涙と笑顔の体育祭
今日は、体育祭当日。
体育祭日和の秋晴れでとても気持ちがいい。
ハルくんが送ってくれた。
「社長は仕事でこれませんが頑張ってくださいとの伝言を承りました」
「そうなんだ」
「私も心の中で応援しています。頑張ってください。あと、終わったら迎えに参りますのでご連絡ください」
「うん!ありがとう!」
と言って車から降りた。
開会式も無事に終え、競技が始まった。私は、次の二人三脚に出場する。
「頑張ろうね!」
とトモがハチマキを結んで言った。私達は第一走者なのでとても重要だ。
「よーい」
と言う声にあわせてピストルの音がして走り出した。
「1、2、1、2、1、2」
と掛け声に合わせて足を動かす無事、転けることもなく次の走者にハチマキを渡すことが出来た。
二人三脚は1位を取ることが出来た。
次の競技で午前中の種目は終わり。午前の最後の種目は借り物競走。
ピストルの音に合わせて一斉に走り出した。
「真白兄!頑張れ~!」
と言って応援していると借り物を見た真白兄がこっちに向かってきた。
「咲久、来て!」
と言って真白兄に抱き抱えられた。これってお姫様抱っこってやつじゃ。
真白兄は私を抱き抱えたまま1位でゴールした。
「あの、ちょっと恥ずかしいから。そろそろ降ろしてほしい、です」
と言うと真白兄は慌てて私を降ろした。
「お題、なんだったの?」
ときくと
「特別な人」
と言って紙を見せてくれた。
「あ、幼馴染みとしてってこと?」
「違うよ」
と言って耳元で
「今は付き合ってることになってるんだし彼女を連れて行くのは当たり前でしょ」
と言った。
山崎さんにバレないためか。と少しショックを受けた。
午前の部が終わり、私達は一度校舎に入ってお弁当を食べた。
もちろん、真白兄と一緒だけど今日は別荘に行ったメンバーで食べることになった。
「にしても真白は本当にモテるよね。」
と薫先輩が言った。
「嫌味?」
と真白兄がきくと副会長が
「嫌味だな」
と言った。
「ちょっと、そんなわけないだろ!俺は別にモテたくないし!彼女以外に!」
と薫先輩が言うと皆が驚いた。
「彼女いたんすか?」
と俊がきくと薫先輩は
「夏休みの終わり頃に付き合い始めたんだ」
と嬉しそうに言った。
「あ、私。飲み物なくなったみたいなので買いに行ってきます」
と言って侑李が席を立った。それに続けて
「私も」
と言って席を立つと千花も席を立った。
「女子が1人もいない状況は気まずいので私も」
と言って伊織が席を立った。
そして、3人で侑李を追い掛けて行った。
「侑李!ごめん。私、薫先輩に彼女が出来たこと知ってたのに侑李に言わなかった。」
と言うと侑李は
「私をきずつけたくなかったからでしょ?それに、私も好きな人がいるのは知ってたの」
と言った。
「えっ!そうなの?」
「うん。夏休みに先輩がね家に来たんだ。バイトが家の近くらしくて。それで、そのときお兄ちゃんと話してるのが聞こえて『俺、夏休みの間に好きな子に告白する』って言ってたから。でも、先輩自身から彼女が出来たってきくのは辛いなぁ」
と侑李が泣きながら無理やりこうかくをあげて言った。
「私と千花、次、応援合戦だからきいてて!侑李に向けて応援する!」
と言うと千花も「うん!」と頷いた。
「ありがとう。」
「侑李、無理して笑わなくていいよ。辛いときに泣かないと自分の気持ちが分からなくなるよ」
