X話 出会いはいつも突然に
Ⅹ章 使徒戦隊!テンセイシャーズ
Ⅹ話 出会いはいつも突然に
サイド ■■ ■■■
――これは、少しだけボタンの掛け違いがあった世界。
熱い……熱い熱い熱い!
全身が燃える。自分の知らない何かが、空気中に散らばって自分を侵す。いいや自分は知っている。前世において知識としてこれを知っている。
広島。そして一億総火の玉とか、色々な単語を赤子の肉体ながらも聞いて、嫌な予感がした次の瞬間。
自分は何かに吹き飛ばされた。自分だけではない。その全てが。
――これは、とある世界で災厄の怪獣と呼ばれた存在の、原点。
熱い。体が壊れる。水を。誰か水を……!
ボロボロと体が崩れていくのを感じながら、直感だけで川のある方向を目指す。もはや手足も碌に動かない中、全力を尽くして這いずる。
ふと、水の音が聞こえた気がした。その方向へ向かって体を進めていくと、何かの鳴き声が聞こえ出した。
――もしも、あの時。最も美味しそうだと。彼女が思う物が別にあったら?
「ぎょぎょぎょ!」
なんの声だ?聞いた事もない不快な声なのに、不思議とその言っている事がわかる気がした。
『見ろよ、大漁だぞ!』
『けどいいのかよ。長老は今この場所には近づくなって』
『構うかよ。あの臆病者の爺め。今はより多くの生贄を手に入れたいってのに』
言葉の内容はわかっても、自分に思考する余裕はない。
ああ、だけど。だけど。
『あん?なんか動かなかったか?』
『は?気のせいだろ。ここにいる人間は皆死んでる』
水だけじゃ足りない。栄養がいる。この壊れかけの体には。死なない為に。生き残る為に。
そして、ちょうどそこに、ここで一番栄養がありそうなモノがいる。
『え、は』
『な、なんだ!?』
だから……いただきます。
――後に怪獣『アバドン』と呼ばれる存在は、しかしこの世界には存在しない。そんなもしもの世界。そこではいったい何が起きるのか。
『あ、ああ……ああああ……』
『身体が!食われる!?嫌だ、いやだ誰か助けて!たすけっ……!』
――まだ、誰も知らない。
* * *
サイド 剣崎 蒼太
「兄さん」
「はい」
「キモイよ」
「ごめんなさい」
拝啓。前世の両親へ。いかがお過ごしでしょうか。俺は今、一つ下の義妹へと土下座をしています。
言い訳を。言い訳をさせてほしい。
「流石に私の干してある下着をガン見はやばいよ……人として」
「違うんです。洗濯場所を。エアコンの下だしどうしようってなっただけなんです」
「へぇ……じゃあ挙動不審だった理由は?」
「………」
「なにか、喋ろうか」
脂汗が止まらねえ。ふっ……どうやら俺もここまでらしい。
「蛍。落ち着いて聞いてくれ」
「なにかな。私は冷静だけど」
「兄ちゃん。死ぬかもしれん」
「え、私別に殺す気まではないけど……?」
「いやそっちじゃなくてな」
昨夜、自分を転生させたクソったれな邪神こと『バタフライ伊藤』から神託があった事を伝える。
つまり、自分は東京でバトルロイヤルに参加せざるを得ないと。
「……嘘でしょ」
「本当だ。俺は『負けられない』し、『勝利』もできない」
そっと、リビングのソファーでくつろぐ『少女』へと視線を向ける。
腰まで伸びた銀髪。青と翠のオッドアイをした美しい少女。蛍が買って来てくれたセーターとジーンズの上からでもわかる魅惑的なスタイル。
やけに肌が白すぎる以外は凄まじい美少女。そして、俺の同類である『剣崎渚』。
彼女との出会いは自分が生徒会として行った河川敷の清掃活動中。突然川の中からシャチみたいな姿で襲い掛かって来たのだ。
咄嗟に殴り倒したものの、人を食った気配もないし、なにより普通の生物と思えない。妙に親近感もあったので通報もする事なく様子を観察した所、腹を空かせた『同胞』である事がわかった。
それから、どうしてこんな姿になっているのだと疑問に思いながらも指輪の力で治療やらなんやらしているうちに……なんか、美少女になった。
それなんてラノベ?としか言えないが、事実である。うっかり治療用の指輪飲ませちゃったのがまずかったかな……。
それはそれとして、人の姿になれたし。というかドスケベボディな美少女だしで、余計にどうしたものかとなったのだ。
とりあえず現れた裸体に二礼二拍手をした後網膜にその姿を焼きつけていた所、自分の帰りが遅いからと探しに来た蛍に目撃された。第六感覚までフルで裸体の記録に回していたつけが来てしまったのだ。
端的に言って、俺よりも蛍がパニックになった。『太陽が、太陽が!』と、本当にアレはなんだったのだろうか。
まあそれはともかく。もうこの際だからと蛍に頼み込んで渚の世話を協力してもらい、なんやかんや俺の事情もぶっぱしたのである。ちなみに渚という名前は蛍命名。
