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第百八十四話 神のみもとへ

第百八十四話 神のみもとへ


サイド 新垣 巧



「撃てぇ!」


 マガジンは残り僅か。自分が持っている武器など、ベレッタと愛用のリボルバー。そして『とある爆弾』のみ。


 自分と細川くん。そして江崎くんがありったけの弾を吐き出すが、それら全てが落ち武者の眼前に現れた障壁に阻まれる。


 だがこれは牽制。魔術師がなんの対策もなく前に出てくるはずがない。


「どぉですかなこれはぁ!君にこの頭を撃ち抜かれてから、弾丸への対策は怠らなくってねぇ!」


 自分の頭を開いて中の蛆を見せびらかしながら、落ち武者が嗤う。


「どうして生きているのか、不思議でしょうがないなぁ!」


「なに。使い魔である虫の一匹に意識を移し替えただけの事。おかげでいくつかの記憶が抜け落ちたが、それまでもやって来た事だがね!」


 じゃあ根に持つなよ。


 そう言う暇も惜しいと、素早くベレッタをリロード。これで最後のマガジンだ。


 自分達の銃撃を囮として、左右から四人が走る。


「おおおおお!」


 裂帛の気合と共に、竹内くんが刀を振り下ろす。


 空気を焼き切るその刃に、落ち武者は臆することなく踏み込んだ。なんとあえて距離を詰める事により竹内くんが握る柄を、己も手に取ったのだ。


「踏み込みがあまぁい!」


「がっ」


 そこからアッパーのように放たれた掌底。それにバランスを崩したところに足払いをうけ、振り回される。


「ガァアアアア!」


「ぬぅんん……!」


 そこに遅れながらも挟撃をしかける山田くんと山崎くん。鋭く伸びた爪を、異形の突進力を活かしたシールドバッシュを入れに行く。


 だが、それに対し落ち武者が竹内くんを投げ飛ばしてきた。トルーパーを着た彼の重さは百キロを軽く超えているというのに、その体が宙を舞った。


「うおっ!?」


 慌てて盾をずらし、体で受け止める山崎くん。その間に落ち武者が奪った『陽炎』を手に山田くんへと斬りかかる。


「がぁ!」


「ん~、反応がいい!」


 炎を纏って振るわれた刀を山田くんが地に臥せる様に回避し、下からの切り上げを爪で狙いにいく。


「だが思考がついていってなぁい!」


「ごぶぅ……!」


 その顔面へと落ち武者の爪先が突き刺さり、蹴り飛ばす。山田くんの小さな体が縦に回転しながらどこかへと飛んでいく。


 落ち武者の背後。飛んできた山田くんを躱しながら、前田くんがナイフを手に斬りかかるが、刀身が斬り飛ばされ首を掴まれた。


「いっ」


「論外!」


 彼を盾にして落ち武者が突っ込んでくる。


「細川くん!」


「了解」


 だがそうはさせん。ライフル弾が前田くんの首を握る落ち武者の指を弾き、拘束が緩んだ所を自分がタックルする様に奪う。あの障壁を展開しない。何か条件があるか。


 射線がひらいた瞬間、刀でこちらを斬ろうとする落ち武者の胸に江崎くんの弾丸が着弾。しかし多少めり込んだだけで致命傷には遠い。


「小癪な!」


「やらせん!」


 タックルの勢いで地面に背中から倒れ込みながら、ベレッタを発砲。細川くんへ視線を向けた落ち武者の指に弾丸を当てる。


 これは障壁で阻まれた。


 振り下ろされた足を避けながら、前田くんと二人起き上がる。


 恐らく障壁は任意展開。そして恐らく燃費もそうよくない。魔力量的に外部からの供給を受けているか。だが、それを全て出すには奴の体が追い付かないと見た。


「各員それぞれの判断で攻撃!同士討ち以外はなんでもやれ!」


「「「了解!!」」」


 だったらバラバラに攻撃してやる。タイミングを掴ませなければ、誰かの攻撃が届く!


