第七十五話 情報
第七十五話 情報
サイド 剣崎 蒼太
土曜日。朝ご飯を終えていつもの集合場所に。懐に余裕は一切ないが、それでも朝ご飯は食べるタイプだ。なんなら朝ご飯が三食のうち一番豪華になっているまである。せめて、バイト先が物理的に潰れていなければ。
最近すき焼きとか食べてないなぁ……寿司とかもなぁ……。
悲しみを背負いながら、集合場所に到着した。相変わらず滅茶苦茶高そうな車である。
……いっそ雇ってくれないかな、宇佐美さん。いやダメだわ。魔法関係で就職したくない。
というのも、魔法関係で就職すると凄まじく面倒な事になる。なんせ十中八九相手も魔法使いか、それに類する存在になるわけだ。となれば当然、雇用時に魔法的な契約をされる可能性が高い。
が、大抵の魔法の契約なら自分は弾いてしまうか、そうでなくとも無効化してしまうだろう。その場合、はたして相手は自分を信用できるだろうか。
魔法とかそういう力を扱っていると、それに価値観が傾いてしまう気がするのだ。いや、知らんけど。少なくとも自分はそういう傾向にあると自己分析している。
普通に法律で縛れるのかとも疑問をもってしまったら、もう信用できないんじゃないだろうか。
相手はこちらを信用できず、こちらも雇用主に疑われているのを感じながら仕事する。嫌すぎる。
ついでに言うと、そういう所に就職するととんでもない現場にばかり送られる気がしてならない。いやだぞ、神格案件とか胸糞案件とか。普通の怪物とか相手ならともかく。
まあそれは置いておいて。
宇佐美さんの車に乗り込み、軽く挨拶する。
「おはようございます」
「ええ、おはよう」
今日もスーツ姿なのにエッチの化身みたいな宇佐美さんが、チラリとこちらを見てからため息をつく。え、なに?
どういう意味かと九条さんを見れば、あちらは素知らぬ顔で平然としている。ただしこちらを見ようともしていない。
……なんか知らんが嫌われた?
「ふっ……さては嫌われたね蒼太君」
「その声は……生ごみ!」
「おい待て」
今日も簀巻きにされた麻里さんに振り返る。うん。いつもの光景。変わらぬ日常。いやだわこいつがいる日常。
「そんな事はないから、気にしないでちょうだい」
「そうですね。メイドがお客様に目を合わせないのは普通なので」
「は、はあ……」
何故だろう、やけに警戒されている。まさか、この変態と同じ空間にいて俺の方が危険視されている……?やだ、超ショック。昨日馴れ馴れしく『協力しましょう』とか言ったのが原因だろうか。
ひっそりと心に深い傷を負いながら途中で晴夫を拾う。何故か黒木もついてきた。
「おはようございます!」
「おはよう、ございます……」
今日も今日とて元気過ぎる晴夫に、逆に露骨なほど眠そうな黒木。顔立ちもけっこう違うし、相変わらず似ていない兄弟だ。
晴夫はまだ五月なのにパツパツの半袖Tシャツとジャージ。黒木は黒の上下に暗い色のチェック柄をした上着を着ている。
「うわぁ……た、高そうな車ですね……」
頬を引きつらせながら乗り込み、そっと小さくなる黒木。わかる、わかるぞ。俺も未だにこの車になれない。どれぐらい慣れないかと言うと乗り込む時必ず靴を脱ぐぐらい慣れない。
……どうでもいいが、ナチュラルに何故この兄弟は俺を挟むのか。いや、こういう空間で知り合いの傍に座りたいのはわかるんだが、挟むな。どうせなら宇佐美さんと九条さんに挟まれたい。
メンバー問わないなら明里と海原さんに挟まりたい……カムバック巨乳JC。
『え、キモッ』
やめろ。脳内で心を抉るな明里。あと視界の端で生ごみが宇佐美さんと九条さんの間に挟まろうとしていて蹴り飛ばされていた。おい、ドヤ顔するな。なに『羨ましいだろう』って感じだしてるんだよ。親戚として辛いよ……。
そんなこんなで、宇佐美さん達と会った後行った店に到着する。
「え、ここドレスコード……」
「問題ないわ」
硬直する黒木だが、あっさりと言って入っていく宇佐美さん。わかる、わかるぞ。俺も以下略。
逆になんで『じゃあ大丈夫ですね!』と元気よく納得するんだ晴夫。俺もうお前がわからないよ。
前回同様個室に通されて、晴夫から話を聞く事に。
「早速だけど、あの空間について聞いてもいいかしら」
「さて……どうお話ししたものか」
……うん?
