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副会長の初恋


 新学期に入って3週間と少し経ったある日のこと。


 私は掃除当番でゴミをゴミ置き場に持っていってる途中で立ち止まった。なぜなら、校舎の裏である人が告白されていたからだ。


立花(たちばな)くん、好きです」


とメガネをかけた大人しそうな女子生徒が言った。


「ごめん。僕は高橋(たかはし)さんとは付き合えません」


と副会長が言った。


「やっぱり好きな人とかいますか?」


「ああ。最近気付いて、初恋なんだ」


「そうですよね。忙しいなかすみません」


と言ってその女子生徒は走っていった。


 私は驚きのあまりゴミ箱を倒してしまった。すると副会長ぎすごい勢いで後ろを振り返った。


「たか、なし……」


「盗み聞きみたいになっちゃってすみません」


「いや、大丈夫だ。それより早く拾うぞ」


と言ってゴミ箱から出たゴミを拾うのを手伝ってくれた。


「ありがとうございます。」


と言ってその場を立ち去ろうとすると


「運ぶの手伝うぞ。」


と言われたので2つのうち1つのゴミ箱を持ってもらった。


 ゴミ置き場についてなかのゴミ袋を外して置いた。


「本当にありがとうございます。助かりました」


「困っているときはお互い様だ」


「……あの、もしかしてさっき話してた初恋の相手って伊織(いおり)のことだったりします?」


「……どうしてそう思った?」


「いや、なんとなくそうかなって」


 そういうと副会長はゴホンと咳払いをした。


「今から言うことは他言無用だ。」


「もちろんです」


小鳥遊(たかなし)の言うとおり僕の好きな人は佐々木 伊織(いおり)だ。僕はよく侑李(ゆうり)に鈍感だと言われていたがこの前、伊織(いおり)が人物画の練習で僕を描いてくれて、集中して描いている伊織(いおり)の表情をみてその、……可愛いと思ったんだ。そのときにやっと侑李(ゆうり)が鈍感と言う意味が分かった」


