも幼稚園の先生にも可愛いって言われてたの知ってる?」
「はい」
「さすがにその年齢で可愛いって言われるのが下に見られてるなんて思わないけど戦隊もののごっこ遊びに参加させてもらえなかったり逆にお姫様ごっこに参加させられたりしてたのよ。」
「知らなかったです」
「でもね、咲久ちゃんはいつも真白を可愛いじゃなくてカッコいいって言ってくれてたでしょ?真白にとってそれは魔法の言葉だったんだよ。」
「魔法の?」
「そう。別に幼稚園の先生や近所の人達が悪いわけじゃないけどやっぱりカッコいいって言われたかったんだと思う。だから咲久ちゃんがカッコいいって褒めてくれるたびにあの子私や幸一や柚希に嬉しそうに報告してたのよ」
「なんか想像できます」
「でしょ。まあ、あくまで私の想像ってだけだからもっと他の理由があるかもしれないけどね。それは本人に聞いてみて」
「はい」
「私、そろそろ休憩終わりだから戻るわね」
「はい。」
「またね」
「あ、友里さん!」
「なに?」
「お仕事頑張ってください」
「ありがとう。咲久ちゃんのおかげであと半日頑張れるわ」
そう言って友里さんは手を振って歩いていった。
私も真白のいる病室に戻った。
まだ真白は目を覚ましていなかった。でも、よく見ると掛けてあった布団がめくられていた。
「真白、もしかして1回起きたのかな?」
気持ち良さそうに寝ていたので胸を撫で下ろした。
2時頃、電子書籍で本を読んでいると真白が起きた。
「真白、おはよう。いやこんにちは?」
「え、なんで咲久がいるの?」
「なんでって真白が熱中症で倒れたからでしょ。たまたま氷と水を買ってて良かったよ。私、運良すぎない?」
「あ、そっか。そういえばコンビニの近くで会ったね。咲久が助けてくれたんだ。ありがとう」
「どういたしまして。心配してたけど途中で起きたっぽかったし幸せそうな寝顔で安心したよ」
「幸せな夢を見てたからね」
「どんな夢?」
「咲久にもいつか見せてあげる」
「そんなの出来ないよ。それにしてもなんであんなにフラフラだったの?また寝不足?」
「いや、しばらくクーラーの効いた部屋で勉強して外に出てなかったから久しぶりの暑さに身体がびっくりしたんだと思う」
「そうなんだ」
「うん。それにしても俺のこと避けてたんじゃないの?」
「避けてないよ。」
「でもデートに誘っても毎回断るじゃん」
「それは真白がデートした分、夜に勉強してまた体壊したら嫌だし、会っちゃうと毎日会いたくなるし」
「だったら毎日会おうよ」
「でも、勉強は?」
「それはなんとかなるよ」
「……あ!じゃあさ、雨の日以外毎日朝に一緒にランニングしよ!運動不足なんでしょ?それと夕方はお散歩デートしよ」
「雨の日でもあんまり強くないときには相合い傘で散歩しない?」
「うん。いいよ」
「あと、寝落ち通話も迷惑じゃなければ毎日したい」
「もちろん!迷惑どころか感謝してるよ。おかげで早寝早起きだもん」
「そっか。あと、咲久の夏休みの宿題が終わったら海までドライブしない?」
「うん。あと、3日もあれば終わるはず」
「早いね。まだ8月になったばっかりなのに」
「真白と遊んでなくて暇だったからね」
「去年は別荘に行ったり花火大会に行ったりプールに行ったりって感じで結構遊んだもんね。まあ、咲久は最後の最後に湊くんと葵ちゃんと翔くんの家庭教師やってたけどね」
「まあね。でももう慣れたよ」
「そっか」
そう言うと真白はとても愛おしそうに笑った。その顔を見てると嬉しくて、照れくさくて、真白の顔をじっと見ることが出来なかった。
「ねえ、真白。この前の火曜日に図書館にいたでしょ?実は私もいたんだよね」
そう言うと真白をすごく驚いた表情をした。
「気付かなかった。声かけてくれれば良かったのに」
「勉強してたから邪魔したら悪いなって。それでさ、そのときなんか元気なさそうに見えたんだよね。何かあった?」
「こんなこと言うのは恥ずかしいんだけど。夏休みに入るまではほとんど毎日、咲久と会ってたのに夏休みに入ってから会えなくなって寂しかったんだ。遊びに誘っても何回も断られるし、嫌われたのかなって思って気分転換に図書館で勉強してたんだ」
「そうなんだ。私も本当は真白に会えなくて寂しかったし、デートに誘われて行きたかった。でも、これからは迷惑にならない範囲で真白に甘えることにする」
「咲久に甘えられて迷惑だなんて思わないよ。勉強中でも邪魔だなんて思わないし受験を咲久のせいになんてしないよ」
「それは分かってるけど」
「なんなら一緒に勉強したいし」
「図書館で?」
そう訊くと真白は考え込んだ。
「でも、図書館だと話せないから家で」
「真白の?」
「大丈夫。心配しないで。藤森さんがいる時間だから」
「別になんの心配もしてないけど」
「あ、そうなの?」
「うん。あ!でも、真白の家だと勉強サボって甘えちゃうかも」
「藤森さんがいても?」
「それはちょっと恥ずかしいな。でも、真白しか目に入ってなかったら気にしないかも」
「嬉しいけどそれは俺が耐えれなさそうだからやっぱ俺の家はやめよう」
「まあ、真白が嫌ならいいけど。じゃあ私の部屋くる?」
「湊くんと莉久ちゃんも一緒に勉強する?」
「それもいいけど、それだと甘えられないよ。真白以外に甘えてるところみられたくないし。……って真白?どうしたの?しんどい?」
真白は顔を真っ赤にしてはぁとため息をついていた。
額に私の額を当てるとすごく熱かったので急いで水を渡した。熱がぶり返したのかな?