何故だろう。昔よりも気安く話してくれるし、グウィンの一件も一緒に『はぁ?』と混乱してくれた義妹だけれど。なんか威厳とか尊敬は消えてしまった気がする。兄ちゃん悲しい。
「そんな……兄さんはともかく渚を死なせるなんて絶対にダメ!」
「待って。お兄ちゃんは?」
「なんか勝手に生き残りそうだし」
「くぅーん」
ぼけっとしている渚に抱き着く蛍。美少女同士の触れ合いからしか得られない栄養はあります。けどお兄ちゃんは寂しいです。
「とにかく、事情はわかった。それで兄さんはどうするつもりなの?」
「……どうにかして、その殺し合い自体を破綻させる。俺は自分も渚も死なせるつもりはない」
そう、絶対に。
もう渚は俺の家族だし、守るべき大切な存在だ。かといって俺だって死にたくはない。ならばどうするか。
その手段は未だわからない。ただ、あの邪神の言う通り殺し合うのは絶対にNOだ。
「……わかった。なら私も一緒に東京へ行く」
「だめだ」
「っ、なんで!」
「危険だからだ。兄ちゃんも渚も、戦闘能力だけだったら人を超えてる。そんな奴らが戦う場所にお前を連れていけない……あえてはっきり言う。足手まといだ」
「くっ……!」
悔し気に俯く蛍の頭を、そっと渚が撫でる。
「渚……」
「蛍。この家で待っていてくれ。俺達が帰ってくる、この場所で」
「……うん」
「ありがとう……」
自分もそっと蛍の頭を撫でてから、東京へ行く準備のために自室に向かおうとした。
「待って。そう言えば結局私のパンツになんの関係が……?」
「蛍……義父さん達がそろそろ帰ってくるから渚を隠さなきゃだから!それじゃ!」
「お兄ちゃぁぁぁん……?」
俺は……死ねない!
童貞のまま、死ぬわけにはいかないんだ……!
* * *
そしてやってきた東京。頭の中で自分と同じ転生者であろう者達の事を考える。
世界中にその姿を知られながら、しかし一度も捕まった事がない生ける伝説『人斬り』。
中東を中心に暴れまわり、そして異様な規模のシンパを築いて王国とした『金原武子』。
間違いなくこの二人は自分と同じ転生者だ。顔こそ知っているが、その能力は未知数。なんにせよ頭のおかしい危険人物だ。
渚は途中から川を使って東京に入るように言っておいた。戦力の分散は恐いが、それでも駅を見張っているかもしれない別の転生者対策にはなるはず。
緊張で冷や汗を背中に搔きながら、今日泊る場所を考える。俺一人ならその辺の公園に野宿でいいのだが、夜に合流予定の渚がいる。
一般の人を巻き込むのは気が引けるが、予算も考えてどこかの漫画喫茶を――。
そんな事を考えて、人通りの少ない道を歩いている時だった。十字路にさしかかり、それぞれの方向から計三人の人間が同時にやってくる。
いいや、正確には人間と評していいのかわからない。姿や生物学上はそうかもしれないが……霊的に言えば、間違いなく『人外』。
正面の道から来る、茶髪の軽薄そうな雰囲気をした美丈夫。
右の道から来る、清楚な顔立ちなのに売れないバンドマンみたいな美少女。
クマの毛皮を被った半裸の変態。
お互いがお互いを見て、硬直。全員が認識したのだ。目の前の者達は、自分と同じ『使徒』であると。
頬を、一筋の汗が伝う。
邪神が開いた殺し合い。その初日に、四人の参加者が相対した。
* * *
サイド 新城 明里
「明里……お母さんね。もう長くないみたい」
「嘘……嘘だよ、お母さん」
真っ白な病室。いくつも私物を持ち込んでも、どこか寂しいと思えるこの場所で。ベッドに横たわるお母さんに自分の唇が震えるのがわかる。
私に怖いものなんてない。そう思っていたけれど、これだけは。これだけは駄目だ。
「今までも、何度だって『長くない』ってお医者さんに言われてもここまで生きてこられたじゃないですか。だから、また、今度だって……」
「聞いて、明里。きっと今日が最期になる。あの人と話せなかったのが、残念だけどね……」
お父さんは、今お母さんの病気を治すためにアメリカで何かをしているらしい。詳しくは知らない。けれど、それ故に今ここには来られない。
時子さんも、少し前から異様にピリピリとしながら街を探索している。何かがこの街に迫っているのだと、いやでもわかる。あの人が常人でないのは本人から聞いている。知らないのはお父さんぐらいだ。
世界にもほんの数例しかない難病を患ってしまった母を救う手段は、もうないと。何度もお医者さん達から聞いている。
ならば、本当にこれが最期だと言うのなら……。
「わかった。私が全て伝える。全部覚える。言って」
私が、お母さんの最期の言葉を聞かなくてはならない。一言一句逃さず、全て。
「……ふふ。賭けは私の勝ちね、守。この子は、やっぱり私に似たわ」
「はい……私は、お母さんの子ですから」
「ええ……そしてあの人の娘。私達の愛しい――」
ガラリと、病室のドアが勢いよく開かれる。この気配は時子さん?
