第六十六話 疑問
第六十六話 疑問
サイド 剣崎 蒼太
「『円卓創世記』、ね」
あれから五人ほど話を聞いてきたのだが、うち三人から一人目と同じ様な証言が出てきた。その事を報告すると、宇佐美さんが腕を組んで考え込む。
だめだ、こっちも考えようとしても思考が腕にのった大迫力おっぱいに引き寄せられる。ついでに手をワキワキさせている麻里さんの首を掴んでいるので、集中できない。
「まっ……しまっ…息……」
「そのゲーム、もしかして花園さんが言っていたものかしら」
「げほっげほっ!そうだよ~。吉田さん家の息子さんもそのゲームばっかりしているそうだよ」
「なるほど……」
麻里さんから手を放し、スマホで軽く調べてみる。
この学校だけとは言え、学生たちの間で流行っているのだ。ブログとかSNSで何か出ているかもしれない。
関係ないゲームや漫画が出てくるが、どうにもそれらしいのが見つからない。だが、同じようにスマホを弄りだした麻里さんは見つけたようだ。
「お、あったよ。ここの生徒の書き込みっぽいの」
「え、よく見つかりましたね」
「ふっ……ナンパ師としては当たり前の技能さ」
なんだろう。絶対にもたせてはいけない奴に技術がいってしまっている気がする。こいつ、まさかとは思うがネットで気に入った女の子探して、特定して接触をしたりしていないだろうな。
ネット社会って怖い。
「検索ワードやページ送るから、各々確認してね。あ、京子ちゃんと黒江ちゃんは私と一緒のスマホで見る?」
「いいえ、私はお嬢様のスマホで見るのでお構いなく」
「黒江……いい加減貴女もスマホを持って」
「何を言いますか。私の愛機はまだまだ現役ですよ」
「「ポケベル!?」」
テレビでしか見た事のない物体を手に自慢気な九条さんに、思わず麻里さんと同じリアクションをしてしまった。
マジかこの人。というかまだ使えるんだ、ポケベル。
「それもう電波受信しないじゃない……」
いや使えないのかよ。じゃあなんでそんな自慢げなのこの人。というか普段の連絡どうしているんだ。
なにはともあれ、検索して出てきた情報を纏めるとだ。
『円卓創世記』
君自身が円卓の騎士となり、真なる円卓を作り出そう。という感じのゲームであり、内容はどこにでもありそうなポチポチゲー。
最初は無名の騎士だが、ゲームを進めていく事で円卓の騎士に進化していく。というものらしい。プレイ動画は見つからなかったが、画像を見た感じ絵はよく書けていると思う。
だが、不可思議な点が二つ。
一つ目は、学生間で言うほど人気な理由がわからない。
確かにグラフィックやキャラクターの様子はかなりの技術力を感じるが、流し見た感じストーリーはないしゲームの戦闘も単調。可愛い女の子どころか格好いい男キャラも出てこない。そんなゲームに、学生がそこまで食いつくだろうか。人気者が布教すれば、ワンチャン?
