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第三十九話 海原アイリ

やっと……やっと二章ヒロインと主人公がまともに会話を……。


第三十九話 海原アイリ


サイド 剣崎 蒼太



 ようやく、海原家の前へと到着する。


 何故だろう。来ようと思ってからかなり時間がかかった気がしてならない。昨夜から明里と相談、魔道具の作成で徹夜、午前中の仕事、そしてミゲル。うん。これだけ密度あったら時間も長く感じるわ。この島に来てまだ三日目だというのに。


 それはそれとして、どうやって入ったものか。


 はっきり言おう。あの海原という少女を自分は最悪『新垣さんに売る』つもりでいる。いや、いやらしい意味ではなく。


 ぶっちゃけ、新垣さんに会いに行く前にこっちに来たのはそういう理由である。彼女の情報を手札にした上で彼とは話したい。


 自分と新垣さんでは、交渉能力に差があり過ぎる。それを少しでも埋めるために、あの子に会いに来た。海原少女から得られる情報や、彼女の境遇で判断しなくては。


 で、そうなると出来れば顔を知られたくない。なら鎧を着ていくか?……滅茶苦茶不審だな。そもそも会話してもらえるだろうか。


 ここにきて『響の実家で人も少ないらしいし、変装とかはいいや』と伊達メガネもマスクも持ってきていないのが裏目にでた。


 ……とりあえず鎧で行って、それから考えよう。そもそもアポもなければ面識もないんだし、彼女も知っている鎧姿でいいだろう。


 周囲の視線を確認し、鎧姿に着替え、少し古い玄関に備え付けられたチャイムを押そうとする。


 そこではたと気づいた。あれ、年頃の女子の家に来るのって二回目では……?


 前世も含めて数えても、たったの二回。しかも一回目が明里という特殊ケース。参考になるとは思えない。


 どうしよう、ここに来て滅茶苦茶緊張してきた。


 先ほど、『犯人とやらに殺意がわいた』と頭の中で呟いたが、それはそれとして手汗がヤバい。胸がドキドキしてきた。


 大丈夫かな?気持ち悪いとか不審者とか言われないかな?


 深呼吸を二回。意を決して、震える指をインターホンに押し付けた。


「はーい」


 トテトテと軽い足音が聞こえてくると、ガラガラと音をたてて玄関が開かれる。


 どうやら今日は袴ではなく着物姿のようだ。藍色に黄色の花柄が可憐だ。髪型もツインテールから後頭部の一本にまとめられて前に垂らされている。


 可愛い。これは新垣さんに売るとか無理だわ。


「えっ」


 ギョッとした顔でこちらを見てくる美少女。凄い、驚いた顔でも可愛い。


 ……鎧姿を後悔しつつも、顔が隠れていてよかった。たぶん今かなりキモイ顔をしている自信がある。


「あ、昨日の。昨夜はありがとうございました」


 ちょっと緊張した様子で少女が頭を下げてくる。怖がったり疑ったりという雰囲気はなさそうだ。


「いえ、お気になさらず。アポもいれずに申し訳ありません。今お時間いいでしょうか?」


「は、はい。どうぞ中に」


「失礼します」


 鎧の首から下を解除。兜のみ残す。かなり不格好だが、致し方ない。その状態で靴を脱いで上がらせてもらった。


 流石にこの姿にはギョッとした顔をする少女が、ジロジロとこちらを見てくる。


「あー、すみません。顔を知られたくない事情がありまして」


「……あの、もしかして昨日の昼間に、こっちを見ていた方でしょうか?お友達と二人で」


 その言葉に、一瞬息が止まった。


「……ちょっと記憶にないのですが」


「え、あれ?けど同じ『匂い』がしたと思うんですけど……」


「は、え?」


 少女が突然こちらに顔を寄せてきて、匂いを嗅いでくる。やだ、凄くドキドキする。少し背伸びしてこちらの首元まで嗅いでくるものだから、胸が少し当たっている。


 ああ、胸が!胸が!


「すごく……すごくいい匂い……」


 いい匂いがするのは君の方……って、え?