と副会長が珍しく照れて言った。


「(侑李(ゆうり)が鈍感って言ったのはそれだけじゃないと思いますけどね)私に出きることがあれば何でも言ってくださいね!」


「じゃあ、早速で悪いが1つ頼みがあるんだが……」




 2週間後、今日は2月13日。私は立花(たちばな)家にお邪魔している。


 * * *


 2週間前に副会長が私に頼んだのは……


『再来週の月曜日はバレンタインだろ?それで、逆チョコというものをしようと思うんだが……その、恥ずかしながらスイーツを作ったことがなくて手伝ってもらえないか?』


『私も特別上手ってわけじゃないですけど侑李(ゆうり)にも友チョコを作ろうと思ってたので。弟が詳しいのでおすすめの簡単なレシピきいてきます』


『ありがとう』



 * * *


咲久(さく)、何作るの?」


侑李(ゆうり)がきいた。


「マドレーヌだよ。型は一応、家から持ってきておいたから」


「え!いきなりそんな難しそうなの作るの?」


「ううん。マドレーヌってね意外と簡単に作れるんだよ」


「そうなんだ。」


「うん。それに事前に伊織(いおり)の好みは調査済みですから」


と言うと副会長が


「そうか。伊織(いおり)はマドレーヌが好きだったのか。」


と言って頷いていた。


侑李(ゆうり)はたくさん作るんだよね?だからクッキーとかどうかな?」


「うん!よろしくお願いします、咲久(さく)せんせー!」


「じゃあまずはマドレーヌから作ります。侑李(ゆうり)、ホットケーキミックスってある?」


「うん、あるよ」


「良かった。このレシピ、ホットケーキミックスを使うからなかったら買いに行かないといけなかった」


~ 簡単マドレーヌ ~


「まずはバター50gを溶かしてから180度で余熱します。侑李(ゆうり)、お願い」


「分かった」


「副会長はマドレーヌの型にバターを塗ってください」


「ああ。」


「終わったらグラニュー糖40gとホットケーキミックス100gを泡立て器で混ぜ合わせてください」


「よし、出来た」


「次は卵2つを1つずつ割りいれてダマにならないように泡立て器で混ぜてください」


「混ぜ終えたぞ」


「じゃあゴムベラに持ちかえて溶かしたバターをいれてしっかりと混ぜてください。早く混ぜないとバターが固まってしまうので出来るだけ急いでください。」


「あ、ああ。分かった」


咲久(さく)、余熱終わったよ」


「オッケー。じゃあ型の7分目ぐらいまで生地を流してオーブンで20分ぐらい焼いたら完成です」


「意外と簡単だな。」


「私も家で作ってきたんですけど簡単で驚きました。」


 侑李(ゆうり)と一緒にクッキーの生地を作って冷やしている間に焼き上がった。


「少し冷ましたらラッピングして冷蔵庫で保管してください」


小鳥遊(たかなし)、本当にありがとう。」


「どういたしまして」


と言ったのと同時にタイマーが鳴った。


「クッキーはオーブンレンジで焼こうか。今から型抜きするから余熱は190度でしておいて」


「うん」


「こんなにたくさん誰に配るの?」


「クラスの皆と部活仲間にね」


「映画研究部だっけ?」


「そうだよ。自分達で映画を撮ったりおすすめの映画を紹介しあったりしてるんだよ」


「ちょっと面白そう」


咲久(さく)も入る?」


「私は観て楽しみたいかな」


「そっか~、残念。でもいつでも大歓迎だから」


「ありがとう。クッキーの形どうする?星?」


「うん。それと、さかなとまるとお花」


「私もそうしよ」


 クッキーの型抜きを終えると余熱していたオーブンに入れて25分程焼いてあら熱をとってからチョコペンで絵を描いたりシュガースプレーをかけたりしてラッピングをした。


咲久(さく)、1日早いけど友チョコ」


と言って侑李(ゆうり)がクッキーをのせたお皿を差し出した。


「ありがとう。じゃあ私からも」


と言って同じクッキーを渡した。


「ありがとう。紅茶入れるからちょっと待ってて」


と言って侑李(ゆうり)がお湯を沸かした。


 リビングのイスに座って待っているとクッキーのお皿の横にマドレーヌの乗ったお皿が並んだ。


「今日のお礼と言ってはなんだが味見も兼ねて受け取ってくれ。」


「ありがとうございます。じゃあ、3人で食べましょう」


 侑李(ゆうり)が紅茶を入れて持ってきてくれた。


「早く食べよ~!」


「そうだね。いただきます」


と言ってクッキーを食べた。


「美味しい!サクサクだね」


「うん!自分達で作ったからさらに美味しい!」


「本当だ。美味いな」


「じゃあマドレーヌもいただきます」


「私も」


「美味しい~!絶対に伊織(いおり)も喜んでくれるよ!まあ、お兄ちゃんが渡せたらの話だけど」


侑李(ゆうり)が笑いながら言った。


「一言余計だ。でも、そうだよな。明日は生徒会で集まるし部活に行く前に呼び出したらいいのか?」


と副会長が訊いた。


「そうですね。でも、呼び出すんじゃなくて生徒会室に残ってもらって渡した方が人目はつかないと思いますけど。伊織(いおり)、そういうの気にしますし」


と言うと侑李(ゆうり)が溜め息をついて


「問題は(しゅん)だよね」


と言った。


「そうだね。侑李(ゆうり)、手伝ってくれない?」


「うん!伊織(いおり)とためなら何でも言って!」


(しゅん)にも友チョコあるんだよね?」


「うん。あるよ」


「それをさ、放課後に渡してくれない?多分、他の人だったら告白されるって勘違いするかもしれないけど(しゅん)なら鈍感だし大丈夫だと思うから」


「いいよ」


「ありがとう。小鳥遊(たかなし)侑李(ゆうり)


