プロローグ
第三章『王の帰還』始めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
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サイド 剣崎 蒼太
我が義妹、蛍へ。お元気ですか?五月に入った事もあって、雨が段々多くなってきましたね。
蛍は少し根をつめすぎる所があるから、お義兄ちゃんは心配です。ちゃんとご飯は食べていますか?友達と遊んでいますか?
水泳や勉強を頑張るのはいいですが、今しかできない事は他にもあります。それに、心と体の健康が第一です。
そんな事を申す義兄ですが、今私は――。
トイレで一人、おにぎりを食べています。
「…………」
どうしてこうなったっっっっっ!!??
* * *
あれは入学してから一週間ほどが経った頃。
入学式で挨拶をする生徒会長を見ながら『今度は絶対生徒会には入らねえからな』と決意を新たにし、割り当てられたクラスでも無難に過ごしていたいはずだった。
だが、今生の顔立ちは超絶イケメン。そこに中学での『噂』も加わって少し周りから距離をおかれていたのは確かだ。
それでも、距離が縮まるどころか広がっていくとは思わなかったし、こんな事にまでなるとは予想もしていなかった。
『剣崎ってさ……エロくね』
きっかけは、クラスの誰かがそう呟いた事だった。
最初、他の剣崎さんかと思ったのだ。うちのクラスには自分だけだが、学校内なら他にもいるだろうと。
だって、そう発言したのは男子だったから。
その言葉を受けて、こそこそと自分を見ながら男女問わず囁き合っていたのを思い出す。
『たしかに……なんか、鎖骨が』
『俺は体育の時見えた腹筋が』
『けどあいつ、中学でガチホモハーレム築いてたって』
『剣崎なら……抱けるわ』
『むしろ抱かれたい』
そんな、怖気の走る会話と共に男子たちの目が自分に集まった。
『剣崎君かっこいいよねぇ』
『ほんとほんと。どんな芸能人よりイケメンだよ』
『彼が乱れる所みたいなぁ……』
『たくさんの男に組み敷かれる所とか?』
『屈辱と恐怖であの綺麗な顔が歪むところかぁ……』
そんな、人を人と思わぬ視線を女子たちから向けられた。
恐怖した。こいつらまともじゃないと。それらが冗談の類ではないと、第六感覚が教えてくる。その危険と一緒に。
それでも諦めはしなかった。普通に接していれば、まともな友人関係ぐらいは築けると。
隣の席の男子に、そんな思いでよく話しかけていたのだが。
『剣崎君が悪いんだよ……!!』
歪な笑みで、己の股間を指し示す彼を見て心が折れた。
どうしてこうなった。どこかの魔法使いか、はたまた邪神からの攻撃でも受けているのかと本気で疑ったが、そんな痕跡は一切なく。
そして思い出すのが中学時代。意識して考えれば、似たような視線を向けられていた気がする。そういうのは生徒会メンバーや風紀委員が壁となってくれていたのか。
今更ながらかつての友人達に感謝する。だが、彼らは別の学校に進学した。自分が第一志望にしていた高校か、あるいはどこぞの男子校に。
最近は担任の女教師にまで熱っぽい視線を向けられるようになった。いいよね、女教師。それが『もうすぐ還暦間近のお局様』じゃなかったらとってもよかったのになぁ……!
世の女子高生はこんな視線にさらされているのだろうか。いや、流石にここまでではないだろう。もしそうなら日本は終わっている。
忸怩たる思いを浮べながら、借りているアパートに帰っていく。
よくよく考えれば、地元を離れたのがよくなかったのかもしれない。近所から向けられる視線も最近気になりだした。ちょっと人間不信になりそう。
そうして歩いていると、どこかから悲鳴が聞こえた。
常人の聴覚なら聞き逃しそうなほど小さく遠かったが、自分の肉体は拾い上げる。恐らく女性の声。
すわ悪漢かと、迷わず駆け出した。その辺のチンピラ程度なら顔も見られぬ前に制圧する自信がある。
路地裏を走り、壁さえ足場にして駆けていく。もう一度悲鳴が聞こえた。急がなければ。
……なんか、聞き覚えのある声のような?
