迷子の迷子の女の子
そういえば、今年の生徒会長選挙は異例で他の立候補者がいなかったから引き続き真白と副会長がすることになったけどあの2人なら学校を任せられるって思ったのかな?
そして、今日は蒼空達の入試なので学校は休みだ。
蒼空はハルくんに早めに送ってもらって入試に臨んだ。
私は学校近くの神社にお参りがてら散歩に向かった。
神社の途中で知らない制服を着た私よりも背の低い女の子が木を見上げていた。
「あの~、どうかしました?」
「あ、あの、子猫が木に登って降りれなくなったみたいで」
「オッケー!任せて」
私は助走をして木の幹に飛び付いてそのまま木の幹に登った。
「おいで~。怖くにゃいよ。」
噛んじゃった。ま、いっか。すると、子猫は“みゃ~”と鳴くと私の肩に乗った。
私はそのまま木を降りてその子猫を芝生の上におろした。
「今度木登りをするときは降りられるようになってからだよ」
と子猫の頭を撫でると返事をするように“みゃ~お”と鳴いてどこかへ行ってしまった。
「ありがとうございます」
「いいよ。それにしても君あんまり見覚えのない制服だけど入試とかあるんじゃないの?」
「あ!忘れてました!すみません、またいつか」
その子は急いで走って行った。と思うとその子はまた帰ってきた。
「落とし物?」
「いえ、そうではなくて。お恥ずかしながら私方向音痴でして桜川高校の場所を知っていますか?」
「知ってるもなにも私、そこの生徒会だよ。時間大丈夫?」
「結構ヤバいです!」
「分かった。」
私はタクシーを停めてその子と一緒に乗り込んだ。
「この道を真っ直ぐ。2つ目の信号で左に曲がってください」
「はい」
タクシーが走り出した。
「桜川高校って真っ直ぐなんですか?」
その子が不安そうにきいた。
「近道なの。安心して、間に合うよ。あ、その信号を左に曲がって下さい」
「はい」
「突き当たりを右に曲がって下さい」
「はい」
「もう少し進んだところに広いスペースがあるのでそこで降ろしてください」
「はい」
私とその子はタクシーを降りて少し歩いて通り道を抜けて桜川高校に着いた。
「間に合いそう?」
「はい!ありがとうございます!」
「頑張ってね!」
「はい!」
その子は急いで校舎に入っていった。
「名前きくの忘れてた。でも、またどこかで会える気がするし。ま、いっか」
『神様、蒼空とあの子が試験でちゃんと実力を発揮できますように』
1週間後、蒼空が合格発表を見に行くのに私と真白はついて行った。
「何番?」
「162」
「あるじゃん!もっと喜んでよ!気付かなかったでしょ!」
「でも、顔はめちゃくちゃ喜んでるけどね」
そう真白が言うとうるせぇと言って顔を背けた。
本当は気付いてたよ。蒼空が合格発表を見てこっそりガッツポーズをしてちゃんと喜んでたこと。
「「蒼空、合格おめでとう!」」
「ありがと。」
「これからは先輩とか会長って呼んでもいいよ」
「誰を?」
「俺に決まってるでしょ。蒼空に先輩って呼ばれたら嬉しいな。咲久にも呼んでみて欲しかったけど」
「真白、先輩?」
「俺の彼女、可愛すぎるんだけど」
「まあ否定はしねえ。でも俺、真白が喜びそうな呼び名まだ知ってる」
「なになに?教えて」
そう言うと蒼空はニヤッと笑った。
「お義兄さん、だろ?」
「それはまだ早いかな」
真白が顔を赤くして言った。
「確かに。お兄さんって20代前半ぐらいの人のイメージかも!」
私が1人で納得すると2人はわざとらしくため息をついた。
「本当に自分のことに関しては鈍感すぎるよな、姉貴って」
「そうだね。まあそういうところも含めて可愛くて好きなんだけどね」
「なんのこと?」
私が訊ねると2人はなんでもないと同時に答えた。
