これからよろしくね
公園の桜がきれいに咲いていた。私は、今日から高校生になる。
今日は桜川高校の入学式だ。紺色のブレザーにチェック柄のスカートとリボン。真新しい制服に身を包んで私はリビングに降りた。
リビングに降りるとキッチンからお母さんの声が聞こえた。
「おはよう咲久」
「おはようお母さん。蒼空と莉久は?」
「蒼空はランニングしてくるって。莉久はまだ寝てる」
「え!ホント?莉久、今日朝練あるって言ってたのに」
「そうなの?じゃあ咲久、起こしてきてくれる?」
「うん!」
と言って私は莉久の部屋に向かった。
「莉久~!朝練あるんじゃないの~?」
と言って何度かドアをノックすると部屋の中から
「忘れてた!」
という声が聞こえてポニーテールにジャージ姿の妹が出てきた。
「おはよ、莉久」
「咲久姉!おはよう。あ、今日、入学式か。おめでとう!制服似合ってる」
「ありがと」
と言って2人でリビングに降りると弟の蒼空がランニングから帰ってきていた。
「おかえり、蒼空」
「ただいま。腹へった」
と言って手を洗いにいった。
朝ごはんを食べてお母さんと一緒に学校に向かった。
学校に着いてクラス発表を見て教室に入った。
「咲久!同じクラスだね!」
と言って中学からの親友の千花がやってきた。
「千花!私もクラス発表見て驚いた。また、一年よろしくね」
「うん!よろしく」
と言って千花は私を思いっきり抱きしめた。
しばらくして体育館に移動した。
「歓迎の言葉。生徒会長、2年2組仁科真白」
そう呼ばれた生徒が舞台に上がった。
私はその仁科真白に恋をしている。
入学式が終わり教室に戻るとある話題でもちきりだった。
「生徒会長めちゃくちゃイケメンじゃない?」
「分かる!それに、2年生で会長とかすごいよね!」
「うん!彼女いるのかな~」
と話している子達がいた。
「仁科先輩モテモテだね~。咲久、どうするの?早く告白しないと仁科先輩取られちゃうよ」
「無駄だよ。真白兄は私のこと妹としてしかみてないよ。千花こそ五十嵐に告白しないの?」
五十嵐こと、五十嵐亮太とは千花の幼馴染みで私も中学でそれなりに仲が良かった。
「私、高校はバスケ部のマネージャーするつもりだから告白して振られたら部内の雰囲気悪くなるから引退してから告白するの」
「そっか~。私は部活どこにしようかな~」
「じゃあ来週見学行ったら?私も一緒に行くよ」
「バスケ部に行かないの?」
「行くけどどんな部活あるか一応見てみたいし」
「そっか。ありがとう」
その日は、ホームルームが終わってすぐに家に帰った。
1週間後。授業も終わり、新入生は部活見学に行った。
大体の部活を見学し終えた。
「咲久、決まった?」
「ううん。帰宅部でいいや。」
「体操は?続けないの?」
「うん。中学までって決めてたから」
「じゃあさ、生徒会選挙に出てみたら?確か立候補は5月でしょ?」
「生徒会か。ちょっと興味あるかも」
うちの高校の生徒会は生徒会長と副会長だけ、先に決めて他のメンバーは5月に立候補をして6月に選挙がある。
「いいじゃん!私、応援演説するからね!」
「ありがとう。でも、もう少し考えるね」
「オッケー!じゃあ先生に入部届けもらいに行ってくるから仁科先輩に話だけでも聞いてもらったら?」
「うん」
と言って生徒会室を訪れた。
ドアをノックすると聞き覚えのある落ち着いた声が聞こえた。
「失礼します」
と言ってドアを開けると真白兄が座っていた。
「咲久。久しぶりだね」
と真白兄は優しく微笑んだ。
「久しぶり。あの、生徒会選挙について聞きたいことがあるんだけど…」
「咲久も出るの?」
「まだ決めてないんだけどちょっと興味があって」
「咲久が出てくれたら嬉しい!俺、部活に入ってないから咲久と一緒に居られる時間ないと思ってたけど咲久が入ってくれたら一緒に居られるよ。」
「でも、選挙に受かるか分かんないよ」
「大丈夫だよ。咲久なら受かるよ」
「そうかな?」
「うん」
「ていうか、真白兄。一緒に居られるとかそういう思わせ振りなこと言ってると勘違いする子出てくるよまあ、私にとってはお兄ちゃんみたいな感じだからいい…」
と言っている途中で