「っ!?」


 背筋に悪寒が走り、第六感覚が反応。すぐさま少女から距離をとる。先ほど脱いだ靴を踏みつける様な形で、全身に鎧を再展開。戦闘態勢にはいる。


「え、え?」


 困惑したような少女に、逆にこちらが疑問符を浮べる。


 確かに、少女はこちらに害意をもったはず。いや、あれは害意か?どちらかと言えば、陶酔……いや、もっと原始的な……。


 わからない。だが、とりあえず敵意は感じない。


「え、えっと……?」


「失礼。ですが、女性があまり異性に体を寄せるべきではありませんよ?」


「あっ、ちが、すみません!私普段はそんな!」


 顔を真っ赤にして手をバタバタとさせる海原少女。可愛い。


「と、とにかく、あの、顔はもう知っているので、隠さなくっても大丈夫ですよ?」


 上目づかいにそう言われるが、内心少し焦っている。


 あの距離はそれこそ視力が2.0あっても顔をはっきり認識できるか微妙だったはず。それを『匂い』?


 ……この娘、それを疑問に思っていないのか。下手につついて藪蛇というのは勘弁願いたいな。


「……わかりました。では、普段通りに」


 鎧を完全に解除し、今度こそ玄関に上がらせてもらう。


 ……履いて来た靴、鎧で踏み潰しちゃったなぁ。いや、壊れてはいないけど、形が……気にしないでおこう。


「はえー……やっぱり凄い男前さんですね……」


「恐縮です。あ、あにゃたも、お綺麗ですよ」


 やべぇ。噛んだ。


 しょうがないんだ。年頃の異性を褒める機会なんてほとんどなかったんだ。というか、下手にそういう事を言うと『は?キモ』と言われるのだ。主に前世。


 だが、心配は杞憂だったらしい。


「ふぇっ?!い、いやぁ、口がうまいですな~」


 うっわ、この娘チョロいわ。


 普通これだけ容姿が整っていれば、美辞麗句の類は慣れているはず。自分とて、転生してからはよく言われる。前世?聞かないでほしい。


 だというのに、この娘はそういう言葉に慣れていないのか?


 ……この島、もしかして闇深い?


「ど、どうぞどうぞ!小汚い家ですが!」


「いえいえそんな。よく手入れされているではないですか」


 実際よく掃除されている。綺麗好きなようだ。


「ああ、申し遅れました。私、佐藤剣一郎と申します。お名前を窺っても?」


「これはご丁寧に。私は海原アイリって言います。海に原っぱで、アイリはカタカナです」


 よかった。今回は偽名が通じた。明里の時は秒で『ダウト』ってされたからな。


「あの……そんな敬語じゃなくっていいですよ?たぶん私の方が年下ですし」


「そうですか?失礼ですが、年齢を窺っても」


「今十四で、今年十五になります」


 明里や蛍と同い年……だと!?


 視線がついその胸部に向かう。うむ、豊満である。明里ほどではないが、間違いなく巨乳の部類。着物越しでもわかるその膨らみ。


 前に義妹のブラを洗濯して干す時に見た数値はAだった。そしてネットの知識で得た計算式。更に第六感覚による計測を当てはめる。


 推定F……あるいはG……!明里のHカップほどではなくとも、なんという数値か。これで現役JC。おいおいテンション上がってきたよ。世界は夢に溢れている。


 それはそうと悲しいね、蛍。我が義妹よ。どうか強く生きて。大丈夫。尻と脚線美はナンバーワンだよ。うん、こういう事考えているから義妹に嫌われるのでは……?


「あ、あのぉ……」


「!!??」


 海原さんが胸を隠しながら、少し抗議を込めた目でこちらを見てくる。しまった、ガン見しすぎた……!なんたる不覚。明里で視線を悟られない練習を積んだというのに……!いや、未だにスマホでテレビ通話をすると『蒼太さん。視線がキモイです』と言われるけど。


「すみませんごめんなさい許してください」


「ちょ、そこまで謝らなくても!?」


 深く、深く頭をさげる。九十度の角度だ。いやほんと、これが明里だったら言葉のナイフが千本ノックされる。心がね、折れるよ?


