Z話 クリスマス
Z話 クリスマス
サイド 剣崎 蒼太
「獅子堂組?」
「へ、へえ。そうです。そこの若頭をさせて頂いております」
パーティーの翌朝。なんか新城家の前で土下座していた謎の人物こと鎌足さんを囲んで、自分を含めた四人の使徒が武装して質問をしている。
無論、彼が何かよからぬ事をしたら即殴り倒すためである。正直信用していないし。
敵意はない。だが、彼からは濃密な『人の死』の気配がする。それも怨念とかそういう感じのやつ。どんだけ恨まれているんだ。
「やーさんかぁ。よし。とりあえず指切り落とすか」
「ソレハ、早計デハ?」
「そうだな。そういうのはもう少し詳しく話を聞いてからでいい」
秒で鉈を取り出す時子さんと、とりあえず事情聴取を優先する絹旗さんと田中さん。自分は二人の方に賛成である。
まあ自分ら三人も話次第では時子さんに賛成するが。
「というわけで、話せ」
「は、はい。私ども獅子堂組はですね、古くから伝わる伝統と仁義こそを信条に活動させて頂いております。この本来の歴史よりも不安定になった世界情勢。当然その波紋はこの東京にも影響を与えております。警察組織だけでは対応しきれない今、我々のような自警団的な組織が必要となるわけです」
「……続けて」
「はい。そうは言っても任侠者。善人の集まりというわけにはいきません。敵対組織への過剰な攻撃や違法な行いは否定できませんとも。しかし、断じて堅気の方々にはご迷惑をおかけしてはおりません。獅子堂組はあくまでも自警団。あの次郎長親分を尊敬し、下町の守護者として粉骨砕身の」
「獅子堂組って夫のブラックリストに載っていたわね。たしか臓器、薬物、武器、人身売買をやっていて、若頭は一般女性を次々襲っているとも」
「判決。ボッコな」
「「「異議なし」」」
「よくわからないけどわかった!」
「うー」
「待って!!??」
月夜さんの言葉を皮切りに、後ろに控えていた金原さんや渚も含めた五人で各々得物を構える。
「誤解です!誤解なんです!」
「鎌足さん」
「は、はい!わかっていただけましたか!?私達は民主主義の国に生きる者としてまず話し合いを」
「俺、嘘わかるので。異能で」
「あ、俺も俺も」
「 」
なんか仁義とか言い出したあたりで第六感覚が『嘘やでー』と判断していたので、以降はぶっちゃけ話半分に聞いていた。
沈黙から数秒。鎌足さん。いや鎌足が両手を揃えて突き出してくる。
「こ、この通りですのでご勘弁を……」
「お、えんこかな?」
「ちがーう!?手錠!自首しますから!警察に組の秘密資料持って行きますから!どうか命だけは!命だけはご勘弁を!」
うーん。命乞いをしている相手をどうこう、というのはちょっと。
これが騙し討ちをしてきたり、斬りかかってきたり、民間人を人質にしたりとかしているなら、自分も遠慮なくリンチにできるのだが。この状況では抵抗がある。
まあそういうのに抵抗感じない人の方がこの場には多いのだが。
「知らねえ。ボコる」
「いや俺らの力なら刑務所とか脱獄し放題だし」
「抵抗スル力ハ奪ウ必要ガアル」
「よくわからないけど月夜お姉ちゃんの敵でしょ?」
「うー」
現実は非情である。恨むなら殺し合えとか言い出した邪神を恨んでほしい。もしくは悪事に手を染めた自分自身。
流石に殺すとかなったら止めるけど、それ以外なら、うん……仕方がないかなって。私刑だからよくないけど。使徒絡みだし、割り切ろう。
「い、いや!やめて!俺に酷い事しないでー!」
「そぉい!」
「あふん」
とりあえず蛍と渚の教育に悪いからこの子達は外に出しておこう。月夜さんも明里に言って金原さんと外に出しているし。
……なんでナチュラルに子供側にいるんだ金原さん。今更だけど。ネットやテレビで見た時より幼児化してない?