「勘違いする子も何も咲久にしか言わないよ」
と否定された。
すると、少しの沈黙がうまれた。気まずいなと思っているとガラッと音を立ててドアが開いた。
「咲久~!入部届けもらってきたしそろそろ帰ろ~」
と言って千花が生徒会室に入ってきた。
「あ、うん。ごめん、真白兄。そろそろ帰るね」
「うん。またね、咲久。葉山さんも、咲久をよろしく」
「はい。さようなら」
と千花が言って一緒に生徒会室をあとにした。
「あのね、咲久。これから部活で帰るの遅くなるから水曜日以外は一緒に帰れないと思う。」
「そうなんだ。部活頑張ってね」
「うん!じゃあ私こっちだから」
「うん。また明日」
と言って千花と別れて家に帰った。
「ただいま~」
「おかえり!咲久姉!」
「あれ?莉久、今日、部活なかったの?」
「うん!ってそんなことより真白兄と会った?」
「うん。」
「いいな~。私、最近会ってないから久しぶりに会いたいな。って真白兄に言っておいて」
「わかった。」
それから、約1ヶ月が経った。私は、生徒会選挙に出て今は選挙期間中だ。
「小鳥遊!頑張れよ!俺、小鳥遊に投票するから」
と五十嵐が言った。
「ありがとう、五十嵐」
「でも、仁科先輩いるし女子が結構立候補してるな」
「そうだね。頑張らないと」
「咲久!演説の順番決めるって~。って亮太じゃん。隣のクラスでしょ?」
「別にいいだろ。じゃあまたな。小鳥遊、千花」
「またね~。 千花、演説の順番ってどこで決めるの?」
「生徒会室だって」
「じゃあ、行こっか。」
2週間後、生徒会選挙当日。無事、演説も終わり、緊張しながら帰宅した。
「おかえり」
「ただいま。」
「どうしたんだ?姉貴。元気ないけど」
「明日、学校行ったら選挙の結果が分かるの。ちょっと不安でさ」
「姉貴なら大丈夫だろ。明日は俺が晩御飯作るからリクエストあったら言って」
「ありがとう、蒼空。じゃあ、ハンバーグで」
「おう!今日も父さんと母さん遅いらしいから母さんが晩御飯置いてくれてる。それ食べて今日はゆっくりしたら?」
「ありがとう。蒼空は将来いいパパになるね」
「はいはい。」
と笑って蒼空は自室に戻った。
翌日、千花と五十嵐と一緒に学校に行った。
「千花と五十嵐で見てきてくれない?」
「せっかくだから自分の目で確かめよ。私と亮太もついてるし」
「じゃあ、落ちてたら慰めてよ」
「心配すんなって」
と五十嵐が言うと千花も大きく頷いた。
3人で恐る恐る掲示板を見た。新しく入るメンバーは合計3人だ。
『1年2組小鳥遊咲久』
「あった。あったよ!千花!」
「おめでとう!咲久!」
「ありがとう」
と言うと後ろから
「まあ、俺は受かると思ってたけどね」
と言う声が聞こえた。
「「仁科先輩!」」
と千花と五十嵐が同時に言った。
「おはよう」
と真白兄が微笑んで言った。
「「おはようございます」」
「おはよう、真白兄」
「おはよう咲久。それとおめでとう」
と言って頭を撫でた。その瞬間周りの女子から悲鳴があがった。
「ありがとう、真白兄。でも、私ももう高校生だし人前で頭撫でられるのはちょっと恥ずかしいんだけど」
と言うと真白兄は笑って
「ごめん、でも、咲久にとって俺は兄みたいなものなんだろ?」
と言って手を離した。照れ隠しで言っただけの事をここで言われると否定しずらい。
「そう、だよ。」
「そっか。今日の放課後、生徒会室で集まりがあるから授業終わったら迎えに行くね。」
「別に大丈夫だよ。場所分かるし」
「もう他の子達も迎えに行く予定だから気にしないで」
と言って真白兄はスタスタと歩いて行った。
「仁科先輩って結構分かりやすいな」
と五十嵐が言うと千花も笑って
「そうだね。」
と言った。何が分かりやすかったのか私は分からなかった。
それから、教室に入るとクラスメートが祝福してくれた。
「小鳥遊さん、おめでとう!」
「頑張って!」
と言ってくれた。
それから時間はあっという間に過ぎ、放課後になった。
「咲久、頑張ってね」
「ありがとう。千花も部活頑張って」
と言うと千花は手を振って教室を出ていった。
「真白兄まだかな~」
とボソッと呟いて本を呼んでいると隣の席の竹田くんが話しかけてきた。
「小鳥遊って本好きなの?」