たどり着いた先で、一人の女性にむかって拳が伸びている所に遭遇。咄嗟に腕を挿しこんで、左手の甲で受け止める。
「っ!?」
随分と重い音を響かせながら拳を叩き込んできた人物が、驚いたように目を見開く。
だが、驚いたのはこちらも同じ。
「メイド服……?」
アニメなどで見るのとは違う、クラシカルなメイド服。たぶん、コスプレの類ではないのだろう。仕立てがとてもいい。着こなしも慣れている感じがする。
そんな格好の女性が、人の顔面なら簡単に砕きそうな拳を打ってきた。女性らしい細腕で、だ。
「……」
無言で後退するメイドさんを見送り、後ろに庇った方の女性を――いや、『カス』を見る。
「どういう状況ですか、『麻里』さん」
栗色の髪を腰まで伸ばした、美女がいる。くりくりとした愛嬌のある目に、整った目鼻立ち。黙っていれば清楚な美人だろうに、チェシャ猫みたいな笑みを浮べている。
胸は小さいが、全体のバランスがいいスタイルの女子大生だ。服装も大人っぽくまとめている。唯一、見慣れない眼帯が気になるが。
「やあやあ、ありがとう蒼太くん。助かったよ」
「……従姉ですから」
本当に……本当に不本意だが、この人物、『花園麻里』は戸籍上自分の従姉にあたる。血の繋がりは当然ないのだが。
そしてこの人物。一言で言うと『カス』である。オープン『過ぎる』レズビアンなのだ。
別に、同性愛など自分に害がなければどうでもいい。恋愛は個々人の自由だ。こちらに無理強いしてこなければ。
だがこの人物。手が早い上に見境がない。たしか、最大で女性七人と同時に付き合っていた事がなかったか。恐らく、その眼帯も痴情のもつれでやったのだろう。
「なるほど」
こちらを警戒した様子で見ていたメイドさんが、ビシリと指さしてくる。
「痴漢の一味ですね」
「違います」
とんでもない不名誉なレッテルを貼られた。これ、まさかとは思うが。
「そちらの女性がお嬢様の臀部を突然鷲掴みにしたかと思えば、まさか誘い込まれたとは。この九条黒江、一生の不覚……!」
「本当にすみませんでした」
咄嗟にカスの後頭部を掴んで、一緒に頭をさげる。本当になにしてんだこいつ。
「あたたたた!?痛い、痛いよ蒼太くん!乙女の頭になんてことをするんだい!」
「黙れ。突然痴漢行為を働く奴を乙女とは言わない」
昔小学生の蛍と執拗にお風呂へと一緒に入ろうとしていたが、とうとうやらかしたか。
「痴漢って、私女なんだけど!?」
「男女関係なくやらかしたら痴漢だよ。貴女だって相手が女性でも突然尻を触られたら嫌でしょう」
「相手が美女や美少女ならウェルカムだね!」
「じゃああんたもOKとはならねえんだよ」
頭を下げたまま無意味な応酬をしていると、更にもう一人誰かくる気配を感じ取る。
「黒江、捕まえた?」
「お嬢様」
ちらりと視線をあげる。
「っ………!」
神がいた。おっぱいの神がいた。
いいや、神などと呼ぶのは目の前の人物に失礼だろう。そう……伝道師と呼ぶべきか。
輝くような金髪を夜会巻きにした、碧眼の美女。スーツ姿の彼女のスタイルは、ボンッキュボンを通り越して、ビックバンへと到達している。
海原さんどころか明里さえ超えるダイナマイトスタイル。彼女を前にしたらうちの義妹など消し飛ぶのではないかと言うほどの超重力の塊がいた。
「……その少年は?」
「痴漢の一味です」
「違いますただの親戚です」
「そう……」
女性がため息をついていると、メイドさんが無表情のまま前に出てくる。
「こちらにおられるのがどなたと心得る。かの宇佐美グループ会長のお孫様であられる、宇佐美京子さまなるぞ。そのドスケベボディに猥褻な行為をするとは、なんたる不遜か」
「黒江?」
「なんですかお嬢様。今からどれだけお嬢様のエロ漫画に出て来そうな体に艶めかしく触られたか説明しなければならないのですが」
「黙ってて」
「はい」
すんっ。とさがるメイドさん。さてはこの人かなり愉快な性格の人だな?
だが彼女がその時、宇佐美さんに小声で『彼が剣崎です』と伝えたのを聞き逃さなかった。どういう事だ?
思考する間もなく、重そうな胸を支える様に腕を組んだ宇佐美さんが前に出て、こちらを冷たい目で見下ろしてくる。やだ、いけない扉を開いてしまいそう……。
「……質問に答えたら今回の件を不問とします。いいですね?」
「不問だなんて。私は君になら愛の奴隷となって罪を」
「はい!ありがとうございます!」
何か世迷言をぬかすカスの頭に力を込める。
いくら美人とは言え、性格がゴミカス過ぎて異性としては少ししか見れない従姉など知った事か。ここは全力で保身に走らせてもらう。
というか本気で悪いのこのカスだけじゃん!?
「岸峰グウィン」
「え?」
聞きなれた名前が出てきた事に、思わず拘束を解きながら顔を上げてしまう。
「私の『はとこ』である彼が、ここ十日ほど行方不明となっているの。何か情報はないかしら」
「……は?」
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バタフライ伊藤産転生者はデフォルトで周囲を魅了しています。主にカンストした容姿のせいで。
それによる恩恵とも呪いとも言える効果を一番うまく活用したのがこいつです。
魔瓦「適当な運営なのに活動資金がぽこじゃか溢れてきて笑える」