と伊織が言った。
「そうだね。」
と言って侑李はポロポロと涙を溢した。
それから、しばらくして午後の部が始まった。午後の部の最初のプログラムは応援合戦だ。
私達応援団はチアと学ランに着替えてグラウンドに出た。
『侑李!無理に笑ってる顔よりも心の底からの笑顔が一番可愛いよ。だから侑李が少しでも早く失恋から立ち直れるように私に出きることはなんでも協力させて!』
という思いを込めて応援をした。
応援を終えて、1年1組のてんとをみると侑李は笑顔で手を振ってくれた。
それから、着替えに行く前に真白兄にも衣裳をみてもらいたくて真白兄を探していた。
「生徒会の小鳥遊さんじゃん。」
と声を掛けられた。
「えっと、誰ですか?」
「俺は2ー4の近藤。てか、チア可愛いね、マジで美少女じゃん。仁科と別れて俺と付き合わない」
「…どうしてですか?」
「俺と付き合った方が絶対楽しいよ。それに、仁科はモテるから心配でしょ?」
「そうですね」
「俺は優しいから心配してあげてるのになんでそんなに冷たいの?」
「人見知りで。てか、心配は“してあげる”ものじゃないと思いますよ」
「あっそ。そうだ、知ってるか?仁科って本当は性格悪いんだぞ」
「あなたより、私の方が真白兄との付き合いは長いのであなたにそんなこと言われたくないです。それと、何を根拠にそんなこと思うんですか?」
「あいつ、俺の彼女を奪ったんだよ」
と近藤さんは悔しそうに言った。もしかすると、その腹いせに私に声を掛けてきたのかもしれない。そう思っていると真白兄の声がした。
「咲久!葉山さんから俺を探してるってきいて来たんだけど…」
と言いながら真白兄は私から近藤さんに視線を移した。
「近藤、まさか咲久になにかしたの?」
と真白兄が怒り口調で言った。
「まあな。俺の彼女がお前を好きになったって言い出して勝手に別れられたからその腹いせにお前の彼女を奪おうと思ったんだけど…」
と言って近藤さんは苦笑した。
「無理だな。小鳥遊さん、仁科にゾッコンだし俺に入る隙はなかった。悪かったな、急に声掛けて」
と言って近藤さんはその場を去った。
「あの人、思ってたより悪い人じゃないのかも」
「そうだね」
「でも、真白兄さっき怒ってなかった?」
「近藤の元カノって山崎さんだからもしかしたら頼まれて咲久に嫌がらせとかしないか心配だったけどやっぱり根が良いからそんなことはなかったね」
と真白兄が笑って頭を撫でた。
「そういえばなんで俺のこと探してたの?」
「せっかくチアの衣装を着てるんだから真白兄にも見てほしくて。それと、写真も一緒に撮りたいなって」
「チア、見てたよ。本当に誰かを応援してる気持ちが伝わってきた」
と真白兄が言った。
「真白兄エスパー?」
「まさか。あ、でも咲久のことに関したらエスパーかも」
と言って笑った。そのあと、2ショットを撮って体操服に着替えに行った。
それにしても、山崎さんはあんなにいい彼氏がいたのにどうして真白兄を好きになったんだろう?いや、まあ真白兄を好きな私が思うのも変だけど。
グラウンドに戻ってすぐ私は入場門に向かった。この競技が最後の種目だ。3学年合同のリレー。1クラス男女2人の計6人でバトンを繋ぐ。そして、私は第5走者だ。
入場して1人を隣の列をみると山崎さんが座っていた。
あれ?3組って確か中本さんじゃなかった?補欠なのかな?
