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第七十六話 分析

第七十六話 分析


サイド 剣崎 蒼太



「あ、そういえば」


 店を出て早々、晴夫が不思議そうにこちらを見てきた。


「会長、アプリ保有者ではないそうですが、あの時見た火の玉はいったい?」


「エクトプラズマ」


「えく……?」


 そう言えば、昨日どこぞの生ごみを助けるために火の玉撃っていたなと思い出し、適当に言っておく。


「エクトプラズマとはいったい?」


「なんか力むと出てくる気合の玉だよ」


「なるほど!」


「待って?ちょっと待って?」


 晴夫は納得してくれたようなのに、黒木がぎょっとした顔でこちらを見てくる。


「納得しないで兄さん。というか火の玉ってなに?」


「俺の気合だよ。お前らも筋トレしていたら出るよ。出せ」


「はい!この晴夫、鍛錬に励みます!いくぞ黒木!まずは家までランニングだ!」


「は?え?ちょっと待って車で送ってもらうんじゃ?ここから家まで」


「いいのか?躊躇っていると『間に合わなくなるぞ』?」


「っ――!」


 宇佐美さんが『間に合う?』と視線を鋭くする。もしかしたら話の流れ的にシリアスな何かと勘違いしたのかもしれない。


 意味ありげに言ったが、内容は酷く単純。


「『魔法幼女ぺったん&ぼいん2nd』のリアタイが!?」


「ごめん、なんて?」


 途端に死んだ目になる宇佐美さんを放置し、黒木が走り出す。見た目インドアなくせに綺麗なフォームだ。まあ普段から晴夫に走らされているんだろうな。


 その晴夫が自分と宇佐美さんに向き直り、深く頭を下げてくる。


「今日はごちそうさまでした。お役にたてる情報だったかは、わかりませんが」


「いいえ、とても参考になったわ。ありがとう」


「それでしたらよかった!では会長!これにて失礼します!ランス討伐の際には是非お呼びください!いかなる状況でも必ずや馳せ参じてみせましょう!」


「うーん、そだねー」


 あっという間に黒木を追いかけて走っていく晴夫。いやはえーな。高校の範囲なら全国上位クラスだろう、間違いなく。


 俺の完璧な理論武装によりあいつらの疑問を誤魔化した後、車内に戻って今後の相談に移る。


 関係ないのだが、走行中の車内で密談ってテンション上がらない?総一郎さんじゃないが、スパイ映画みたいで。


「先ほどの話し、どう思った?」


「筋が通っているようで通っていなかったですね」


 晴夫から聞いた情報を纏めると。


『あの空間内部は円卓創世記のアプリを持っていないと入れない』


『結界内の怪物を放置すると外に出て街を襲う』


『アプリをやっていくと自分のキャラクターが円卓の騎士になり、その力が使える』


『アプリを作ったのはマーリンを名乗る謎の人物である』


『他人に相談した場合、された人の記憶が一部抜き取られる』


 と言った感じか。


 そして、こちらは『あのアプリには精神干渉系の魔法が仕込まれている』と気づいている。宇佐美さんにも共有済みだ。


「結界を作ったのも、アプリを作ったのもマーリンなる人物だとして。なら記憶を抜き取るのも同じ人物でしょうか」


「そこまではわからないけど、同じ人物だった場合疑問が出てくるわね」


「ええ。確かに魔法の存在を広めると逆に被害が広がりますが……」


「だったらそもそもなんで生徒達を巻き込んで騎士にしたのか。となるわね」


 そう、『なんであそこの生徒達』だったのか。という話しだ。


 あんな空間を作れるほどの魔法使いなら、自分が戦えばいい。ああいう結界系は専門外だが、それでもかなりの技量があるのはわかる。


 本人が戦えない事情があるにしても、わざわざ生徒達を使う理由がわからない。どうせなら、金で雇った傭兵でも使えばいい。少なくとも、戦闘経験のない素人。それもどこから情報が洩れるかわからない学生たちを使うのは意味不明だ。


 まあ、記憶の改竄が同一人物の行いなら、情報対策はされているのだろうが。そんな事をわざわざするぐらいならそもそも、という事になる。


「それに、あの怪物どもはなんなのか?という疑問もありますね」


「……魔術師として聞くわ。貴方はアレがどういう存在だと思う?」


「少なくとも普通の生物ではありませんね」


「そんなの見たまんまじゃーん」


 ブーブーと口を尖らせる麻里さんに苦笑する。


「別に、既存の生物学だの新種の生物だのという話しじゃありません。なんと説明すればいいのか……あれらは『人形が動いている』ように思えたんですよ」


「人形?」


「ええ。本当になんとなくで、具体的に説明はできませんが。それでも通常の生物ではありません」


 人外とは何度か会っている。『ムーンビースト』に『忌まわしき狩人』、『深き者ども』。あとは正体こそ見ていないが、どこぞの宇宙人であるミゲル。普段適当に潰している木っ端も含めれば、両手の指では足りない。