「友里さんか他の先生呼んでくる?」
「いや、大丈夫。てか、母さんは絶対に呼ばないで。笑われるから。他の先生も大丈夫」
「分かった。でもホントに大丈夫?」
「大丈夫。でもあんまり顔を見ないで。恥ずかしいから」
「恥ずかしいって照れてるだけ?」
「そうだよ。だからあんまり見ないで」
「え~、いや。真白が照れてるところを見るの久しぶりだもん」
私が真白の顔をあげて見つめていると真白にキスをされた。
「な、にを」
「咲久が意地悪するからだよ」
「顔見ないで!」
「え~、どうしようかな~」
真白はそう言って顔を近づけた。すると、その瞬間病室をノックされてドアが開いた。
「病院ではお静かに」
ベテランの見覚えのある看護師さんが言った。
「「すみません」」
「あれ?真白さんの彼女さん、顔が赤いですけどもしかして熱中症ですか?」
「あ、いや、大丈夫です。」
「そうですか。でも、気を付けてくださいよ。」
「はい」
「では、失礼します」
その看護師さんはそう言うとドアを閉めて出ていった。
「助かった。」
とほっと胸を撫で下ろした。
「病院だってことを忘れてた」
そう言って真白は苦笑いをした。
「病人のくせにキスしてくるとか真白以外にいないよ」
「そうかな?弱ってると甘えたくなっちゃうものでしょ」
「それはそうかもしれないけど他の甘え方もあるでしょ?」
「そうだね。ごめん。嫌だった?」
「そんな聞き方やめてよ。嫌なわけないじゃん。ただそういうのは元気になってからにしてってだけ」
「咲久と喋ってたら元気になったよ」
「それは良かったけど。っていうかそろそ」
私が言うのを遮るように真白がキスをした。
その瞬間、「おじゃましま~す」と元気な声が聞こえてドアが開いた。
「咲久!会長!お久しぶりで、す……。あ、お邪魔しました」
そう言って千花がドアを閉めようとした。
「ちょっ!3人とも!待って待って!」
私は慌てて千花の腕を掴んだ。
取りあえず3人とも病室に入ってイスに座った。
「会長が熱中症で倒れたってきいたから部活終わって急いできたのに元気そうっスね」
俊が笑って言った。
「咲久ちゃん?どういうことかな、これは?」
真白も笑顔で訊いてきた。
「だからさっき言おうとしたのに真白が、……キスしてくるから」
「咲久が元気だったらいいって言ったからつい」
「ついって。私、恥ずかしすぎて正直この場から立ち去りたいんだけど」
私は顔を手で仰ぎながら言った。
「それにしてもキスしてる現場見られても会長はあんまり照れないんですね。」
千花がそう訊くと真白は頷いた。
「どちらかと言ったら見せびらかしたいからね。俺の彼女だから手を出さないでねって。でも、照れて可愛い咲久を見られるのはそんなに嬉しくないけどね」
「咲久は恋バナだけで同じような反応しますよ」
「へ~、意外!でもないか」
「そうですね。それにしても咲久、照れすぎじゃない?」
「そういう千花は友達にキスしてるところ見られるの恥ずかしくないの?」
「私はファーストキスまだだよ。ずっと部活だしデート先もスポーツセンターとかボーリングとかだから」
「五十嵐、なんかごめん。千花にこんなこと話させて」
「いや、千花が勝手に言ったことだから気にしなくてもいい。それにしても副会長と佐々木さんは呼んでないのか?」
「うん。伊織、今日はデートだって言ってたから邪魔したら悪いなって思って」
「リア充ばっかりかよ。俺はまた片想いしてるのに」
「侑李に?」
「そうそう。ってなんで?俺、咲久に言ってないよな?」
「そうだね。でも副会長が倒れた次の日に侑李の冗談を真に受けてたからもう恋愛対象になってたのかなって」
「あの時好きになった訳じゃねえよ。まあ、きっかけはそうかもしれないけど」
「応援してる。私がアドバイスしてもいいけど真白の方がいいアドバイスしてくれると思うよ」
「え、マジで!?じゃあどうやってデートに誘えばいいですか?」
