デートのはずが…
今日は文化祭が終わってすぐの土曜日。今日は真白と植物園デート。
なんで今日なの!と心の中で何度も叫んだ。
今日の朝、お腹に痛みを覚えて急いでトイレに行くと生理が来ていた。
生理痛は人それぞれで軽い人もいる。例えば莉久は生理が来ていても普通に部活をすることが出来るらしいけど、私は月によって痛みが強く歩くのも辛いぐらいになる。
だから、家族には割りとオープンに話していて皆気遣ってくれる。
幼馴染みにも辛いときはすぐに言えるように事前に伝えている。つまり、真白も知っている。
でも、せっかくのデートなので鎮痛剤を飲んで行くことにした。
13時半ぴったりにチャイムが鳴った。
「咲久おはよう」
「おはよう、真白。植物園楽しみだね」
と言って歩き始めた。鎮痛剤を飲んではいるけどまだ飲んですぐだからあまり効いていない。
バス停に着いてやっとベンチに座ることが出来た。
「咲久、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
と真白が顔を覗き込んで訊いた。
「あ、うん。大丈夫だよ」
と言って立とうとした瞬間お腹がズキンと痛んだ。
「痛っ!」
「咲久!どうしたの?どこが痛いの?」
「…お腹」
「分かった。じゃあ戻ろう。俺の背中乗って」
と言うと真白はしゃがんだ。
「ありがとう」
と言って私は背中に乗ると真白の背中が落ち着くのと生理による眠気によってうつらうつらとしていた。
家に着いて真白がチャイムを鳴らすと蒼空が出てきた。
「どうしたんだ?」
「咲久が体調悪いみたいだったから引き返してきた。部屋まで運ぶからちょっとお邪魔するね」
と言って私の靴を脱がせて部屋まで運んでくれたうえに
「咲久、蒼空がホットココア準備してくれるらしいから取ってくるね。その間に楽な服装に着替えておいて」
と言って1階に降りていった。
私は部屋着に着替えてベッドに入った。私の部屋は姉弟の中で一番広い。ベッドも大きいのは自慢だけど体が弱っているときは寂しく感じる。
ドアをノックする音が聞こえた。
「咲久、着替え終わった?入ってもいい?」
「うん、」
と言うと部屋のドアが開いて真白がベッドの隣のテーブルにマグカップを置いてイスに座った。
「ホットココア飲む?」
と言って真白はマグカップを差し出した。
「うん。…温かい」
「蒼空が火傷しないように熱すぎない温度にしてくれたんだよ」
「そうなんだ。」
「うん」
ココアを飲み終えて少ししてから横になった。すると真白がお腹を優しくさすった。
「真白、迷惑掛けてごめんね。」
「迷惑だなんて思ってないよ」
「優しいね、真白は。今日さ、朝起きたら生理がきてたんだ。」
「普段は言ってくれるのに今日は言い辛かった?」
「そういう訳じゃないよ。文化祭除いたら付き合って初めてのデートだったからどうしても行きたくて。でも、生理きたって言ったら真白は絶対“今度にしよう”って言うでしょ?」
「当たり前だよ。デートも大事だけど一番大事なのは咲久の体調だから。咲久だけが痛い思いをしてデートを楽しめなかったら嫌だよ」
「…あ~あ、こんないい彼氏に心配されるとか私世界一の幸せ者だな」
「好きな人が体調悪かったら心配するのは当然だよ」
「私、ホントついてないな。デートしたかった」
「今もデートじゃん。お家デート。」
と真白が笑って言った。
「確かに。じゃあ映画でも観る?」
「そうだね。咲久、もうちょっと体起こせるならソファに移動する?」
「うん」
と言うと真白は私を抱き抱えてソファまで運んでくれた。
「膝掛けとクッションも一応運んできたから良かったら使って」
「ありがとう。鎮痛剤も結構効いてきたからだいぶマシになってきた。」
「良かった」
「ねえ、なんの映画観る?」
「咲久のおすすめで」
「じゃあこれ」
映画の内容は知らなかったけど私の好きな俳優が出ている映画にした。
ストーリーは主人公の男子高校生が夏休みに田舎の祖母の家に行ってそこで出会った少女が探していたある人を一緒に探すことになるというものだった。
観終わると部屋に置いていたティッシュは半分以上なくなっていた。
「咲久って結構涙もろいよね」
「ずっと探し求めてた人が見つけた前日に亡くなってるなんて悲しすぎるもん。それに、生理中は泣きやすくなるし」
「咲久は感動系の映画を観るたびに泣いてるからあんまり関係無いんじゃない?」
「そんなこと…ある、かも」
「でも、イライラしたりストレスで泣きたいなら俺のハグするよ。ハグするとねイライラとかストレスとかが落ち着くらしいよ」
「イライラしてないけどいい?」
「もちろん」
と言って真白が両手を広げた。
真白の腕の中は暖かくてすごく安心して落ち着いた。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。目を開けると真白と目が合った。