「新垣巧ぃ!」


 恨みか、はたまた精神的支柱を折に来たか。落ち武者が一直線にこちらへ駆けてくる。八双の構えで握られた刀が、一際輝いた。


「残念だが、それは」


 バックステップをしながら左手を『陽炎』へとかざす。


「僕が貰った物でね」


 瞬間、刀身から吐き出された炎が落ち武者の体を覆う。


「が、あああああああ!?」


 刀を取り落とした落ち武者へと四方から銃弾が飛んでいく。その全てを障壁で防がれるが、炎が奴の身を焼き続けた。


「火ぃ!どうして!ここは、違う!なにがっ」


「遠隔操作ぐらいできるとも。あの王様からのサービスでね」


 ノリで答えたが、違和感があった。落ち武者が火に対し妙に反応している気がする。


 だが弱点というわけでもない。すぐに魔力で体に纏わりついた炎を振りほどき、全身に火傷を負いながらも奴がこちらに突っ込んでくる。


「またか!また私を燃やすのか!あの時と、芸術を燃やした時と同じように!」


 薄っすらと思い出してきた。


 いくつもの名義を経由して真世界教が隠れて保有している土地の地下。そこでこいつが芸術と言って、まるで十字架みたいに人間の子供たちを切り刻んで縫い合わせていたのを。


 子供らは魔術により生きたままその状態にされ、腹に大量のお菓子を詰め込まれていたのを思い出す。


 娘を持つ身として頭に血が上り、情報を吐き出させるのも不要と頭を撃ち抜いて全てを燃やしたのだった。供養と思い、子供らも。


「狂人が!しぶといに程があるよ!」


「お前は、お前だけは!『あの子達』の仇を!」


「どの口が!」


 ガチリと、手元から音がする。こんな時にジャム!?


 素早くベレッタを投げ捨てリボルバーを抜く間に、落ち武者が突っ込んできた。


 銃口が左手でどけられ、奴の右手が自分の腹へと深く突き刺さる。


「ぐ、ぬぅ……!」


「死ね!悪魔め!」


 防弾チョッキすらも貫き、腹部へと入り込んだ指が動かされる。その激痛に耐えながら銃を奴の頭に向けるが、先に頬を思いっきり殴り飛ばされた。


 声すらも出ない。腹から血が空に軌跡を描いているのを見ながら、鉄柵に叩きつけられる。


「そのハラワタを掻きだし、生きたまま燃やしてやる!楽に死ねると」


「おおおおおおお!」


 こちらへ追い打ちをかけようとする落ち武者に竹内くんが殴りかかり、動きを止めた。


 左腕でガードした落ち武者とそのまま格闘戦をする竹内くんに、山田くんが加勢。獣の雄叫びをあげながら縦横無尽に爪で攻撃をしかけ、更には細川くんが合間に狙撃する。


「新垣さん!」


「おい死んでねえだろうな!」


 前田くんが自分の傷口を塞ぎ、盾となる様に山崎くんが立ちふさがった。


「……なんとか、ね」


 不敵な笑みを浮かべるが、口の中が血でいっぱいだ。腹の出血も止まらない。いいや、内臓は既に治ったか。ちらりと視線を向ければ、グローブ越しでもわかるほど指輪が光っていた。