「俺の場合はこういうところあるんだけど楽しいらしいよ。一緒に行かない?って感じで誘ったよ」
「遊びに誘う感じですか?」
「そうそう。でも1つだけ注意して」
「な、なんスか?」
「俺ね、付き合う前に花火大会に誘ったんだけど2人でのつもりで言ったのに咲久が鈍感すぎて妹と幼馴染みも誘って皆で行きたいねって言い出してさ。結局、葵ちゃんと翔くんっていう幼馴染み2人に協力してもらって2人きりになったんだけどね」
「つまり、それとなく2人きりって言わなきゃいけないってことですか?」
「それとなくで伝わればいいけどね」
そう言って真白が私の顔を見た。
「私は鈍感なんじゃなくてその発想をしてなかっただけだよ。普通自分のことを好きかもなんて思う?」
「俺は思うときもあるよ。でも告白される前にそれとなく断って告白された後にもう一度ちゃんと断るけどね。おかげで告白を断っても泣かれなくなったよ」
「さすが学校一のモテ男」
俊がそう言って感心していた。
「付き合ってからも告白されてるの?」
「まあ、ね。でも今は1週間に一度あるかないかぐらいだよ。それに大体は気持ちだけ伝えてスッキリしたかったって言われるし」
「モテるのも大変だね」
私がそう言うと真白が呆気にとられたような表情をした。
「いやいやいやいや。なんでそんなに他人事なの?ミスコン以来、咲久のファン急激に増えて女子からも男子からも告白されるようになったじゃん」
「告白なんて女の子からはあんまりされてないよ。皆『ファンです』って言ってるし」
「でもたまに相川さんみたいなファンもいるでしょ」
「歩はファンじゃなくて友達だよ。夏休みに入ってすぐぐらいに軽井沢に日帰り温泉旅行に行ったんだよ。」
「咲久、やめた方が」
千花が慌てたように言った。
「え、何を?って話がズレたね。その日ね、6時集合、18時解散だったからもうめちゃくちゃたくさん温泉入ってさらに仲良くなったんだよ」
「へぇ。そうなんだ。七海、五十嵐くん、葉山さん。お見舞いありがとう。部活で疲れてるだろうしもう夕方だろうし帰った方がいいんじゃない?」
「そうですね。帰ります。お大事に」
そう言うと3人は早足で帰っていった。
「夕方って言ってもまだ15時半だよ」
「そうだね。でも、3人とも帰ったんだし部活で疲れてたんだよ」
「そっか。そうだね」
「それよりも俺のデートは断りながら相川さんとは仲良く軽井沢に日帰り温泉旅行」
「真白のデートを断ってた理由は言ったじゃん」
「そうだね。でも温泉行ったことなんで教えてくれなかったの?」
「真白には言う必要はないって歩が」
「咲久。どうして相川さんがそんなこと言ったと思う?」
「まさか、」
「やっと気付いた?」
「え、歩は真白が受験勉強をしてる間に私が遊びに行ったから悪いなって思って言う必要はないって言ったのかな?」
「ねえ、なんでそうなるの?相川さんは咲久が好きってことだよ」
「え、嬉しい。私も歩好きだもん」
「それ、相川さんにもファンの人にも言ったらダメだよ」
「ファンって言ってくれてる子達には言ってないけど歩に『私のこと好きですか?』ってきかれて好きだよとは答えたよ」
私がそう言うと真白は盛大なため息をついてスマホを操作した。数分間経った。
「相川さんの本性見せてあげるよ」
そう言うと真白はトーク画面を表示した。
* * *
『なんですか?わざわざ小鳥遊くんから連絡先きいたりして』
『咲久と日帰り温泉旅行したって本当?』
『デートって言ってくれてもいいんですよ』
『言うわけないでしょ』
『そう言うと思いました。要件は?』
『なんで俺に黙ってろなんて言ったの?』
『そんなこと言ってませんよ。ただ、しばらく経ってから知ってめちゃくちゃヤキモチ妬いてたら面白いなって思っただけで~す』
『今、その状況なんだけど』
『自業自得ですよ。咲久先輩が寂しがってるのにも気付いてなかったんでしょ?』