 それらは確かに人とは違う魔力の流れをしていたし、なんならその肉体の構成もタンパク質なのかも怪しいものだった。


 だが、確かに『一つの命』としてその場にあった事には変わらない。あれらは既存の常識から外れた存在であっても、『生物』ではあった。


 しかし、昨夜見た怪物ども。あれらは『そこにいるのにそこにいる気がしない』と思ったのだ。魔力の流れも、第六感覚も。


 まるで、ガワを作って中に魔力を流し込んで、風船でも動かしているみたいに思えた。


「宇佐美さんはどうでしたか?」


「……私には、ただ未確認の異形であるとしか思えなかったわ」


「え?」


 ……やらかしたかもしれん。本職と意見が食い違ってしまった。


 意見は複数あっていいものだし、多方面から検討するのは良い事だ。ただ、自分は魔法使いと名乗るのはおこがましい半端者で、あちらは恐らく中二病だけど本物の魔法使い。


 なんというか、ノリノリで持論を言っていたら横から専門家が『え、そうなの?』って言ってきた感じだ。すっげー気まずい。


「いや、俺はちゃんとした魔法使いじゃないので、あくまでただの感想ですから。気にしないでください。というか忘れてください」


「へいへーい。なんか自信ありげだったじゃんかよー」


「うるさいぞ生ごみ」


「とうとう口に出しやがったね!?内心でそう思っているだろうなとは察していたけど、遂に言いやがったね!?」


「自覚あるなら改めろや言動を!」


「いやだね!間違っているのは世界の方さ!」


「世界をどうこう言える人間かぁ!」


「私の意見はっ」


 麻里さんとにらみ合っていると、宇佐美さんが少し強めの語気で割って入ってくる。


 少し驚いてそちらを見れば、彼女は俯いて目をそらしていた。いつものように組んだ腕には、どこか力が入っている気がする。まるで、自分を抱きしめているように。


「私の意見は……無視して。きっと剣崎君の意見の方が正しいわ」


「え、いや。俺は専門家じゃないので、あまり信用されても」


「いいえ。私なんかよりも、きっと君の方が」


「お嬢様」


 そこまで黙っていた九条さんが、無表情で、しかし冷たい声で続ける。


「どうか、宇佐美家の者としての振る舞いを」


「……そうね」


 少しの沈黙の後、宇佐美さんが顔を上げて真っすぐとこちらを見てくる。


「失礼したわ。話しを戻しましょう」


「は、はあ」


 色々と気になる事は、踏み込めそうにない雰囲気だ。麻里さんでさえ空気を読んでいる。


「とにかく、『あの怪物はなんなのか』『なぜあの学校に結界は張られているのか』『どうしてそこの学生たちを戦わせているのか』が、とりあえずの疑問ね」


「ついでに、『本当にあの空間から出た怪物は街を襲っているのか』も追加だねー。私、あの辺に住んでいるのにそういう話し全然聞いてないなー」


「聞いていない、ですか」


「そう。私のアンテナは意外と凄いってこと、蒼太君は知っているよね?」


 普段迷惑ばかりをかけられるが、この人もごく稀に役立つ時がある。生徒会で迷子猫を探したり、家出少年を探したりした時だ。……あれ、本当に生徒会の仕事だったのだろうか。地域からの相談を、学校に押し付けられただけじゃねえかな。


 とにかく、トライアンドエラーを繰り返し過ぎた結果生まれたコネクションの数々。そして常に好みの女性を探すために鍛え上げられたネット技能。それを麻里さんはもっている。


 手伝ってもらった時の報酬?やらかしへのちゃら。ただし、やらかすペースが尋常じゃなかったが。そう思えばここ数カ月はかなり落ち着いているほうである。


「ええ。貴女が危険人物なのはよく知っています」


「あれ、そこは褒める流れじゃないの?」


「ストーカー予備軍か性犯罪者を褒める要素がどこに……?」


「君は私をなんだと思っているんだい!?」


「度し難い変態」


「ひどい!?」


 泣きまねをする麻里さんに、吐きそうになる唾を堪える。我慢だ。ここは高級車。絶対にそんな事をしてはならない。


「花園さんが聞いた事がないという事は、少なくとも近隣住民の間でそういった噂はないと考えていいのね?」


「もちろんだよ京子ちゃん!私が女の子の身に関わる情報を見逃すはずないだろぉ!?」


「……そうね」


 心底軽蔑した目を向けられて悶えるな生ごみ。『ありがとうございます』とか言わないでくれ。親戚と思われたくない。


 いや、自分は血のつながりとかないので、ダメージは義妹に?ドンマイ蛍。お前には変態の血が流れているぞ!


「とりあえず、その辺の情報をお願いしていいですか?」


「任せたまえよー。私も気になるあの子がゴブリンとかオークに薄い本されたくないしね」


 お前ゴブリンやオークの親戚なんじゃねえの?薄い本時空の。


 そう思いながら見ていると、麻里さんがウインクをしながら人差し指を頬にあててみせる。


「役に立つでしょ?地元民って」


 無駄に可愛い笑顔で腹立つ。





読んでいただきありがとうございます。昨日は休ませて頂き申し訳ございませんでした。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。


花園「可愛くて美人で有能で理想のお姉さんな麻里さんはいつヒロインになるのかって?あいにく私は既に本命がいるから攻略不可能だぞ♪」


剣崎「きっつ」


※作者は同性愛について特に思う事はありません。花園麻里がアレなのは恋愛対象以前に人格がアレなだけです。人類にもいい人もいれば悪い人もいるのと同じです。




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― 新着の感想 ―
[一言] ボケがくどすぎてイライラします。 もっとまじめに会話できないんですかね
[良い点] オークやゴブリンなのに薔薇な性で男しか狙ってなかったら情報網に引っ掛からないかもと思ったけど、襲われた男に知り合いの女性がいたら今回の合流見たくアンテナに引っかかりそうですな。 [一言] …
[一言] 通称生ごみさんが犯人予想されてて草。 というかこの「ちょっと裏側に踏み込むとクトゥルフ的シナリオが始まる」世界で、通称生ごみさんの積極性って、自分から地雷に踏み込んで行く自殺志願の探索者並…
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