と副会長が頭を下げた。


「お兄ちゃん、それは告白してから言ってよ」


「そうだな。」



 それから、お菓子と紅茶を食べ飲み終えてそろそろ家に帰ることにした。


「あ、部長から電話だ。咲久(さく)、また明日」


と言って侑李(ゆうり)が手を振った。


 副会長は家の前まで出てきて


「今日は本当に助かった。ありがとう」


と言って微笑んだ。副会長、伊織(いおり)と仲良くなってからよく笑うようになったな。


「私もゴミを拾ったり運ぶのを手伝ってもらってるのでお互い様ですよ。本番は明日なので頑張ってください」


「ああ。小鳥遊(たかなし)真白(ましろ)に渡すんだろ?頑張れよ」


「はい!喜んでくれるといいんですが」


真白(ましろ)小鳥遊(たかなし)が作ったものなら何でも喜ぶと思うぞ。」


「そうかもしれないです。」


「よかったらまた、家に遊びにきてくれ来てくれ。今度は真白(ましろ)も連れて」


「はい!では、また明日」


「ああ。気を付けて帰れよ」


「はい」


と言って私は家に向かった。


 歩いていると後ろから「咲久(さく)!」と呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると真白(ましろ)が大きく手を振っていた。


真白(ましろ)!どうしたの?真白(ましろ)も出掛けてたの?」


「ちょっと買い物に行ってて。咲久(さく)は?」


 副会長のことはあまり言いふらしたらダメだよね。


「私は侑李(ゆうり)の家で一緒にクッキーを焼いて1日早いけど友チョコパーティーして帰ってるところ」


「そっか。美味しく出来た?」


「うん!真白(ましろ)にも食べてほしいけどバレンタインってお菓子によって意味があるんだよね」


「余ってたりしない?今日ならバレンタインじゃないから大丈夫だよ」


「そうだね。じゃあお裾分けとしてどうぞ」


「ありがとう」


「どういたしまして」



小鳥遊(たかなし)!」


「副会長!?」

悠陽(ゆうひ)?」


真白(ましろ)もいたのか。連絡すれば良かったな。小鳥遊(たかなし)、スマホ忘れてたぞ」


「あ、ホントだ。ありがとうございます。」


「どういたしまして。じゃあ、小鳥遊(たかなし)真白(ましろ)もまたな」


と言って副会長は帰っていった。すると、真白(ましろ)


悠陽(ゆうひ)、なんか嬉しそうだったね。いいことでもあったのかな?」


と言った。


「みたいだね。でも、明日になったらもっといいことあると思うよ」


「どういうこと?」


「それは明日のお楽しみ」




 翌日の朝、登校中に真白(ましろ)にマドレーヌを渡した。真白(ましろ)の靴箱には漫画のようにチョコがたくさん……入っていなかった。後で一緒に食べようと約束をして教室に入った。


「おはよう、千花(ちか)


