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第百七十八話 真打

第百七十八話 真打


サイド 海原 アイリ



「はぁ……はぁ……!」


 息切れをしながらも、決して足は止めない。人の限界を超越したこの身でも、『人間』である以上は消耗を避けられない。


 その事が、不謹慎だとわかっていても嬉しく思う自分が心の片隅に存在する。


「おぉぉ!」


 まるで魚を狙う海鳥のように空から強襲してくる人形――魔瓦迷子のそっくりさんの爪を、彼女の手首に回し蹴りを叩き込む事で防御。反撃に小太刀で斬りかかるも、もう一体の魔弾が側面からこちらに迫る。


「くっ……!」


 海水を操作して壁をつくるが、それでは足りない。カウンターを中断して全力で後退。自分が先ほどまでいた場所に魔弾が突き刺さって激しい水しぶきをあげる。


 その間に悠々と接近戦をしかけていた個体は空に逃げてしまう。これで、いったい何度目か。


 片方が中距離攻撃で支援。もう片方が接近戦で仕留めにいく。シンプルだからこそ崩しづらい。作戦を練ろうにも現在進行形で魔弾が放たれているのだ。海水で壁をつくり弾速の軽減と目くらましをしながら、足裏を海面に滑らせて高速移動して凌いでいる。


 というか頭脳労働は専門外なんだけどなぁ!?お婆ちゃんに『本能で戦うのはやめな』って散々言われたけど、マルチタスクとかまだ無理!中学生!私、中学生!


 ついでに、この二体だけに構っているわけにもいかない。


『『『『オオオオオオ――ッ!!』』』』


「しつこい!」


 四人一組となって融合した『真世界教』の信者たち。見た目トラックサイズになったアバドンの彼らが、サメに体を食われながらも雷撃を放ってくるのだ。


 通常の水ではないので海面にあたっても感電の心配はないが、直撃すればただでは済まない。既に何度かこれのせいで指輪を消費し、先ほど最後の一つを使ってしまった。どうにか被弾の隙を上空にいる者らに突かれる事はなかったが、油断できない。


 アバドンのドーム周辺は自衛隊の建てた施設がいくつかあるだけで、基本的には開けている。遮蔽物として使える物が少ない。空を飛べる相手とは戦いたくない地形だ。


 とりあえず先ほど雷撃を吐いてきた『ピュートーン』へ通り過ぎざまに斬りかかり、前足を足場にして跳躍。融合した事で長く伸びた首を切断する。


 そこへ背後から接近する気配を感じ取り、振り向きざまに小太刀を振るう。接近していた魔瓦擬きがすぐさま距離をとり、そこに別の個体が魔弾を撃ってくる。


 後ろ手に『ピュートーン』の体を掴み、自分の体を引き寄せてその巨体を盾にする。あっさりと穴だらけになる怪異の体を置いて、また走って狙いをつけさせない。


 埒が明かない。どうにも相手は戦闘の素人に思えるのだが、初陣によくある萎縮も興奮も感じられない。ひたすら機械的に攻撃をしかけてくる。


 隙を作るのは難しく、高所はあちらがとっている。サメを飛ばしても迎撃されて終わるし、そうでなくともドーム外の信者達相手で大半のサメは使っている。


 そのうえ純粋な身体能力は互角と予測。数で負けている状況は非常にまずい。


 躊躇は一瞬。覚悟を決める。


 被弾を許容し、接近してきた奴だけでも斬る。このアマルガムは頑丈だ。生半可な攻撃で即死する事はない。


 捨て身のカウンターでもって一騎落とし、そこからもう一体を潰す。


 そうと決めた直後に、爪を構えた一騎が突っ込んでくる。牽制にサメをいくつか飛ばすが、全て撃ち落された。それでいい。魔弾を撃ってくる方の意識を逸らせれば十分だ。


 真正面から斬りかかってくる魔瓦擬き。その爪の軌道は恐らく腹部。重要な臓器の多い箇所だが、その分防御も厚くしてある箇所だ。


 あの爪の切れ味は不明だが、魔力量と身体能力を考えれば障子紙のようにはいかないはず。その耐えられる一瞬のうちに相手の首を刎ねる……!