「す、少し嫌でしたけど、そこまで気にしなくっていいですから。ね?」


「ありがとうございます……」


 天使?いいや女神?いや神様呼びは失礼だったわ。海原さんに。一瞬銀髪シスターがテヘペロダブルピースする姿浮かんだし。あいつマジで焼け死なないかな。


 そんなこんなしながら、海原さんに案内されて客間に通される。総一郎さんの家もそうだったが、部屋はどこも畳だ。木製の机と座布団が敷かれており、そこに座らされてお茶が出される。


「すみません、手土産の一つもなく」


「いえいえ!こちらこそ昨日は危ない所を。本当にありがとうございました」


 畳に直接座り、指をついて頭をさげてくる海原さんにこちらが慌ててしまう。


 なんというか、ここに来る時『最悪新垣さんに売るか』と考えていた事に罪悪感が沸々と出て来てしまう。


「どうか顔を上げてください。それよりも、少々お尋ねしたい事がありまして」


「は、はあ。あの、やっぱり敬語はなしで……なんか落ち着かないといいますか」


「……じゃあ、普通に喋らせてもらおう」


 机を挟んで対面する様に座り、海原さんを見つめる。


「単刀直入に聞きたい。あのサメの姿。あれはなんだ?」


 そう聞くと、海原さんが少しだけ目を逸らす。


「……信じてもらえないかもしれませんけど」


 そう前置きして、ぽつぽつと彼女は語りだした。


「私、お婆ちゃんから習った武術を少しやっていて……その鍛錬の一環に毎朝島を一周ランニングしているんです。その時、海岸で銀色の玉を拾って」


「銀色の玉、か」


 脳裏に浮かぶのは、サメ怪人の下腹部にあった銀色の光。


「はい。大きさは拳ぐらいで。なんだろうと思って拾い上げたんです。そしたら」


 海原さんが、自分の下腹部に手をあてる。


「光ったと思ったら、手に吸い込まれるみたいに消えていて。そして、なんだかお腹の奥に存在を感じるように……」


「なるほど……」


 ……わっかんねぇ。


 なにかしらの魔道具、なのか?海原さんからは、彼女以外の生命反応を感じない。サメ怪人の姿の時も、遠目にだがなかったと思う。


 肉体を変質させる類か。ないわけではないが、何故そんな物が?というかなんでサメ?


「きっと、私の血が関係しているんじゃないかって。そう思うんです」


「血、と言うと……」


「……海原の家は、化け物の血が流れている」


 どこか、自嘲する様に笑う彼女。


「そんな風に昔から言われてきて、今なら実感がわきました。確かに、私って人間じゃないんだなって」


「いや、人間だろどう見ても」


「え?」


 ついポロっと口から出てしまった。だが、魔法使い的に見てどこからどう見ても人間である。


 というか、こんな巨乳美少女が今更化け物とか、あんま思いたくないという願望も込みだが。


「んんっ!それで、体調などに違和感はあるか?その、変身?とかしたみたいだけど」


「へ?あ、いえ!特に何も。むしろ調子がいいぐらいです!」


 むん!と両手で力こぶを作るポーズをした海原さん。可愛い。そしてでかい。腕のこぶは見えないけど胸のお山は立派だと思う。


「じゃあ、あの蜘蛛みたいなのや蝙蝠みたいな怪人については心当たりとか、ある?」


「いやぁ、それがさっぱり。私としても佐藤さんに聞きたいなって」


「そうか……こっちもあまり詳しくはないんだけど」


 とりあえず、新垣さんに関する事だけ省いて海原さんにこちらの知っている事を伝える。まあ、本当に自分も詳しくないのだが。


「そうですか……あの、お願いがあります」


 どこか、強い意志をもった目で海原さんがこちらを見てくる。


「危ないですから、戦わないでください。あの怪人は、私がなんとかします」


「……は?」


 え、普通に負けかけていた奴が何言ってんの?


 思わずそう言いかけたが、どうにか堪える。彼女は別に、不思議な力を手に入れて調子に乗った結果。という感じで言っているわけではなさそうだ。どちらかと言えば、こちらの身を案じている?