「おはよう!咲久(さく)、いつも仲良くしてくれてありがとう。ブラウニー作ったから食べて」


「ありがとう。それと、こちらこそいつも仲良くしてくれてありがとう。私もクッキー持ってきたから食べて」


「ありがとう」


 クッキーは(しゅん)とトモにも渡した。



 お昼休みになって真白(ましろ)と一緒に皆が来る前に生徒会室でマドレーヌを食べていた。


 すると、ガラッとドアが開いて女子生徒が数名入ってきた。私は当然、真白(ましろ)のファンの子達かなと思ったけどその子達は私の前に来た。


「「小鳥遊(たかなし)さんのファンです。」」

「「よかったらこれ受け取ってください」」


「ありがとう。長瀬(ながせ)さん、高本(たかもと)さん、守澤(もりさわ)さん、日向(ひゅうが)さん。」


「名前、知ってくれてたんですか?」


「生徒会は皆、生徒の名前を覚えてるよ。それに、隣のクラスだから体育で一緒になったことあるでしょ?」


「はい!」


「お返しになるか分からないけど良かったらこれ皆で分けて食べて。」


と言って鞄に残っていたクッキーを2袋渡した。


「「ありがとうございます!」」


と言って4人は生徒会室を出ていった。


咲久(さく)って天然タラシだよね」


「そうかな?ファンって言われるのは恥ずかしいけど嬉しいしバレンタインでお菓子もらってお返しするのは普通でしょ?」


「そうだけど。咲久(さく)のファンって結構女子の割合が多いんだよ」


「そうなんだ。このチョコ美味しい。今度レシピきいてみようかな」


と言うと真白(ましろ)が溜め息をついた。


「何か悩んでるの?」


「ううん。大丈夫。それにしてもこのマドレーヌ美味しいね」


「ありがとう。蒼空(そら)が簡単なレシピ教えてくれたんだよ」


「そうなんだ。」


「マドレーヌは真白(ましろ)以外にはあげてないんだよ。味見も私しかしてないしお父さんとお母さんと蒼空(そら)莉久(りく)(あおい)達にはクッキー渡したから」


「そうなの?どうして?」


「昨日、バレンタインに送るお菓子に意味があるって言ったでしょ?」


「うん」


「クッキーは『友達でいましょう』って意味だから友チョコとか義理チョコで渡すんだけどマドレーヌは『円満な関係』から転じて『もっと仲良くなりたい』って意味があるの」


と言うと真白(ましろ)は顔を背けて


「知らなかった」


と言った。


「なんでそっちみるの?」


咲久(さく)が可愛すぎて」


「だったら私の方見ればいいじゃん」


「それは無理かな。」


「どうしt」


 そう私が言い方とき私のスマホに侑李(ゆうり)からメッセージが届いた。


咲久(さく)!今すぐ保健室に来て!』


「私、ちょっと用事が出来たから行ってくる!」


 私は急いで保健室に向かった。

 すると、そこには泣いている侑李(ゆうり)伊織(いおり)の姿があった。


「何があったの?」


「お兄ちゃんが階段から落ちて頭を打って保健室まで降りてきたところで意識を失ってさっき救急車で……」


「え……。ウソ?」


「私のせいなの。私が上手く避けれてたら……」


伊織(いおり)のせいじゃないよ。広がって前を見ないで歩いてた人達が悪いんだから」


 侑李(ゆうり)からきいたことを整理するとこうだ。まず、数名の生徒が階段で広がって歩いていて伊織(いおり)にぶつかった。そして階段から落ちそうになった伊織(いおり)を庇った副会長が下敷きになって頭を打った。