「起きた?」
「うん。今って何時?」
と訊くと真白は時計を見た。
「もう5時半だね」
「え!1時間半も寝てたの!?」
「そうだね。でもあっという間で気付かなかった」
「そっか。」
「うん。咲久、体調はどう?」
「いつもに比べて全然平気。真白のお陰だよ」
「俺は何もしてないよ。正直言うと俺がハグしたかったってだけだし」
「それでもありがとう。」
「どういたしまして…?」
と真白が言ったので
「なんで疑問系なの?」
と言って笑ってしまった。すると、ドアがノックされた。
「は~い」
と言うとドアが開いて蒼空が立っていた。
「姉貴、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「別に…。あ、夕飯ニラ玉にするけど食べれる?」
「うん!蒼空の作る料理ならなんでも食べれる」
「そうか。今日も父さんも母さんも遅いらしいし真白も食べていくか?」
「じゃあお言葉に甘えて」
「了解。」
と言って蒼空はドアを閉めてキッチンに降りていった。
「暇だしジグソーパズルしない?最近買ったの」
「いいよ。何ピースのやつ?」
「300ピースのだよ。せっかくだし莉久も呼んでいい?」
「いいよ」
莉久の部屋に行くと莉久は漫画を読んでいた。
「莉久、一緒にパズルしない?」
「する!」
と食いぎみに答えて莉久は立ち上がって髪を結んで私の部屋に行った。
「真白兄じゃん!どうりで知らない靴があるなって思った」
「お邪魔してます」
と真白が苦笑して言った。
「このジグソーパズルね、お店で見つけて可愛かったから即買っちゃったんだ~」
「私は断然犬派だけど咲久姉は猫派?」
「どっちも好きだけどどちらかといえば猫の方が好きかな」
「じゃあ真白兄は?」
「俺も猫派だよ。うちは父さんが猫アレルギーだから家を出たら買いたいって思ってるんだ」
「そうなんだ。私はお世話とか大変そうだから写真とか動画とか観てるだけで満足だな」
「そろそろパズル始めない?今日中に終わらないよ」
と言うと
「大丈夫だよ。私、パズル得意だから」
と言って莉久が箱を開けてパズルを出した。
それから約一時間程ジグソーパズルをしていた。
「完成!」
「疲れた~」
「パズルなんて久々にしたよ」
と3人で伸びをして言った。
すると、ドアをノックする音が聞こえてドアが開いた。
「夕飯出来たから呼びにきた。莉久も呼びに行こうと思ってたけどここにいたのか」
「うん!ジグソーパズルしてたの。丁度終わったところだったの」
「じゃあ早く降りてこいよ」
「は~い!」
と莉久が言って3人でリビングに降りた。
テーブルには料理がすでに並んでいた。皆で席について手を合わせてご飯を食べ始めた。
「蒼空も受験生なんだから受験が終わるまで当番制やめて私が作ろうか?」
「別に、朝食は母さんが準備してくれてるし料理嫌いじゃないから大丈夫」
「そう?でも、負担になったらいつでも言ってね。」
「分かった」
と言って蒼空はご飯を食べた。
「今日さ、道場で久しぶりに翔達と稽古が被ったんだよね。手合わせしたんだけどね、最近部活で行けてなかったからちょっと弱くなってた」
と莉久が言った。
「私も辞めちゃってからちょっと弱くなってるかも」
「俺は週1でまた通うことにした」
と真白が言った。
「そうなの!?どうして急に」
「咲久を守るために決まってるでしょ」
と真白が言うと
「おお!真白兄カッコいい!」
と莉久が笑って言った。
ご飯を食べ終えて少し休憩して真白を玄関まで見送った。
「咲久、もうお腹は大丈夫?」
「まだちょっと痛いけど薬も効いてるし大丈夫だよ」
「咲久、俺は咲久となんでも言い合える関係になりたいんだ。体調が悪かったら行ってほしい。俺が気付いてあげられればいいんだけど咲久、隠すの上手だから。遠慮なんてしないでほしい。俺は咲久の彼氏なんだからさ。」
「うん」
「俺は生理の辛さは一生分からないけど少しでも楽になるならハグでもなんでもするから」
「うん。ありがとう」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
と言うと真白は帰っていった。真白は幼馴染みで姉がいるということもあり生理には理解がある。こんなにいい彼氏は世界に何千といないだろう。私は本当にいい人に出会えたなと改めて実感した。
リビングに戻ると莉久がニヤニヤとしながら
「ラブラブだね~」
と言った。
「もしかして、聞こえてた?」
「ばっちり」
「え!ウソ!恥ずかしい」
「いいな~。私も彼氏ほしい」
「莉久はモテるでしょ?告白されたなかでこの人いいなとか思わないの?」
「思わないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。じゃあ私お風呂はいってくるね」
「うん」