七夕の夜空に願いをこめて
新学期になっても3ヶ月弱が経った。
生徒会選挙はまた去年と同じメンバーが当選した。
蒼空達、弓道部は県大会の準決勝で負けてしまいインターハイは逃してしまった。
屋上で真白とお昼ご飯を食べる約束をしているので授業が終わってすぐに向かった。
「真白!」
「咲久、今日は一緒に登校できなくてごめんね」
「それはいいんだけど。真白、すごいクマだけど大丈夫?」
「大丈夫」
真白はそう言ってたちあがると少しふらついていた。
「お弁当食べたら保健室行こう」
「大丈夫だよ」
「保健室行くからね」
「うん」
宣言通り私は真白を保健室まで連れていった。
「今日は後1限だけだから終わったら迎えにくるね」
「そんなに心配しなくても。ただの寝不足だし」
「来るから!」
私はそう言って保健室を出て教室に戻った。
授業が終わり急いで保健室に向かった。
「失礼します。真白を迎えに来たんですけど」
すると、養護の先生が驚いた顔をした。
「仁科くんなら教室に戻ったわよ。もう大丈夫だって言って」
「それって保健室に来てどれくらいでですか?」
「15分ぐらいだったかな?寝たらスッキリしたから大丈夫だって」
「ありがとうございます。失礼しました」
私は急いで真白のクラスに向かった。
「真白ってまだいますか?」
「仁科ならもう帰ったけど」
「そうですか。ありがとうございます」
私は家に帰ってご飯を食べてお風呂に入って、夜9時頃に真白に電話を掛けた。
「真白、昨日何時間寝た?」
『……3時間ぐらい』
「真白、今日はもう寝なよ。寝ないと体調崩しちゃって勉強も出来ないよ」
『寝たいとは思うんだけど寝られないんだよ』
「クリスマスにプレゼントしたアロマランプ使ってみた?」
『うん。眠たくなるのにストレスのせいか寝付けなくて』
「じゃあ通話繋いだまま寝てみて。真白が寝るまでずっと繋いでるから」
『俺、何時に寝られるか分からないよ。』
「うん。でもそうじゃないと私も心配で寝られないよ」
『そっか。じゃあ、おやすみ』
「うん。」
5分もすると、電話越しに寝息が聞こえてきた。
「おやすみ、真白。大好きだよ」
私も通話を切って眠った。
次の日の朝、近所をランニングしている途中で真白の家の前を通った。
丁度、真白が部屋のカーテンを開けた。
手を振ると真白は手を振り返して窓際から離れた。
「元気そうで良かったな。」
また走り出すと後ろから声が聞こえた。
「咲久!」
「真白!おはよう」
私が立ち止まると真白が駆け寄った。
「おはよう。昨日はありがとう。心配かけたくなくて1人で家に帰ったけどかえって心配かけちゃったね」
「ホントだよ」
「ごめんね。」
真白はシュンとして言った。
「体調はどう?頭はスッキリした?」
「うん。朝起きて少し勉強したんだけど昨日より頭に入ってきて集中できたよ」
「良かった。真白、最近追い込みすぎだよ。そんなに成績下がってるの?」
「成績はあがってるしA判定なんだけど……」
「どこ受けるの?」
「短大受けるつもり」
「え、短大ってあこの?真白の成績だと余裕なんじゃ」
「そんなことないよ。咲久、心配かけたお詫びとして何か1つお願いきくよ」
「じゃあもうすぐ七夕だし天の川観たいな。……って言ってもこの近くじゃみえないか。」
「俺の叔父さんが経営してる天体観測とか出来るキャンプ場あるけど行ってみる?息抜きのために莉久ちゃんと湊くんも誘ってさ」
「でも、土曜日だからお父さん達仕事だし渉くん達も仕事だと思うよ。電車とバスで行くの?」
「それは大丈夫。」
「?」
それから1週間後の今日、莉久と湊と真白と私の4人でキャンプに行く。
家の前に見慣れない車が停まった。すると、運転席から真白が降りてきた。
「咲久、後ろに荷物積んで」
「うん。分かった。……じゃなくてなんで真白が車を運転してるの!?」
「春休みに合宿で免許を取ったんだ。お祖父ちゃん2人とお祖母ちゃん2人と父さんと母さんから進級祝いと免許の合格祝いで車を貰ってずっと練習してたんだ。」
「だから、眠そうだったの?」
「まあ、そういうことになるかな。咲久とドライブデートとかしたかったし。サプライズで驚かせたかったんだ」
「そっか。真白、ありがとう」
「でも、咲久に心配かけちゃったから今日は楽しんでね」