「病院ってここから1番近いのは仁科(にしな)総合病院だよね。行こう」


「でも、」


「先生と真白(ましろ)(しゅん)には言ってくるから2人とも帰りの用意してて」


 私は急いで生徒会室に戻って真白(ましろ)(しゅん)と来ていた先生に事情を話して帰ることを許可してもらった。


 帰りの用意をして5人で学校前のバス停に行ってバスを待った。


 バスがきて仁科(にしな)総合病院前まで乗って病院の中に入った。


 真白(ましろ)が受付に行くと副会長のいる病室を教えてもらってその病室に向かった。


「失礼します」 


 病室に入ると付き添っていた先生が隣で心配そうに座っていた。


立花(たちばな)。それに生徒会も」


悠陽(ゆうひ)先輩は?」


真っ先に質問をしたのは伊織(いおり)だった。


「脳震盪で意識を失っているらしい」


「治るんですか?」


侑李(ゆうり)が心配そうに訊いた。


「6時間以内には目を覚ますだろうって言われたよ」


「そう、ですか」


伊織(いおり)の心配そうな表情は全く変わっていなかった。


 先生は出張から帰っている途中の親御さんにお医者さんに言われたことを伝えてくると言って病室から出ていった。


悠陽(ゆうひ)先輩、ごめんなさい。……ごめんなさい」


伊織(いおり)は泣きながら副会長の手を握って謝り続けた。


「副会長、早く起きて下さいよ。」


(しゅん)も泣いて言った。


「そうだよ。お兄ちゃん、早く起きて。そうじゃないと昨日、3人で頑張ったのに意味ないよ」


侑李(ゆうり)が副会長の寝ているベッドの横に掛けられた鞄を見て言った。


「副会長、お願いです。起きて下さい。」


私は怖くて泣きながら震えてた。真白(ましろ)は私の手を優しく手を握った。


悠陽(ゆうひ)、後輩と妹をあんまり泣かせたらダメだよ。大丈夫って言われても何も返事がなかったら心配になるからさ」


 私の手を握る真白(ましろ)の手も少し震えていた。

真白(ましろ)も怖いんだ。怖くて不安で心配なんだ。するとガラッとドアが開いて先生が戻ってきた。

 先生は1人1本ずつ水を買ってきてくれた。


 それから、約1時間半後。


悠陽(ゆうひ)先輩?」


ずっと手を握っていた伊織(いおり)が声をあげた。

副会長はゆっくりと目を開けた。

先生はお医者さんを呼びに行った。


 (しゅん)は涙を流しながらと言って「心配させないで下さいよ」と言ってその場に座り込んだ。

 侑李(ゆうり)は「お兄ちゃんのバカ。伊織(いおり)を心配させてどうすんのよ」と涙目で嬉しそうに言った。


 真白(ましろ)も「良かった」と言って泣いていた。

 私は真白(ましろ)の手を握って無言で涙を流した。


「……伊織(いおり)……大丈夫か?……怪我はないか?」


「はい。私は平気です」


「良かった。」


「先輩、ごめんなさい。私のせいで」


「僕は石頭だからな。……大丈夫だからそんなに泣かないでくれ」


 副会長は伊織(いおり)の顔に手を伸ばして涙を拭いた。


「はい。助けてくれてありがとうございます。」


「どういたしまして」


 しばらくして、お医者さんが来て副会長は検査をしに行った。


 検査の結果、異常は見られなかったが念のため1週間入院することになった。


悠陽(ゆうひ)も目が覚めて安心したし俺達はそろそろ帰るね。」


「ああ。心配かけて悪いな。」


「そんなことないよ。じゃあ明日、お見舞いに来るから。何か欲しいものある?」


「じゃあ本を何冊か」


「わかった。じゃあまた明日」

「失礼しました」


 * * *


「僕、伊織(いおり)と2人で話したいことがあるから少し席を離れてくれないか?」


七海(ななみ)侑李(ゆうり)に手を引かれて外に出て行った。


伊織(いおり)、悪いが僕の鞄をとってくれないか?」


「はい」


 僕は鞄からラッピングされたマドレーヌを取って伊織(いおり)に差し出した。


伊織(いおり)、月がきれいだな」


「月なんてでてない……悠陽(ゆうひ)先輩、それって」


「こんな状態で言うのは変だが僕は佐々木伊織さん、君のことが好きだ。」


「……え!」


「逆チョコというらしくて侑李(ゆうり)小鳥遊(たかなし)に手伝ってもらってマドレーヌを焼いてみたのだが受け取ってくれないか?受け取ったから告白を受け入れないといけない訳ではないから」


「いえ、あの、驚いて。私も悠陽(ゆうひ)先輩にチョコトリュフを作ってきたので」


「そうなのか。ありがとう」


「あの、私も今日、悠陽(ゆうひ)先輩に告白しようと思ってました」


「本当か?」


「はい。私は悠陽(ゆうひ)先輩が好きです。悠陽(ゆうひ)先輩が告白してくれたのは夢じゃないですよね」


「ああ。でも僕も少し夢じゃないかと思ってしまった。現実だよな?」


「はい。」


伊織(いおり)、僕と付き合ってくれないか?」


「はい。私で良ければ」


伊織(いおり)は泣き笑いをして僕の手を握った。


初恋、叶わないんじゃなかったのか?僕は初恋を実らせたが。


 病室に携帯の着信音が鳴り響いた。


「すみません。私です。ちょっと電話に出てきますね」


 数分後、病室に戻ってきた伊織(いおり)は真っ先に僕に頭を下げた。


「すみません!私、塾があることすっかり忘れてて塾から親に電話が掛かってきたみたいで、それで塾は休むことにしてもらったんですが。……私の姉が少し過保護で誘拐されたんじゃないかと心配してGPSで私を探してるらしいのでそろそろ失礼しま」