微妙に月夜さんへと警戒心を強めながら、一応鎌足がボコられるのに立ち会っておいた。
* * *
ちょっと表現するには規制した方がいい感じになった鎌足は拘束しておいたので、見張りの時子さんと絹旗さん以外がリビングに集まる。
流石にリビングの机だけだとこの人数は辛いので、別室からも椅子と机を持ってきた。広さ?お金持ちの家ってすげえとしか言えない。
「で、こっからの方針だな」
「はい。『バタフライ伊藤』の言葉を信じるなら、タイムリミットに到達したらその段階で一人を残し俺達は死にます」
そう。邪神曰く、期間が終わった時に複数人の転生者が生き残っていた場合。一人を残してランダムに殺すというルールだ。本当にふざけた話である。
儀式だかなんだか知らないが、そんなもので死ぬのも死なせるのもごめんだ。
「俺はあいにく魔法やら儀式やらには詳しくねえ。専門家としてはどうだ?」
田中さんの視線が俺と月夜さんに向く。
「儀式系は専門というわけではありませんが、恐らく何かしらの仕掛けが東京の街に仕掛けられていると思います」
「同感ね。貴方達使徒はかなりの魔力量を持っている以上、顕現していない神格では下準備なしに魂の徴収は難しいはず。となると、疑わしいのは地下ね。明里」
「はいはーい」
月夜さんの指パッチンに答え、明里が机の上に地図を広げる。
「私の昔の伝手で色々調べたのだけれど、この八カ所のビルが怪しいわ。いくつかはダミーかもしれないけど、これらを線でつないでいくと……」
彼女が取り出した赤いペンが、指定されたビルを通っていく。すると、綺麗な円が出来上がっていた。
「儀式系の魔術における基本は円よ。魔法陣って言った方が馴染みやすいかしら」
「俺も同意見です。この規模の魔法陣を描けるなら、神格の儀式として不足はないはずです」
「なるほどな……となると、その儀式の妨害方法だな。問題は」
「はい。恐らく何らかの罠か、そうでなくとも下手に破壊をしたらそれだけで周囲に被害が出る可能性があります」
自分の命が最優先だが、だからと言って犠牲を出したいわけではない。被害は最小限に抑えたい。
不幸中の幸いとして、自分が持ち込んだ魔道具の中には魔法を破壊する物もある。それを多少改良すれば使えるはず。
問題はその術式がどういう物なのか。それを調べない事には始まらない。
「よし。ならまずは地下を探索して魔法陣の存在の確認。及び存在した場合は調査を行う。それでいいか」
「「「異議なし」」」
ピンポーン。
間延びしたインターホンが響き、こんな時に来客かと玄関の方を振り返ってから怖気が走る。
この状況の東京にいるのだ。気配ぐらい探っている。鎌足が来た時だって、玄関先に使徒がいると思い警戒をして開けた。
だが今はどうだ。なんの気配も感じ取れない。ただ『そこにいる』のだけはわかる。
田中さんと目くばせし、戦闘態勢に。得体のしれない何かがいる。
「すみませーん。誰かいませんかー?」
扉越しに、やけに元気な女性の声が聞こえてきた。そしてもう一度チャイムが鳴らされる。
どうする。引き入れるか、引き離すか。たぶんだが向こうは中に自分達がいるのをわかっていて呼びかけている。
悩む中、月夜さんが前に出た。
「ちょっ」
「ここは私の家で、夫がいない今誰を招くかは私が決めるわ。それに」
にっこりと、月夜さんが笑みを浮かべる。
「面白そうでしょう?私も貴方達も気づけなかったお客だなんて」
そう言って進む彼女の斜め後ろには金原さんがいる。自分の傍には渚と田中さん。そして明里が椅子に座ったまま、玄関の方を見て首を傾げていた。
「玄関にいる人、『人斬り』さんですよね」
明里がそう言ったのと、月夜さんが玄関を開けたのがほぼ同時。
こうなれば仕方がないと、壁を突き破って奇襲する態勢に入っていた自分と田中さんが明里の言葉にギョッとする。嘘だろ!?