「うん、ありがとう」
湊と莉久も荷物を積んで車に乗った。
「いいな~。俺も早く車運転したい」
「湊は頭良くないから無理じゃない?」
「莉久はビビってスピード遅そう」
「安全運転でいいじゃん!」
「でも、俺の方が誕生日早いから先に免許取れるけどな」
「取れるかは分かんないじゃん。受けれるだけでしょ」
「2人ともケンカしない。息抜きなんだから楽しまないと」
「咲久姉、お昼ごはんはおにぎりでしょ?夜ご飯は何食べるの?」
「キャンプと言ったらカレーでしょ」
「マジで!?今から楽しみ!」
「莉久ちゃんと湊くんにも手伝ってもらうからね」
「真白兄、俺料理とかマジで出来ねえんだけど。家庭科の調理実習でカレー作ったとき俺の切った野菜がデカすぎるって切り直されてたし」
「じゃあ湊くんには火起こしを手伝ってもらうね」
「火起こしか~。面白そう!」
それから1時間半ぐらいでキャンプ場に到着した。近くには湖もあるらしい。
「よう、真白!元気そうやな。姉さんは……って聞かんでも元気って分かるわ」
「そうですね。孝弘叔父さんも元気そうで何よりです」
「隣の子らは?」
「彼女と彼女の妹と幼馴染みです」
「そうか。分からんことあったら訊きにこいよ。それと楽しんで行きなよ。」
「はい」
私達は広場まで案内てもらった。
「ヤバ~!景色きれ~!真白兄、咲久姉、誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして。でも夜の方がもっと綺麗だよ」
「ホント!?楽しみ!」
「じゃあまずはテントとか寝袋を借りて来ないとね。湊くん、運ぶの手伝ってくれる?」
「おう!」
そう言うと2人は歩いていった。
私と莉久は降ろした荷物を運んだ。
「家族でキャンプってあんまり行かないから結構ワクワクするね」
「そうだね。莉久がまだ小学校に上がる前にしたことはあったけど。あと、お父さんはよく渉くんと日帰りのキャンプしてるけど私達は行かないからね」
「そうだね。あ!湊と真白兄来た!お~い!こっちだよ~!」
2人は荷車を押して歩いてきた。
「まずはテント立てようか」
「「は~い」」
4人で説明書を読みながら大きめのテントを組み立てた。
「お~!完成!」
「咲久姉と真白兄すげえ!俺ら、説明書よんでも意味分かんなくて」
テントを組み立て終えると寝袋を中に入れた。
「テントも組み立て終わったしそろそろお昼ご飯にしない?」
そう訊いてみると3人とも「賛成!」といって来る途中で買ったおにぎりを取り出した。
お昼ご飯を食べ終えて莉久と湊は湖をみてくると言って走っていった。
「バドミントンとかフリスビーとか持ってきたけどする?」
そう訊いてみると真白は頷いた。
「じゃあバドミントンで」
「はい、ラケット」
「ありがとう」
それから、しばらく遊んで4時前に施設の冷蔵庫に預けていた食材を受け取ってきてテントに戻った。
「湊は炊事場で真白と一緒に火起こししてくれる?」
「おう!」
「私は野菜とお肉切ってるから莉久はお米といできてくれる?」
「うん」
切り終えた野菜とお肉をお鍋に入れて炊事場にそのお鍋を持っていって水を入れて火にかけた。
私はその間にカレールーをスプーンで削った。
「咲久姉、何してるの?」
飯盒を湊に渡しながら莉久が訊いた。
「ルーを削ってるの。こうした方が早く溶けるからね」
「なるほど~」
カレーとお米が炊けてお皿によそって隣のテーブルで食べた。
「美味っ!」
「美味しい~!」
「やっぱりキャンプといえばカレーだよね」
「そうだね。俺、カレーはときどき作るけどこんなに美味しいのは初めて」
「それは愛情込めてつくったし皆で食べてるからだよ」
「うんうん。皆で食べた方が美味しいもんね。真白兄、またうちに食べにおいでよ。って、言っても私はゲームしてるだけなんだけどさ」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「俺ん家にも来てくれよ。翔達も会いたがってるし」
「ありがとう」
カレーを食べ終えて食器を片付けて少し早いけどお風呂に入った。
お風呂はこのキャンプ場の中に天然温泉があるのでそこに入った。