「いおちゃん!」


「せりちゃん、大丈夫ってさっき連絡したじゃん。それに病院だから静かにし」


「でも、お姉ちゃん、いおちゃんのこと心配で……君!もしかしいおちゃんが言ってたかっこよくて優しい副会長?」


「ちょっとせりちゃん!」


「かっこよくて優しいかは分かりませんが副会長の立花(たちばな)悠陽(ゆうひ)です」


「そっかそっか。私は伊織(いおり)の姉の芹香(せりか)。今年で18。よろしくね」


「はい。」


悠陽(ゆうひ)先輩、うるさくしてすみません。そろそろ帰るので。ほらせりちゃん、帰るよ」


「もう帰っちゃうの?お姉ちゃんもうちょい悠陽(ゆうひ)くんと話したいな。いおちゃんもそうでしょ?」


「それは、そうだけど。私は明日も来るからいいの。だから帰るよ」


そう言うと伊織(いおり)がスタスタと歩いていってしまった。


悠陽(ゆうひ)くん、あの子照れ屋だけどあなたのこと大好きなのよ。悠陽(ゆうひ)くんの似顔絵を見つめては顔を真っ赤にして告白の練習したり。ちょっと真面目だけど案外可愛いところもあるのよ」


芹香(せりか)さんは姉の顔をしていった。


「はい。なんだか想像できます」


「そうね。じゃあこれからもいおちゃんをよろしく」


そう言うと手を振って病室を出ていった。


七海(ななみ)侑李(ゆうり)、聞いてたんだろ?早く入ってこいよ」


「あれ?バレてた?」


「当たり前だろ。お前達が歩いていった足音が聞こえなかったからな」


「マジすか。」


七海(ななみ)。ありがとう。七海(ななみ)は僕よりも先に僕の気持ちに気付いて応援してくれてたんだろ?だから僕を挑発したり自分の気持ちに気付かせようと」


「俺がそんなことするとでも?」


「ああ。七海(ななみ)の優しさは少し不器用だからな」


「……なんで気付くんスか。」


「僕にとって初めての後輩で年下の友達だからな。」


「ずるいっスよ。最初はただそうじゃないと俺が佐々木と気まずくなって話せないと思ったから。でも、佐々木が副会長のことを好きだって気付いて副会長もそうっぽかったから2人を応援すれば少しは祝えるかなって思って……」


「ありがとな、七海(ななみ)。」


「どういたしまして。でも、佐々木を傷付けたらいくら副会長でも許しませんよ」


「ああ。僕も僕を許せないなるからそのときは怒ってくれ」


「言われなくても」


侑李(ゆうり)もありがとうな。(かおる)のときは僕は慰めることもなにもできなかったのにこんなに手伝ってくれて」


「やっぱり(かおる)くんのことが好きだって知ってたんだ」


「まあ、一応、兄だからな。」


「え!ちょっと待ってください。侑李(ゆうり)って(かおる)先輩のこと好きだったのか?」


(しゅん)、気付かなかったの?」


「だって侑李(ゆうり)、全然態度にでねえから」


(しゅん)が鈍感なだけだよ」


「そうかもしれないけど副会長よりはマシだ!」


「でもお兄ちゃんは気付いてたじゃん!」


「それは兄だからだろ!」


「関係ないよ!(しゅん)が鈍感なだけ!」


2人はだんだん声が大きくなってたまたま通りかかった看護師に怒られて帰って行った。


 その数十分後、母さんと父さんがお見舞いに来た。


「遅くなって悪いな」


「いや、さっきまで侑李(ゆうり)と生徒会の後輩がいて騒がしかったから今は静かで丁度良かった」


「そうか。もう頭は痛くないか?」


「痛み止めを飲んだからあまり痛くはない。」


「本当か?お前は昔から全然甘えないから心配になる」


侑李(ゆうり)は甘え上手だったからね。悠陽(ゆうひ)は兄だからと遠慮していたのよ。最初は手がかからなすぎて不安になったけど今はこの子は甘えるのが苦手なだけだって和也(かずや)さんも分かってるでしょ?」