「まあ、好きな方かな。竹田くんは?」
「トモか智明でいいよ。俺は結構本好きだぜ」
「え!以外!」
「よく言われる」
「あ、私のことも咲久でいいよ。私、自分の名前好きなんだ。苗字も好きだけど」
「そうなんだ。なんで?」
「苗字は珍しいじゃん?名前はね、咲っていう漢字には笑うって意味があるらしいんだけど、周りの人達を笑顔にできる優しい子になってほしいって意味で付けたんだって。なんかそのときのお母さんの顔を見て愛されてるんだな~って実感して」
「?なんか訳あり?」
「違う違う!うち、共働きで夜遅くまで仕事だったから昔は寂しくて夜は弟達と泣いてたんだ。でもね、それから名前が大好きになって泣かなくなったんだ。」
「そうなんだ。なんかいいね。ってか咲久って兄弟いるの?」
「うん!1個下の弟と2個下の妹がね。仲良しなんだよ」
「いいな~」
「トモは兄弟いないの?」
「いるよ。2個上に兄貴が。でも、あんまり喋らないから仲良くはないかな」
「そうなんだ。うちは幼馴染みもいるから皆で仲良いって感じだからな~。そもそも親同士が仲良しだし」
「幼馴染みか。俺もいたけど中学のときに引っ越して行ったんだよ」
「そうなんだ。寂しいね。」
「まあ、たまに連絡は取るけどな」
と言ってトモは笑った。
するとそのとき、真白兄が教室に入ってきた。
「咲久、遅くなってごめん」
「ううん、大丈夫。ありがとね、トモ。高校入ってまだあんまり友達できてなかったから仲良くなれて良かった」
「こちらこそ、ありがとうな」
と言ってトモは教室を出ていった。
「咲久、さっきの子は?」
と真白兄が訊いた。
「真白兄を待ってる間に仲良くなった竹田智明くんって子」
「へー。結構カッコいい子だったね」
と真白兄が言った。言われてみれば結構カッコ良かったかもしれない。
「そうだね。そういえば他のの子達は迎えに行ったの?」
「それがさ、迎えに行くって言うのを忘れてて教室に居なくて探してたんだ。結局、生徒会室に来てたんだけど」
「それで遅くなったの?」
「うん。ごめんね」
「いいよ。気にしないで。じゃあ、早く生徒会室行こ」
「そうだね」
と言って私と真白兄は生徒会室に行った。
ドアを開けて部屋に入ると3人の生徒が無言で座っていた。
「遅くなってすみません。1年2組の小鳥遊咲久です。よろしくお願いします」
「よろしく、小鳥遊さん。にしても本当に真白は抜けてるところあるな。」
と眼鏡にセンター分けの男子生徒が言った。生徒会の副会長さんだ。
「ごめん。これからは気を付ける。とりあえず、自己紹介しよう。俺は2年2組の仁科真白です。生徒会長をやってます」
「僕は2年2組の立花悠陽だ。副会長をやっている。」
「私は1年5組の佐々木伊織です。よろしくお願いします」
「俺は1年1組の七海俊です!よろしくお願いします!」
「一応もう一回自己紹介しときます。1年2組の小鳥遊咲久です。よろしくお願いします」
「よし、みんな自己紹介終わったことだし今日のところはそろそろ帰ろうか。」
と真白兄が言った。
「そうだな。」
と言って立花先輩が鞄を持って立ち上がった。
「ありがとうございました」
という真白兄の挨拶に合わせて
「「ありがとうございました」」
と言って教室を出た。
「咲久、一緒に帰らない?」
「いいよ。真白兄と帰るの久しぶりだね」
「そうだね。咲久はいつも誰と帰ってるの?」
と昇降口に向かいながら話した。
「水曜日は千花と五十嵐と帰ってるけどそれ以外は一人で帰ってるよ。」
「じゃあ、これからは俺と一緒に帰らない?」
と真白兄が言った。私は驚いて持っていた靴を床に落としてしまった。慌ててその靴を履きながら
「いいよ!」
と言った。
「良かった。これからは授業が終わったら迎えに行くからね」
「木の近く集合で良いじゃん」
「あそこは人が集まるからダメ。迎えに行くから」
「真白兄って結構強引だよね」
と言うと真白兄は笑顔で「なんて?」と言った。
「なんでもない。早く帰ろう」
と言ってグラウンドに出た。
真白兄はわざわざ家の前まで送ってくれた。
「送ってくれてありがとう。また明日ね」
「うん。またね、咲久」
と言って真白兄は帰って行った。