「危ないというなら、君もだろう。昨夜の事を忘れたのか」


「わ、私はいいんです!鍛えてますし、それにこれは『海原家の役目』です!」


「いやいや、『はいそうですか』と頷けるわけがないだろ」


 これを言ったのが、新垣さんだったら「あ、お願いしまーす」と言って自分は響とその家族を守るのに専念していた。


 だが、目の前にいるのは中学生の子供だ。それが、『危ないからさがっていろ』?逆だろうに。こっちは今生で15歳。前世では成人済みの社会人だぞ。ペーペーだったけど。


「け、けど、もう何人も人が亡くなって」


「そう思うなら、むしろ俺に手伝えとでも言うべきじゃないのか?君一人でどうにかなるとでも?」


「そ、それは……頑張ります!」


「頑張ってどうにかなるか」


 ……この娘、危なっかしい。


 なんと言えばいいのか。まともな精神状態とは思えない。一度ちゃんとしたカウンセラーにでも診てもらいたいところだ。


 だが、この娘も自分と同じような理由で病院にはかかれない。


 思わず、ため息をついてしまう。


「……お互い、ひく気はなさそうだな」


「そ、その、佐藤さんは余所の方なんですから、そこまで関わらなくても……」


「女子中学生が『私が殺し合いをします』と言っているのを、素直に聞けるわけないんだよなぁ……」


 海原さんの中で俺はどれだけ非常な人間なんだ。無力だったならいざ知れず、こちらはチート転生者だぞ。


 力のある者には義務が。とは言わないが、ここで丸投げしたら精神を病むぞ。これ以上病んでみろ。吐くぞ。


「妥協案を出そう」


「妥協?」


「手を組もう。協力して事件の解決に挑むんだ」


 そう言って、彼女に向かって手を差し出す。


 本音を言えば、力ずくでも彼女を安全地帯に放り込みたい。できれば病院に。


 だが、そんな事をすれば間違いなく単独で事件に挑もうとするだろう。そして、自分の知らぬ所で死んでいそうな気がする。


 俺は我ながらメンタルが弱いのだ。これだけ話した相手の死体を見るとか、きつい。だったらまだ、手の届く範囲に置いておきたい。


「け、けど佐藤さんが危ない……」


「あー、君が手を組んでくれないと俺は単独行動しちゃうなー。勝手に動いて一人の所を襲われて、死んでしまうのだろうなー。誰か背中を守ってくれないかなー」


「う……ひ、卑怯ですよ?」


「黙れ小娘」


「なんか言葉が酷くなってませんか!?」


 そりゃあもうね?こっちからしたらお前ふざけんなよ案件だからね?怪人への対処やらミゲルの真意やら新垣さんの探りやら。そこに加えて君のお守ぞ?泣くよ?


 これが美少女じゃなかったら手足へし折ってからの催眠だからな。いや、それでもこの娘の場合這ってきそうな質の悪さがあるけど。


「うう……わかりました」


 数秒程唸った後、海原さんがこちらの手を取る。


 剣だこはあるが、小さい手だ。女の子の手だなぁ……やばい。手汗とか大丈夫だろうか。


 というか、女の子相手にずけずけ言い過ぎたか?どうしよう。今になって変な汗が出てきた。


「その……よろしくお願いします。あまり、危険な事はしないでくださいね」


「こちらこそよろしく。そしてそれもこっちこそだよ。危ないと思ったらすぐに退いてね頼むから」


 こうして、新垣さんより先に海原さんと手を組むことになった。


「あ、この島に変なお巡りさん達来てるから」


「ええ!?」


 もう面倒だし新垣さんの情報も知っている範囲でブッパしよう。頑張ってくれお巡りさん。




??「同盟したんですか……私以外の女と」


読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。

タイトルを『クトゥルフ式神様転生~並行世界日本の転生者~』に変更させて頂きました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


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[一言] この主人公おっぱいに忠実すぎる
[一言] なんつーか、 本妻が、ニャルになりかけて、側室が深きものかぁ… そのうちしゃっがいとかわんわんとかもヒロインになりそうでワクワクすっぞっ(
[一言] ・・・この子ふか・・・ ふかふかそうやな。
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