 互いの間合いに入った。ほぼ同時に腕を振るうが、リーチの差でこちらが先に届く。


 それを回避しようと魔瓦擬きが体を捻るが、切っ先が首を引き裂く。頸動脈は切った。だが経験上この程度では上位の怪異なら死ぬはずがない。


 しかし向こうの刃筋もアレではアマルガムを切り裂く事など――。


「っ……!?」


 わき腹が引き裂かれる感覚。カウンターで横を通り抜けようとする魔瓦擬きの腹に膝を入れて蹴り飛ばす。衝撃でぶしゃりと腹部から血が溢れた。


 左手で傷口を押さえながら、すぐさま移動。魔弾が降ってくる。


 なんだ今のは……!?まさか透過?左手の感触からして、アマルガムその物には傷がない。なのにその下にある脇腹は引き裂かれたような傷がある。内臓まで傷つけられた深手だ。


「くっ……!」


 自分のミスだ。ダメージ覚悟でいくなら膝蹴りでなく組打ちを仕掛けるべきだったのに、距離をとらせてしまった。


 さて……困った。内臓が傷口からはみ出しそうになっている。この傷を庇いながらでは、間違いなく回避に支障がでるだろう。


 そうこうしている間も魔弾が乱射されている。向こうもここが攻め時と見たか。


 戦いの素人という勘は正しいと思うが、どうやら『殺し』に関しては随分と慣れているらしい。アレのベースとなったのが誰なのかは知らないが、碌でもない人なのは確かだ。


 頸動脈を切った上で膝蹴りを叩き込んだ方も立ち上がって空を飛び、またこちらを見下ろしている。隙あらば斬りかかってくる事だろう。


「ぐっ……!」


『『『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛………!!』』』


 海面から飛び出した銀色の腕がこちらに伸ばされる。サメに食われながらも『ピュートーン』が襲い掛かって来たのだ。


 迫る銀色の腕に小太刀をあてて逸らし、その上で蹴り飛ばし強引に回避。まだこちらに手を伸ばす怪異に、サメ達が止めをさそうと群がっていく。


 だが、隙はそれだけで十分だったらしい。


「い゛っづ!」


 顔面狙いで迫る魔弾を咄嗟に小太刀で防ごうとするも、失敗して腕に着弾。袖が弾けとぶ事で欠損を防ぐも、衝撃で骨がバキリと折れてしまう。


 そして、それを逃さんと真上から強襲してくる近接役。


 ――ああ、これはやってしまったな。


 しょうがないと『諦めて』右手から力を抜き、小太刀を空中において右手が落ちていく。音速とはいかずとも高速で魔瓦擬きが自分へと迫り、その爪を私の左肩へと突き刺した。


 それと同時に、仮面の口部分が開閉。空中で小太刀を咥えて魔瓦擬きの首を横から貫いた。


「っ!?」


「が、あああああああ!」


 人形のような能面ながら、目を見開いた魔瓦擬きの腕を左腕で掴み、そのまま走り出す。


 すぐさまもう片方の手で貫こうとしてきたので、海面を爆ぜさせて加速。爪を空振りさせながら、首の骨を切断。上半身全体を使ってぶん回し、海水へと叩きつける。


 激しくあがった波しぶき。それらがサメの頭へと姿を変え、千切れかけの首に殺到する。万全の状態ならいざしれず、そこまで傷がある状態ならサメどもだけでも食いちぎれる。


 急な加速に叩きつけ。脇腹の傷から内臓がこぼれ、口内は血が充満する。


 それでも走る。相方が死んだと見るやもう片方が射撃を再開したのだ。背後で水柱がたっていくのを無視し、全てを回避。


 そう、私は諦めた。己の『生存』を。ならば後はどれだけ敵を道連れにできるかのみ。


 人間、死ぬ時は死ぬ。私の場合それが今日だったらしい。無念だが、仕方があるまい。


「ふふ……」


 刀を咥えたまま、笑う。


 血を流し、体のあっちこっちが痛む中。しかし嬉しかったのだ。母の死にざまを知った時から、私は人として死ねるのか不安でしょうがなかった。なにか、わけのわからない怪物と成り果てて、何もわからぬまま唐突に死ぬのだと。