あの転生者の中でも精神面ではぶっちぎりに狂っている奴が、白昼堂々来ているのか!?
警戒心を跳ね上げ、玄関のやりとりに注視し――。
「いやーどうもどうも!私マルゲリータ・朱音と申します。本日は突然の訪問すみません。あ、これ駅前で買ったクッキーの詰め合わせです」
「あら。これはご丁寧にどうも」
「わー、クッキーだー」
めっちゃ普通に会話していた。
「「………???」」
いや田中さんそんな目で見られても困ります。俺もわからんから。
どういう事?そして誰だよマルゲリータ・朱音。
* * *
「いやー!月夜さんすっごい美人さんですね!一児の母とは思えないですよ!」
「あら、よく言われるわ。そういう貴女も中々に綺麗よ」
「照れますねー!あーし最近スキンケアとかしていなかったっぽいから、不安だったんですけど、なんかお肌プルプルなんすよー!」
なぁにこれ。
なんという事でしょう。各国の要人を衆人環視の中斬り殺し、今なお捕まる事のない殺し屋。その無言無表情な殺しぶりから英国では『キリングドール』とも呼ばれている彼女。
それがなんか知らんうちにハイテンションなギャル……ギャル?らしき存在になっているではありませんか。翠と白を基調とし、派手にならない程度の小物でアクセントをつけた落ち着いたファッション。それがコロコロと変わる表情のギャップを引き出していますね。
うん。もう一回言うね?なぁにこれ。
「あーし実はここ最近の記憶が曖昧なんすよー。だいたい五十年分ぐらい?いやもっとかな?そんで気づいたら目の前で人が切腹しているし、マジびっくりしちゃってー」
「あらあら。切腹なんて珍しい。変わった自殺方法ね」
「ですよねー。あーしも治療しようとしたんすけど時すでに遅しでー。しかも魔法少女のコスプレしている子だったから余計に混乱しちゃったんすよー」
「魔法少女?もしかして子供かしら。だとしたら気の毒ね」
「うーん、子供みたいな見た目でしたけど、たぶん違うと思いますよ?なんか記憶に引っかかったんで調べたら、『魔瓦迷子』って人で三十代でしたし」
「……へー。魔瓦迷子」
「あ、もしかしてお知り合いでした?とりあえず警察には連絡したんすけど」
「いいえ。名前を知っているだけの他人よ」
待って。情報を。情報を『わっ』って投げないでほしい。
目が点になりかけていた田中さんがいち早く復帰し、人斬りへと声をかける。
「待て、人斬り。どういうことだ?お前はこの東京で起きている殺し合いをどれだけ把握している」
「いやだなーおじさん。あーしはマルゲリータ・朱音!『人斬り』ってちゃちなチンピラはもう死んだのさ……」
なんか黄昏れる人斬り改めマルゲリータ。そしておじさん呼びで撃沈する田中さん。ちっ、つっかえねーな。
「おじさん……おじさんかぁ……」
「あの、マルゲリータさん?」
「んん?なにさ少年。お姉さんになんでも質問してくれたまえ!なんせ今日は機嫌がいいからね!」
「では、お言葉に甘えて……本日は、いったいどういうご用件でここに?」
撃沈していた田中さんも。金原さんと一緒にクッキーを食べていた渚も。そして当然自分も体に魔力と意識を張り巡らせる。
この邪神が開いた殺し合いの中わざわざ会いに来る。その理由は交戦か。あるいは協定か。
「ああ、それね……なんだっけ?」
「さー、私にはなんとも」
普通に座っている明里に尋ね、二人して『なんだっけ』と首を捻るマルゲリータと明里。うーん、お馬鹿!