お風呂をあがって髪を乾かしていると先に乾かし終わった莉久がナップザックの中を全部出して中を覗いていた。
「どうしたの?」
「私、化粧水持ってくるの忘れちゃった。日焼けしちゃったのにどうしよう」
「私のでよかったらポーチの中に入ってるから使っていいよ」
「ありがとう咲久姉」
「どういたしまして」
受付の場所に戻ると真白と湊はフルーツ牛乳を飲んでいた。
「咲久と莉久ちゃんも今あがってきたところ?」
「そうだよ」
「湊、私コーヒー牛乳買って1口あげるから1口ちょうだい」
「ちょっと莉久、コーヒー牛乳飲んだらカフェインで寝られなくならない?」
「大丈夫だよ。ほら、ここにカフェインレスって書いてあるし」
「ホントだ」
「てことで1口ちょうだいね」
「俺はまだ良いなんて言ってない」
「お願い。湊にも1口あげるからさ」
「分かったよ。」
そう言うと湊はポケットティッシュで飲み口を拭いた。
「何してんの?」
莉久が不思議そうに訊いた。
「何って飲み口を拭いてるんだよ」
「え、どうして?」
「どうしてって。そのまま飲んだら、か、間接キスになるだろ」
「あ~!確かに!湊、よく気付いたね!私もこれから気を付けよ~」
そう莉久が言うと湊は深い溜め息をついた。
頑張れ湊!莉久は湊が好きだけどちょっと、いや、めっちゃ鈍感だからそういうのには気付かないことが多いんだよ。だから気を落とさないで!
と視線を送ったが湊は落ち込んでいて全くと言うほど届いていなかった。
それぞれ飲み終わってからテントに戻った。
「そろそろ星見えるかな?」
莉久がテントから顔を出して空を見上げた。
「すごいよ!めちゃくちゃ見える!」
そう言うと莉久は靴を履いてテントを出た。
私達も連れて外に出ると夜空1面に星が広がっていた。
まるでカラフルな絵の具をたくさん飛ばしたみたいだ。
「さすがに天の川は見えないね」
真白が少し残念そうに言った。
「ううん。見えるよ。今はまだ見えないけどいつか絶対に真白と見れるよ。だから未来の私にはちゃんと見えてる。」
「そうだね。いつか絶対に一緒に見ようね」
「うん。」
「なあ、あの光ってる星3つって夏の大三角形だよな?」
湊が空を指して言った。
「そうだよ。あれがベガでこっちがアルタイルでこれがデネブ」
真白が星を1つ1つ指して言うと湊はなるほどと頷いた。
「聞き覚えはある」
「有名だからね。」
「ベガが織姫でアルタイルが彦星なんだよ。」
私がそう莉久に言うと少し哀れむような目をして星を見つめた。
「そうなんだ。でも織姫と彦星って1年に1回しか会えないなんて可哀想」
「でも、織姫と彦星って仕事サボってたんだろ?」
湊がそう言うと莉久は頬を膨らませた。
「好きな人が出来て他のことに集中出来なくなっちゃっただけなのに1年に1回しか会えないなんて寂しいじゃん」
「そうだけどさ、その日のために仕事頑張れるんならそっちの方がいいだろ?それに1年に1回しか会えないからこそその日を特別に思えるんじゃねえの?」
「確かにそうかもしれないけど私だったら特別な1日よりもなんてことない普通の毎日の方がいいなって思うよ。それに、湊は好きな人と1年に1回しか会えなくてもいいの?」
「お、俺は好きな奴とかいないから分かんねえ。でも、幼馴染みとして、だけど。俺は莉久と年1でしか会えないのは寂しい、とは思う」
湊はそう言うと顔を上に向けた。
「私も!湊と年に1回しか会えなかったら寂しいよ。それに、湊がいないと私の給食のナスと里芋とグリーンピースは誰が食べてくれるの?」
「期待した俺がバカだった。てか、そろそろ好き嫌いなくせよ」
「無理。私の嫌いな食べ物はずっと湊が食べるの」
「ずっとってもう幼稚園からずっと食べてるんだけど」
「これからもずっとだよ」
「ずっと?」
「ずっと」
そう言うと莉久はニカッと笑った。
それを見ていた真白が私の服をちょんっと引っ張った。
「咲久、あの2人付き合ってないんだよね?それとも隠してるのかな?」
真白が声を潜めてそう言った。
「一応、付き合ってはないっぽいよ。両片想いだよ」
「もしかしたら俺もあれぐらいバレバレだったのかな?」
「どうだろう。はたから見れば分かりやすかったかもしれないけど私は全然気付かなかったよ。告白したときもフラれるだろうなって思ってたし」
