林間学校 前編
今は6月下旬。中間テストも無事に終え、今度は期末テストが始まろうとしている。でも、私達1年生は期末テストが終わるとすぐに林間学校が待っている。
「ああ”~。期末テスト嫌だ~。中間終わったばっかだろ~」
と生徒会室で言っているのは同じ生徒会メンバーの七海俊だ。
隣で本を呼んでいた同じく生徒会メンバーの佐々木伊織が本を閉じて俊を睨んだ。
「七海うるさい。」
「だって~テスト終わったばっかでまたテストとか意味わかんねぇじゃん」
「学校は勉強をするところなんだからテストぐらい当たり前じゃない」
と伊織が言い放った。
「まあまあ、2人とも落ち着いて。俊、分からないところがあったら言って。教えるから」
「ありがとう、咲久。じゃあ早速ここ教えてほしいんだけど」
と言って俊が問題集を向けた。
「ちょっと待って!咲久、私もここ教えてほしいんだけど」
と伊織も問題集を指した。
「いいよ。ここはね、この公式を使ったら分かりやすいよ。伊織のはこの文法に当てはめたら文章ができるよ」
「ホントだ。なにこれめちゃくちゃ簡単じゃん」
と俊が言った。
「英文、これであってる?」
「うん!あってるよ」
「すごい!さすが学年1位。教えるのも上手い」
と伊織が言った。
「ありがとう。弟と妹にもよく教えてるからね。それと、幼馴染みの子達にも教えてるから」
と言うと「確かに長女っぽい」と俊が言った。
課題を終わらせたので少し休憩しようと思って炭酸水を買いに自販機に言った。
自販機に行くと真白兄も飲み物を買っていた。
「あれ?咲久じゃん。まだ残ってたの?」
「うん。皆で生徒会室で勉強してたんだ。真白兄は?」
「悠陽と図書室で勉強してた。うちの図書室広いから参考書も多いし」
「そうなんだ。でも、人多そうだね」
「まあね。あ、咲久はこれだよね?」
と言って真白兄が炭酸水を渡した。
「えっ!なんで分かったの?」
「勉強するときはいつもこれだからね。」
「はい」
と言って飲み物代を渡そうとしたら返された。
「いいよ。このぐらい」
「でも、」
「咲久、中間テストで学年1位でしょ?そのお祝いってことでさ」
「まあ、それなら。ありがたくいただきます。」
と言って炭酸水をもらった。
「俺も生徒会室行こうかな。」
と言って図書室に戻った。私も、生徒会室に戻って勉強を再開した。(ほとんど教える側だけど)
「ありがとう。咲久のお陰で課題全部終わった」
と伊織が言うと俊が
「2人とも早すぎねえ?」
と言った。
「私達が早いんじゃなくて七海が遅いんでしょ?テスト4日前になって課題始める奴とかあんた以外にいないでしょ。もう2日前よ」
と伊織が言った。
「でも、あと少しで終わるんでしょ?頑張って」
と言うと俊は「おう!」と言って問題集を解き進めた。
「やってるな。課題はもう終わったか?」
と副会長が生徒会室に入って言った。
「私と咲久は終わりましたよ。七海はまだ15ページ程残ってるようですけど。」
「いや、あと10ページで終わる。絶対終わらして帰る!」
「僕が教えようか?」
と副会長が言うと俊は「お願いしゃっス」と言った。
「私は正直テスト勉強とかいらないんだけどな~。勉強は1日2時間って決めてるし。今日はもう疲れたし終わり」
と私が言うと伊織が驚いた顔でこっちを見た。
「勉強しないの?」
「いや、もう勉強したじゃん?だから今日は終わり」
「それで学年1位とか咲久すごすぎる。」
「伊織も7位って充分じゃない?」
「私は土日に6時間ぐらい勉強してるし」
「私はずっと真白兄と勉強してたから高1のはもう予習してるからあんまりテスト勉強はしないの」
「すごいね。中学まで全然勉強しなさすぎて高校に入ったらちゃんとしないとって思ってた」
「課題やれば充分勉強になるよ。でも、そんなこと言いながらたまに凡ミスとかするけどね」
それから数十分後、最終下校のチャイムが鳴った。
「よっしゃ~!終わった!咲久、副会長!アザっす!」
と俊が言った。
「「どういたしまして」」
それから、1週間と数日後、テストがかえってして順位が発表された。
「咲久また1位だね。」
「千花、2位じゃん。」
「ホントだ。前回よりだいぶ上がった。」
「前回は10位だっけ?」
「うん。今回は亮太と一緒に勉強したからかな?教えるのも勉強になるって言うし」
「そうだね。じゃあ五十嵐も順位上がってるんじゃない?」
と言うとちょうど後ろに五十嵐がいた。