お母さんの死期を悟って来てくれたのか。そう思って振り返ると――。
「姉貴ぃぃいいいいいい!」
謎のイケメン二人。そして毛皮をアフロみたいにした変態を引き連れた叔母が、そいつらを一列に率いながら無駄に鋭角な動きで入って来た。
ド●クエかな?
「どんな病気も治せる奴、つれてきた!」
時子さん。チャラいの。変態がバッと広がり黒髪のイケメンへと両手をヒラヒラさせる。
そして中央に立って『コロンビア』のポーズをするイケメンが、なんかドヤ顔していた。
その顔面に花瓶をフルスイングした私は悪くないと思う。
* * *
「なるほど。つまり皆さんは時子さんと同じ転生者で、使徒の力を持っていると」
「はい」
「だからその剣崎さんが不思議な力でお母さんを治せたんですね」
「ハイ」
「本当に、ありがとうございました」
「いえいえ」
私の前に横一列で正座する馬鹿ども。じゃなかった、皆さんへと頭をさげる。
最初は『なんだこいつらぶち殺すぞ』と思ったが、時子さんは変な嘘はつかない。実際、剣崎さんが指輪を使ったらアッと言う間に炎がお母さんを包み、病気を治してしまったのだ。
現在はとりあえずお医者さんに連れていかれ検査中。けど、あれほど肌艶がよく元気そうなお母さんは初めて見た。
「この御恩は絶対に忘れません」
「いえいえそんな。友達のお姉さんを助けるのは当然ですし……」
照れたように謙遜する剣崎さん。なんだろう。凄くチョロそうな気配がする。それはそれとして胸とか太ももへの視線すごいなこの人。
「それにしても、皆さんはアレなんですよね。こう、邪神に殺し合いを強制されている間柄と」
「……はい」
「恐らく道でばったり出くわし、どうしたものかと数秒沈黙。そして田中さん「ライトニング!」が『同盟を組まないか』ともちかけ、他の三人がイニシアティブを取られてはならないと色々言っていく結果、『あれ、これ殺し合う必要なくない?』となり、邪神「『バタフライ伊藤』」の愚痴で盛り上がった結果、『カラオケ』『ゲーセン』『ボーリング場』と梯子した後ここに来たと」
「「「エスパーの方でいらっしゃる……!?」」」
「さすが私の姪。やはり天才か……」
いやむしろなんで一日経たずに意気投合してるんだよ。そしてありがとう時子さん。そうです私が今世紀最優秀な天才です。
まったく同じポーズで驚いている三馬鹿。そして腕を組んでやたら頷いている時子さん。
使徒とは……殺し合いとは……非日常とは……なんか眩暈がしそうだ。いや、むしろ本当に眩暈が――。
「えっ……?」
「新城さん!?」
「あたし?」
「お前じゃねえ」
倒れる私を抱き留める剣崎さん。本気で心配そうな顔でこちらを覗きこんでくる。
「大丈夫ですか!?ていうか、髪が……!」
「髪……?」
少しぼうっとしながらも、自分の髪に触れる。私のウルトラキューティクルな髪になにか?