「そうなの?でも、あの2人みてるとじれったくてちょっとからかいたくなっちゃう」
「あの2人は見守ってるだけじゃおじいさんおばあさんになっても変わってなさそうだからそっちの方がいいかも」
私がそう言うと真白はそうだねと言って笑った。
『織姫さんと彦星さん。私の大切な人たちが大切な人とずっと一緒にいられますように』
「咲久、どうしたの?」
「真白や皆とずっと一緒にいられますようにって織姫と彦星にお願いしてたの」
* * *
咲久、可愛いすぎる。けど莉久ちゃんと湊くんにはお兄さんって思われてるからあんまり壊したくないんだよな。
「お願いなんてしなくても咲久が一緒にいたいって思ってくれてるように俺も皆もそう思ってるよ。たとえ引っ越したり疎遠になったりしても心は側にいるから」
「うん」
皆でキャンプイスに座って空を見上げると真白の叔父さんが望遠鏡を持ってきてくれた。
9時前には莉久と湊は疲れていたせいか寝袋に入って寝た。
私達も早めに寝ることにした。
翌朝、5時半に目が覚めてしまった。寝るときに着ていたジャージがくしゃくしゃになっていたので皆が起きる前に着替えることにした。
ズボンを履き替えてTシャツを脱いで着替えようと思ったら間違えて莉久の着替えを取り出してしまっていた。
「あれ?私のTシャツどこだ?あ、あった!」
「咲久?まだ5時45分だよ」
「あ、まし、ろ……」
「ごめん!俺、外に出てるから」
真白は急いで靴を履いて外に出た。
私も急いでTシャツを着てテントの外に出た。
「えっと、真白。……見えちゃったよね」
「ごめん。」
「私の方こそごめん。ジャージがくしゃくしゃになってたから皆が起きる前に着替えようと思って。お見苦しいものをお見せしてすみません」
「別に見苦しくなんてないよ。でも、湊くんも俺もいたんだしもしものことを考えてほしかったかな」
「確かに。」
「本当に咲久はたまに心配になるよ。」
「ごめん。これからは気を付ける」
「うん」
真白はそう言うと無言の圧力をかけてきた。
「……あ!そういえばさ、私、新しいパジャマ買ったんだよね。結構涼しいし可愛いんだよ。写真あるから見せるね」
私は話題を変えて莉久に撮ってもらった写真を開いた。
「これ!可愛くない?」
私はスマホを真白に見せた。すると真白は目線を反らした。
「可愛いっていうか……」
「え!似合ってない?」
「いや似合ってると思うけど。可愛いよりセクシーだと思う。胸元が結構開いてるし」
「まあね、でも結構ここ涼しいんだよ」
と言ってTシャツの胸元を指で指すと真白が視線をずらした。
「咲久、そんなに言わなくてもいいから。」
「あ、うん」
「というか、そういう服を俺に見せるのは照れたりしないの?」
「まあ、自分から見せるのはちょっと照れるけど真白に可愛いって思ってもらえるなら」
「そ、そう。でも、下着、見られたのになんでそんなに平然としてるの?」
「いや、これでもかなり照れてるんだけどなぁ。それに、真白ならいいかなって」
そう言って私は真白の顔を見上げた。すると真白は両手で顔を隠した。
『ホントに咲久には敵わないな』
真白がボソッと呟いた。
「なに?」
「やっぱり咲久は俺のことを好きでいてくれてるんだなって実感してただけ」
「今さら?私は結構毎日実感してる」
「俺が咲久にデレデレってことかな。もうちょっとカッコいい彼氏になりたいな」
「私は今のままでも嬉しいよ。もう付き合って7ヶ月ぐらい経ってるのにまだ付き合ってすぐみたいだもん。」
「まあ、咲久がいいならいいんだけど」
「うん!じゃあもう6時過ぎてるし莉久と湊起こさないとね」
「咲久、莉久ちゃんが起きて着替えてないか確認してきて」
「うん」
皆、起きて着替えて顔を洗って朝ごはんは近くの食堂で食べて真白の車で家まで帰った。
莉久と湊はバスケの練習をすると言ってボールを持って走っていった。
「2人とも体力有り余ってるね」
「だね。でも、本当にありがとうね。2人ともいいリフレッシュになったと思うし、莉久も湊も親がいなかったからかちょっとは素直になってたし」
「どういたしまして。それに、俺も咲久と一緒に行けて楽しかったよ」
「そっか。じゃあまたいつか行こうね」
「うん。じゃあまた明日」
真白は手を振ってアクセルを踏んで走っていった。