とりあえず敵かもしれないので明里を椅子ごと移動。『楽ちん楽ちん』じゃねえんだよ。なんで国際指名手配犯の隣で寛いでんだよ。
ぶっちゃけ、鎌足みたいにリンチにしないのはこの『人斬り』がおっかないからである。
自分の第六感覚がビンビンに反応している。自分ではまず勝てないと。それどころか、この場では金原以外勝ち目がないように思えてならない。
身体能力は、たぶん自分が上。魔力量も同じく。異能や固有異能?いいや、それだけではない。
……技量?わからない。これでも剣道経験者であるものの、この女の腕が計り知れない。
「あ、思い出した!」
ぽんと軽く手を合わせ、人斬りがバックからスマホを取り出す。
「あーし地下に変なの見つけちゃってさ!ついでにその上にある建物も調べたわけ!とりま情報の交換しない?」
なんともあっさりと、とんでもない事を言ってきた。
* * *
結論を述べよう。邪神の儀式は達成されずに終わった。
マルゲリータさんとは和解。ともに殺し合いはしない方針で行き、彼女が持ってきた情報を元に自分と月夜さんで儀式を破壊する為の魔道具を準備。
邪神の息がかかっているだろう各ビルは田中さんと時子さんが制圧。本拠地となった新城家には常に地下で監禁した鎌足の見張りとして二人以上の使徒が待機。
転生者で亡くなったのは魔瓦迷子さん唯一人。マルゲリータさんの話しから、殺し合いという状況に耐えられなくなり自決したと思われる。黙祷。
……いや、色々言いたい事あるし、第六感覚が『そんなタマかあいつ?知らんけど』と言っている気がするが、気にしてもしょうがない。
殺し合い最終日。一人分の魂を回収しただけの不完全な術式を展開させ、極小の門を何かが出てくる前に全員の一斉射で破壊。儀式は終了する。
だが、問題は一つ残っていた。
新城明里の内部にいると思しき、邪神の一側面についてである。
中に入られたのは恐らく自分達と出会ったあの病室。目的や経緯は不明。だが彼女には『巫女』として素質が多分にあったと推測される。
あれ以来、自分を含めた居合わせた四人と保護者の月夜さんでこっそりと話し合いを行い、俺が『結椿』を発動するに至った。
邪神が通る予定だった門を破壊し、それをなした屋上。そこで、自分は彼女へと刀を振るう。
「ないわー……」
そう一言だけ残して消える邪神。ふらりと揺れた彼女を受け止める。その構図は、あの時の病室と同じだった。
「明里さん……」
「バーサーカー……」
「テロリスト……」
「お前ら人の姪になんつーあだ名つけてんだよ」
背後の三馬鹿を無視し、そっと目を閉じている彼女へと呼びかける。
「君と過ごした日々は、楽しかった。たとえ邪神に飲み込まれていた姿だったとしても、その明るさは、本物だったと思うから」
「「うう……」」
「ん?あれ。もしかしてあんたら」
「しっ。時子、今は黙って」
「あ、はーい」
黒髪に戻った彼女の事を、自分はほとんど知らない。ここ数日で見慣れた、見知らぬ人。
それが、どうしようもなく寂しくても。
「明里。君と一時とは言え友達になれて嬉しかった。どうか、平和な日々を」
「「おぉおおおん……!」」
「ぷ……くふぅ……!」
「時子。堪えて。まだよ、まだ」
自分達使徒は、きっと怪異を引き寄せる。時子さん一人でもそうだろうに、自分達まで関わり続ければどうなるか。
このわずかな間で築かれた友情も、終わらせるべきなのだ。
「さようなら。お元気で」
「……す」
「えっ」
「すっぞわりゃぁ!」
「「「ええええええええ!?」」」
突然胸倉を掴まれたと思ったらヘッドバットされた。もう一度言う。ヘッドバットされた。
わけがわからない。横文字だからか?よし日本語にしよう。唐突な頭突き。うん。わかんねぇや。
頭突きをした側なのに痛みで悶えている明里。そして視線をやったら爆笑している時子さんと、その隣でカメラを回している月夜さん。
いやサムズアップじゃねえんですよ。何してんだあんたら。
「なぁにが『さようなら』ですか。キモイんですよこの童貞コミュ障陰キャが」
「がふっ」
「「剣崎ぃぃぃいいいい!!!???」」
やばい。吐血するかと思った。言葉のナイフが、痛い……!