 だがその不安は微塵もない。御屋形様のおかげで、私は人として、『海原アイリ』として死ねる。


 申し訳ありません、御屋形様。数々の御恩に報いる事もできず、ここで勝手に死ぬ不忠。弁解のしようもありません。


 ああ、けど。もしも我が儘を言えるのならば。


 キスって言うの、したかったなぁ……。


 人を食い殺すこの口が、誰かとの愛を証明できるようになるのを、夢見ていた。それが叶わないのが今になって悔しくなる。これは御屋形様の、蒼太さんのせいだな。


 止めを刺そうと魔瓦擬きが徐々に高度を下げてくる。やはり戦は素人か。自分は殺す側であるという考えがこの状況でも抜けていないと見える。


 ちょうどいい。アレの首を最期の手柄としよう。使徒に匹敵する存在を枕に死ねると言うのなら、武の道を歩んだ者としては悪くない。


 さあ、こい。お前の最期の相手はここにいるぞ、私の最期の敵よ!


「――え?」


 出血と、口の中にたまった血で鈍った嗅覚。それでもなお、絶対に見過ごさない香りを感知する。


 瞬間、雷光。大気を焼き尽くす蒼の焔と、この曇天を照らす稲妻が視界一杯に広がる。だというのに、自分の身には一切の害がなく。


 その光が晴れた時には、魔瓦擬きが炭となって海面に落ちていた。


「待たせた」


 優しい炎がこの身を包み込む。あっという間に傷が癒え、全身に活力が漲ってきた。


「すまないが話している時間がない。単刀直入に言う」


 右手に蒼黒の剣を、左手に黄金の槍を持ち。腕にまいた赤い戦旗をなびかせて彼が言う。兜越しであっても、その表情が自分には手に取るようにわかった。


「ここを頼めるか」


「――お任せください。御屋形様」


 たったそれだけの会話。それだけで、彼は振り返る事もなく空へと駆けていく。


 だが十分だ。自分と彼の間には、これだけで事足りる。


 涙の跡があったのだろう。色々な事を経験したのだろう。心の内が、嵐の海のように荒れていたのだろう。


 話すべき事はいくらでもある。やりたい事もある。というか、後で絶対にやる。


「さあ。第二ラウンドです」


 右手に持ち直した小太刀を構えなおし、仮面の下で不敵に笑う。


 まだまだ残る『ピュートーン』。しかも、ドームから未だに援軍が現れている。だが、それがどうした。


 主から口にせずとも『死ぬな』と命じられてしまった。故に、『勝って生きる』としよう。


「剣崎蒼太が誇る一の家臣!海原アイリの首、欲しい者は前に出ろ!」


 今の私は、誰にも負けない。



* *  *



サイド 新城 明里



 ドームからやや離れ、ビルが複数立ち並ぶ中を鋼鉄の天使と四人の少女が飛び交う。


 文字に起こせば、あるいは幻想的な光景かもしれない。だがいつの間にか曇ってしまった空の下、互いの命を食い合う為のものと知れば誰もが眉をしかめるだろう。


 私が、こういうの大好きなんだけどなぁ!


「いけぇ!」


 美国の両腕が分離。親指ほどの太さをしたワイヤーで繋がれたそれらが個々のスラスターを点火させ、加速。別の生き物のように動き回る。


 この辺は完全にマニュアルだから地味にきつい!まあ自分の手じゃなくて思念だけでやれる分マシかなぁ!


 その状態から指先に魔力を集中。熱線を発射する。なんで整備性の悪い指ビームにしたかって?ロマンだから!


 本体も合わせた三方向から飛んでくる熱線に対し、魔瓦擬きが一カ所に密集。互いに背中合わせとなり、高速で回りだした。


 その直後放たれる魔弾のカーテン。死角を塗り潰すように斜めにも特殊な円陣を傾けながら弾幕を展開してきた。


 どういう三半規管をしてるのかなぁ!?