「そう?だったらいいけど……」
3週間後、昨日は私達の始業式で私と千花と伊織は同じクラスになった。他にも瀬川くんとトモも同じクラスになった。
侑李と五十嵐と俊は特進クラスじゃないので同じクラスにはなれなかった。
そして、蒼空は中学を卒業し今日は入学式だ。
本来、在校生は休みだけど私達生徒会メンバーと他の担当に当たっている委員会の人は挨拶やお花をつける手伝いがあるので学校に行っていた。
「私と伊織、保護者の案内に当たってるから行ってきます」
私と伊織は体育館の入り口から保護者の皆さんを誘導して生徒会室に戻った。
それから式が終わり生徒は各クラスに戻って帰りの用意をして帰った。
蒼空はお父さんとお母さんに急な仕事が入ったので帰りは歩きで一緒に帰ることになった。
なので生徒会室まで来てもらった。
「失礼します」
蒼空がドアを開けて立っていた。
「蒼空!入学おめでとう」
私は少し大きい声で言ってしまった。幸い生徒会室には私と真白しかいなかったのでホッと胸を撫で下ろした。
「ありがとう。それにしても、真白がちゃんと生徒会長で驚いた」
「それはどういう意味?」
真白は笑顔できいていたけど声と目は全く笑っていなかった。
「そのまんま。何時ぐらいに終わりそう?」
「あ、待ってて。もう終わったから帰る準備するだけ」
私はシャーペンを筆箱に直して筆箱を鞄に入れた。
「咲久、その子が噂の蒼空くん?」
蒼空の後ろに小さい段ボールを持った伊織と俊と副会長が立っていた。
「そうだよ」
「初めまして。1年5組の小鳥遊蒼空です。いつも姉と真白がお世話になってます。」
「私は2年5組の佐々木伊織です。」
「俺は2年3組の七海俊!よろしくな!」
「僕は副会長の立花悠陽だ。クラスは3年4組だ」
「皆さんの話はいつも姉と真白から伺っています。これからも姉共々よろしくお願いします」
「咲久の弟、すごく礼儀正しいね。しかも入試1位で新入生代表でしょ?咲久と一緒だね」
「いやいや、私は新入生代表とかやってないし蒼空は家事の手伝いをして、合気道も続けながら空いてる時間で勉強してたんだから蒼空の方がすごいよ」
「合気道?武道っていいですよね。カッコいいですし」
「ありがとうございます。」
「蒼空だっけ?咲久とあんま似てないな」
「そうですね。よく言われます。姉貴が母親似で俺は父親似なので。妹とは似てるって言われるんですけど」
「そうなんだ。なあ、蒼空。バスケ部来ないか?お前、身長高いし咲久の弟なら運動できそうだし」
「ありがとうございます。でももう部活は決めているので」
「残念。てか、腹減ったんスけどもう帰れるんスか?」
「ああ、その箱は机に置いたら帰っていいって言われたぞ」
「は~い」
「私達もそろそろ帰りますね」
私と真白と蒼空は生徒会室を出て昇降口に向かった。
「真白、入学祝にどっかで昼飯奢ってくれない?」
「蒼空、そういうの自分から言う?俺、そんな子に育てた覚えはないよ」
「俺は真白に育てられた覚えはない。どちらかと言えば姉貴と柚希ちゃんに面倒みられてた」
「確かにね。まあ、奢るのはいいけどいつもの食堂でもいい?」
「ああ。エビフライ定食な」
「一番高いやつをサラッと」
「私も合格祝いに半分払うよ」
「じゃあ、生姜焼きで」
「生姜焼きって一番安いやつじゃん。エビフライでいいよ」
「生姜焼きの気分に変わったんだよ」
「そう?まあ、それなら」
それから2週間後……。
蒼空は元々興味のあったという弓道部に入部。顔には出さないが毎日楽しそうに学校生活を送っている。
今はちょうど4限目が終わったところだ。
「小鳥遊さん、会長が呼んでるよ」
クラスメートの水城さんが教えてくれた。