二つ目は、インストールできるのが学校の敷地内限定である事。
アプリがインストールできるのは黒薔薇男子高校の敷地内のみ。しかも、ゲームをプレイできるのはこの学校がある市内だけ。随分と限定されている。そもそも制作会社が不明なので、サークルか何かで作った可能性もあるが、それにしても敷地内でしかスマホに入れられないのがわからない。
「最近の男子ってこういうのが好きなの?」
「いや、そこまで人気の出るゲームとは思えませんが」
麻里さんの質問に、小さく首を振る。まあ、自分の好みではないだけかもしれないが。
ちなみに、まったく関係ないが今俺が嵌っているのは『爆乳忍法録~乳比べ大戦~』だ。基本無料なので、自分の様な学生でも安心してゲームができる。
ゲームの選定基準は美少女が出てくるか否かですが、なにか?乳がでかければなお良し。
「制作会社が不明。これは、この学校の関係者が作った可能性があるという事かしら?ゲーム部は高校のホームページになかったけれど」
「さあ……」
宇佐美さんの疑問に、なんとも答えられない。
正直コンピューター系には疎いのだ。ワープロやエクセルは前世と今生の生徒会で使えなくもないが、ゲーム開発だのアプリだのはさっぱわからん。
ただ、わざわざこの学校周りでしかゲーム出来ないから、学校の関係者という線は強いと思うのだが。そうでなければここまで条件づける意味がわからない。
「根気と設備と才能があればある程度なら出来ると思うよ?簡単とは絶対に言えないけど」
後頭部に手を回した麻里さんが興味なさげに呟く。
「私はあんまりそっちには詳しくないからなぁ。ハッキングとかなら多少はって感じだけど」
「おい待てや」
「実行はしてないから!実行はしてないから!」
ハッキングは普通に犯罪である。そしてこいつの場合用途はどう考えてもナンパだ。
……頼むからナンパと呼べる範囲であってくれ。そもそもこいつ、昨日の段階で宇佐美さんに痴漢してるんだよな。不安しかない。
せめて、せめて俺は巻き込まれませんように……。
「とりあえず試しにゲームを入れてみたら?他に手がかりないんだし」
「手掛かりと言っても、一応、明日の昼に盛岡理事長と会う予定ではあるけど」
宇佐美さんがそう言うが、あいにく明日も平日だ。
「すみません、昼は俺ちょっと……」
「そうね。高校生だもの。仕方がないわ」
「あ、私も昼は講義あるね。しかも必須の」
「貴女学生だったの……?」
「え、なんで私だけ疑問視されてるの?」
退学になっていない事にでは?
「とにかく、試すだけ試したいところですが……」
校門の前には守衛がいる。名門だけあってその辺はしっかりしているようだ。防犯カメラも見えている範囲で一台が稼働中。もしかしたら他にもあるかもしれない。
部外者が入れば怪しまれるし、アプリを入れるどころじゃないか。
「とりあえず今日は帰りましょう。また明日の同じ集合時間に」
「はい、わかりました」
「じゃ、蒼太くん。これからは大人の時間だから君は一人で帰って」
「貴女、ここが地元なのでしょう?では、ここで。剣崎くんは送っていくわ」
「あ、じゃあ麻里さんお疲れさまでした」
「待って!?私女子大生!美人女子大生!身の危険とか、ほら!?一人で帰るのはさぁ!」
「「「ちっ」」」
「辛辣ぅ!?」
そうして、四人そろって迎えに来てくれた高級車に乗せてもらって帰るのだった。
ただなんとなく、『夜の学校に怪物がでる』という噂が気になった。二宮金次郎が動くとか、人体模型がとか、学校のそういう噂話なんてよくあるものだが……何故だろう。
よくわからないが、嫌な予感がする。
* * *
サイド 宇佐美 京子
「剣崎蒼太」
二人をそれぞれの家の前に送った後、帰りの車でその名前を口の中で転がす。
「ああ、お嬢様のやっているゲームとかで出て来そうなイケメンでしたね」
「なんで私のやっているゲームを知っているの……?」
きちんとベッドの下の隠し金庫に入れておいたはず。まあ、彼女なら調べようと思えば調べられるだろうが。
それはそれとして主人の秘密を暴くのはどうかと思うのだが?