「その程度でぇ!」


 強引に本体を旋回。その勢いもワイヤーで利用して両腕を動かし、弾幕を回避。一発顔の横を通り過ぎて行った。


 いかにこの戦闘服が多少の攻撃は防いでくれるとは言え、あの魔弾が直撃すればただでは済まない。少なくとも顔面セーフは絶対にない。


 ああ。


「最っ高!」


 生きてるぅぅぅ!私、生きてまーす!


「密でーす!」


 集まった魔瓦擬きに、美国の腹部から極太の熱線を発射。この『美国マークⅡ』がもつ最大の武器である。まあフルパワー出したら機能低下するから滅多に使えないけどね!


 ……やっべ。そういう武装ってめっちゃ使いたい。誰かコレは使うなよって言ってくれないかな。『了解!』って言いながらぶっ放したい。


 密集しているから一体は落とせるかもと思ったが、素早く散開されて避けられた。一体だけ左足を吹き飛ばしたが、空中戦では大したダメージではない。


 分散した魔瓦擬き達が四方からこちらを狙ってきたので左手の五指を開いてビームを放ち牽制。右手を伸ばしその辺のビル壁に食い込ませて急旋回。背後で魔弾がいくつも通り過ぎていくのを感じながら、ビルの陰に隠れる。


 それに対してすぐさま二手に分かれて挟み込もうとする魔瓦擬き。読めてるんだよなぁ、そういうのは!


 旋回の勢いそのまま窓に突っ込み、ビルの中へ。ガラスの破片が落ちるよりも速く、少しだけ埃の溜まったオフィスを通り抜ける。


 ふー!美国を床に水平にさせているのにあっちこっち削ってるよ!いいねぇ、こういう無茶な軌道!


 背後に回り込もうとしていた魔瓦擬き達には右手の五指から放たれた熱線を浴びせる。ビルの壁もろとも放たれたそれらを相手は回避。やるねー。


 だが本命はこっちだ。


「ハロー」


 気心の知れた友人にでも言うように、ニッコリと挨拶。反対側の窓をぶち破って現れた私達に、無表情のまま急停止する二体の魔瓦擬き。


 その右側の方へと私の両手が持つショットガンを二丁とも向け、発砲。首が折れそうなぐらい顔を仰け反らせて吹き飛ぶ魔瓦擬き。


 そして左側の方は美国の左手がガッチリとアイアンクロウ。その状態で五指から熱線を放って奴の上半身を消し飛ばした。


「ハッハー!まずは一匹ぃ!」


 その瞬間、猛烈な悪寒が走る。


 美国をビルから離した直後、私達が通って来た上の階から後続の二体が飛び出して来たのだ。


 こっちの真似ぇ!?ずっる。


「おぉとっ」


 片方が爪による斬撃をしかけてきた。咄嗟に左のショットガンを盾に――あ、駄目だ。


 直感に従いショットガンを手放しながら美国の炎翼をカット。脚部のスラスターで機体を斜めに傾けながら自身の上半身も右に反らせる。


 目の前でショットガンをすり抜け、鋭く伸びた爪が迫ってきた。


 左耳と髪が一房切り取られていく。あっぶえ!?


「そぉい!」


 右のショットガンを押し付けるようにして魔瓦擬きの脇腹に発砲。衝撃で強引に距離をとらせる。


 もう一体、どこに行った……!


 思考では追いつけない。弾切れになった右のショットガンを放棄しながら、反射だけで左手を動かす。


 それとほぼ同時に、音が聞こえなくなっていた左側から、吹き飛ばされた個体を隠れ蓑にする様にしてもう一体が飛び出して来たのだ。


 そいつが突き出した爪が私の脇腹を抉り、そのまま上に突き上げられて肺を貫くのを感覚で把握。


「ごぼっ」


 肺に流れ込んできた血に溺れながら、右手でヒートガンを引き抜き相手の眼球に突き込む。


「酷いじゃないですかぁ、そんな事ぉ!」


 逃げようとする手を、左手で掴んで離さない。戦闘服による強化とリミッターを解除した筋力。体の内で爪が動かされ内臓がズタズタになるが、死んでないから実質ノーダメ!