『それは、そうだけど。というか、咲久のこと諦めてくれない?』
『諦めるって。何か勘違いしてませんか?』
『勘違い?』
『だって私、彼氏いますし。それに、もし恋しててもさすがに彼氏いる人に手は出しませんよ。まあ、会長よりも先に咲久先輩の裸を見たのは悪いなってw思いませんけど』
『じゃあ、好きじゃないのになんで誘ったの?』
『好きじゃないなんて一言も言ってませんよ。というか咲久先輩のことは大好きですよ。でもそれはあくまでも推しとしてですから』
『恋人の俺はまだ咲久と温泉に入ったことないんだけど。だったらせめて俺と行ったことがあるところだけにしてくれない?』
『温泉に行ったことがないって知ってて温泉に誘ったんですけど。というか会長は温泉なんて混浴じゃないと一緒に入れないですよ。しかも混浴でも他の男の人が入ってくるかもしれませんし』
『貸し切りのところもある』
『え!調べたんですか?まあ、私達の行った所にもありましたけど』
『そうだけど。でも、さすがに成人前にはダメかなって思って我慢してるけど』
『あっそうですか。あ!咲久先輩の肌めちゃくちゃ白くてスベスベでしたよ』
『なに?触ったの?』
『その言い方はやめてください。マッサージをしただけですよ。ちょっと胸に当たっちゃったんですけどマシュマロみたいにふわふわってこれ以上はダメですね。じゃあ要件すんだみたいなのでブロ削しま~す』
『これ以上ってなに!?』
* * *
「歩。変なことまで話さなくていいのに」
「変なことって?俺に話せないようなこと?」
「う~ん。話せなくも、う~ん」
「咲久が話したくないのに無理やり話させたりはしないけど心配だから教えてくれたら嬉しい」
「まあ、話せなくもない、かな。あのね、温泉の施設で浴衣をレンタル出来てそれで借りて温泉街を散歩してたんだけど、歩が浴衣になれてないらしくてちょっとつまずいちゃって」
「うん」
「それでね。事故なんだけど階段から落ちそうになったから受け止めただけなんだけど歩の方が前で歩いてたから歩の頭をその、……胸で受け止めたんだよね」
「へえ。」
「それでさ、」
「え!まだ続きあるの?」
「うん。運が悪くて浴衣がちょっとはだけてそこに歩の唇が当たっちゃった……みたいな感じ」
「つまり?」
「胸にキスされたってことになるのかな……?」
「ちょっと待って!なんで教えてくれなかったの?」
「言えるわけないじゃんこんなこと。言っても真白を悲しませるだけだって分かってたから」
そう言って目を伏せると真白は黙りこんだ。そして私をそっと抱きしめた。
「ごめん。俺が言ってほしいって言ったのに怒ったりして。言い辛かったよね。教えてくれてありがとう。咲久は意味もなく隠し事なんてしないって知ってたはずなのに。本当にごめん」
「いいよ。歩もあんな風に言ってたけどめちゃくちゃ謝ってくれたしお詫びにってその旅行のペアチケットもくれたし本当はいい子なんだよ」
「でも仲良くはなれないかな。馬が合わないし」
「そっか。そうだ。この温泉旅行一緒に行かない?有効期限、5年もあるし。大人になってからでも一緒に行かない?1泊ぐらいしてゆっくりしようよ」
「こんなめんどくさい彼氏と5年後も付き合ってくれてるの?」
「まあ、正直たまにめんどくさいけどそこも含めて真白が大好きだもん。真白と付き合えてから真白と付き合ってない未来なんて想像できなくなったぐらいだし」
「俺、もう少し心に余裕を持てるようになるね」
「別に私は今のままでもいいんだけど」
「俺が変わりたい。大人になりたい。ヤキモチもこれからたくさん妬くと思うけどちゃんと大人になってそういうときは嫌だなんて言わないで咲久に甘えることにする」
「真白がそうなりたいなら私も応援する」
「ありがとう」
「うん。じゃあそろそろ帰るね」
「またね」
「うん。後、ドライブの約束忘れないでね」
「分かった」