晴夫にしては妙だ。普段のあいつなら普通に説明するだろうに。
そして、奴の視線が一瞬だけこちらに向けられた。あの目は、こちらに指示を求めている時のものだ。
「……晴夫、話してくれ」
「よろしいので?」
「よろしいもなにも、俺に隠す理由はない」
「……わかりました」
どういうつもりだ?
「これは、アプリの保有者であれば知っていて当然の情報なのですが」
そう前置きして、晴夫が語りだす。
「まず、あの空間は『街に怪物たちを逃さない檻』なのです」
「檻?」
そう言い切る晴夫に首を傾げると、逆に首を傾げられた。
「……あの、会長もアプリ保有者なんですよね?」
「いや、なんの事だかさっぱり」
「ええ!?」
驚いている晴夫の横で、黒木が小さく頷く。
「そんな気はしていました。会長はアプリとは関係なくうちの学校を探っているんじゃないかって」
「ああ。グウィンの件で探っていただけで、怪物どうこうはその手掛かりになるか程度だったんだが」
「そ、そうだったのですか」
驚いた様子の晴夫が、納得したように頷く。
「どうりで。あの空間には『アプリに登録した者しか入れない』はずなのに会長たちがいたので、会長がアプリを手に入れて彼女らと一緒に入っていたのかと」
「ああ、それで最初はぐらかしたのか」
俺が伝えていないのに宇佐美さん達に話していいのか、と。
「はい」
「ちょっと待って。そのアプリというのは、もしかして『円卓創世記』?」
問いかける宇佐美さんに、晴夫が大きく頷く。
「はい。そのゲームです」
「……どういうことなの?」
「あのアプリは、『古の魔術師マーリン』を名乗る人物が作ったそうなのです。そして、その力で人々を守れと」
「マーリン?」
確か、アーサー王伝説に出てくる魔法使いだったか。詳しくは知らないが、今なおイギリスの方で有名な魔法使いのはず。自分はゲームや漫画で聞いた事があるぐらいだ。
「ゲームをプレイして所有する騎士が成長すると、『円卓の騎士』へと進化するのです。そして、我々はその力を借りて怪物どもと戦っております」
胸をはってそういう晴夫に、思わず眉をひそめる。
「それ、胡散臭くないか?」
「僕もそう思います」
そう口にすると、黒木がすかさず頷いてきた。
「なんでアプリゲームなのか。なんでマーリンを名乗る人物がそんな事をさせるのか。そもそもあの怪物はなんなのか。疑問だらけですよ」
早口で言い切る黒木に、晴夫が困った顔をする。
「だがなぁ、あの怪物たちを放置すると街に出てしまうのだぞ?どうにかしなくては」
「街に?」
「はい。あの怪物どもを学校の屋上に通してしまうと、そこから結界の外に出て街の人を襲うそうなのです。ですから、我らが防がねばと」
……晴夫の性格からして、こいつらしい行動だ。嘘を言っているようにも思えない。
「だが、なんでお前らなんだ?せめて大人とかに」
「それも、試したのですが……」
言いにくそうな晴夫に、黒木も小さく俯く。
「同じ事を考えて、親戚の阿久津さんに相談したんです」
「阿久津先輩に?」
阿久津先輩は晴夫たちの従兄にあたる。そして、俺の一学年上の先輩だ。一緒に生徒会をしていた時期もある。
「その翌日、阿久津さんが倒れたらしんです」
「阿久津先輩が!?」
思わず目を見開いて椅子から立ち上がる。高そうな椅子が倒れるが、気にしてはいられない。
「待て、それはいつだ。どうなっている」
「お、落ち着いてください。もう退院していますし、体の方は異常ないそうです」
「そ、そうか」
ほっと溜息をついて、椅子をなおして座る。
阿久津先輩はかなり無愛想だし、嫌味ったらしい偏屈男だが、わかりづらいだけで面倒見のいい先輩だった。