 相手がもう片方の腕を使うよりも前に引き金を絞る。発射された熱線が脳みそを焼き頭蓋を貫通した。


「撃墜、二ぃ!」


 それでもまだ動くと、これもまた直感で把握。


 美国に炎翼を展開させながら高速で回転。頭に風穴が空いた奴の胴体を溶断する。その直後に急加速。復帰してきた他二体の魔弾を回避。


 頭からビル壁に突っ込みそうなのを強引に機体を回して足から着地。そのまま両足の車輪を回して空へと駆けあがる。


 背後から聞こえる破壊音が、美国の移動によるものか魔弾が原因かわからない。一気に消費された血と激痛。更に無茶な動きにより意識がブラックアウトしかけるが、奥歯を意図してかみ砕く事で耐える。


 くるりと回りながら、ビルを駆け上がった後に上から二体の魔瓦擬きを見下ろす。あちらも二体並んでこちらを見上げている。


 遅れて美国の両腕が戻って来た。が、両腕とも片やビル壁、片や魔瓦擬きに密着状態でぶっ放したせいで砲口に異常。特に左手は相手が死に際に爪で引っ搔いたらしく、大きく破損。分離どころか砲撃も無理そうだ。


 指輪を一つ使用。傷を全回復させる。あー……まぁた相棒への借りが増えた。というか、今ので手持ちは最後だ。相手の動きを読むまでにダメージを受け過ぎた。


 ダメージは美国もかなり受けている。両腕は先ほど言った通り。両足もちょくちょく壁を蹴ったり走ったりと無茶させているので、関節がやばい。あと燃料も余裕がなさそうだ。


 やっぱ変形機構もち空戦機体は燃費と強度にどうしても難がでるな。まあ、それでもお釣りがくるぐらいメリットがあるんですけどね!かっこよさとか!


「さーて……」


 血に濡れた左手で、軽く髪をかき上げる。あいにくと手のひらからワックスが出る種族ではないので、私のサラサラヘアーが血で濡れるだけだ。視界に赤く濡れた髪がチラリと映る。


 うーん。かっこよすぎますね、私。やはりこの世界の中心は私では?


「まだまだ踊れますか?よかったらもう一曲お付き合い願いたいですねー」


 ヒートガンをしまいながら、操縦席の横にあった折り畳み式のライフルを引っ張り出す。ガチャリと自動で広がるそれは、改造前の美国が使っていたそれだ。ロケットを撃墜した実績は伊達じゃぁないぞぉ。


 ダンスを申し込む相手は、魔瓦擬きと美国の両方。


 おやおや、三方ともに無言ながらもやる気満々。私の様な美少女に誘われて拒否する奴なんていないのはわかりきっているが、嬉しいものだ。


「よろしい。チップは互いの命。シンプルでわかりやすい。好きですよ、そういうの」


 相手の行動予測はたった。されど未だ戦局は不利。アイリちゃんの援護は……たぶん期待できない。あっちはあっちで大変そうだ。


 ライフルを見せつける様に構え、とびっきりとの笑顔をお相手に。これから殺し合う相手なのだから、愛想はよくしないと失礼だ。


「さあさ!第二ラウンドと――」


 言葉がそこで途切れる。攻撃を受けたのだ。


 燃え尽きて落下する影。無論、私ではない。着弾する直前に気づいていたし、『彼』が私を傷つける事など万に一つもあり得ない。


「無粋ですねー。戦場の情緒というのを理解していない」


「えー……戦場に情緒も善悪もないって前に言ってないっけ?」


「うん!!!」


「元気なお返事だねどーも」


 なんとなく、久しぶりに見た気がする『相棒』と、何の気なしに会話する。


 魔力を足場に空を踏みつける彼と、小さく笑い合った。


「お待たせ、明里」


「待ってましたよ、蒼太さん」


 主役は最後にやってくる。


 私と彼のダブル主人公だ。いやぁ……。


「楽しいですねぇ、人生ってやつは」



読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  いいねこういうラストバトル直前っぽい遣り取り。  こんなとこで死んでられないのよこっちは、ってなもんで。
[良い点] 一章の時の明里は、まだしも大人しかったんだなぁって つまり、チカラを持たせたらいけない類の人間かな?
[良い点] 剣崎、良い空気吸ってんなぁ。ここだけ見れば。
感想一覧
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