「真白?今日は一緒に食べる約束してないよね?」
「そうなんだけどちょっと訊きたいことがあるんだ」
「え、なに?」
「ここじゃ話しずらいから場所変えてもいい?」
「あ、じゃあお弁当持ってくるから待ってて」
それにしてもどうしたんだろう?今年になってからお昼を一緒に食べるのは週に2~3回で他は侑李達と食べることになっていたのに。
私は千花に今日は一緒に食べれないと伝えて真白と一緒に屋上に向かった。
「いただきます」
今日のお弁当は蒼空の分と自分の分は私が作った。といってもお母さんが何品か作り置きしてくれてたから卵焼きとタコさんウインナーを焼いただけなんだけどね。
「それで訊きたいことって?」
食べていたご飯を飲み込んで真白に訊いた。
「今日、蒼空に用事があって1年生クラスに行ったんだけどさ、蒼空のクラスの女の子に『小鳥遊先輩って会長と付き合ってるらしいけど可哀想だよね。嫌いになっても振ったら学校の悪者になっちゃうから絶対わかれられないもん』って言われて。もしかして咲久のこと縛ってたかなって」
「そんなわけないじゃん!真白って私を傷付けてるかもって思ったら噂とかにすごく敏感になるよね。」
「それは、咲久のことを心配して」
「まあ、そういう人の気持ちを考えてくれる優しいところ好きだから変えてほしいとは思わないけどもう少し私を信じて。」
「信じてないわけじゃないよ。でも、咲久は優しいから自分の気持ちを抑えてたらどうしようってたまに思うんだ。ほら、合咲公園に行こうって言った日もお腹痛いの我慢してたでしょ」
「それは申し訳ありません。」
「そうだよ。俺、あの時めちゃくちゃ心配したんだよ。」
「すみません。で、でもさ真白が『なんでも言い合える関係になりたい』って言ったからそれからはしんどかったり辛かったら言うようになったでしょ?」
「体調のことは、ね。デート行くときにどこ行きたい?って訊いたらショッピングモールかボーリングだし。莉久ちゃんからきいたよ。テレビで新しくできたマリンパークのCMをみては『真白とここ行きたいな』って言ってたって。遠慮してるじゃん」
「言ったけどさ。ちょっと遠いし高いし、真白受験生だし……」
「確かにそうだけど息抜きに月1回ぐらいなら少し遠出も出来るよ」
「無理してない?」
「してないよ」
「それならいいけど」
「じゃあ来週の土曜日に行こう」
「うん。」
「約束だからね」
その約束をした次の日から真白が後輩の女の子に絡まれるようになった。
その日も真白はその子に絡まれていた。私はそれまでは真白や友達からきいていただけだったけど今回は初めてその現場に遭遇した。
屋上のドアに隠れてこっそりきいた。
「会長~、いつになったら小鳥遊先輩と別れてくれるんですか~?」
「俺はずっと咲久と別れるつもりはない。というかなんでそんなに別れさせたいの?」
「だって小鳥遊先輩が可哀想だと思いませんか?ほら、会長ってモテるじゃないですか。だから告白されてるのとか見ちゃうと不安になったりすると思いますよ。」
「それは、そうかもしれないけど」
「ほら、不安にさせるなら早く別れてください」
あれ?そういえばこの声、聴いた気がする。
「不安にさせるかもしれないけど俺は咲久が好きだから絶対別れない!」
「だから、不安にさせたら可哀想だって言ってるんです!」
2人はだんだんとヒートアップしていった。
私は耐えられずに屋上に出てしまった。
「ちょっとストップ!」
「咲久!?」
「小鳥遊先輩!?」
「君、入試のときに会った子だよね?」
「覚えてくれてたんですか!?私は1年5組の相川歩って言います。名前で呼んでください」
「私は小鳥遊咲久です。私のことも名前でいいよ」
「はい!」