「五十嵐は何位だった?」
「初めて47位だった!ありがとな、千花。」
「どういたしまして。私も順位上がってたし」
「マジじゃん。小鳥遊も千花も210人中1位と2位とかすげぇな!」
「ありがとう」
「ありがと。あ、咲久、3位みて!」
「あ!」
放課後、生徒会室に向かった。
「伊織!おめでとう!」
「ありがとう!3位になれたのも咲久のお陰だよ」
「そんな。伊織の実力だよ。」
「ちょっと、2人とも俺も褒めてよ」
と俊が言った。
「七海は何位だったの?」
「俺は58位!ヤバくね?前は106位だったのに」
「すごいね!一番急成長じゃん。」
「咲久と副会長のお陰で課題は全部終わらせたし会長が要点をまとめたノートを貸してくれたお陰だ」
「真白兄が?」
と私が訊くと後ろから
「俺がどうしたの?」
という声が聞こえた。
「真白兄!」
「「会長!」」
「皆、テストどうだった?」
「会長と副会長と咲久のお陰でめちゃくちゃ順位上がって106位から58位になりました!ノート分かりやすかったっす。ありがとうございます!」
と俊が言った。
「七海が頑張ったからだよ。」
と真白兄が言うと後ろから副会長が出てきて
「まあ、今回は頑張ったな」
と言って笑った。
「でも、これで心置きなく林間学校行けるね」
と私が言うと俊が「おう!」と言って笑った。
「林間学校って来週だっけ?」
「うん!」
と私が言うと付け足すように
「会長と副会長のときは何しましたか?」
と伊織が訊いた。
「僕達のときは1日目は確かアスレチックに行って夜ご飯はカレーを作った」
と副会長が言った。
「そうそう!それで、夜はキャンプファイヤーしたよね。次の日は近くの山に登って昼ごはん食べて帰ったよ」
と真白兄が言った。
「私達の予定と一緒だ!キャンプファイヤーのフォークダンスの練習したもん」
と言うと俊が「知ってる?」ときいて話しだした。
「うちの学校の林間学校の噂なんだけどさ、フォークダンスの音楽が止まったときに手を繋いでた人達はずっと一緒にいられるらしい。隣の席の奴が言ってた。」
「そんな根拠のない噂誰が信じるのよ」
と伊織が言った。
「いやいや、根拠あるんだって。そいつの両親がそれで付き合って結婚したらしいし、それで結婚した人結構いたらしい。」
と俊が言った。
「その噂って真白兄達のときもあったの?」
「あったかな?」
と真白兄が言うと副会長が
「真白は知ってるだろ。最後にペアになって手を繋いでいたい言って告白してた奴いたし」
と言った。
「最後のペアって選べるんですか?」
と伊織が副会長に訊くと副会長は頷いた。
「5、6回ペアが変わったら残りは友達同士で踊ったりキャンプファイヤー眺めたり自由時間だからな。でも、音楽は結構長い間鳴ってるからな」
「真白兄は誰かと手を繋いだり踊ったりした?」
と訊くと真白兄は
「してないよ。俺、踊り終わってから残りの時間暇だったし咲久と電話してなかったっけ?」
と言った。そういえば、去年の7月頃、真白兄が『林間学校で今暇だから話さない?』とメッセージを送ってきて電話した気がする。
「そういえばそうだった気がする」
と言うと伊織が
「咲久と会長って付き合ってたんですか?ただの幼馴染みだと思ってました」
と言った。
「付き合ってないよ。でも、電話してるって分かったら誰も誘ってこなかったけどね。だから咲久もしつこく誘ってくる奴がいたり、暇だったら俺に電話していいからね」
と真白兄が言った。
「ありがとう。でも、心配しなくても大丈夫だよ。私モテたことないし」
と言うと真白兄は一瞬ハァと溜め息をついて
「そうだね」
と言って苦笑いをした。
それから1週間後。今日は林間学校初日だ。学校に着いて、点呼をとってバスに乗り込んだ。
隣の席には千花が座っている。
「咲久、アスレチック楽しみだね」
「うん!春休みに合格祝いって感じで皆で行ったけど以外に颯が怖がってたの面白かった。」
「颯くんは今、小学5年生の子だっけ?」
「そうそう。三つ子の2番目。湊の弟」
「咲久の幼馴染み多いからまだ全員に会ったことないな。今会ったことあるの湊くんと仁科先輩だけだもん。」
と千花が笑って言った。
「確かに。紫輝なんて日本にいないからね」
「オーストラリアに留学中の仁科先輩の弟だっけ?」
「そう。莉久と湊と同い年。真白兄は5個年上のお姉ちゃんもいるんだけどゆずちゃんは東京の大学に通ってるから年末年始以外はあんまり帰ってこないんだよね」