他の生徒も不思議そうに山崎さんに視線を集めた。
『今、現在の順位は1位が1組、2位が4組、3位が5組、4位が3組、5位が2組。2組さん頑張ってください』
すると山崎さんがボソッと
「あんたに負けたら会長のことは諦める。もし、私が勝ったら会長と別れて」
と言った。私は、山崎さんが諦める理由になるならと思い頷いた。
4位と5位には1mも差がない。山崎さんは、私よりほんの少し早くバトンを受け取った。
私もバトンを受け取って走り出した。
『すごい!3組さん、2組さん、怒涛の追い上げです!現在の順位は1位1組、続いて3組さん、2組さん、4組さん、5組さんの順番です。5組さん頑張ってください』
私はこれまでで一番の速さで走った気がする。知らない間にトップに出ていた。
私の次の走者は真白兄だ。真白兄は笑って
「お疲れ、咲久」
と言ってバトンを受け取った。そして、2位を離して1位のままゴールした。
その後、グラウンドから退場してテントに戻る途中で山崎さんが立ち止まった。すると、山崎さんは
「私の負けだわ。会長のことは諦める。それとあんた、陸上向いてるんじゃない?県大会優勝した私に勝つとか」
と言った。
「運動は得意な方で。それより、山崎さん、彼氏いたのにどうして真白兄のことを好きになったの?」
ときくと
「真央…近藤先輩に聞いたの?」
「いや、真白兄から」
と言うとはぁとため息をついて。
「真央は私にはもったいないぐらいいいやつなのに私、性格悪いから。だから、嫌われる前に別れてほしかったの。でも、あいつ私のこと大好きだから理由がないと別れてくれないんだよ。だから、あいつが憧れてた会長を好きになって付き合ったら私のことを忘れてもっと性格のいい人を好きになるかなって思って」
「じゃあ、真白兄を本気で好きな訳じゃないの?」
「当たり前でしょ。私は、真央が好きなんだから。それに、会長は何回告白して好きな人がいるって断り続けてたし」
「それを近藤さんに言ってみたら?」
「もう嫌われてるし、あんたにも迷惑掛けた。ごめん」
「恋は盲目ってやつだね。近藤さんは山崎さんがまだ好きだよ。」
「根拠もないのにそんなことよく言えるな」
「根拠はあるよ。だって、近藤さん、すごく悲しそうだったから」
「あんた、お人好しだね。私ひどいことしかしてないのに」
「ひどいことをしたって自覚がある人は本当は優しい人だよ。きっと自分で気づいてないだけだよ」
「…そっか。これまでいろいろごめん。私、真央に謝ってくる」
と言って走っていった。良かった~と思っていると後ろから
「良かったね」
という声が聞こえた。
「真白兄!」
「咲久ってお人好しすぎてたまに心配になるよ。」
「どういうこと?」
「騙されたりしないかなって。それにしても山崎さんやっと素直に話したね」
「え!気付いてたの?」
「まあ薄々だけどね。告白するとき毎回、口を隠して言ってたから」
「口を隠してたらなにかあるの?」
「うん。人ってね嘘をつくときは顔の一部に触れがちなんだよ。耳とか鼻とかね」
と言って真白兄が笑った。
「好きな人のためならなんでも出きるって顔に書いてあったからそう簡単には諦めてくれないだろうなって思ってたけど咲久のお陰で根本的に解決できて良かったよ」
「あ、うん。そうだね」
「どうしたの?」
「たくさん動いたから疲れちゃって」
「そうだね。俺もちょっと疲れた」
と言って真白兄が微笑んだ。
山崎さんの件が終わったからもう付き合ってるフリは解消するのかな?ってきかないといけないのに。
閉会式を終えてハルくんに連絡をして片付けを手伝った。
「片付けありがとうな。後は、先生がするから帰っていいぞ」
と生徒会の先生が言った。
「はい」
と言って私は駐車場でハルくんを待つことにした。
「咲久、まだ帰らないの?」
「真白兄!ハルくんが迎えに来てくれるから待ってるの」
「そうなんだ。朝晴さんって今二十歳だっけ?」
「うん。私の4つ上で渉くんの従兄弟なの。会社の家具の大ファンだったらしいよ」
「4つ上か。カッコいいよね、ハルさん。大人の男性って感じで」
と真白兄が言った。
「そうだね。ハルくんイケメンだし優しいからモテそう」
「咲久はハルさんが好き?」
「うん!好きだよ。理想のお兄ちゃんって感じで」
「俺は?」
「?」
「俺への好きはどんな感じ?」
「…え!」
「ごめん、忘れて」
と言って真白兄は走って帰っていった。
数分後、ハルくんが迎えに来てくれて家まで車で送ってくれた。
それにしてもどうしたんだろう?真白兄、最近ちょっと変な気がする。