そっと手で一房自分の髪を目の前に持ってくると、そこには蛍光灯の光に照らされて反射する白銀の髪があった。
「そんな明里、あんたストレスで白髪に!?」
「イヤ違ウト思ウ」
「ちなみに一晩で白髪になるってのは、あれストレスで白髪以外はげただけらしいぞ」
「「へー」」
「言っている場合か!?新城さん「なに?」ええい明里さん!大丈夫ですか?いやそうじゃない。とにかく医者を」
「……ふっ」
「明里さん?」
「流石私。銀髪になっても美しい」
「明里さーん!?」
「流石姉さんの娘ね……動じないわ」
なんかわかんないけど、まあ、なんとかなるか!
* * *
同時刻
サイド 鎌足 尾城
「ふん……まさか、あの女神からもう一度祝福を得られるとはな。とんだラブコールだぜ」
やたらでかい杯に満ちた酒を飲みながら、ニヤリと笑う。
この獅子堂組を乗っ取ってから、俺の覇道も更に拍車がかかったぜ。本来あるべき俺の人生。それに導いてくれたあの女神には感謝してもしきれねえ。
かなり美人だったのを覚えている。その感謝もあるし、俺の女にしてやるのも悪くない。
杯に映った自分の顔を見る。野性味のあるとてつもない美男子だ。これも転生特典ってやつだな。
「鎌足さん!」
「なんだ、獅子堂」
この組の親分であり、俺に真っ先に忠誠を誓った賢い奴。獅子堂がへこへこと頭を下げながら入室してくる。
「指示のあった通り、怪しい奴を見つけたのでご報告を」
「ほう、そうか。くくっ、やっぱり俺は女神に愛されているぜ」
とっととこの無駄な戦いを終わらせて、俺の花嫁を迎えに行くとするか。
「それで、写真の一つぐらいあるんだろうな」
「へい!こちらに」
これから死にゆく奴らの面でも肴にしてやろう。あいにくと酔えない体だ。それぐらいの楽しみがねえとな。
渡された写真。そこには、カラオケの入口で某奇妙な冒険とかしていそうな奴らが、エジプトにでも行く話みたいな感じで一列に並ぶ『四人』の使徒。
へー、ふーん。四人かぁ。そっかぁ。すっげー仲良さそうだなー。なるほどなー。
「どうしやす、鎌足さん。奇襲でもかけますかい?若いのを集めてこの前輸入した爆弾でも」
「……けて」
「鎌足さん?」
「たちゅけて」
「鎌足さんんんん!?」
よにんがかりは、ひきょうだとおもいます。
* * *
サイド 魔瓦 迷子
「もうやめて!私達が戦う必要なんてない!」
「「「依頼を、遂行するのみ」」」
「くそが!どうして初日から私を狙うんだよ!同盟を組むぐらい考えねえのか!」
「「「弱い者から殺す。それが戦いの鉄則」」」
「畜生めぇ!」
自分の城たる迷宮。そこを飛び回り、百人の人斬りから逃げ回る。
どうしてこうなった!?自分はただ表の人格で情報収集でもしようとしていただけなのに!
くそ、こんな事なら表の人格に任せておくんじゃなかった。あいつ、名前を呼ばれたら馬鹿正直に振り返りやがって!
「これでぇ!」
一体だけでも私の手に余るのが百体。『落ち武者』が作っている兵士たちもまだ完成には遠い今、こうなったら封印するしかねえ。
迷宮を操作し、壁や天井。そして集めたコレクション全てを使って圧殺にかかる。これでも殺せねえかもしれないが、それでも時間は稼げる。
今のうちに逃げて、別の参加者になすりつけを――。
「は?」
「―――」
突然、迷宮がバラバラに切り刻まれた。それにより勝手に固有異能がほどけ、消えていく。
真っ白な陣羽織を着た人斬り。百人もこの場にいたのに、たった一人だけになったあいつが、無表情のまま刀を振るう。
斬られた。そう気づいたのは地面に膝をついてから。
「んん?あれ、あーしなんでここに?お父さんとお母さんは?てか、あーしの一人称コレでいいんだっけ?なーんか頭に靄がかかったみたいな……て、ええ!?あんたどうしたの!?切腹!?」
無表情だった人斬りが突然どこにでもいるギャルみたいに喋りかけてくるのが、私が最期に聞いた声だった。
……いやふざけんなよマジで。
「し、死んでもしにきれ、ねぇ……」
せめて……せめて自己嫌悪と罪悪感にぬれた顔をする奴に殺されたか、った……。
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もう少しだけ続きます。また明日。