「そうなんだ。てか、仁科先輩のお姉さんとか絶対美人じゃん。」
「うん。めちゃくちゃ美人だし優しい。お姉ちゃんになってほしいぐらい」
「それって仁科先輩と結婚したら叶うじゃん」
と言って千花がニヤリと笑った。
「そ、んなつもりで言ったんじゃ…」
「分かってるって。ホントに咲久はからかい甲斐があるんだから。」
「てか、千花の方はどうなのよ。五十嵐とキャンプファイヤーの約束した?」
「私は引退してから告白するって言ったじゃん」
「でも五十嵐なら噂知らなさそうだし鈍感だし大丈夫じゃない?」
「でも私がいないと咲久が男子に声掛けられて大変だよ?」
「誰が私に声掛けるのよ。中学のときから一度も告白されたことないのに」
「そりゃ、仁科先輩とずっといたし3年に上がってからも蒼空くんがいたからね」
「100歩譲って真白兄ならまだ分かるけど蒼空は関係なくない?弟だし。やっぱり私の事好きだった人がいなかっただけだよ」
と言うと千花はこれでもかって程に全否定した。
「いやいや、蒼空くんレベルでスポーツも勉強も万能なイケメンなんていないから蒼空くんと近くにいたら俺なんて…って思ってた男子結構いたんだよ」
「またからかってるんでしょ?」
「違うよ。だって、私相談受けたことあるし」
「ホントに?」
「うん。まあ、そういうことだからキャンプファイヤーは咲久といるからね」
「ありがと」
というと千花は「うん!」と言って笑った。
バスでの移動は数時間ほどかかったけど千花と喋っていたから一瞬に感じた。
バスを降りて、昼食をとるためにコテージの近くの広場に向かった。
「千花ちゃん、咲久ちゃん。一緒に食べよ」
と言ってお弁当を持ってきたのは高校に入ってから仲良くなった侑李だ。ちなみに侑李は違うクラスだけど体育の授業が合同だったときに仲良くなった。
「いいよ」
と言ってベンチを少し詰めた。
「咲久ちゃんのお弁当すごいね。おしゃれだし」
と侑李が言った。
「えへへ。朝ごはんのついでにって弟が作ってくれたんだよ」
と言うと千花が
「すご!さすが蒼空くん。さらにハイスペになってるね」
と言った。すると侑李が
「自分達でご飯準備するとかすごいね。私、料理全然ダメだよ」
と言って笑った。
「うちも毎日って訳じゃないよ。共働きだからお母さんが作り置きしてくれてるけど負担減らせるようにって私と蒼空がたまにご飯作ったりするぐらいだよ。まあ、蒼空は料理に目覚めたっぽいけど。」
「それでもすごいよ!私も簡単なのは作れるようになろうかな」
と侑李が言うと千花が「私も~」と言って笑った。
昼食を食べ終えたら、それぞれクラスに別れてコテージに荷物を置きに行った。
コテージはクラスの女子全員が同じで何部屋かに分かれて寝るらしい。(雑魚寝で)
「やっとアスレチックだ!」
と千花が言った。この施設内では色々な体験ができて釣りやキャンプ、天体観測、アスレチック、登山、カヌーなどの体験ができる。
私達はその中でもアスレチックと登山をするらしい。
「楽しみだね。」
と言うと千花は大きく頷いた。
だんだん、私達の順番が近くなってきた。
「次は小鳥遊と葉山だな。難しいらしいから頑張ってこいよ」
と担任の先生が言った。
「「はーい」」
と言ってアスレチックに登った。
進んでいくと私達よりも先に出発したはずの伊織に会った。
「佐々木さん、ペアの子は?」
と千花が訊くと伊織は首を振った。
「私のペアの人、喋ったことのない男子で先々進んで行っちゃって。別にそれはいいんだけどここ、揺れるからちょっと怖くて」
と言って目の前の木の橋を指した。
「じゃあ私達と一緒に渡る?」
と訊くと伊織は小さく頷いた。私と千花は伊織を間に挟んでゆっくり片足を乗せた。でも、たまたま風が吹いて木の橋が大きく揺れたので1度戻った。
「ごめん。やっぱり迷惑だから私、後から行く」
と伊織が申し訳なさそうに言った。すると、向こうから1人の男子が走ってきた。
「七海!最初の方に追い越していったのにどうしているのよ。」
と伊織が訊くと俊は小さく溜め息をついて
「佐々木とペアの奴に会って置いてきたって聞いたからビビってんじゃねえかなと思って戻ってきた」
と言って橋を渡ってきた。そして、伊織をおんぶして素早く橋を渡った。
「ありがと」
と伊織が背中から降りて恥ずかしそうに言った。千花は
「七海くんやるじゃん!」
と言いながら橋を渡った。