「あー、頭がぐわんぐわんする。まさか私の中に神とやらいたとは。元々女神と呼ばれるべき存在だったので気づきませんでしたよ畜生め」
「……え、まさか、記憶が」
「記憶もなにも。皆さんと普通に話していたスーパーパーフェクト美少女明里ちゃんですが?」
いや普通じゃない。人が寝ていたらツタンカーメンのお面つけてきたり、ナチュラルに爆弾の作り方を語ってくるのは普通のコミュニケーションではない。
「そのとんちき具合……本物の明里!」
「狂戦士ノ如キ気配……間違イナイ」
「そのテロリストな空気は正しく!」
「よしわかりました全員並びなさい。殴ります」
「「「さーせん」」」
いや、けど実際自分達に関わらない方がいいのでは?身内ならともかく、そうでもないのに巻き込まれたりするのは……。
そう思っていると、明里が大きくため息をつく。
「それはそうと、そろそろ離してもらえます?」
「え、あ、ごめん」
自分が離れると彼女はしっかりと自分の足で立ち、ついで背中を伸ばしたこちらを見上げてくる。
「あのですね。私はそもそも超常現象とか銃撃戦とか大好きです。むしろ撃ちたい」
「やっぱテロリストでは……?」
「聞きなさい」
「はい」
「そんな私がこの関係を手放すとでも?いいえ、ただの友人では足りませんね」
何かを思いついたように、明里が俺の胸倉を掴んで引き寄せてくる。至近距離にきたその整った顔に、どきりとして目が離せない。
「これからは『相棒』です。この数日で、貴方がかなりの『変』で『普通』な人だとわかりました。異論があるなら聞きますが?」
「え、あの……」
上手く口が動かない。至近距離で見つめてくる碧い瞳に意識が吸い込まれそうだし、鼻をくすぐる彼女の髪の匂いが、頭をふやけさせる。
「はい時間切れ。沈黙は肯定とみなします。これからよろしくお願いしますよ?相棒」
「はい……」
ぼんやりとした頭でそう答え、何故か周りから『おめでとう』と拍手された。解せぬ。
それと、この場にいない義妹を含めたメンバーはと言えば。なんか普通に街でクリスマスのショッピングをしていた。自由か。
「ふふっ……楽しい冒険を期待していますよ、相棒」
「お手柔らかにお願いします」
月の明かりが照らす中、見上げる様に笑いかけてくる彼女に、自分もまた、苦笑だけども笑い返した。
* * *
その後は、まあ。色々な出来事があった。まず翌日、マルゲリータさんは新城家から忽然と姿を消し、書置きのみが残されていた。
『誠に勝手ながら、旅に出させて頂きます。挨拶もなく去った事、申し訳ございません。私はこの数十年の記憶が夢でも見ていたかのように曖昧でしかありませんが、己の罪は償わなければなりません。
犯してきた罪が罪だけに、まともな法の裁きすら受ける事が出来ない身。本来なら被害者のご遺族等にこそこの身を委ねるべきなのかもしれませんが、身勝手ながら私なりの方法で贖罪の旅をしたいと思います。
両親に恥じぬ人生を今度こそ歩むため、これからは真面目に生きてまいります』
そう、言動とは裏腹に真面目くさった文が書かれていた。
マルゲリータさんが去った後に明里のお父さん、『新城守』さんがやってきて、彼が連れてきた金髪の少女と褐色肌に坊主頭の保護者の事でもうひと悶着あり、自分達が帰るのは数日伸びてしまったが。
