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閑話 花園麻里

閑話 花園麻里


サイド 花園 麻里



「お前は変だ」


 言い方は違えど、小さい頃からそう言われてきた。


 一番言っていたのは両親だ。学校でも、ある程度仲良くなったらそう言われるのだ。


 どうにも、基本的な価値観が違うらしいのだ。あのモデルさんが綺麗とか、あのファッションいいよねとか。そういう話しは合うのだ。


 だけど、『好きな人』の話題だけは絶対に合わない。隣のクラスの何々君が好き。アイドルのホニャララ君が好き。そう言う話しに共感できないでいた。


 私は、女性アイドルや女優さんにこそ好感を持つ。


 最初の頃は私も周りも『尊敬』に関する感情だと思っていた。だが成長するごとにコレが性愛的なものだと思うようになる。


 私が中学に上がる頃、両親はそれに薄々気づいていたのだろう。やたら男性アイドルのコンサートに、本人も大して興味がないくせに母が誘ってきたり。父は男性俳優とかのカレンダーを買ってきたり。


 けれど、私はやっぱり男性に興味をもてなかった。クラスでは特に目立たないよう擬態しながら、しかしつるむのは女子ばかり。まあ、このぐらいの歳頃ならそう不自然でもない。


 ――これだけだったなら、私は『自分は同性愛者なのだ』と、己を定義してパートナーを得る事ができたかもしれない。あるいは、可能性は低くとも異性と恋に落ちて両親の言う『まともな人間』とやらになったのかもしれない。


 私は、太陽の様な悪魔と出会ってしまったのだ。


「お前の従弟の剣崎蒼太君と、妹の蛍ちゃんだ。お姉さんなんだから面倒をみてあげなさい」


 親戚の集まり。そこで私は『剣崎蒼太』という存在に出会ってしまった。


「はじめまして、剣崎蒼太です。こっちは妹の蛍。よろしくお願いします」


 そう言って愛想笑いを浮かべる年下の少年に、私はなんと返したのか覚えていない。


 アレはなんだ。


 この世に落ちてきた太陽。人を堕落させるために地獄から這い出てきた悪魔。神に愛された超常の人。アレを表す言葉として、正しいものが浮かんでこない。


 美し過ぎた。容姿というのは当然ながら、身から出る存在感。ただそこに立っているだけで周囲を魅了し、あるいは畏怖させる人に似た人ならざる者。


 誰も彼も、アレをただの美しい少年としか見ていない。いいや、剣崎夫妻はあの異質性に気づき始めていたか。なんせ、あまりにも手のかからな過ぎる子供だっただろうし。


 今だからハッキリと言える。私は彼に壊された。


 彼以上に美しい女はいなかった。彼以上に魅力的な男はいなかった。全ての判断基準が『剣崎蒼太』という化け物となる。


 ではアレに恋をしたかと言うと、そうではない。


 私が性欲を抱くのは結局女性のまま。なのに、頭からは剣崎蒼太が離れない。あまりにも強烈過ぎた彼の存在感が私の脳をかき回す。


 両親は頻繁に彼の事を聞く私に喜んだ。『自分達の娘がまともになった』と。


 今思うと古い価値観の人達だった。まあ、同性愛が日本でも認知されるようになると私の中学時代には想像もされていなかったので、仕方がないが。


 私に異性愛者になってほしいからか、両親は親戚の集まりの度に剣崎兄妹の所に行かせた。


 だが、それが私の脳をよりかき乱す。


 天使とも悪魔ともとれる彼は、あまりにも『普通』だった。


 子供とは思えない人生の積み重ねを持っているようで、かと思えば大人になり切れていない未熟さもある。総合すると、結局はどこにでもいる凡人に落ち着く。


 知能はやけに学校の点数がいいだけで、そこまで高くないと思う。大人なみにモラルがしっかりとしているが、逆を言えばそれだけ。


 肉体という絶対的なハードに対し、人格という平凡なソフト。あまりにもちぐはぐなその在り方が、私を狂わせる。


 見た目通りの超越者なら、私は信者となれただろう。


 会話しただけでわかる凡人なら、私は興味を失えた。


 あまりにも『凡人』な『超人』。それは私の価値観を粉砕するには十分すぎた。


 彼の周りに、彼を本当に理解するものなどいない。私だってわからないさ、あんな化け物。


 だが何も知らずにウロチョロされるのは腹が立つ。何も知らないくせに、私を壊した怪物の周りを飛ぶハエども。


 だから奪うか、壊す。もしくは両方。


 容姿や成績といった表面だけに釣られた女で、顔のいいのは私が遊んでから壊す。単純に私の性欲解消というのもあるが、彼はアレで面食いの上にチョロい。色仕掛けなんかされたら罠とわかっていてもひっかかる。


 ふざけるな。私を壊しておいて、そんな人生を歩むなんて許さない。怪物は怪物の。英雄なら英雄の人生を送るべきだ。


 男でよってくる奴らは、彼に近づいて既に壊れた奴らが勝手に処理をする。特に岸峰とかいう奴。アレは剣崎蒼太に惚れているくせに、本質をまったく見ようとしていない。なぜ自分が盲目でいるのかも忘れた、とんだ愚物だ。


 だが、私にも心の底から恨めしい――羨ましい――女がいた。


 剣崎蛍。剣崎蒼太の、血のつながらない妹。


 己を彼の隣に立てると思い上がった愚か者。太陽に嫉妬した道化。そして、剣崎蒼太に守られるか弱き者。


 本当に腹立たしい。お前みたいな凡婦は見る事すらできないステージだと言うのに、それを何様のつもりか。


 何度壊してやろうと思った事か。しかしその度に剣崎蒼太の手で邪魔される。守られる!