「仕方ねえから一緒に行ってやるよ」
と俊が言うと伊織は
「なんでそんなに上から目線なのよ。ここ以外は普通に来れたし別に大丈夫」
と言いつつも少し安心した顔をした。
「いや~青春だね~。咲久婆さんもそう思わないかね?」
と千花がお婆さん口調で言った。
「そうですね~。もう夏なのに春が来てますね~」
と私もノッて言ってみるとみんなに大笑いされた。
「咲久って面白いね」
と伊織が言うと千花は
「今さら気づいたの?咲久は結構こういうノリにもノッてくれるんだよ。」
と千花が言うと伊織は「知らなかった」と言って笑った。
「よし、そろそろ行こ!伊織」
と千花が言うと伊織は頷いて
「うん!最後まで頑張る。ありがとう咲久、…千花」
と言った。すると
「俺の置いてきぼり感半端ないんスけど!」
と俊が言った。それを聞いて皆でまた笑った。
アスレチックも無事に終え、今は4時で、4時半からカレーを作るのでそれまでは各自コテージに戻った。
私達のクラスは一応進学クラスで、他のクラスとは男子と女子の割合が少し違う。他のクラスは男子15人、女子15人だけど私達のクラスは男子17人、女子13人と少し女子が少ない。
女子は1部屋だけ5人で他の2部屋はそれぞれ4人ずつに分かれている。私達は5人部屋なので他の部屋より少し広い。
「一応、4時半前にアラームセットしとくね」
と言うと千花が
「さすが咲久!ありがとう」
と言った。すると部屋のドアが開いて
「恋バナしよ~」
と言って他の部屋の子達が私達の部屋に入ってきた。
「いいよ~」
と同室の子が答えた。
「恋バナって夜にするものじゃないの?」
と私が訊くと
「今から始めないと全員の話し聞けないじゃん」
と言われた。
「じゃあ誰から言う?」
「じゃんけんで順番決めよ~!」
と話が進んでいき2人目が話し始めたときにアラームがなった。
「そろそろ行かないと怒られるね」
と言うと
「じゃあ続きは夜だね」
と言って皆コテージの外に出た。
野菜を運んで調理班と火起こし班と米炊き班に分かれて作業を開始した。
「ヤバい。めちゃくちゃ目痛い」
と隣で玉ねぎを切っていた千花が言った。
「そう?じゃあ代わろうか?」
と言うと千花は頷いて玉ねぎをまな板に置いた。
「じゃあ代わりにじゃがいもよろしく」
と言って千花に渡した。
「玉ねぎ切ってるのに目痛くないの?」
と千花が私に訊いた。
「うん。慣れかな?私、よく玉ねぎ使うから」
「なるほどね。切り終わったんだけどこれどこに持ってったらいい?」
「ボールに水張ってるからそこに入れておいて。私も切り終わったから火起こしが終わったか見に行こ」
と言って手を洗って確認にいった。
カレーを作り終えてクラスで固まって食べた。
洗い物を終えて、6時半まで各自コテージに戻った。
「キャンプファイヤー楽しみだね」
と同室の美桜ちゃんが言った。
「そうだね。美桜ちゃんは誰かと約束した?」
「ううん。私、1つ年下の彼氏いるから。誕生日3日違いだけどね」
と言った。
「美桜ちゃんの誕生日って3月30日だっけ?」
「うん。で、彼氏が4月2日なんだ。幼馴染みなんだけどずっと『あと1日誕生日が早ければ』っていつも言ってるの」
と美桜ちゃんは可笑しそうに笑った。
「私の好きな人も同い年じゃないんだけど、こういう学校行事があると同い年が良かったなって思う」
と言うと美桜ちゃんは私の手を握ってブンブンと振りながら「分かる!」と言った。
「でも、私の好きな人も幼馴染みなんだけど長年片思いなんだよね」
「幼馴染みだと告白して関係壊れたらどうしようって考えちゃうもんね。私は相手から告白されたけど自分からだったら絶対ムリだもん」
と美桜ちゃんが言うと千花が私と美桜ちゃんの手をとって
「ホントにそうだよね~。」
と言った。
「千花ったらいつの間に。」
「結構最初の方から聞いてた。てか、私ずっと一緒にいるせいか全然意識されないんだよね~。デートのつもりで誘っても『次は悠真と千夏も誘って来るか』とか言うんだよ。」
「それはそれでダブルデートになるんじゃない?」
と私が言うと
「そうだけどさ~。なんかその言い方だと私と2人が嫌みたいに聞こえるんだもん」
と言って千花が盛大に溜め息をついた。
「それは嫌なんじゃなくて弟くん達も一緒にいるのが当たり前って感じで言っちゃっただけじゃない?」
と美桜ちゃんが言うと千花は
「そういうことにする!」
と言ってガッツポーズをした。