歩ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「え、ちょっと待って。なんで2人知り合いなの?」
真白が慌てて訊いた。
「色々あって。それよ皆からきいた感じだと歩ちゃんは真白のことが好きなんだと思ってたけどそういう訳じゃないんだね」
「はい!私の推しは咲久先輩なので!だから咲久先輩、大好きです!木に登るところがすごくカッコよくて子猫に怖くにゃいよって可愛すぎます!」
「あれは噛んじゃっただけだよ。」
「でも、会長は咲久先輩の可愛いところ見逃して残念でしたね。」
歩ちゃんは煽るように言った。まあ、真白がそんなのに反応するわけが……
「羨ましい。咲久、俺にも言ってみて!」
「それだと私は2回聞けることになりますよ」
「じゃあ2人のときに」
「無理!」
「そんな。彼氏の俺よりも後に咲久出会った相川さんの方が可愛いところを見てるとか」
「だから、噛んだだけなんだってば」
「ですって。残念でしたね。私の方が運があったってことですね」
「それにしても真白、珍しくムキになってるね」
「ごめん、子供っぽくて呆れたよね。」
「ううん。呆れたりしないよ。いつも大人っぽいのに今日はなんか子供っぽくて可愛いって思った。それと歩ちゃん、私のことを心配してくれるのは嬉しいんだけど私は真白と別れた方が悲しい」
「でも、不安になりませんか?」
「初めは不安だったけど真白のこと信じてるから今は大丈夫」
「そうですか。会長、咲久先輩、ご迷惑をお掛けしてすみません」
「分かってくれたらいいよ」
「ありがとうございます!あの良ければ呼び捨てで呼んでくれませんか?」
「いいよ、歩」
「ありがとうございます!」
「相川さん、俺、相川さんと意外と気が合うかも」
「え、合わないですよ。私、同担拒否なので」
「あ、そう、ですか。でも咲久のファンって結構多いと思うけど」
「そんなの知ってます。でも実際に付き合ってる会長に比べたらマシなので。じゃあ私そろそろ教室に戻るので。咲久先輩、さようなら」
「うん。またね、歩」
「じゃあ私もそろそろ戻るね」
「咲久」
「そんな顔されても言わないよ」
「残念。俺もそろそろ戻ろう」
* * *
学校が終わって家に帰った。今日はお母さんがご飯を作り置きしてくれていたから少し勉強をして莉久と蒼空が帰ってきてから暖めて3人で夜ご飯を食べた。
食べ終えた食器を洗ってお風呂に入って髪を乾かしてテレビをつけた。
莉久がバスケの試合のDVDを観るらしいので私は部屋に戻ってドラマを観た。
そのドラマが受験生の年上彼氏と年下彼女の話だったので真白の顔がふと頭に浮かんだ。
電話、してみようかな。
「もしもし、真白?」
『うん。どうしたの?電話なんて久しぶりだね』
「もしかして勉強中だった?」
『休憩中だよ』
「そっか。あんまり無理しないでね」
『うん。』
「真白、疲れてない?」
『まあ、ちょっと疲れたけど寝たら大丈夫』
「そっか。私がもし変なこと言っても笑わないでくれる?」
『笑わないよ』
「引かない?」
『うん』
「真白、大好き……にゃん」
『……咲久、可愛いすぎ。ねえ、カメラONにしてくれない?』
「無理だよ。今絶対に顔赤いし」
『それでもいいよ』
「えっと、ほら、すっぴんだし」
『それは普段もでしょ』
「違うよ。普段は色付きのリップ付けてるし」
『付けててなくてもいいよ』
「でも画面越しでも今は顔をみるの恥ずかしいから今日はもう無理」
『じゃあ明日は俺の目をみて言ってくれる』
「それは無理!おやすみ」
『おやすみ。体を冷やさないようにね』
「うん。真白も今日中にはベットに入ってね」
『うん。そうする』
「また明日」
『うん』