 彼はこちらの思惑に気づいていなかっただろう。それが余計に苛立たしい。あの怪物に――英雄に――自分が守って当然の存在と認識されているのだから。


 私はなんだ。剣崎蒼太にとってのなんなんだ。勝手に目を焼かれたイカロス以下の端役か?画面外でいつの間にか死んでいる名もなき存在か?


 ふざけるな。あいつが私を壊したのに、なんで何者にもなれない。最初に壊されたのは私だ。私にこそ彼の道を鑑賞する権利がある!


 だから、橋の上から適当に誘導した子供を落としてやった。それであの愚か者も自分が絶対にあのステージには立てないとわかったのだ。それでもまだ、嫉妬はやめない阿呆だったが。


 彼に近づく女は壊して、奪って、そしてわざと騒動を大きくして剣崎蒼太を巻き込む。彼の立ち振る舞いを見る為に。


 そして同時に、彼も私を見るのだ。それが軽蔑でも嫌悪でもいい。だが軽く媚びを売っただけでコロリと寛容な態度で接してくるのは格別だ。


 私は特別だ。彼にとっての特別なのだ。端役などでは断じてない。


 両親には感謝している。剣崎蒼太の義父母に貸しを作る存在であった事。剣崎蒼太に私を追い払えない理由を作ってくれた事。


 しかし、何事にも永遠など存在しない。


 岸峰グウィンの裏切り。それによる彼の英雄譚は汚れ、東京に向かった彼の怪物としての神話は私のあずかり知らぬ所で幕を開け、閉じた。


 あげくの果てには勝手に一人暮らしをするという。私は聞いていない。行先すらもだ。こんなふざけた話しがあるものか!


 やはり剣崎蒼太にとって、私は多少煩わしいだけのモブだったのか?最初に壊したこの私を!?


 苛立ちをぶつけるように女漁りをしていた時の事。私に更なる転機が訪れた。


『諸君には殺し合いをしてもらう』


 どこのラノベだと言いたくなる宣言と舞台。十数人の男女が集められて、勝手に開かれた殺し合い。それに私は巻き込まれたわけだ。


 魔術だの怪異だの儀式だの。周りが動転するなか、私は酷く冷めていた。だってそうだろう?一流の劇作家が用意したならともかく、その辺の凡夫が作った人形劇。生の神話に比べれば子供の落書きそのものだ。


 故にさっさと終わらせた。体目当てで仕込みをしていた女を操って間接的に被害者達を操り、主催者気取りのバカも殺す。私以外は全員死んだが、誤差だ。


 ああ、けど。狙っていた女が死んでしまったのは残念だ。まだ抱けてなかったのに。


 それにしても、人というのはやはりわかりやすい。ちょっと心が弱っていれば、


『君は悪くない。悪いのはあいつだ』


『君は被害者なんだよ。怒ってもいいんだよ?』


『奪われた幸せを取り戻そう。当然の権利じゃないか』


『大丈夫。私は君の味方だから。私は君が被害者であり、勇気ある者だと知っている』


 そう耳元で囁くだけで、大抵の奴は転がる。


 剣崎蒼太が東京に行ってから、私はいくつもの事件に巻き込まれるようになった。彼が原因……とまではいかずとも、関係はするのだろう。


 そもそも東京で彼は巻き込まれただけじゃないかって?そんなわけがあるものか。アバドンが死んだという報を聞いた段階で、彼が殺したのだと私には確信があった。なんせ剣崎蒼太なのだから。


 ……見逃してしまった劇はあまりにも大きい。だが、天は私を見放さなかった。いいや、運命と言うべきだろう。


 あれは何度目の事件だったか。たしか、村人と狼みたいなゲームに巻き込まれた時だったか?


 適当に参加させられていた少女を操って自分以外死なせるか廃人にして脱出した時、その主催者に出会ったのだ。


『やあお嬢さん。随分と面白い目をしているね』


 私は初めて、剣崎蒼太以外の存在にときめいた。


 彼に匹敵する美貌。彼すら上回るオーラ。そしてこの世の全てよりも圧倒的な力の奔流。


 それら全てをもつシスター服の少女が、私に笑いかけたのだ。彼女のゲームをクリアした報酬を渡しに来たのだと。


「君の……君達のステージを見る権利をください」


 無意識のうちにそう言っていた。私は見たいのだ。この『神』が立つ舞台を。それに共演する剣崎蒼太を。特等席でかぶりついて。


 片目を彼女のそれと同じものにしてもらい、私は役者であり、観客となる。


 私を見ろ、剣崎蒼太。舞台で輝く私を見るんだ。そして私はお前を見るぞ。一挙手一投足なんてものではない。寝る時も食べる時も出す時も洗う時も殺す時も殺される時も生きる時も生かす時も!


 私にはその権利がある。チケットも貰えた。


 だから、彼の前で私は舞台女優でなければならないのだ。神話という大舞台の、彼と一緒に映る大女優として。


 剣崎蒼太に壊され、誰も愛せない世界で一人だけの人間にされてしまったのだから。



読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

少し後に、第百八十七話を投稿させて頂きます。そちらも見て頂ければ幸いです。


Q.結局花園麻里ってなんなの?

A.剣崎に脳を無自覚に壊されたくっっっっっそ面倒くさい厄介オタクです。


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