大抵の奴からは嫌われていたが、社会人経験をした身からすれば、あの人がどれだけ親切かわかる。嫌味だけど。
「ただ、目を覚ました阿久津さんは僕たちの相談を覚えていないようだったんです。それで」
「相談した相手に被害が出るから言い出せなくなったと」
「はい……」
「ちょっちょっちょ!?それ私達大丈夫!?」
大慌てで立ち上がる麻里さんが、頭を抱えて悶えだす。
「じゃあ私達も倒れて記憶を失うって事!?やだよ京子ちゃん達のエチエチ脳内フォルダを失うなんて私は――」
「黒江」
「はい」
「あふん」
どこからともなく筒を取り出した九条さんが麻里さんに向けて息を拭けば、先端から針が発射されて彼女の首に刺さった。
吹き矢って初めて見た。じゃなくって。
「ちょ、大丈夫なんですか!?」
「安心して」
「宇佐美さん?」
「私が作った薬よ」
「怖いよ!?」
医者でもない人が作った薬とかどう安心しろと?なにショック受けた顔してんの?
「ちょ、本当にこれ」
「うーん……尻こそ至高……」
「あ、大丈夫そうですね」
椅子にぐったりと座っている生ごみは放置しよう。時間の無駄だ。第六感覚も『大丈夫じゃね?たぶん』と言っている気がするし。
「あー……皆さんはそもそもあの空間に入れたみたいだし、大丈夫かなと」
黒木が不安気にそう言い、晴夫が自信満々に頷く。
「会長なら大丈夫に違いないと思いましたので!」
その信頼はなんなの?
「こちらからも質問したいのですが、会長たちはどうやってあそこに?アプリは持っていないんですよね?」
問いかけてくる黒木に、少し考える。はたして、言っていいものなのか。
チラリと宇佐美さん達を見れば、素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。
「私と黒江……メイドと花園さんの三人。校舎の付近を歩いていたら突然あの空間に巻き込まれていたわ」
「……何故校舎の近くに?貴女方は、たしか昨日の昼間学校に来ていませんでしたか?」
警戒した様子の黒木に、宇佐美さんが肩をすくめる。揺れた!
「行方不明になっている岸峰グウィン君は私の親戚なの。それで、剣崎君に協力をお願いして探しているわけ」
「ああ、なるほど」
納得した様子で引き下がる黒木。うん。嘘は言ってない。ただ魔法については喋っていないだけで。
というか、昨夜宇佐美さんは『二階に帰還の鍵がある』みたいな事を言っていた気がする。それは黒木達に伝えるつもりはないらしい。
まあ、こいつらに魔法の事を話したくないのは同じなので、変に怪しまれないに越したことはないか。
「俺も敷地内を散策していたら偶然、だな」
本当は自分から空間をこじ開けたのだが、後で宇佐美さん達にだけ伝えればいいか。
「なるほど……」
考え込む黒木の横で、晴夫が大きく頷く。
「やはり、会長は我らを統べる運命をもっていらっしゃるのですね!」
「なんでだよ」
いやだわそんな運命。俺は何もしなくてもモテモテでウハウハなハーレム生活をする運命がいい。
「運命、ね……」
「お嬢様」
なにやら陰のある笑みを浮かべた後、宇佐美さんが続ける。
「色々ありがとう。ここは私がもつわ。好きに注文してちょうだい」
「おお、ありがとうございます!ではこの肉料理を!」
「ちょっと、兄さん」
「私は……京子ちゃんのパンティーを……」
震える手をあげて何かのたまっている変態。まるでゾンビだな。塩でもかけた方がいいのだろうか。
それにしても。
「………」
なにやら思い詰めた様子の宇佐美さんだが、いったいどうしたのやら。
そんな事を考えながら、そっと晴夫と同じ物を注文した。
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