邪神が開いた殺し合い。蓋を開けてみれば、喜劇のような何かだったこの数日を終え、それぞれが己の日常へと戻っていく。
しかし、やはりというか自分達は使徒である。家に帰ったその日にシスター服の『バタフライ伊藤』が現れ、これからは怪異と関り続ける生活が待っていると告げられる。奴からの強制参加はさせられずとも、その生まれからは逃れられない。
血に縛られた少女がいた。己の存在価値に焦る女性がいた。それ以外にも、いくつもの事件に遭遇して、しかし、自分は今日も生きている。
どれだけの理不尽に巻き込まれようとも、友人達と――。
「蒼太さん!ほら並んで並んで!」
相棒が、いるのだから。
「はいはい。けどわざわざ屋上で撮らなくても」
「まあそう言うなよ。こういうのは気分だ気分」
「ノリガ悪イゾ、剣崎」
「ふぅぅぅぅうううう!ここはやっぱミサイルの一発でも撃ちあげる!?」
「「「やめろ」」」
魔瓦迷子が残した『真世界教』とかいう宗教団体の皮を被った犯罪組織の逮捕に協力し、紆余曲折の果てに自分達は公安の嘱託職員として働くことになった。
総責任者は『新垣巧』さん。守さんのコードネームだとか。
自分も家臣やら宇佐美さんに後押しされて就職するわけだが、まあ学校に通いながらだ。なので基本この三馬鹿がメインで現場に出るわけだが……頑張ってくれ新垣さん。唯一の常識人である俺を欠いたこの人らが何するか、正直想像がつかん。
そして、常識はずれと言えば。
「そもそも……なんで明里が?」
「うーん?なにか御不満でも?」
やたら装飾の多い軍服らしき物を着て、更に『蒼のマント』まで羽織った新城明里がニヤリと笑う。
「君、まだ学生だろう」
「はいブーメラン!こんな面白そうな事に私をのけ者にしようとか、酷いとは思いませんか?」
「そうだぞ剣崎ー」
「諦メロー」
「責任もてー」
くっ、常識的な事を言ったのに味方がいねぇ!あと責任ってなんだ!?
「ほら、もうタイマーが回りますよ!せっかくだしポーズとりましょうポーズ!」
「よし!なら戦隊っぽくいくか!」
「エ、オ゛レ゛ソウイウノ詳シクナイ」
「そんなもんフィーリングよフィーリング!イイ感じにきめなさい!」
「えー……恥ずかしいんですけど……」
「「「やれ」」」
「はいはい……」
苦笑しながらも、相棒の隣でポーズを決めて。パシャリと音をたてて取られた写真。
なんだかんだ、皆楽しそうにしている写真。それが各々に配られたのだが、誰が書き込んだのか全員の写真にこう書かれていた。
『使徒戦隊!テンセイシャーズ!』
第一容疑者に視線をやれば、ウインクして返される。相変わらず、無駄に顔がいい。
彼女に肩をすくめてみせて、そして並んで歩いて行く。
顔を見るまでもない。この子が今どういう表情をしているかなんて、手に取るようにわかるから。
「行きますよ相棒!非日常が私達を待っています!」
「はいはい。頼むからはしゃぎ過ぎないでくれよ?」
今日もまた、本当に騒がしい日になるようだ。
読んで頂きありがとうございました。これにて、クトルゥフ式神様転生は終幕とさせていただきます。
ここまで来られたのも、皆さまの応援あってこそです。感想欄にはいつも元気を頂いておりました。
次回作『事前登録したら異世界に飛ばされた』をこの少し後に投稿させて頂く予定です。どうかそちらもよろしくお願いいたします。
本当に、ありがとうございました。