「そうではなくって……どう思う、黒江は」
「なんかヤバいですね」
いつもの無表情ながら言葉に困った様子で、黒江が肩をすくめる。
そう、彼については私も評価に困っている。
容姿は今まで見た事のないほどの美男子。精神を鎮静化させる魔術を使用しなければ、あっという間に虜となってしまうほどの、魔性の美。
そんな浮世離れした美男子でありながら、立ち振る舞いは普通の人そのもの。高校生と言うには落ち着いた印象だが、不自然すぎる程でもない。強いて言うなら新社会人程度の精神。はっきり言って、中身と外見でちぐはぐだ。
だが、より大きな問題がある。
「彼、強いの?」
「それもよくわからないんですよねぇ」
魔力の流れがなんとも言えないのだ。
人間、生きていれば大なり小なり魔力を持ち合わせている。彼もまた魔力を持っているのだが、あまり多くはなさそうだ。
中の下か下の上ぐらいの魔力が、静かに流れている。そして、時折乱れる。普通の事だ。大した事ではない。
ない、のだが……。
「なんとなくわざとらしいのよね、魔力の流し方が」
まるで、『これが普通の人だろ?』とでも言いたげな、そんな雰囲気がするのだ。
いちゃもんと言われてしまえばそれまでの疑問。だが、妙に頭の奥にひっかかるのだ。アレは、無視していいものなのかと。
「魔力の事はわかりませんが、体の方は凄まじいの一言ですね」
「……え、エッチなのはよくないと思うわ」
「お嬢様。ボケるのは私の役目なので盗らないでください」
「え?あ、そ、そうね。冗談よ」
びっくりした。いつの間に黒江と剣崎くんがそんな仲にと驚いたが、違うらしい。
「お嬢様が耳年増なのはさておき」
「年増はやめて。今日さんざん言われたから」
高校生には、大学生って年増なのかしら。元々大人っぽいと言われるし、そう思われるように振舞っているけども。面と向かって連呼されると、正直辛い。
「事前に調べた通り、彼が剣道の有段者なのは間違いありません」
そう、私達は彼と接触する前にある程度だが調べている。というのも、岸峰グウィン行方不明事件の第一容疑者だからだ。
彼と岸峰グウィンは、その……そういう関係にあったらしいが、転校生の大泉ランスが奪ったとか。十分に動機はある。
警察もそう思ったようなのだが、どこからか謎の力が働いて彼への捜査は行われなかった。更に言えば、それ以前の行動についてでも所々調べられない様になっている。
はっきり言って怪しい。そう思って接触をはかった。まあ、会った感想からすると岸峰グウィンとの噂は嘘なのだろうが。
その……視線が凄くわかりやすいし。
「腕前も情報通り三段か四段程度。年齢を考えれば十分すぎますが、それにしても体がおかしい」
「どういう事?」
「完成されすぎているのです、お嬢様。あれほど練り上げられた体は、それこそ千年に一人の戦士が、最高の環境で修練を重ね続けて、ほんの一時至る全盛期にのみ見られるもの。たかが学生が身につけられるものではございません」
黒江が言うのだから、そうなのだろう。
歳の功というやつね。
「お嬢様。今失礼な事考えませんでした?パワハラですか?」
「思想の自由って知ってる?」
「そういう目をしました」
「理不尽過ぎない?私主よ?」
「ラブラブキュンキュン♡お嬢様♡」
「うっわ……」
無表情のまま秋葉原にいそうなメイド動作をされても困る。
秋葉原と言えば、東京は今大変らしい。詳しい話は御父様や御爺様によって遮断されているが、随分と物騒な事になっているようだ。メイドカフェなるものも今は稼働していないのではないだろうか。
「とにかく、『事件に関係ないけど怪しい』と見た方がよさそうね」
「そうですね。ですが、完全な白とまでは信じない方がいいかと」
「わかっているわ」
信じよう。しかし疑え。この業界の鉄則だ。
信じなければ始まらない。だが、信じていながらも別の頭で疑い続けろ。ビジネスでも、魔術師でも、そうしなければ生き残れない。
それがなくても生きられるなんて言うのは、ただの愚か者か、はたまたそんな生存戦略のいらない圧倒的な強者だけだ。
……どうにも疲れる。帰って『ドキプリ☆君だけのナイトと一夜を』をやってから寝よう。
「あ、お嬢様。ゲームは一日一時間までですよ。御当主からの命令です」
「!?」
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剣崎の容姿について。
宇佐美「魔術で精神制御しないと虜にされる……」
某パーフェクト美少女「私より美しい存在とかいなくないですか?」
某家臣志望サメ系少女「精神統一していたら気にならなくなりますよ?」
某公安部の中間管理職「それどころじゃない……胃が……」