 恐らく、十分もあれば完治するだろう。この指輪は即効性が薄い代わりに長く使えると彼は言っていたが、それでもこの治癒力。やはり基準が違うな。


 だがその十分すらも惜しい。今戦わねば、部下達が死ぬ。


「だめです新垣さん!動いたら死んでしまう!」


「放したまえ……僕はまだ戦える……」


 遠くで山田くんが蹴り飛ばされ、細川くんを巻き込んで吹き飛んでいくのが見える。


 一対一となった状況で竹内くんがどんどん押し込まれていた。彼は間違いなく、表の世界の武道家を含めても上位にいくほどの技量をもっているはずだ。


 たとえトルーパーに伍する身体能力を相手が持っていようと、そうそう負けるはずがない。


 だというのに、落ち武者の拳は次々とトルーパーの装甲に跡を残し、防戦の隙間から反撃しようとすれば蹴りで抑えられ更なるラッシュが叩き込まれていく。


 いかに頑強な装甲をもとうと衝撃まで完全に殺せるわけではない。加速度的に竹内くんの動きが落ちていく。


「竹内さん!」


 江崎くんが走りながら発砲。落ち武者がそれに首を振っただけで回避。長い髪の間を通り抜けていった弾丸を気にした様子もなく、竹内くんを彼女目掛けて背負い投げをする。


「うわっ!?」


「がっ」


 それを咄嗟によけ、バウンドしていく彼を目で追ってしまう江崎くん。


「ばか、前!」


「え」


 山崎くんの声に反応し、ほぼ条件反射で銃を前に構えた江崎くん。だが、すでに落ち武者は彼女の懐に飛び込んでいる。


「青い」


「っ、ぁ」


 肉が潰れる音がここまで響く。弾き飛ばされた江崎くんが手放した銃を空中でキャッチした落ち武者がこちらへ発砲。カバーに動こうとした山崎くんと前田くんが抑えられる。


 近くのタンクへ、どこかから『ピュートーン』が飛んできた。誰が殴り飛ばしたのか知らないが、それがタンクを支える柱の一つをへし折った。


 倒れた柱が江崎くんの上へと倒れ、彼女を下敷きにする。最悪だ。床と鉄柵のおかげで潰れてはいないが、あれでは動けん。


「終わりだよ、小娘」


 走りながら銃を撃ち尽くし投げ捨てた落ち武者が手刀を振りかぶる。


 周囲も確認できないながらも、死を悟ったかのように江崎くんが何かを呟いた。その声が僕の所まで聞こえる事はない。血をまき散らしながらもそちらへ駆けるが、それよりも先に落ち武者の腕が動く。


 動く、はずだった。


「―――」


 落ち武者の体が不自然に止まる。


「ああああああああ!」


 そこへ、山田くんが跳び込む。


 ダメージと、獣化による反動。それにより顔じゅうから血を流しながらも、彼女は止まらない。


 遅れて反応した落ち武者の裏拳を掻い潜り、彼女の爪が奴の胸を抉る。


「ぬぅううううう!」


「ぎゃう」


 空中を泳いだ彼女の体が蹴り飛ばされた。胸の傷は深いが、それでも熟練の魔術師はまだ動く。


「終わらない!まだ、まだ拙者は神を!」


「いいや、終わりだね!」


 抜き打ちで放つ、リボルバーの弾丸。それが奴の左膝、右膝を撃ち抜く。


「がっ」


「ぐぅ……!」


 よろめいた落ち武者。しかし自分も血を吐いて膝をつく。


 かすむ視界で奴の傷を蛆が覆い隠して血肉を補うのが見える。だめだ、奴を殺しきるには火力が足りない。


「だらああああああ!」


 すぐに体勢を立て直そうという落ち武者に前田くんがタックルをしかけ、持ち直させない。


「邪魔だぁ!」


 弾かれた彼と入れ替わりに山崎くんがシールドバッシュを叩き込んだ。


「よく動いたぜ前田ぁ!」


「このっ……!」


 自動車にでも轢かれたように弾かれた落ち武者が鉄柵を大きくへこませながら、山崎くんを睨む。


 追撃をしかけんと山崎くんが再度の突貫を行うが、盾を避けられカウンターの肘鉄を顔面に受けて倒れる。


 だが、同時に治りきっていない奴の両膝が血を噴出させる。


「まだだ!」


 奴の脳がひらき、そこから一本に纏まった蛆が伸びてくる。


 標的は、自分。


「おおおおおおおおお!」


 目の前に、紅蓮が昇る。


 火柱の中心には『陽炎』。気配だけで、竹内くんが投げてくれたのだとわかった。


 だが彼は動けそうにない。竹内くんとの戦いから、彼以外がこの刀で斬りかかっても返り討ちにあうのは明白。


 ならば。


「はっ」


 自然と笑いがこぼれる。まったくもって、自分の柄ではない。


 だが、悪くない。


「行くぞ、落ち武者ぁ!」


「神よ、まだ!」


 銃を構えて駆ける。痛覚を失いそうになる意識へのカンフル剤に。強引に見開いた目で、標的を見据える。


 発砲。膝の負傷で、鉄柵を掴み支える奴の右肘、左肘を撃ち抜く。脱力して背中を鉄柵に預けた奴の胸へ更に二発。


 撃ち尽くした愛銃を投げ捨て、そのまま奴へと突進した。


「新垣さん!?」


 鉄柵が壊れて投げ出される自分達の体。すぐ後ろから聞こえてきた部下の声に、笑う。


「政府の、犬がぁ!」


 落ち武者の歯が自分の肩に食い込む。それを無視し、奴の胸へと懐から出した物をねじ込んだ。


 野土村で、剣崎蒼太から渡された爆弾。あれと同じ物。予備として渡された物が、まさか使う時がくるとは。


 スイッチを押して、奴の耳元へ囁く。


「神のみもとへ送ってやる」


「っ……!?」


 ふと、かすむ視界のなか、つまらなそうな妻の顔が浮かんだ気がした。


 ああ、迎えに――。


 視界が、蒼の光で埋め尽くされた。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


少し後に、閑話を一つ投稿させて頂きます。そちらも見て頂ければ幸いです。


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