 母さんが着替えを整理しながら言った。


「そうだけど。詩乃(しの)さんは心配にならない?」


「そうね。悠陽(ゆうひ)がとても大切な人と出会ってその人も悠陽(ゆうひ)を大切にしてくれたら悠陽(ゆうひ)もその人には甘えれるんじゃないかしら?」


「そうだな。もしかしたらもう出会ってたりするかもしれないな」


「そうだといいわね。じゃあ私達はそろそろ帰るわね。今日はゆっくり休みなさい」


「そうだな。ありがとう、母さん、父さん」


 僕は疲れていたせいかその後すぐに眠ってしまった。


 * * *


 今日は学校が終わってすぐ副会長のお見舞いに小説を持って向かった。私のおすすめの小説も2冊持って行く。


 病室をノックすると昨日よりも元気そうな声が聞こえたので真白(ましろ)も私も安心した。


真白(ましろ)小鳥遊(たかなし)、わざわざありがとう」


「気にしないで。ほら、小説を何冊か持ってきたよ。」


「私もおすすめの小説を2冊一緒に入れておいたので返すときは真白(ましろ)のと一緒に渡しといて下さい」


「ありがとう」


「そういえば昨日、渡せましたか?」


「ああ。付き合うことになった」


「え!ホントですか!?おめでとうございます!」


小鳥遊(たかなし)侑李(ゆうり)のお陰だよ」


悠陽(ゆうひ)、付き合うことになったって佐々木さんと?」


真白(ましろ)も気付いてたのか?」


「まあ、2人ともバレバレだったからね。でも、おめでとう」


「ありがとう」


副会長が笑って答えると病室のドアが開いて(しゅん)侑李(ゆうり)が入ってきた。


「ヤッホー、お兄ちゃん、咲久(さく)、会長」


「あ~あ。生徒会にリア充増えたな。恋人がいないの俺だけじゃん」


「じゃあ私にしたら?」


 侑李(ゆうり)がそう言うと一瞬病室に沈黙が落ちた。


「……は?」


顔を真っ赤にした(しゅん)がやっとの思いで声を発した。


「冗談に決まってんじゃん!なんで誰もツッコまないの?本気(マジ)のやつみたいじゃん!」


侑李(ゆうり)は笑って言った。


「いや、サラッ言うから本気で告白してるのかと思ったから」


「いやいや。そんなわけないじゃん!傷心仲間としてちょっと気持ちを晴らしてあげようとしただけだよ」


「だ、だよな~。驚かせんじゃねえよ!じゃあ、俺帰るわ」


そう言うと(しゅん)は速足で帰って行った。


(しゅん)って伊織(いおり)にはぐいぐいアピールしてたのに。」


「あれだね。七海(ななみ)は押されるのには弱いタイプ」


真白(ましろ)がそう言うと


「確かに!」


と皆納得した。


「じゃあ、小説も渡したし佐々木さんも来るだろうから俺達はそろそろ帰るね。」


「じゃあ私も」


侑李(ゆうり)も鞄を持った。


「じゃあまたね」


侑李(ゆうり)、気を付けて帰れよ」


「うん。でも、お兄ちゃんに言われても説得力が……」


侑李(ゆうり)はそう言って笑った私と真白(ましろ)も確かにと言って笑った。


「もういい。早く帰れよ」


「ごめんごめん」


「お兄ちゃん、また明日来るね」


「じゃあ、さようなら」


 3人で病室を後にした。

今回は副会長の恋がメインでしたね。伊織と副会長の恋模様はまた別のお話で……。

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